旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

今更どの面下げて

とある日
「なぁ月詠さん」
「はい、なんでしょうか?」
「月詠さんっていつも燕尾服以外何着ているの?」
俺は今まで疑問に思っていた事を彼女にぶつけてみた。
彼女は俺の記憶上、燕尾服しか着ていない気がする。
では燕尾服以外は何を着ているのだろうか?
それを今ふと思い、聞いてみた。
「私は燕尾服のみですね」
「即答かい……」
「はい、執事たるものいかなる時でも旦那様の身に
何が起こるか分からないため、いつでも人前に出ても
おかしくない服装をしていないといけません」
「ちなみに買い物は?」
「燕尾服にて」
「勤務時間外は?」
「燕尾服です」
「……寝る時は?」
「燕尾服です」
「寝る時ぐらいは燕尾服以外を着たらどうかな……?」
「いえ、寝ているときであってもいかなる場合でも
燕尾服です」
「……そんなに長時間来ていたらさ
燕尾服結構痛まない?」
「その点に関してはご心配は及びません。
常時、10着以上の燕尾服を備えておりますので
例え1着がダメになってしまっても大丈夫です」
「……今度、燕尾服禁止の日を作ろうかな」
「そ、そんな!? それはあまりにも非情です!!」
と必死の表情で抗議してきた。
「いやいやたかが燕尾服だよね!?
そんなにムキになる事かな!?」
「何をおっしゃいますか?  燕尾服は執事にとっての
ユニフォーム、つまり正装。それを禁止させられたら
私は何を着て旦那様にご奉仕を
すればよろしいのでしょうか!?」
「……ん? つまり仕える為の正装だったらいいんだね?
そういう事でいいのかな?」
「え、えぇ……旦那様にお仕えする為に適した正装を
代わりにくださるのでしたら燕尾服禁止の日を
のみましょう」
「分かった……じゃあその日の月詠さんの服装は……」
「ーー旦那様、少しお静かに」
俺が月詠さんの服装を告げようとした瞬間、彼女は
たまに見せる真面目な表情をして俺を止めた。
「……何か発生したのか?」
俺が彼女に聞き返すと
「はい、どうやらまた敷地内に何者かが侵入して
きた模様でございます」
と返してきた。
「春翔じゃないのか?」
「どうやら違うみたいですね。春翔様は侵入しても
何も反応しないので……」
そう言えばちょくちょく春翔が遊びに来ても月詠さんは
今の様に反応しなかった記憶がある。
……というか今更だがあいつは俺の屋敷に来る際には
なんて周りの人間に説明しているのだろうか。
それが本当に今更だが気になってきた。
「……一応申し上げますとこの敷地内に入ってくる
という事は旦那様に敵意は持っていないようですが
お会いになられますか?」
「そうだな……会ってみるか。
ちなみに相手の事分かる?」
「はっ、少々お待ちください……
むっ……これは……」
と目を瞑り、調べていくうちに
どんどんを顔が曇っていった。
「どうした?」
「旦那様……私が言った手前申し上げにくいのですが
お会いになられない方が良いかもしれません……」
と申し訳なさそうに言ってきた。
「どうしてだ……俺に敵意を持っていないのだろう?」
「はい、敵意は持っておりません。むしろ助けを
求めている感情に近いですね」
「ならなおさら助けないといけないのでは?」
俺が困っている人はほっとけない性格だというのを
知っているのに何故か月詠さんは言い淀んでいた。
「ですが……その……相手の方が……」
「相手の方が?」
俺がそう言うと彼女は観念したように口を開いた。
「その方の筋書きは……
ーー御堂の会社役員です」
その瞬間、時間が止まった様な気がした。




「なんだと……」
両親が死んだ瞬間、一気に手のひらを返した会社であり
しかも役員ときた。
そりゃ月詠さんが合わない様に進めるはずだ。
「今更……なんの用だ」
俺はさっきまでの人を助けようと思っていた気持ちが
一気に冷えていくのを感じた。
その気持ちと反比例するように
「まぁ……大方想像出来ますが……私の考えだと
この方は旦那様の事を必死に探されているみたいですね。
どうされますか……?」
「もし、俺が会うのを拒否したらどうなる?」
「この男性がこの屋敷に入る事は出来ません。
その後無理矢理麓まで送り返します。
もしくは一生霧の中で迷わせる事は出来ます」
「そうか」
改めて彼女は“元”神様なんだと思った。
「旦那様はどうしたいですか?」
「俺か?」
「はい。もし旦那様が迎え入れるなら霧をあの方近辺を
晴らして、ここまで案内致しましょう。
もし追い返せとおっしゃられるなら霧を使って
迷わせたり、追い返す事も出来ます」
「……あとは俺の一存ってやつか」
「はい、どう致しますか?」
俺はしばらく悩んだ。

ーー相手はあの会社の役員だ。

ーー当然憎むべき人間だろう。

ーーだがここまでわざわざ俺に助けに求めにきた。

ーーそんな人物を追い返すのは如何なものか。

俺は色々と悩んだ結果、決めた。
「月詠さん、その人物をここまで案内してもらえる?
せめて話だけは聞いてみる」
「はっ、旦那様のご命令とあれば」
とりあえず話は聞いてみることにした。
話を聞いてから、その後の処遇とやらを考えよう。
というよりも元の人に甘い俺の性格が
直っていないのが1番の理由だろう。
「あっ、月詠さん。もし変な動きでもしたら……」
と言い切る前に
「その時は霧に迷わせて始末します」
月詠さんは表情を変えずにそう言った。
「……悪いな」
「いえ、旦那様のご気持ちも分かります。
では、少々お待ちください」
と言うと月詠さんは部屋を出ていった。
「ふぅ……」
俺は椅子に深く腰掛けた。
まさかあの屋敷を出てから再び御堂と関わる事に
なるとは思わなかった。
「どうやっても俺は御堂から離れられないのか……」
俺は窓から見える霧を見ながらそう呟いた。

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