先生! その異世界小説、間違いだらけですやん!
なぜ、勇者はツボを割るのか?
5ゴールドの宿に宿泊した。
ボロいんじゃないかという懸念があった。たとえば壁に穴が開いているとか、ベッドがないとか、部屋のカギが閉まらないとか、店主が窃盗犯だとか……。
杞憂だった。
ちゃんと個室が与えられた。ベッドも2台あった。床も壁もちゃんと木の板が張り付けられていた。窓もあった。窓からの景色は正面にある雑貨店のせいで、遮られていた。が、5ゴールドだ。文句は言うまい。
「5ゴールドで泊まれる部屋とは思えないですね」
広さも8畳ほどある。
「トウゼンであろう。私が創った世界なのだ。そんなムチャクチャな宿屋なんか創りはせん」
「いや。5ゴールドってだけで、すでにムチャクチャやと思いますけど」
窓際に高価そうなツボが置いていた。青磁と言うのだろうか。青く澄んだような色あいのツボだった。
オレは目利きではないが、なんとなく見ているだけで和まされる。
「あ、そうだそうだ」
と、ふと先生がそのツボを持ち上げた。
「先生?」
「せいやっ」
ツボが地面に叩きつけられた。バリーンと盛大な音が立つ。破片が飛散した。
「な、なななな、なにをしてるんですかッ!」
「何って、見てわからないかね。ツボを割っているのではないか」
先生は得意気に言う。
ものすごいドヤ顔だ。
「いやいや。割ってるのは見ればわかりますよ! いったい何の儀式なんですか。宿の人に怒られますって!」
先生が奇人であることは知っていたが、トツゼンそういった言動をされると、ビックリしてしまう。
「案ずるでない。勇者御一行は他人の家のツボを割っても良いという、法律があるのだ。ゲームの主人公もよく他人の家のツボを割っているではないか」
「ウソーッ!」
もはや驚愕を越えて、呆れる思いだ。
そこもゲームテイストに仕上げたらしい。
「ほら、見たまえ」
ツボの破片の中から先生は草を取りだした。
「なんですか。この雑草は」
「雑草ではない。これは薬草だ。ツボの中から薬草が出てくるのは、もはや王道であろうが」
「いや、わざわざツボを割る必要はないですやんッ。普通に薬草をツボから取りだせばええですやんかッ!」
RPGの主人公もよく勝手に他人の家に上がりこんで、ツボを割り散らかしている。あれはいったい何故破壊する必要があるんやろうか。
普通にツボの中に手を突っ込んで、中の物体を取りだせばええだけやないか。もはや、嫌がらせの域を越えて、狂人の言動としか思えない。
「割らなくては、爽快感がないであろうがッ」
「えぇー……」
爽快感を求めるだけで、他人の家のツボを割り散らかす権利が勇者にあるのか。
民衆にとってはもはや魔王より、勇者のほうが問題だろう。何せ土足で家に上がりこんできて、家具を破壊しつくして、あらゆる道具をかっぱらって行くのだ。大悪党だ。
「さあ。ドメくんよ」
「なんですか?」
「他の部屋にあるツボも割りに行こうではないかッ」
先生は嬉々とした表情で言う。
そんなに気持良かったんだろうか。
「いや。あきませんって。オレ、そんなんしたくありません」
「何故?」
「何故って、迷惑かかるでしょう。大人しくしときましょうよ」
ここがいくらフィクションの中とはいえ、そんな大胆なことはしたくない。たとえば夢の中で好き勝手やろうとしても、理性が働いてしまう。夢の中でさえそれだ。感覚がリアルにあるのに、そんな狂ったことは出来ない。
「私が良いと言えば、良いのだ。私はこの世界の神のような存在であるぞ」
「そうなんでしょうけど」
勇者はツボを割って良いという法律があるんなら、別に問題はないのだろう。しかし、迷惑すぎる。5ゴールドで部屋に泊めてもらったあげくに、宿にあるツボというツボを割り散らかす勇者。……ありえない。
「お願いしますから、大人しくしといてください」
「どうしたのだ。ドメくん。情けない顔をして。もしかして私がツボを割ってしまったことを嘆いているのか?」
「その通りです」
先生は、やさしくオレの背中を撫でてくれた。
「そうかそうか。それは済まないことをした」
わかってくれたのか、先生は申し訳なさそうな顔をした。
「先生……」
先生に優しくされると、頭がボーッとして何も考えられなくなる。神はどうしてこんな人に、美貌を与えたのだろうか。
「あのツボ、ドメくんが先に割りたかったのだな」
「ちがーうッ!」
なんとか説得に説得を重ねて、他の部屋のツボを割ることは断念してもらった。
オレは部屋に散らかっているツボの破片を片付けることにした。宿を出るときに宿主に謝っておこう。
ベッドで寝転がって、薬草を見つめた。先生がツボから取りだした薬草だ。見た感じではただの雑草にしか見えない。
「これって、どうやって使うんです?」
「食べるのだよ」
「傷とか治るんですよね?」
「そうだ。たくさん食べれば、あらゆる傷を回復できる優れものだ」
薬草があるから、この世界には病院がないのだろう。RPGでも病院があるものは、あまり見たことがない。
「でも、この世界って魔法があるんでしたよね。先生って、魔法使いって設定でしたよね?」
「その通りだ」
「魔法使いがいるんなら、傷とかも魔法で治せるんやないですか?」
「うむ。治せるぞ」
「薬草も必要ないんとちゃいます?」
「魔法は使うと疲れるのだ。ゲームではMPと言われているが、この世界にMPの概念はない。ただただ単純に疲れるわけだ」
「へぇ」
そこはゲームテイストではないらしい。まぁ、そりゃそうだろう。HPが体力なら、MPは何だよって話になる。
「疲れるよりかは、疲れない薬草のほうが使い勝手が良いであろう」
「なるほど」
じゃあロウソクとかも、そういう理由で存在しているのだろう。炎の魔法で出現させられる。だが、疲れるから、ロウソクを使うわけだ。
ボロいんじゃないかという懸念があった。たとえば壁に穴が開いているとか、ベッドがないとか、部屋のカギが閉まらないとか、店主が窃盗犯だとか……。
杞憂だった。
ちゃんと個室が与えられた。ベッドも2台あった。床も壁もちゃんと木の板が張り付けられていた。窓もあった。窓からの景色は正面にある雑貨店のせいで、遮られていた。が、5ゴールドだ。文句は言うまい。
「5ゴールドで泊まれる部屋とは思えないですね」
広さも8畳ほどある。
「トウゼンであろう。私が創った世界なのだ。そんなムチャクチャな宿屋なんか創りはせん」
「いや。5ゴールドってだけで、すでにムチャクチャやと思いますけど」
窓際に高価そうなツボが置いていた。青磁と言うのだろうか。青く澄んだような色あいのツボだった。
オレは目利きではないが、なんとなく見ているだけで和まされる。
「あ、そうだそうだ」
と、ふと先生がそのツボを持ち上げた。
「先生?」
「せいやっ」
ツボが地面に叩きつけられた。バリーンと盛大な音が立つ。破片が飛散した。
「な、なななな、なにをしてるんですかッ!」
「何って、見てわからないかね。ツボを割っているのではないか」
先生は得意気に言う。
ものすごいドヤ顔だ。
「いやいや。割ってるのは見ればわかりますよ! いったい何の儀式なんですか。宿の人に怒られますって!」
先生が奇人であることは知っていたが、トツゼンそういった言動をされると、ビックリしてしまう。
「案ずるでない。勇者御一行は他人の家のツボを割っても良いという、法律があるのだ。ゲームの主人公もよく他人の家のツボを割っているではないか」
「ウソーッ!」
もはや驚愕を越えて、呆れる思いだ。
そこもゲームテイストに仕上げたらしい。
「ほら、見たまえ」
ツボの破片の中から先生は草を取りだした。
「なんですか。この雑草は」
「雑草ではない。これは薬草だ。ツボの中から薬草が出てくるのは、もはや王道であろうが」
「いや、わざわざツボを割る必要はないですやんッ。普通に薬草をツボから取りだせばええですやんかッ!」
RPGの主人公もよく勝手に他人の家に上がりこんで、ツボを割り散らかしている。あれはいったい何故破壊する必要があるんやろうか。
普通にツボの中に手を突っ込んで、中の物体を取りだせばええだけやないか。もはや、嫌がらせの域を越えて、狂人の言動としか思えない。
「割らなくては、爽快感がないであろうがッ」
「えぇー……」
爽快感を求めるだけで、他人の家のツボを割り散らかす権利が勇者にあるのか。
民衆にとってはもはや魔王より、勇者のほうが問題だろう。何せ土足で家に上がりこんできて、家具を破壊しつくして、あらゆる道具をかっぱらって行くのだ。大悪党だ。
「さあ。ドメくんよ」
「なんですか?」
「他の部屋にあるツボも割りに行こうではないかッ」
先生は嬉々とした表情で言う。
そんなに気持良かったんだろうか。
「いや。あきませんって。オレ、そんなんしたくありません」
「何故?」
「何故って、迷惑かかるでしょう。大人しくしときましょうよ」
ここがいくらフィクションの中とはいえ、そんな大胆なことはしたくない。たとえば夢の中で好き勝手やろうとしても、理性が働いてしまう。夢の中でさえそれだ。感覚がリアルにあるのに、そんな狂ったことは出来ない。
「私が良いと言えば、良いのだ。私はこの世界の神のような存在であるぞ」
「そうなんでしょうけど」
勇者はツボを割って良いという法律があるんなら、別に問題はないのだろう。しかし、迷惑すぎる。5ゴールドで部屋に泊めてもらったあげくに、宿にあるツボというツボを割り散らかす勇者。……ありえない。
「お願いしますから、大人しくしといてください」
「どうしたのだ。ドメくん。情けない顔をして。もしかして私がツボを割ってしまったことを嘆いているのか?」
「その通りです」
先生は、やさしくオレの背中を撫でてくれた。
「そうかそうか。それは済まないことをした」
わかってくれたのか、先生は申し訳なさそうな顔をした。
「先生……」
先生に優しくされると、頭がボーッとして何も考えられなくなる。神はどうしてこんな人に、美貌を与えたのだろうか。
「あのツボ、ドメくんが先に割りたかったのだな」
「ちがーうッ!」
なんとか説得に説得を重ねて、他の部屋のツボを割ることは断念してもらった。
オレは部屋に散らかっているツボの破片を片付けることにした。宿を出るときに宿主に謝っておこう。
ベッドで寝転がって、薬草を見つめた。先生がツボから取りだした薬草だ。見た感じではただの雑草にしか見えない。
「これって、どうやって使うんです?」
「食べるのだよ」
「傷とか治るんですよね?」
「そうだ。たくさん食べれば、あらゆる傷を回復できる優れものだ」
薬草があるから、この世界には病院がないのだろう。RPGでも病院があるものは、あまり見たことがない。
「でも、この世界って魔法があるんでしたよね。先生って、魔法使いって設定でしたよね?」
「その通りだ」
「魔法使いがいるんなら、傷とかも魔法で治せるんやないですか?」
「うむ。治せるぞ」
「薬草も必要ないんとちゃいます?」
「魔法は使うと疲れるのだ。ゲームではMPと言われているが、この世界にMPの概念はない。ただただ単純に疲れるわけだ」
「へぇ」
そこはゲームテイストではないらしい。まぁ、そりゃそうだろう。HPが体力なら、MPは何だよって話になる。
「疲れるよりかは、疲れない薬草のほうが使い勝手が良いであろう」
「なるほど」
じゃあロウソクとかも、そういう理由で存在しているのだろう。炎の魔法で出現させられる。だが、疲れるから、ロウソクを使うわけだ。
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