旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

義理は無い

月詠さんと初めてキスをしてから1年……
「旦那様、今日のご予定は?」
俺の執事兼彼女である月詠さんが
いつものように聞いてくる。
「特に無し」
俺が自信満々に言うと月詠さんはやや呆れながら
「……清々しいぐらいはっきり言われますね」
と言ってきた。
「だってな……やる事無いしなぁ……」
「確かにご気持ちは分かりますが……」
とそんな会話をしていると頭の中に1つアイデアが
思い浮かんできた。
「あっ、やりたい事あった」
「はっ、どうぞお申し付けを」
「ーー月詠さんとイチャイチャしたい」
「えっ!? ち、ち、ちょっと旦那様!?」
一気に顔を赤くする月詠さん。
この初々しいさを見ていると本当に神様だったのかと
疑問に思いたくなるが、可愛いからいいのである。
「だってやりたい事って言ったらこれぐらいしか
思いつかない!! 故に言った!!」
「だ、だ、だ、旦那様!? そ、それはやりたい事に
は、入るのでしょうか!?」
「俺はやりたい!!」
「ここでも清々しいぐらいはっきり言われますね!?」
「だってイチャイチャしたい!!」
「で、で、ですが旦那様……」
「ん? 何かな?」
「ま、まだ私がな、慣れてないので……
その……恋人同士がする事とかは……何をすれば
良いのか……分からないのに加えて……」
「加えて?」
「もし……そんな事をすると……私が嬉しさのあまり
今日のこの後のお仕事が……出来ない可能性が……」
「あぁ……確かに……」
月詠さんはとても照れ屋である。
その為、前回のキスをした時は次の日まで
彼女は惚けてしまい、殆ど仕事が出来なかった。
「で、ですから……そ、その……き、キスは
お仕事が終わった夜にしてくださると……幸せな気持ちで
眠りにつく事が出来ますので……」
ともじもじしながら言うその姿は見ているこっちを
この上ない幸せな気持ちにさせるのであった。
(あ〜本当に俺の彼女は可愛いなぁ……)



月詠さんに夜、キスをする事を約束してから
俺はパソコンでとある記事を見ていた。
「ここのところ業績が伸びてないな……」
俺は“元”自分が勤めるはずだった会社の業績を見ていた。
俺の親父が死に、当時副社長であった人物が社長に
なってから会社は完全に元副社長によって
私有化されていた。
ニュースでは取り上げられないが

ーー親族をグループ会社の取締役にしたり

ーー会社の資金を自分達の口座に横流ししたり

ーー賄賂や不正が横行しているなど

親父がいなくなってから会社は衰退の一歩を辿っていた。
では、何で俺がそんな事を知っているのかと言うと
親父が死ぬ前に俺に役員しか本来渡されないコードを
もらい、その権限を持って会社の内情を見ている。
だから新聞には載っていない様な情報も知っている。
「……というか僅か1年でここまで傾くもんだな」
俺は皮肉を込めてそう言った。
親父がいなくなってから一気にここまで傾くというのは
やはり親父というのは経営というかリーダーとしての
手腕が優れていたんだろう。
「何を見ていらっしゃるのですか旦那様?」
いつの間にか後ろに立っていた月詠さんが
俺にそう尋ねてきた。
「あぁ、これさ御堂の情報」
と俺がパソコンを月詠さんに見せると
彼女は露骨に嫌な顔をしていた。
「旦那様よりも経営手腕が無いくせに人一倍欲にまみれ
公平性のかけらもなく、ただ御堂だからという理由で
副社長まで昇りつめた御堂の面汚しの会社ですか」
久しぶりにみた月詠さんの毒舌。
俺に敵対する人間にはとことん冷徹になる彼女であった。
「……おぉ、怖」
「こ、これは……失礼致しました」
「いやいいよ……正直俺もあの社長には殆ど良い印象が
無いからな。別に言われても何にも感じないどころか
逆に清々するよ」
「お気遣い感謝致します」
「ねぇ月詠さん」
「はい、何でしょうか?」
「正直今のまんまあの会社が言ったらどうなると思う?」
「まぁ数年以内には業績不振になりますね。
ここで旦那様がこの会社のお救いになられたら……」
「はっ、何で俺があの会社を助けなきゃいけない?
第一、俺の両親の葬式に誰も来なかった奴らを
助ける義理はない」
俺の両親の葬式は俺と月詠さん以外は誰も参加せず
随分寂しい葬式になった。
……なお今両親はこの屋敷の庭の中でも1番日が当たる
好立地な場所に並んで埋葬してある。
せめてあの世でも仲良く過ごして欲しい。
「……失礼致しました。旦那様のお気持ちを察する事が
出来ずに出過ぎた真似を……」
「いや、月詠さんは間違ってないからね。
ただ俺はどうしても心が納得しないだけだ。
あの時、手のひら返しをいた連中を助けるなんて……」
ふと後ろにいる彼女をみると悲しそうななんとも言えない
表情をしていたのでそれ以上は何にも言わなかった。
ただその代わりに……
「今日のご飯はカレーがいいな」
とだけ言った。それを聞いた月詠さんは
「腕によりをかけて美味しいカレーをお作りします」
そう言ってくれた。


だがもう関わりたくないと思う俺の気持ちとは逆に
なんの因果か再び御堂の家と向き合う事になった。

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