旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

月の夜に

今回は月詠視点です



旦那様と新しいお屋敷に引っ越してきたその日の夜
「ふぅ……とりあえずは無事に着きましたね」
私は旦那様に新たに割り当てられた部屋で
荷ほどきと部屋の整理を行っていた。
その荷解きも一段落し、椅子に座って月を見ていた。
「自分の名前で、“元”治めていた範囲を見るのも
いささか変な気分ですけどね」
私がまだ月読命と呼ばれていた頃、主に夜の部分を
治めていた。
姉のアマテラスは昼の時間を、妹のスサノオは正直
何をしているか分からないがよく姉と喧嘩していた。
……それを仲裁していたのは私だった。






「何よ妹のくせにちょっとはお姉さんの私の命令を
聞きなさいよ〜〜!!」
「ったくうるせぇな!! 妹だからって姉の命令に
従う理由はねぇよ〜〜バ〜カ!!」
「むぅ〜〜〜!! ねぇツクヨミ〜助けて〜〜!!
スサノオが話を聞かないよ〜〜!!」
「なんだと!! 月の姉貴もこのバカ姉に何か
言ってくれよ!!」
「2人とも落ち着いてください。
それだと他の皆様に示しがつきませんよ」
「いいもん!! 他の神なら権限で黙らせるし!!」
「他? はっ!! そんなもん知るかよ!! 
邪魔するなら力でぶっ飛ばしてやる!!」
「これは他の仕事よりも骨が折れそうですね……」




……まぁこんな感じの日常だった。
疲れもしたがそれなりに楽しかったと思える。
そして見事神としての任期を終えた後
私は高天原に残るか、下界に行くかの選択肢で
旦那様がいる下界に行く事にした。
理由は神としての仕事をしていく中で人間というのに
興味を抱き、彼らと一緒に生活してみれば新たな発見を
見つける事が出来るかもしれないと思ったからだ。
下界に下る際に、私が神として持っていた能力は
一割程度までに落とされ、寿命も人間と同程度になった。
それでも不思議と後悔は無かった。
どうやら私は元々神というのに拘りが無かったのだろう。
「でも流石に姉と妹との別れは辛かったですね……」
私が下界に行く日に姉と妹は大泣きだった。

「うわぁ〜〜ん!! ツクヨミが行っちゃうよ〜!!
寂しいの嫌だ〜!!」
「いやいや姉さん、大丈夫ですよ。
私以外にもスサノオや他の方々がいらっしゃいますよ」
「姉貴ぃ〜〜!! 姉貴がいなくなった後
このバカ姉とどうやって暮らしていけばいいんだ〜!!」
「スサノオ……それは貴方の努力次第ですよ。
でも最近の貴方なら大丈夫だと思います」
「ツクヨミ〜!!」
「月の姉貴〜〜!!」
「……全く仕方ないですね。
ほら2人ともこちらに来てください」
「うん……」
「おう……」
私はこちらに来た2人を抱きしめた。
「今まで恥ずかしくて言えませんでしたが……
ーー私は貴方達と姉妹で良かったですよ」
「うえぇぇーーんツクヨミ私もだよ〜〜!!」
「おぉーーオレも姉貴と姉妹で良かったぜぇぇーー!!」
私と抱き合いながらも泣きじゃくっている姉と妹。
「では、2人ともまた機会があったら
会いましょう。 行ってきますね」
と私は高天原を出て、人間の世界に降りた。
そしてその瞬間、橘月詠が誕生したのであった。




人間界に降りて、橘月詠と暮らしていく中でまずは
働き口を探さなけれならなかったはずだが
姉のアマテラスが私に一番向いてそうな仕事を
高天原を去る前に教えてくれた。
その働き口というのは旦那様のお家である
御堂家の執事であった。
内定までには色々な試験があったが、姉の援護と
私の能力も相まって難なく内定をもらった。
そこで私は今の主人兼彼氏の御堂兼続様の専属執事
として働く事になった。
「人間程度の試験なんて“元”神である私からみれば
赤子の手を捻るぐらい簡単でございましたが……
まさか旦那様のお気持ちを知る事があれほど難しいとは」


私が旦那様の専属として働き始めて数年……
旦那様が大学生になられる頃には私は執事として
尊敬する気持ちとは違う感情が芽生えていた。

ーー旦那様を特に理由は無いのに目で追っていたり

ーー“執事ですから”という言葉を建前に旦那様と
同じ空間にいるようにしたり

ーー旦那様が他の女性の方と話されていたり
お見合いの話がある度に胸の奥が痛くなったり

最初は何故こうなるのか分からず、このままだと
仕事に支障をきたし、旦那様にご迷惑をかけると思い
職場で一番仲が良かった旦那様の乳母の方に相談した。
この方は旦那様がお生まれになる前からこの家で
働いておりそして一番長く働いている方であった。
私に起きている上記の事を相談すると彼女は
「それはスバリ、恋かしら」
と言った。
「恋、ですか?」
私は小説やドラマの世界でしか聞いた事が無い単語を
言われてやや困惑した。
「そう恋よ。月詠さんは何もなくとも兼続様の事を
目で追ってしまうのでしょう?」
「はい、そうですね」
「他の女性の方と話されていたりお見合いの話が来たら
悲しくなるのでしょう?」
「ええ……まぁ。旦那様に申し訳ありませんが……」
「どうしてそこで謝るのかしら?」
「それは私ごとき執事が旦那様にこのような感情を
抱いてしまうなんて申し訳ありませんし……」
「大丈夫よ、人が誰かを好きになるのに権利とか
資格は無いわよ」
「ですが……」
「じゃあ質問を変えるわね。もし兼続様が女性に
騙されたら?」
「その家を私の全力を以って社会的、財政的に潰して
二度と這い上がれないぐらいにやらせていただきます」
私の残っている神の力を使えばそれぐらいは簡単な事だ。
あんな素晴らしい方を騙したのだ。
それ相応の罰を受けさせないといけない。
「ふふ……月詠さんってたまに可笑しな事を言うわね」
「あ……失礼しました」
「いいのよ。月詠さんの思いいつか報われると
良いわね。応援してるわ」
と私に向かって優しく微笑んだ。



「まさかあの時には想像出来なかったですが
だ、旦那様とお気持ちを通わせる事が出来るとは……」
昨日、私は旦那様の恋人になった。
私が胸に秘めていた長年の思いが叶った。
「旦那様にお暇を言われた時は悲しかったですが……
私が逃げた時にあの方は追いかけて下さった。
そして私のこ、告白してくれましたね……」
“告白”という単語を口に出すだけで昨日までの
事が頭に蘇ってきて恥ずかしい。
「というか私は何をしているんですか……!!
あ、あの様なはしたない姿で旦那様を誘うなど……」
それは2日前に旦那様が荒れた時にあの方から
“襲わせろ”と言われた際に、私は上は下着一枚の姿で
旦那様をベットに誘った。
「あの時の私は何を考えていたんですか……!?
思い出しただけで死にたくなりますね」
あの時は旦那様が思いとどまってくれたおかげで
何事も起きずに終わったが、もしあのまま……
「……ッッッ!? 私は何をしているんだぁーー!!
今度は姉さんの代わりに天岩戸に入りたいです!!」
再びあの時の自分の姿を思い出して顔が赤くなり
慌て始める私。そこへ……
コンコン
「は、はい!?」
「月詠さん、どうしたの?
さっき凄い音が聞こえたんだけど?」
その声は旦那様の声だった。
「い、いえ!? 何事もございませんよ!?
はい。何もございません!!」
「そ、そうか……本当?」
「はい、そうです!! はい!!」
「分かった、じゃあ俺は寝るな。お休み」
「はっ、お休みなさいませ」
と足音が遠くなっていく。
「……旦那様を起こしてしましましたか。
これは大変失礼な事をしてしまいましたね……」
旦那様のお部屋は私の部屋から3つ先にある。
そこまで音が響いていた事になる。
「……じ、次回から気をつけましょう、私。
それにしても私は明日から普段通りに出来ますかね。
い、今までとは関係が1つ追加されたのですから……」
今までは”主人と執事“という関係のみだったが
昨日からは上記の関係に”恋人“が追加される。
「こ、恋人……!? こ、これはとてもまずいです。
とても甘美な響きで、こう胸の奥が暖かくなって
身体中が幸せになっていきます……!!」
果たしてこんな状態で旦那様のお側で仕事がいつも通りに
行えるのだろうかとても心配だ。
「いえ、最初から何もせず怯えるのは良くないですね。
まずは挑戦してみて、ダメなら考えて変えましょう。
流石に恋人である旦那様にカッコ悪いところを
こ、恋人……!? わぁぁぁ!?」
その単語だけでまた慌ててしまう私。
「私は本当にやっていけるのでしょうか……
明日以降が心配です」



こんな姿を姉達には見せられないと思いながらも
明日以降どの様に接していこうか
と悩みながらも夜は深けていくのであった。




次回からイチャイチャしていきます笑

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