先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!

執筆用bot E-021番 

なぜ、教会や修道院が存在しているのか?

 竜のヘソを引き返していると、はたと先生が足を止めた。先生が急に止まるからオレは先生の背中で、鼻を打ちつけた。



「どうしたんです? 急に立ち止まって」
「たしか、ここまでだったはずだ」



「何がです?」



「ほら、言ったであろう。私はこの物語を途中まで描いたはいいが、途中で筆が進まなくなったのだ――と」



「言ってましたね」



「それがここなのだ。勇者が伝説の剣を手に入れた先から、原稿は白紙だったはずだ」



「ってことは――」
 どうなるんや?



 今までは誤差はあれど、だいたいは先生の筋書き通りに物語は進行していたのだろう。だから、先生は起きるイベントを把握していた。エクスカリバーの場所も知っていた。ここから先は、先生も知らない世界なのだ。



 そもそも、世界はこのまま継続するのだろうか。それともオレたちは現実に戻ってしまうのだろうか。



 警戒して周囲の景色を見回してみる。切り立った岩壁は依然として存在している。消滅するような気配はない。



「世界が消えたりってことはないみたいですね」



「トウゼンよ。だって魔王さまが先生たちのことを招いたんだもの」
 と、リリさんが言った。



「じゃあ、魔王がオレたちを返さへん限りは、オレたちはここにあり続けるわけか」



「そういうこと」
 魔王としては、この物語を先生に完成させて欲しいのだろう。



「うーん」
 と、先生は頭を抱えた。



「大丈夫ですか?」



「どう頭をひねくり回しても、この先の内容が思いつかないのだ」



 こんなに必死に考えている先生を見ると、申し訳なくなってくる。今まで、無遠慮にダメだししすぎてたかもしれない。



「伝説の剣を手に入れたんですから、もう魔王を倒しに行ったらええんとちゃいます?」



 適当にそう言ってみた。
 オレとしては全然乗気じゃない。



 伝説の剣を手に入れたことだし、この刀一本でこの世界を旅して、適当に暮らしていきたい気分だ。



「うーん。しかし、それでは単調というか、もう一ひねり欲しいというか。うーん。もうダメだ」



 キュゥ――という変な声をあげて、先生は倒れてしまった。幸いにも後ろにいたオレは、先生を支えることが出来た。



「先生ッ」
「――」



 どうやら気を失ってしまったらしい。ずっと強気なところしか見ていなかった。先生もいちおう人間なのだ。悩みもあるし、弱点もあるのだろう。自分が支えてやらなくちゃいけない、という使命感が宿った。



「おっ。いい目してるじゃない」
 と、リリさんがオレの顔を覗き込んでくる。



 オレはいまだにリリさんと目を合わせるのが気恥ずかしくて、難しかった。目をそらした。でも、あからさまに視線をそらせるのも悪いかと思って、また目を合わせた。



 なんだか挙動不審になってるような気がする。照れ隠しに咳払いをひとつ落とした。



「とりあえず町に戻ろう。先生を療養できる場所に行かないと」



「でも、宿代は300ゴールドかかるよ」
「修道院とかあれへんのかな」



 史実でもフィクションでも、修道院は弱きものを助けてくれる場所だ。



「うん。それならあると思う」
「じゃあ、そこに行こう」



 案の定、修道院はあった。白塗りの城みたいな建造物だった。病院に見えないこともない。オレのことを勇者だと知っていたようで、わりといい部屋が与えられた。



 石造りの20畳ほどある部屋だった。部屋の中央には木製の長机とイスが置かれていた。部屋の隅にはベッドが2台置かれていた。そのうちの1台に先生を寝かせた。



「薬草とか、食べさせたら効果あるやろか?」



 いちおうオレは大量の薬草を保有している。町中のツボを割り散らかして回収したものだ。むろん、やったのは先生だ。



 この部屋にもツボらしきものが見受けられる。先生が割らないように見張っておかなければならない。



「カラダに毒ってことはないと思うわよ」
 と、リリさんが言った。



「それじゃあ――」



 先生の頬をはさむようにして、口を開けさせた。先生の真珠のような歯があらわになる。歯の奥には赤黒い咽頭が見えている。なんかエロい。



 薬草を放り込んだ。口を閉ざす。先生は意識のないまま顔を歪めていた。しだいに表情が安らかなものへと変わっていく。



 死んだんとちゃうやろか。



 呼気を確認してみる。大丈夫そうだ。



「すぐには効果ないんやろか」
「そのうち目を覚ますわよ」



 たいして心配する必要はないかもしれない。なにせ、生首になっても生き返るような人だ。



 オレは部屋の中央にある木製のイスに座ることにした。リリさんが隣に座ってきた。長イスになっている。こうして密着して座ると、リリさんのフトモモの感触が、オレのフトモモに伝わってくる。



 何か会話をしないと気まずい。



「ところで、このサタンベルクには教会やら、修道院やらがあるけど、どういった宗教が流ってんの?」



「別に、ないわ」
「ない?」



「そういう細かい設定がないのよ。ただ、教会とか修道院があるってだけ」



「せやったら、教会も修道院も要らんやん」



「先生が配置したんだから、しょうがないでしょ。良かったら、ドメくんがその設定を考えてよ」



 先生がオレのことをドメくんと呼ぶから、伝染したようだ。



「オレが?」
「後で先生に伝えておいてくれればいいから」



 オレたちは、この世界を書き直すために招かれているのだ。設定を考えるのが本来のオレたちの使命なのかもしれない。



「この世界って神様がおったんやろ。魔王を封印して先に死んでもうた、アホな神様が」



「ええ」



「それを崇めてるってことにしといたら、ええんとちゃうかなぁ」



 正直、崇めるに値する神様には思えない。



「でも、それだけじゃあ信者は集められないわ。この世界全体に広まっているぐらい影響力のある宗派なんだもの」



 なんでそんなことオレが考えなあかんねん、と思う。それはオレやなくて先生が考えるべきどころだ。しかし、その先生がダウンしてしまってる。



「この世界って魔法が存在してるやんか」
「ええ」



「魔法を使えるのは、その神様の遺したチカラのおかげとでもしておけば、ええんとちゃうかなぁ」



「うん。悪くないわね。才能あるわよ」
「せ、せやろか」



 ちょっと照れる。



 オレも将来は小説家になったりしてみよか――なんて思った。将来のことを考えると、少し憂鬱になる。



 もしも現実に戻れば、オレもいつかは社会という荒波に呑み込まれるのだ。別になりたいと思えるようなものもない。



「このまま異世界にとどまれたら、ええんやけどなぁ」



 ここだったら、モンスターを倒しつつ、生活していくことが出来る。



「それは困るわ」
 と、リリさんが嘆くように言った。



「なんで?」



「だって、ドメくんと先生が帰らないってことは、いつまでたっても物語が完結しないってことになるでしょ」



「まぁ、そういうことになるんやろかな」



「だから、さっさと完結させて、現実に戻ってくれなくちゃ」



「完結させるって言うてもなぁ」



 結局、最後はあのドラゴンを倒さなくちゃいけないことになる。そんな勇気は持てそうにない。

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