先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!
先生は死ぬ前にフラグを立てたようです
竜のヘソと言われる渓谷にやって来た。
左右を断崖にはさまれた細い通路だった。空が川のように細長く見える。オレと先生が歩き、その後ろからリリさんが付いて来るカッコウだった。
幸いなことにまだモンスターと遭遇はしていない。
「そう言えばドメくん」
「なんですか、先生」
「ドメくんは、付き合っている女子とかいるのかね」
「き、急に何なんですか。別にいませんけど」
ふむ、と先生が観察するようにオレを見てくる。
「ならば、年上と年下はどちらが好みかね」
「そんなこと言われても、よくわかりません。キレイな人見たら、キレイやなとは感じますけど」
先生を見て美人だって感じることは、オレは年上好きなのかもしれない。でも、リリさんもカワイイと思う。
「私は年下が好きなのだ」
いったい何の宣言なのか。先生とはもう1年ほどの付き合いになるが、異性の好みなんて尋ねられるのははじめてだった。先生が男とか女とかに興味があるとも思っていなかったから、驚きだ。
「ハーレムなんかにするつもりはなかったのに。余計なものが付いて来たから、非常に胸がモヤモヤする」
リリさんのことやろか?
「何が言いたいんですの?」
「ドメくん。もしも無事に魔王を倒すことが出来たら結婚しよう」
いったい何を言うてるのかと思って呆然としていた。遅れて意味が理解できて、絶句した。
「な、なななな何を言うてますん。オレまだ16歳ですやん。結婚なんか出来ませんって」
「異世界だから心配ない」
「そういう問題とちゃいますやん。なんでイキナリ結婚なんですか。その前に付き合うとか、そういう過程はないんですか」
これはあれか。
俗に言うところのラ波感というヤツじゃないか。
先生はオレにプロポーズしてる、ってことで間違いないよな?
女子と付き合うどころか、先生以外とはロクに会話もしたことがないのだ。そんなこと言われて、男性側としてはどう対処すればいいのか困る。
「き、急にそんなこと言われても……」
「そろそろフラグを立てておこうと思ってな」
「フラグ?」
「そろそろ死ぬから、私」
「は?」
刹那。
ガケの上から骨が落ちてきた。理科室の骨格模型みたいにキレイな人の形をした骨だった。手に剣を持っている。いわゆるスケルトンというモンスターだ。スケルトンは先生の首に剣を刺しこんでいた。
「せ、先生ッ!」
先生の首が胴体から切断された。生首がオレの足元に転がってきた。グロいとは思わなかった。ショックが大きすぎて何が起きたのか咄嗟に理解できなかった。
先生が死んだ? そんなわけない。先生はこの世界の神様みたいな存在だ。たかがモンスターに殺されていいものか。
「せ、先生……ぐすん」
足にチカラが入らなくなった。自分の胸の中に思いのほか大きな悲痛が落ちてきた。自分で考えていた以上に、オレは先生のことを大切に思っていたのかもしれない。先生はオレの日常の一部だったのだ。
「なにボンヤリしてるの!」
リリさんが、そう言ってオレのことを引っ張り起こした。
「だって先生が……」
「大丈夫よ」
「そんなわけあらへんって。首取れてますやん」
なぜかオレは、無意識のうちに先生の生首を大事に抱えていた。生首から血がドバドバあふれてくる。先生の熱い液体が、オレの胸を濡らしていた。真っ赤に染まっていくが、そんなこと気にしていられない。
「大丈夫なんだってば。教会に持って行けば蘇らせてくれるんだから」
「きょ、教会?」
「そういう世界だから」
「えー。うそー」
それはゲームみたいにお金を払えば、生き返らせてくれるシステムなのか。
魔法が存在してるから、死者を蘇生させる魔法があったとしても不思議ではない。
せやけど、人を生き返らせられるって、どうやねん。じゃあ都市で死んだ人も生き返るってことやんか。オレが今まで悲しんだり、怖がってきたりしてきたのがバカみたいだ。
「メチャクチャなんだからこの世界。そういうのを書き直してもらうために、魔王さまはあなたたちを召喚したって言ったでしょ」
「はぁ」
なんだか妙に気が抜けた。
「あんたたちも、そこでストップよ」
リリさんはそう言った。
いったい誰に言ってるのか。周囲にはオレと先生の他に人はいない。リリさんの声を受けていたのは、先生を襲ったスケルトンたちだった。
「いや、でもオレたちモンスターですし。勇者襲うのが役割なんで」
と、言い訳をしている。
スケルトンが言い訳してるのだ。
目を疑う。
「何言ってるのよ。物語を書きなおしてもらうほうが優先でしょうが」
「はい。すんません」
と、スケルトンたちは引き返して行った。
「ウソー」
とんだ茶番だ。
あんなに聞き分けがいいなら、これから先、戦いにくくなる。勇者はいつも剣を振って暴力的な解決をする。でも、言葉が通じるんなら平和的に交渉するのもありなんじゃないかと思う。
「別に気にしなくてもいいわよ。私たちこの物語のキャラクターは、この物語がまっとうなものになることに命をかけてるんだから」
「はぁ」
もはや、はぁ、としか言えない。
左右を断崖にはさまれた細い通路だった。空が川のように細長く見える。オレと先生が歩き、その後ろからリリさんが付いて来るカッコウだった。
幸いなことにまだモンスターと遭遇はしていない。
「そう言えばドメくん」
「なんですか、先生」
「ドメくんは、付き合っている女子とかいるのかね」
「き、急に何なんですか。別にいませんけど」
ふむ、と先生が観察するようにオレを見てくる。
「ならば、年上と年下はどちらが好みかね」
「そんなこと言われても、よくわかりません。キレイな人見たら、キレイやなとは感じますけど」
先生を見て美人だって感じることは、オレは年上好きなのかもしれない。でも、リリさんもカワイイと思う。
「私は年下が好きなのだ」
いったい何の宣言なのか。先生とはもう1年ほどの付き合いになるが、異性の好みなんて尋ねられるのははじめてだった。先生が男とか女とかに興味があるとも思っていなかったから、驚きだ。
「ハーレムなんかにするつもりはなかったのに。余計なものが付いて来たから、非常に胸がモヤモヤする」
リリさんのことやろか?
「何が言いたいんですの?」
「ドメくん。もしも無事に魔王を倒すことが出来たら結婚しよう」
いったい何を言うてるのかと思って呆然としていた。遅れて意味が理解できて、絶句した。
「な、なななな何を言うてますん。オレまだ16歳ですやん。結婚なんか出来ませんって」
「異世界だから心配ない」
「そういう問題とちゃいますやん。なんでイキナリ結婚なんですか。その前に付き合うとか、そういう過程はないんですか」
これはあれか。
俗に言うところのラ波感というヤツじゃないか。
先生はオレにプロポーズしてる、ってことで間違いないよな?
女子と付き合うどころか、先生以外とはロクに会話もしたことがないのだ。そんなこと言われて、男性側としてはどう対処すればいいのか困る。
「き、急にそんなこと言われても……」
「そろそろフラグを立てておこうと思ってな」
「フラグ?」
「そろそろ死ぬから、私」
「は?」
刹那。
ガケの上から骨が落ちてきた。理科室の骨格模型みたいにキレイな人の形をした骨だった。手に剣を持っている。いわゆるスケルトンというモンスターだ。スケルトンは先生の首に剣を刺しこんでいた。
「せ、先生ッ!」
先生の首が胴体から切断された。生首がオレの足元に転がってきた。グロいとは思わなかった。ショックが大きすぎて何が起きたのか咄嗟に理解できなかった。
先生が死んだ? そんなわけない。先生はこの世界の神様みたいな存在だ。たかがモンスターに殺されていいものか。
「せ、先生……ぐすん」
足にチカラが入らなくなった。自分の胸の中に思いのほか大きな悲痛が落ちてきた。自分で考えていた以上に、オレは先生のことを大切に思っていたのかもしれない。先生はオレの日常の一部だったのだ。
「なにボンヤリしてるの!」
リリさんが、そう言ってオレのことを引っ張り起こした。
「だって先生が……」
「大丈夫よ」
「そんなわけあらへんって。首取れてますやん」
なぜかオレは、無意識のうちに先生の生首を大事に抱えていた。生首から血がドバドバあふれてくる。先生の熱い液体が、オレの胸を濡らしていた。真っ赤に染まっていくが、そんなこと気にしていられない。
「大丈夫なんだってば。教会に持って行けば蘇らせてくれるんだから」
「きょ、教会?」
「そういう世界だから」
「えー。うそー」
それはゲームみたいにお金を払えば、生き返らせてくれるシステムなのか。
魔法が存在してるから、死者を蘇生させる魔法があったとしても不思議ではない。
せやけど、人を生き返らせられるって、どうやねん。じゃあ都市で死んだ人も生き返るってことやんか。オレが今まで悲しんだり、怖がってきたりしてきたのがバカみたいだ。
「メチャクチャなんだからこの世界。そういうのを書き直してもらうために、魔王さまはあなたたちを召喚したって言ったでしょ」
「はぁ」
なんだか妙に気が抜けた。
「あんたたちも、そこでストップよ」
リリさんはそう言った。
いったい誰に言ってるのか。周囲にはオレと先生の他に人はいない。リリさんの声を受けていたのは、先生を襲ったスケルトンたちだった。
「いや、でもオレたちモンスターですし。勇者襲うのが役割なんで」
と、言い訳をしている。
スケルトンが言い訳してるのだ。
目を疑う。
「何言ってるのよ。物語を書きなおしてもらうほうが優先でしょうが」
「はい。すんません」
と、スケルトンたちは引き返して行った。
「ウソー」
とんだ茶番だ。
あんなに聞き分けがいいなら、これから先、戦いにくくなる。勇者はいつも剣を振って暴力的な解決をする。でも、言葉が通じるんなら平和的に交渉するのもありなんじゃないかと思う。
「別に気にしなくてもいいわよ。私たちこの物語のキャラクターは、この物語がまっとうなものになることに命をかけてるんだから」
「はぁ」
もはや、はぁ、としか言えない。
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