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先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!

執筆用bot E-021番 

この小説は没のようです

「おーい。百目鬼」



 名前を呼ばれて、オレは目を覚ました。目の前には黒板。周囲にはニヤニヤ笑いながらこっちを見てる生徒たち。オレが座ってるのは学校机。教諭がオレの顔を覗き込んでいる。



「寝るんじゃない。来年は受験なんだから、シッカリと自覚を持ってだな……」



 解読不能な古文が黒板に書き連ねられている。
 どうやら国語の授業だったらしい。



 そう言えば、オレは授業中に居眠りしていたら、先生の世界に飛ばされたのだ。夢オチ? そんなわけない。あの感覚はまぎれもなく現実だった。異世界に行ってる間は、現実の時間は進んでいなかったということだろう。



 最悪だ。
 現実に戻って来てしまった。
 っていうか、先生はどうなったんや?



 教諭はまだ大学受験のこととか、将来のこととかの説教を垂れていた。



「オレ、帰ります」
「なに?」
「ちょっと体調悪いんで」



「あ、待ちなさい。勉学をおろそかにしたらいかんぞ。ここでガンバらなかったら、ダメな人間になるのだからな。今後の一生が決まるのだからなー」



 ツバを吐き散らしながら怒鳴っている教諭を無視して、教室を出た。



 妙な胸騒ぎを覚えたのだ。



 学校を出て、バイト先の書店へと急いだ。喫茶店とマンションの間にある小さな店だ。



 こうして見るとまるで萎縮してるようにも見える。店のトビラには「本日休業」といった張り紙がされていた。この書店には休業日なんてない。毎日開けているはずだ。いったいどうしたのだろうか。



 ためしにトビラを押してみた。カギは開いていた。



「すみませーん」



 呼びかけてみると、カウンター席からひょっこりと主人が顔を出した。丸メガネをかけていて、もう90歳近くなる御老体だ。先生の祖父にあたる人物だ。



「お。ドメくんか」



 この御老人もオレのことをドメくんと呼ぶ。これも先生の影響だ。



「どないしたんですか。休業やなんて。先生はいらっしゃいます?」



「あ、うん。それがな」
 と、主人の表情が曇った。



「何かあったんですか?」



「ワシも詳しいことはわからんが、さきほど救急車で運ばれたそうじゃ」



「え! 救急車ですか」



「実は以前から体調が悪くてな。ワシもこれから病院に行こうとしていたところじゃ」



 主人が病院へ行くところに行き合わせるなんて、ずいぶんと都合がいいことが起きるものだ。まだ先生の世界が続いているんじゃないかという錯覚をおぼえた。



「じゃあ、オレも一緒に行ってもええですか?」
「うむ」



 タクシーを呼んで、市民病院まで行ってもらった。車の中でオレは厭な予感に襲われていた。異世界から現実に戻ってくるとき、なんだか先生の態度は妙だった。まるでオレを諭すようなことを言ってきた。



 もしかして先生は、死んでるんじゃないやろうか? 死ぬ前にオレのことを異世界に招き、オレの成長を促したんやないか?



 そんな予感がした。それはとても悲しい想像だった。



 いや。そんなはずはない。
 首を左右に振った。



 あの先生に限って死ぬはずがない。異世界の中では死んでも生き返ったではないか。ゴキブリ並にしぶとい生命力を持っているはずだ。



 市民病院の受付で、先生の部屋を尋ねようとした。だが、オレは先生の本名を知らなかった。知ってるのはペンネームだけだ。




 主人によると「田中花子」というらしかった。思いのほかふつうの名前だ。405号室にいるとのことだった。走りたい気持をグッとこらえて405号室へ向かった。



 病室。



 真っ白い部屋にはベッドが1台だけ置かれていた。そこには先生と思われる人が寝かされていた。



 そして顔には、白い布がかぶせられていた。



「せ、先生……」



 ホンマに死んでもうたんか?



 仰向けになって寝かされていて、顔には白い布がかぶせられている。



 お腹には紙の束が置かれていた。最初の1ページ目を見ただけでわかった。それはオレと先生が異世界へ行っていたときのものだ。オレの身の上に起こったことが、そのまま書かれているのだ。



 オレは、ヤル気のない無気力な青年だった。きっと先生はそんなオレを心配してくれたのだ。死ぬ間際に、オレのことを異世界に招いてくれたんだろう。



 そして、オレの成長を見届けてくれたのだ。でも、先生は死んじゃいない。今でもあの異世界で奔放ほんぽうに生活しているに違いない。



「先生。ありがとうございました」



 視界がにじんでいた。
 涙が出てきた。



 なんだかんだと言って、オレは先生のことが好きだった。異性としてもチョット好きだったかもしれない。



 先生の手から原稿を預かろうとした。
 その時。



「ふぇくしょーん!」
 と、先生は盛大なくしゃみをした。



 その拍子に顔にかかっていた白い布が舞い上がった。



「う、うわっ。生き返ったッ」



「何が生き返っただ。私は別に死んでなんかおらんぞ」
 先生は飄々と上体を起こした。



「へ?」



「なんだね。ドメくん、私が死んだと思って、泣いていたのか。カワイイヤツだな。君は」



 先生はオレにヘッドロックをかけてきた。
 この調子だと、体調に問題はなさそうだ。



 この人は事あるごとに、オレの感動を粉砕してくれる。



「なんで、顔に布なんかかけてましたん。紛らわしいですやんか」



「日差しがまぶしかったからだ」
「カーテン閉めればええですやん」



 先生のヘッドロックを解いて、窓際に行った。白いカーテンを閉め切った。



「救急車で運ばれたって聞いて、えらい心配しましたやん」



「食べ過ぎだ」
「食べ過ぎィ?」



「筆が進まんから、ラーメン屋に行って気分転換をしていたのだ。大食い大会をやっていたから参加したら、どうやら倒れてしまったらしい」



 たしか異世界に入ったときも、焼き鳥を食べていたはずだ。そんなに食べてるのに、太る気配はいっこうにない。栄養はすべて胸にいくように出来てるのかもしれない。便利なカラダだ。



「書店の主人が、先生は以前から体調が悪かったって言ってましたけど」



「以前から食べ過ぎて、胃の調子が悪かったのだ。そのことを言っていたのであろう」



「はぁ」
 心配して損した。



「で、私は食べ過ぎて眠りこけてる間に、異世界に行っていたらしい」



 そうだ。
 オレもついさっきまで、異世界にいたのだ。



「夢やありませんよね?」
「夢ではない。証拠がある」
「証拠?」



「この原稿だ。私は描いた覚えがないのに、最後まで描きあがっていた。私とドメくんの物語が、最後までつづられているのだ」



 自分の体験した異世界が、ニセモノじゃなくて良かった。けど、体験したことが、そのまま原稿になってるなんて妙な気分だ。



「その小説、どうするつもりなんですか?」
「没だな」



「え?」



「考えてみれば、勇者が魔王を倒しに行くなんてありきたりな小説が売れるわけがない。こんなのはポイしてしまうつもりだ」



 先生はホントウに原稿を投げ捨てるような挙動をとった。オレはあわてて止めた。



「なにを言うてるんですか! もったいないですやん!」



 オレの思い出が詰まっているのだ。世の中に出すことはないにしても、オレの手元には置いておきたい。



「なんだ。欲しいのか。ドメくん」
「はい。捨てるやったら譲ってくださいよ」



「いいだろう。鼻紙にでもするが良い」
「しませんってッ!」



 よっこらせ――と先生はベッドから出てきた。



「もう立ち上がってもええんですか?」
「新しい小説のネタが思いついたのだ」



 先生が小説に行き詰まったとき、オレはまたその世界に招かれることになるんやろうか。また、ぜひともお招きいただきたい。



 先生からいただいた原稿を、オレは大切に胸に抱えた。

                 《了》

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