旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

裏工作

麗華と久々に遭遇してから数日後
「ーーというプランがございまして……」
俺はいつもの様に客人の話を聞いていた。
今日来たのは俺が社長を務めていた会社の現社長だ。
「はいはい、それで?」
「このプランを実行するために会長のご意見を
お聞きしたいと思いまして本日訪問させて
いただきました」
「そうだな……」
とその計画に対して改善点や注意点を述べていた。
たまにだが俺が社長を務めていた会社の現社長やら
役員から相談がくる。
今日もそんな感じでアドバイスを一通り言うと
「流石会長ですね参考になります」
「会長はやめてくれ。何か一気に歳を取った気分に
なるからさ」
まだ俺自身は二十代半ばなのに会長と呼ばれると
何故か一気に歳を取った気になる。
「いえいえその歳で会長なのですからもう少し
誇られてもいいと思いますよ」
「何かまだ慣れないな……」
なんて下らない会話をして今日は終わりかと
思っていたが現社長のとある一言に驚くことになる。
「ところで社長」
「ん? 何?」
「白河家のご令嬢とのお付き合いは順調なのですか?」
「「はい?」」
思わず後ろにいた月詠さんと被った。
「ちょっと待てそれってどういう意味だ」
「あれ? 違いましたか? 白河家のご令嬢の方が
自らそう申されていたのと社員でもその様な噂があり
てっきりお二人はそういう仲になられたのかと……」
話し方と態度を見ているとどうやら本当に俺達が
そんな関係だと思っているらしい。
「んなわけあるか!! 誰があんな奴と………」
「こ、これは……とんだご無礼をお許しください」
と社長が頭を下げる。
どうやら麗華が裏で何かをしているのかは分かった。
理由は俺と婚約したいからだろう。
前は勝手に断りを入れてきたくせに俺の社会的地位が
一気に上がると手のひらを返した対応をとってくる。
だが麗華の裏工作はこれだけでは無かった。




別の日
この日は春翔の家のパーティに参加していた。
春翔にとても頼まれ渋々参加しているのだが……
「旦那様は結局出られるのですね?」
開始早々ジト目の我が彼女月詠さん。
「いやね……分かってもらえると嬉しいなぁ……」
「別に、何も思いませんよ? 私の意見を無視するのは
旦那様はお得意な様ですからね」
表情は笑っているけど目は笑っていない。
「あの……俺そこまで無視してないよね?」
「お帰りなられたらお屋敷でゆーーーっくり
お話合いを致しましょうか」
「……はい」
これだとどっちが主従の主なのか分からない。
まぁある意味これも俺達らしい気がするが。
「ーーこちらにいたのですね御堂兼続様」
「ん?」
呼ばれたので振り向くと、そこには数人の女性がいた。
「げっ……」
「どうされたのですか旦那様?」
「こいつら、麗華の取り巻きだ」
「……言われてみればそうですね」
「兼続様、ご機嫌麗しゅうございますわ」
「俺に何の用かな? さっさと済ませてもらえる?」
「いやですわ、私達は兼続様とただお話がしたいのです」
「あいにく俺に話す内容は無いんだが」
「そう申されないで、あちらで私達とお話ししましょう。
ほら、そこの女執事は置いて」
と言うと俺の腕を引っ張り向こうに連れていこうとする
取り巻きの1人。
……さりげなく胸を押し付けるのをやめろと言いたい。
「ほぉ……」
だってさっきから月詠さんが俺を凄い形相で睨んでいる。
あれは取り巻きに怒っているのかはたまた俺に
怒っているのか分からない。
「そうですよ、そんな執事よりも私達の方と話している
方が楽しいに決まっています」
そんな月詠さんをあえて無視しているのか取り巻き達が
更にたてまくる。
「兼続様はいつ麗華様と婚約されるのかしら?」
「はぁ?」
「だって既に麗華様のご両親の元に挨拶を終えて
了承をいただいたのでしょう?」
「またこれか……」
多分麗華はこのまま噂を広めて、無理矢理周りに
関係を認めさせるつもりなのだろう。
「麗華様が羨ましいわ〜まさかこんな素晴らしい方と
婚約されるなんて!!」
「貴方、何言っているの? 兼続様が困窮している時に
支えたのは麗華様なのだから当たり前でしょう」
……真っ先に縁を切ったの麗華なんだけどな。
「ところで兼続様はいつまでこの女執事を
雇われるのですか?」
いきなりとんでも無いことを取り巻きの1人が
言ってきた。
「はっ?」
俺はあまりにもバカバカしい質問に半ば呆れた。
「だって兼続様には麗華様という美しい婚約者が
いるのでしょう? ならわざわざこの女執事を
雇う必要がありますか?」
と言うと他の取り巻きも同意する様に頷く。
「そうですわ!! 早くこんな執事なんてクビに
いたしましょうよ!!」
「というかそこの執事!!」
「はい、何でしょうか?」
「貴方、自分がいて麗華様に迷惑をかけているとは
思わないのかしら?」
「旦那様には申し訳ないと思う気持ちはありますが
白河様程度に申し訳ないと思う気持ちはこの橘
一切持ち合わせていません」
「執事のくせに……!! 兼続様、今お聞きになられて?
この執事、麗華様を馬鹿にしたのですよ?
執事程度がですよ!!」
「……お前、本気でそれ言っているのか?」
「だって執事程度があの麗華様に対してーー」
「黙れ」
「「えっ……」」
「貴様ら、次同じ言葉を言ってみろ?
俺はお前らを許さない。俺が使えるもの全て使って
お前らの一族潰しにいくぞ」
流石に月詠さんがここまで言われて我慢出来なかった。
「何よ!! 兼続様は麗華様より執事を取るの!?」
「そうよ!! 何もメリット無いのよ!!
麗華様なら貴方にも」
「じゃあ俺はこう言おうか。
ーーお前らといても何もメリットが無いと」
そして俺は後ろにいた月詠さんの方を振り向き
「さっ、帰ろうか月詠さん、いや俺の彼女さん」
と俺が言うと一気に顔を赤くして
「……ッ!? だ、だ、だ、旦那様!?
こ、こ、こ、こ、この様な場所でいきなり
何を仰るのですか!?」
慌て始めた。
何か久し振りにこの光景を見た気がする。
俺はそのまま顔が赤いままの月詠さんを連れ立って
パーティ会場を後にした。





そして屋敷に帰ると……
「ーーさて旦那様、何故あのような場所でいきなり
か、彼女なんて言ったのか説明いただけますか?
月詠さんからの尋問タイムが始まった。
「それはですね……あの場で言えば少しは取り巻き達も
黙るかな〜と思いまして」
あの場でああ言っておけば取り巻き達は黙るだろうし
周りに彼女は月詠さんだと知らしめる事が出来る。
「えぇ……確かに取り巻きの方達は静かになりました。
静かになられましたが!! 今度は私の心臓の鼓動が
騒がしくなったじゃないですか!!
どう責任を取ってくださるんですか!!」
……話は俺の予想の斜め上を大きく超えた。
「えぇ……これって俺のせい?」
「旦那様以外にああ言われても何も感じません。
むしろ旦那様に言われると心臓の鼓動が飛躍的に
上がって止まらないのです!!」
「そうなの……?」
「はい、そうです。なので今回は旦那様に大きな非が
あると私は思います」
「……ねぇ月詠さん、今回に限ってだけどさ自分が
とんでもない理論で話しているの分かってる?」
「いえ真っ当な理論です」
「いやいや今回は絶対違うって」
「どこが違うのでしょうか?
どこに? どこが? 何をもって?旦那様はおかしいと
お思いなのか教えていただけますか?」
「……いや俺が悪かった」
ここで変に言い返すとなんか火に油を注ぐ事に
なるだろうと思い言い返したい気持ちは抑えた。
「いいですか? 旦那様はもう少し周りを見てーー」

この後、尋問タイムは大分続いた。

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