先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!
なぜ、小説の主人公はモテモテになるのか?
次の都市に到着した。
馬屋から都市までは少し距離があった。そのため、少し平原を歩く必要があった。貸馬屋というらしく、ちゃんと馬屋に返さなくちゃいけないらしい。タクシーみたいなもんだろう。
都市の外観は、オレが最初にいた都市と大差ない。石造りの城壁で囲まれているのも同じだった。が、中を見てビックリした。
人間とケモミミ族とエルフがいたのは、以前の都市と同じだ。
「ケモミミ族は人間と動物の混血の種族だ。エルフは森に住まう種族だが、出稼ぎに都市に来ている」
とのことだ。
でも、もう1種族いた。スライムだ。青いカラダをブヨブヨと震わせて、都市の中を歩き回っていた。いや、這いずりまわっていると言うほうが的確か。人間に飼われているようだ。どのスライムにも首輪みたいなのがつけられていた。
「先生。ここの人たち、スライムを飼ってますよ」
「うむ」
先生は首をかしげている。
「さすが先生やないですか。スライムに物作りの技術があるから、人間の奴隷として働かされてるんでしょう」
先のダンジョンでは魔法玉とかカンテラを、スライムが作っていた。あれはこの都市の伏線やったんやな。さすがは先生だ。ちゃんと考えてるやん――。だが。
「いや、私はこんな都市を描いたことはないのだがなぁ」
「え。じゃあ先生の小説に登場しない都市なんですか?」
「そうではない。この都市は登場するのだが、スライムを飼ってるなんて設定はなかったはずなのだが」
「じゃあ、内容が変わったんですかね?」
「そうであろうな」
あのー、すみません――と道行く人に声をかけてみた。いつからスライムを飼ってるのか尋ねてみた。もうずいぶん昔から飼っているらしい。スライムは物作りに長けたモンスターだから、飼っているとのことだった。
「もしかして、あれやないですか?」
「どれだ?」
「物を作る技術を持ったスライムって設定にする――って先生が言うたやないですか。それで設定が変わったんやないです?」
先生はこの世界の作者だ。
世界を変更できるのは先生ぐらいだろう。
「有り得るな」
「整合性のとれた変わり方やと思いますけど」
物を作る技術を持ってるスライムがいる。人間はまず間違いなくそのスライムを飼うだろう。奴隷にするかもしれない。で、働かせる。だから、スライムを飼うってのは筋が通ってるように思う。
「つまり、私にはこの世界を書き変えることが出来るというわけか? いや、しかし、どうやって変えたのかもよくわからんのだがな」
先生は首をかしげた。
先生がわからないんなら、オレもよくわからない。この世界に来てから、オレは片時も離れずに先生を見ている。でも、どのタイミングで先生が世界を書き変えたのか、わからなかった。
「もし、先生に世界を変えるチカラがあるとしたら、ですよ。魔王なんかさっさと倒してくださいよ」
先生は神様だ。
勇者よりも魔王よりも、神様は強い。
「なに? 私が?」
「そうですよ。だって先生の思い通りにこの世界を変えられるんなら、魔王を倒すんだって余裕でしょ」
先生はオレの頭を軽く叩いてきた。
「何を言うか。ここで魔王を倒してしまったら、面白くないではないか。ここで物語が終わってしまうのだぞ」
《完》
「意味わからんだろう。面白くないであろうが。打ちきりぶった切りにも程があるではないか」
そう言われると、その通りだ。
オレの異世界生活がこんなところで終わりというのも、考えてみれば呆気ない。
「じゃあ、他に何かしてくださいよ」
「何をして欲しいのだ」
言うのが恥ずかしかったのだが、ひとつ思っていたことがあった。オレは咳払いをして、鼻の頭を掻きながら言った。
「モテモテになるとか」
「は?」
「ほら、異世界から来た勇者って女性からモテますやん。袖触れ合っただけで、女性に追いかけまわされるやないですか。ハーレムって言うんですか」
異世界ものに限らず、フィクションの主人公ってのはモテるのだ。
ラノベならまだモテモテ程度だ。が、一般文学やハードボイルドなんかになると、袖触れ合ったら即行、ホテルにINしてる。
オレなんて16年間生きてきて、先生と自分の母親以外の女性と話したこともない。たいていは、その程度だろう。同じ教室にいても女子は女子だけの空間をつくりだしている。もはや異次元にいるんじゃないかとさえ思えるぐらいだ。
フィクションの主人公ってのは、異性を惹きつけるフェロモンをまき散らす設定がされているに違いないのだ。
顔が赤くなるのを感じた。しかし、願いを叶えてくれるかもしれない相手なのだ。恥ずかしがって遠慮していたら、もったいない。
先生は、ふふん、と鼻で笑った。
「笑わんといてくださいよ。恥ずかしいやないですか。異性にモテたいと思うのは、みんな同じでしょう」
「ドメくんも俗だなぁ」
うりうり、と先生がオレの頭を乱暴に撫でてくる。
「しかし、ドメくんハーレム計画は却下だな」
「えぇー。なんでですの」
「ドメくんの周りに女性が寄ってきたら、私が面白くないではないか」
ドキッとした。
「え? それってどういう意味なんです?」
「ふふん」
と、先生は微笑むだけで、その中身を教えてくれなかった。
先生はオレに好意を寄せてくれてるんやろか?でも、異性として見てくれてるんやろか? そもそものところ、先生は異性という概念を理解してるんやろか?
博識だから身体の違いぐらいはわかってると思う。でも、この人からは異性にたいして恥じらうとか、媚を売るといった気配がまるでないのだ。あんまり期待しないほうがいいかもしれない。
遊び相手がいなくなるとか、モテない男子を見てるほうが面白いとか――つまらない理由かもしれない。
「さて、ドメくん。宿を取ろうではないか」
先生は大股で石畳のストリートを歩きはじめた。なんか話をムリヤリ打ち切られた感がある。
「あ、待ってくださいよ」
馬屋から都市までは少し距離があった。そのため、少し平原を歩く必要があった。貸馬屋というらしく、ちゃんと馬屋に返さなくちゃいけないらしい。タクシーみたいなもんだろう。
都市の外観は、オレが最初にいた都市と大差ない。石造りの城壁で囲まれているのも同じだった。が、中を見てビックリした。
人間とケモミミ族とエルフがいたのは、以前の都市と同じだ。
「ケモミミ族は人間と動物の混血の種族だ。エルフは森に住まう種族だが、出稼ぎに都市に来ている」
とのことだ。
でも、もう1種族いた。スライムだ。青いカラダをブヨブヨと震わせて、都市の中を歩き回っていた。いや、這いずりまわっていると言うほうが的確か。人間に飼われているようだ。どのスライムにも首輪みたいなのがつけられていた。
「先生。ここの人たち、スライムを飼ってますよ」
「うむ」
先生は首をかしげている。
「さすが先生やないですか。スライムに物作りの技術があるから、人間の奴隷として働かされてるんでしょう」
先のダンジョンでは魔法玉とかカンテラを、スライムが作っていた。あれはこの都市の伏線やったんやな。さすがは先生だ。ちゃんと考えてるやん――。だが。
「いや、私はこんな都市を描いたことはないのだがなぁ」
「え。じゃあ先生の小説に登場しない都市なんですか?」
「そうではない。この都市は登場するのだが、スライムを飼ってるなんて設定はなかったはずなのだが」
「じゃあ、内容が変わったんですかね?」
「そうであろうな」
あのー、すみません――と道行く人に声をかけてみた。いつからスライムを飼ってるのか尋ねてみた。もうずいぶん昔から飼っているらしい。スライムは物作りに長けたモンスターだから、飼っているとのことだった。
「もしかして、あれやないですか?」
「どれだ?」
「物を作る技術を持ったスライムって設定にする――って先生が言うたやないですか。それで設定が変わったんやないです?」
先生はこの世界の作者だ。
世界を変更できるのは先生ぐらいだろう。
「有り得るな」
「整合性のとれた変わり方やと思いますけど」
物を作る技術を持ってるスライムがいる。人間はまず間違いなくそのスライムを飼うだろう。奴隷にするかもしれない。で、働かせる。だから、スライムを飼うってのは筋が通ってるように思う。
「つまり、私にはこの世界を書き変えることが出来るというわけか? いや、しかし、どうやって変えたのかもよくわからんのだがな」
先生は首をかしげた。
先生がわからないんなら、オレもよくわからない。この世界に来てから、オレは片時も離れずに先生を見ている。でも、どのタイミングで先生が世界を書き変えたのか、わからなかった。
「もし、先生に世界を変えるチカラがあるとしたら、ですよ。魔王なんかさっさと倒してくださいよ」
先生は神様だ。
勇者よりも魔王よりも、神様は強い。
「なに? 私が?」
「そうですよ。だって先生の思い通りにこの世界を変えられるんなら、魔王を倒すんだって余裕でしょ」
先生はオレの頭を軽く叩いてきた。
「何を言うか。ここで魔王を倒してしまったら、面白くないではないか。ここで物語が終わってしまうのだぞ」
《完》
「意味わからんだろう。面白くないであろうが。打ちきりぶった切りにも程があるではないか」
そう言われると、その通りだ。
オレの異世界生活がこんなところで終わりというのも、考えてみれば呆気ない。
「じゃあ、他に何かしてくださいよ」
「何をして欲しいのだ」
言うのが恥ずかしかったのだが、ひとつ思っていたことがあった。オレは咳払いをして、鼻の頭を掻きながら言った。
「モテモテになるとか」
「は?」
「ほら、異世界から来た勇者って女性からモテますやん。袖触れ合っただけで、女性に追いかけまわされるやないですか。ハーレムって言うんですか」
異世界ものに限らず、フィクションの主人公ってのはモテるのだ。
ラノベならまだモテモテ程度だ。が、一般文学やハードボイルドなんかになると、袖触れ合ったら即行、ホテルにINしてる。
オレなんて16年間生きてきて、先生と自分の母親以外の女性と話したこともない。たいていは、その程度だろう。同じ教室にいても女子は女子だけの空間をつくりだしている。もはや異次元にいるんじゃないかとさえ思えるぐらいだ。
フィクションの主人公ってのは、異性を惹きつけるフェロモンをまき散らす設定がされているに違いないのだ。
顔が赤くなるのを感じた。しかし、願いを叶えてくれるかもしれない相手なのだ。恥ずかしがって遠慮していたら、もったいない。
先生は、ふふん、と鼻で笑った。
「笑わんといてくださいよ。恥ずかしいやないですか。異性にモテたいと思うのは、みんな同じでしょう」
「ドメくんも俗だなぁ」
うりうり、と先生がオレの頭を乱暴に撫でてくる。
「しかし、ドメくんハーレム計画は却下だな」
「えぇー。なんでですの」
「ドメくんの周りに女性が寄ってきたら、私が面白くないではないか」
ドキッとした。
「え? それってどういう意味なんです?」
「ふふん」
と、先生は微笑むだけで、その中身を教えてくれなかった。
先生はオレに好意を寄せてくれてるんやろか?でも、異性として見てくれてるんやろか? そもそものところ、先生は異性という概念を理解してるんやろか?
博識だから身体の違いぐらいはわかってると思う。でも、この人からは異性にたいして恥じらうとか、媚を売るといった気配がまるでないのだ。あんまり期待しないほうがいいかもしれない。
遊び相手がいなくなるとか、モテない男子を見てるほうが面白いとか――つまらない理由かもしれない。
「さて、ドメくん。宿を取ろうではないか」
先生は大股で石畳のストリートを歩きはじめた。なんか話をムリヤリ打ち切られた感がある。
「あ、待ってくださいよ」
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