旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

変な執事さん

新たな屋敷に引っ越してきて初めての朝
「ふぁ……今何時だ?」
隣に置いてある時計を確認すると7時を少し過ぎた
ぐらいの時間だった。
大体いつもこの時間に起きていた。
そしてこの時間になると……
コンコン
「旦那様、ご朝食の準備が出来上がりました」
「あぁ、今行く」
俺は着替えて、扉を開けた。
そこには……
「おはようございます、旦那様」
「うん、おはよう月詠さん」
ドアを開けた瞬間、目の前に俺の専属執事兼彼女である
橘月詠さんがいた。
……というかドアを開けて、丁度当たらないぐらいの
距離に立つのをやめて欲しい。
開けた瞬間に人の顔があるって結構恐怖だと思う。
月詠さんの元々無表情であるのも相まって尚更
その恐怖が倍増される。
「どうかされましたか旦那様?」
「いや、何でも無いよ」
まぁ彼女にこれを言っても口癖である
“旦那様の執事ですから”と言われると思うので
言わないでおくとしよう。


そして新しい食堂に着き、食事をする俺。
今日のメニューは和食であった。
和食であろうとも洋食であろうとも美味しく作れる
月詠さんは本当に凄いのだと思う。
「今日の朝食も美味しいね」
「お褒めいただきありがとうございます。
旦那様の執事としてこれぐらいは出来て当たり前だと
思っていますので」
「ちなみに月詠さんっていつも通りに朝ごはんは
食べたんだよね?」
この人は俺が起きる前に自分の食事を終わらせて
それから俺の食事に取りかかる。
「……」
「あれ? 月詠さん」
何故か急に黙り込む月詠さん。
一体何かあったのだろうか?
「そう言えば自分の食事を作るの忘れていました……
私とした事が……申し訳ありません」
「いやいや俺に謝らなくても良いって
にしても珍しいね月詠さんがミスするなんて」
「実は……大変言いにくいのですが……
今日はいつもよりややご朝食が豪華に思いませんか?」
「あっ、確かにいつもより多いね」
いつもに比べて食事の品数が多い事に今更気付く。
それが一体どうしたのだろうか?
俺がその様に思っていると彼女は顔を赤らめ
「旦那様に喜んでいただこうと思いまして……
いつもより気合を入れさせて作りました。
た、大切な人に喜んでいただこうと……」
いつもは見せない照れた顔で言ってきた。
「そ、そうなんだ……」
「ご迷惑でしたか……?」
「い、いや迷惑じゃないよ? ただ月詠さんが
そんな事を言ってくるなんて思わなかったから……
驚いていただけ」
「せっかくこ、恋人同士になったのですから
これぐらいはしたいと思っただけです」
「まさかだと思うけど俺の朝食に手を入れ過ぎて
ーー自分のを食べ損ねた?」
「……」
黙り込む月詠さん。
ここで否定しないというのは多分俺が言った通り
であったんだろう。
(やばい……俺の彼女可愛い過ぎる……!!)
なんて心の中で思い、悶絶しながら朝食は進んでいった。



そして朝食を食べ終えいつものコーヒーの時間になった。
「旦那様、ご朝食後のコーヒーとなります」
「うん、ありがとう」
月詠さんからコーヒーを貰い、口に運んだのだが……
「甘ッ!? な、何だ今日のは甘過ぎるぞ!?」
まるで砂糖をそのまま飲んでいるのでは無いだろうかと
思ってしまうぐらいの甘さだった。
「そんなはずは……
ーーうっ、これは甘すぎですね……」
月詠さんも少し口に入れて顔をしかめた。
「申し訳ありません旦那様……
私が砂糖を入れすぎたと思われます」
「いや、良いって。月詠さんにしては珍しいミスだね」
「……誠に申し訳ありません。
 次回からは気をつけます」
と朝はその様に言ったのだが……
その日の月詠さんは変だった。

ーー部屋を掃除をすると棚を倒し

ーー昼食では塩が多め

ーー水回りの掃除では水が暴走して服が濡れて
とても危ない事になっていたり
いつもならしないミスを連発していた。
そしてその結果月詠さんがどうなったかと言うと……
「……申し訳ありません旦那様。
こんなダメ執事兼ダメ彼女で申し訳ありません」
月詠さん自身の部屋の隅っこで体育座りをしていた。
……何故かその付近だけ暗く見えるのは気のせいか?
「い、いや月詠さん。たまにはこんな日もあるって
ほら俺も株の取引とかで検討違いの事するし……」
「お優しいのですね旦那様は……それに比べて私は……
はぁ……隠れたい……天岩戸にでも隠れたいです」
「……なんか月詠さんが言うと信憑性があるよね。
じ、じゃなかった。俺は別に良いって俺も足りない部分は
手伝うからさ」
と言うと月詠さんは声を張り上げ
「それはいけません!! 私は旦那様の専属執事
なんですから私がいる限りそんな事をさせません!!」
「お、おう……」
「あっ、でも今の私だと……ダメですね。
旦那様に心配をかけてしまう私なんて執事失格ですよね。
はぁ……この部屋に天岩戸を作りましょうかね……」
「えっ、天岩戸って作れるの!?
というか月詠さんって天岩戸の時って何してたの?」
「それ私に聞きますか……?
なんせ私は古事記で出番が殆ど無い神でしたからね……
旦那様の記憶の片隅に残っていないのは当たり前ですよ。
というかまとめた方々に文句を言いたいですよ……
もう少し私の出番増やしてくれても良いのではと
思ってしまいますよ……」
……どうやら俺は彼女の聞いちゃいけない部分を
聞いてしまったようだ。
そう言えばツクヨミってあまり記載が無かった事を
今更思い出した。
「はぁ……私はダメですね……」
さて、俺の今の課題は目の前で落ち込んでいる
執事兼彼女をどうするかであった。
俺は金や経済の動きには敏感だが、どうも女性の気持ちは
全然分からない。
その面に関してはよく母や月詠さんに注意されていた。
だからとりあえず俺は自分が出来る事は何かを考え
実行してみる事にした。
「ねぇ月詠さん」
「はい、このダメな執事に何か御用ですか?」
「ーーちょっと隣失礼するね」
「だ、旦那様!? 
 い、一体何をしてらっしゃるのですか!?」
「何って隣に座っているだけだよ?」
俺が考えた末に至った結論はとりあえず
月詠さんの隣に座る事だった。
「床に座られていては風邪を引かれてしまいます!!
どうか旦那様は椅子のお座りください」
「断る」
「ですが!!」
「俺が月詠さんの隣に座りたいからなんだけどダメ?」
「……分かりました。全く旦那様はこういうところは
随分強引なんですから」
「まぁね、それが俺だからね」
「理由になってませんよ……
あ、あの旦那様」
「ん? どうしたの?」
「大変ご無礼だと思うのですが……もう少し旦那様の
お側に寄ってもよろしいでしょうか?」
「俺の近くでよければ良いよ」
「ありがとうございます。では……」
とこちらに身体を近づけてくる月詠さん。
近づけると言ってもまだ少し間があるので俺は
「えいっ」
月詠さんの腰付近に手を回してこちらに一気に引き寄せ
身体同士をくっつけた。
「……ッ!? だ、だ、だ、旦那様!?
こ、こ、これは一体何を!?」
「たまには強引にしてみたかっただけかな。
ダメかい?」
「い、いえ!? そんな事ございません!!
私でよろしければどうぞご自由に!!」
「うん、じゃあそうさせていただくよ」
と身体をピタッとくっ付けて座る俺達。
そしてしばらくお互いに黙る。
(月詠さんの隣って安心するな。
なんかこう、久しぶりに心から安心したな……)
不謹慎ながらも1人思っていた俺であった。

「……あの旦那様」
「ん?」
「本日は誠に申し訳ありませんでした」
「いや良いって別に気にしてないって。
誰だってこういう日はあるでしょ?」
「ですが今日の私は目に余る失敗が多発していて
旦那様になんて言えばよろしいのか……」
「だから良いって。別に俺はそんなに困ってないし」
「“そんなに”という事は困った事があった
という事ですよね……大変失礼致しました」
「あ、いやそう言う意味では無いのだけど……ごめん」
本日2回目の地雷踏み。
「いいんですよ……私は古事記でも影が薄い神ですし
人間になった後でも失敗をやらかす人間ですから」
とまた落ち込む月詠さん。
「まぁ確かに困った事はあったかもしれないな」
「えっ!? どこですか!? 教えてください!!
出来れば具体的に!! どこが悪かったのか!?」
さっきまでの落ち込みはどこに行ったのやら一気に
詰め寄ってくる月詠さん。
……というか彼女って感情の起伏が少ないって
勝手に思っていたけどいがいと起伏が激しいと
最近思う様になってきた。
「そうだね……月詠さんの困ったところは」
「困ったところは?」
「いつもとのギャップがあって可愛くて困るかな」
「……はい?」
さっきまでの真剣な表情からやや表情を崩し
ポカンとする月詠さん。
「ほら今までは全部の仕事を完璧に行っていたけど
今日の朝も俺に喜んでもらいたくて自分の朝食を
忘れたり、今回の様なミスをしていて落ち込んでいる姿も
俺にとっては新鮮でギャップがあり可愛かった」
「か、か、可愛い……!?」
「まぁそのギャップがいつもの完璧な姿もあるから
尚更強く感じるかな」
隣の月詠さんを見ると顔が既に真っ赤になっており
「かわ、かわ、かわ、かわ……!?
はっ!? ほぇ!? ひぇ!?」
奇声を上げていた。そして……
「キュぅぅ……」
不意に俺の方に倒れてきた。
「ち、ちょっと月詠さん!? どうしたの!?」
「かわ、かわ、かわ、かわ……!?
だ、だ、だ、だ、だ、旦那様にい、言われる……!?」
最早呂律が回っていない様子だった。
「と、とりあえずベットに運ぶか……」
俺は呂律が回っていない彼女を抱えると
彼女がいつも寝ているであろうベットまで運んだ。


結局、彼女が復活したのはその日の夜であった。
……そして本人は何事も無かった様に見せようとして
無表情に取り繕っていたのがこれまた可愛かった。

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