旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

告白

遂に何とか1つ目の区切りまで来れました。
前話よりも2倍以上の文になってしまい
ましたがどうかお付き合いください。



「俺を……愛している?」
「はい、執事の身分で大変恐縮ですが……
旦那様の事を愛してしまっているのです」
と月詠さんは申し訳なさそうに呟いた。
「いやいや何で月詠さんが申し訳なさそうに
言うのさ、君は悪くないでしょ?」
「ですが、執事の身分で旦那様に好意を持つなど
恐れ多くて……旦那様にはもっとお似合いの方が
いらっしゃると思います」
「おいおい……まじかよ……」
まさか俺達が両思いとか信じられなかった。
その様に驚愕の事実に驚いていると
月詠さんの独白は続いた。
「旦那様に好意を持ってしまってからは
お見合いの話が来る度に私は胸の中が
とてもかき乱される思いでした。
“失敗してくれればいいのに”とか
“もうお見合いの話が来ないで”とさえ
考えてしまいました。旦那様に仕える執事として
最低ですよね。申し訳ありません……」
と自嘲気味に言う月詠さんだった。
「ちなみにさ、月詠さん」
「はい、なんでしょうか」
「そのさ……いつから、俺に好意を持って
くれていたの?」
「正直覚えておりません……ただ、旦那様を“旦那様”

お呼びする前から好意を持っておりました」
俺が旦那様と呼ばれる様になったのは成人してからだから
普通に考えてそれ以前から好意を持たれていた事になる。
……うん、俺と大体同じ時期だ。
「私は旦那様のお側にいれるのでしたらそれで
構いません。例え、旦那様に襲われようとも
旦那様にでしたら構いませんでした」
と言うと一度間を置いて
「ですが!! 旦那様のお側にいられないというの
だけは我慢出来ませんでした!! 私は旦那様のお側に
いさせてください!! 私はどんな事をされても
構いません、ですがこれからもお側にいさせて
いただく事を許可していただけないでしょうか」
「月詠さん……君は」
まさか俺はここまで彼女に好意を持たれていたとは
思わなかった。
俺も彼女の事が好きだ。
「旦那様にとってご迷惑ですよね。
私みたいな執事に、しかもよりによって男性みたいな
見た目の女性に好意を持たれても困りますよね」
「えっ……?」
「旦那様を困らせる様な事を言ってしまい
申し訳ありません……明日、屋敷を出ますから
今日は……今日だけはお側にいさせていただく事を
お許しいただけないでしょうか。
……どうかお願いします、今日だけは」
と殆ど泣いている様な声でそう言ってきた。
彼女の背中に回している腕からも彼女の震えている
身体の振動が伝わってくる。
彼女は一途に俺を愛してくれた。
そんな彼女に俺はとんでもない事をしてしまった。


「ごめん、月詠さん」
「えっ……」
俺がその様に言うと彼女は驚いた表情をした。
「ごめんね、君にそんな思いさせちゃって
俺は君の主人失格だ」
「い、いえ!! 決してそんな事はございません!!
旦那様は執事としてとても誇らしい御方で
ございます!!」
いつもの様に月詠さんは俺にフォローを入れる。
だが今日の俺はそのまま言葉を続ける。
「だってさ、もしも執事が主人に好意を持っては
いけないのなら……
ーー主人も執事に恋をしてはいけない事になるな」
「えっ?」
「そうなると俺は主人失格だろうな」
「ですから旦那様は」
と多分言いたい事を予測出来ていない月詠さんは
俺がただ悲観的に考えていると思っているんだろう。
「俺も橘月詠さん、君の事が好きなんだ。
執事としてじゃなくて1人の女性として」
「……」
俺の言葉を聞いた瞬間、月詠さんは完全に固まった。
目は大きく開かれていて、口はやや開けたまま止まった。
それはもう時が止まったんじゃないかぐらい
綺麗に表情ごと固まった。
「あれ月詠さん……?」
「……」
「お〜い」
試しに片手を月詠さんの顔の前で振ってみる。
「……」
相変わらず反応はない。
「完全に固まったな……こうなったら
ーー月詠さん、甘いコーヒーくれる?」
「はい、かしこまりました。すぐにご用意致し……
ーーはっ、ここは……?」
「やっと戻った。ここは屋敷の庭だよ。
さっきまで月詠さんは俺の言葉を聞いて
何故か固まっていたんだよ」
「固まっていたですか……
ーーあっ、あ、あ、あ、あぁーー!!」
さっきまでの出来事を思い出し、一気に顔を赤くなった。
にしても今日の月詠さんは泣いたり、走ったり
叫んだりと今まで見た事がない行動や仕草を出している。
というか慌てているから素の面が
出ているのかもしれない。
「あっ、戻った」
「だ、だ、だ、旦那様!? い、い、い、一体
な、な、な、何を仰られているんですか!?
し、執事の私ごときに恋をされてらっしゃるなんて
ま、ま、ままさかそんなご、ご、ご冗談を……」
いつもなら滅多に噛まない彼女が1つの言葉で
ここまで噛むのは本当に珍しい。
「月詠さん、一度落ち着こうか」
「こ、こ、こ、これが落ち着けましょうか?
ま、ま、ま、まさか旦那様からその様なお言葉を
言われるとは思わず混乱しております……
ですが旦那様、ご、ご、ご冗談はやめてください」
「はい?」
「ですから、わ、私の様な執事にその……
恋をしているというご冗談はやめていただけると……」
「ちょっと待って、まさか俺が冗談でそんな事を
言ったと思っているの?」
冗談だと思われたのなら結構ショックだ。
「そ、それは私は執事ですし……見た目もしょっちゅう
街中で男性と間違えられる様な見た目ですから……」
「月詠さんは充分可愛いよ」
「か、可愛い……!? ま、ま、またまたご冗談を」
「俺はこういう場面で冗談を言わない性格って
月詠さんは知っているよね?」
「は、はい……旦那様はそう言う方だと存じておりますが
私がその……か、可愛いと言われたのは初めてで……
しかも旦那様に言われるとは思わず……」
「なら月詠さんが信じるまで言おうか?」
「それは勘弁してください!!
わ、私の心臓がう、嬉しさでパンクしてしまいます!!」
「なら信じてもらえるかな、俺の言葉?」
「はい、旦那様のお言葉を信じさせていただきます。
ですが……」
と言うとまた表情を曇らせてしまう月詠さん。
「ですが?」
「実はまだ旦那様に隠している事がございまして……」
「ん? 俺に好意を持っていた事以外に?」
「そ、それを言葉で聴くと恥ずかしいので口に出さないで
いただけると嬉しいのですが……コホン。
旦那様は多分私が今から言う言葉は信じてもらえないと
思いますし、なんだこいつって言われるかも
しれません……それでも聞いてもらえますか?」
「うん、俺でよければ聴くよ」
「お気遣いありがとうございます」
その様に言うと月詠さんは、一呼吸置いて……

「私こと橘月詠は人間ではありません」
「ふんふん……人間じゃないね。
ーーえっ? 人間じゃない? じゃあ月詠さんは
何者なんだ……?」
「私は……
旦那様の世界では“神”と呼ばれていました」
「神……? 要するに神様って事……?」
「はい、そして私が神であった頃の本名は
ーーでした」


「月読命って言えば……めちゃくちゃ偉い神様
じゃないか……」
天照大神、須佐之男命に並ぶ三神の1人だ。
「はい、アマテラスは私の姉、スサノオは私の妹です」
「ん? 待って今さりげなく重大なフレーズが
聞こえたんだけど……」
確か、俺の記憶だとスサノオって男の神だった気がする。
「信じていただけないのでしたら少しですが
まだ神の力は残っておりますので使いましょうか?」
「いや、いい。信じるよ。月詠さんが嘘をつくはずが
無いからね」
まぁ俺の場合は日々彼女の人間離れした行動を
見ている為かそこまで抵抗が無い。
……というかそっちの方がしっくりくる。
「全く旦那様は……お優しい方ですね」
と月詠さんは今までの出来事を話し始めた。

彼女曰く、神も世代交代があるらしく月詠さんも
先代の月読命から神としての仕事を引き継いだらしい。
そしてアマテラス、スサノオ、ツクヨミの三神は
代々、兄弟姉妹の3人が引き継ぐらしい。
先代の三神も兄弟姉妹だったらしい。
そして月詠さんの任期みたいなのが終わり
そのまま高天原に残るか、人間として下界に下るかを
選べる際に彼女は下界に降りる事にしたらしい。



「すげぇ……そんな風になってんだな……」
「まぁ私がこちらの世界に来た理由は姉と妹の
喧嘩を見たくないのもありましたけどね……」
「うぁ……なんか神様も大変だな」
月詠さんの姉妹と言ったらアマテラスとスサノオ。
ーーうん、あの2人仲悪そうだしな。
しょっちゅう天岩戸に隠れらたら困るよね。
しかも次女って一番気を使いそうだし。
「でもこの世界に来たから私は旦那様のお会いする事が
出来ましたので、良かった事にします」
「それは良かったのか?」
「はい、私にとって生涯仕えたい、愛したい方と
お会いできたのは何よりも嬉しい事ですから」
と優しい微笑みをこちらに向けてきた。
「そ、そうなんだ……」
あまりにも彼女が真っ直ぐ自分の思いを言うものだから
聴いているこっちが照れてしまった。
「旦那様からの好意は大変嬉しいです。
ですが……私は神であり執事です。
執事の私が旦那様の好意を受け取る訳には……」
「なんでだよ!!」
俺は思わず叫んでいた。
「だ、旦那様……?」
「さっきから“執事だから”とか“神だから”とか言って
いるけどさ!! 俺は執事だからとか神様だからとか
全然気にしない!! というか第一俺はもう御堂家の
主人でもなんでもないからな!!」
「ですが旦那様……」
「というか月詠さんは知らないと思うけどお見合いとか
麗華との結婚に否定的だったのは君がいたから
だったからな!!」
「えっ……えっ!?」
「俺は君に負けないぐらい前から君の事が好きだった。
だからこの春休みに告白しようと考えていたんだよ
こんちくしょう!!」
最早ヤケに近い形で自分の思いを叫ぶ俺。
もう若干どうにでもなれ精神である。
「というかそもそも今回の新事業が上手くいったら
親父に直談判しようかと考えていたんだよ!!
月詠さんを嫁にもらうって!!」
「ふぇ!? だ、旦那様!? それは……!!」
「さっきのだって俺の家ではもう今までの様な生活を
君にさせられないから色々と考えた結果だよ!!
以上。俺の思いの告白おしまい!!
文句あるなら聴いてやろうじゃないか!!」
「文句ですか?」
「あぁ文句だ!!」
俺がその様に言うと、月詠さんは大きく息を吸い
そして……
「なら私の思いを分かった上で色々と
行動してください!! 私にとって一番辛いのは
旦那様のお側にいれない事なんですから!!」
キレられた。
「だって今までそれ知らなかったんだよ!!
俺は経済関係は読めるけど、女心は読めないって!!」
こっちも負けずにキレ直す。
「それは直しましょうよ!!
それだとこれからの生涯の伴侶探しに困りますよ!!」
「俺は月詠さんさえいればいい!!
それ以外の女性はどうでもいい!!」
「それはありがとうございます!!」
「どうしたしまして!!
ーーって俺達は何でこんな喧嘩みたいに
なっているんだ?」
「……分かりません」
「やめるか」
「そう致しましょう」
「なぁ月詠さん」
俺はもう一度真っ直ぐ彼女を見つめた。
「はい、何でしょうか」
彼女も何かを察したらしく俺の方を見つめてきた。
「俺は橘月詠さん、君が好きだ」
「はい、存じております。
私も御堂兼続様、貴方様を愛しております」
「あとさ、俺はもうあの頃の御堂の当主でも無いし
これまでの生活はさせる事が出来ないけどさ
ーーこれからも俺の側で俺を支えてくれないか?」
「かしこまりました。こんな私でよろしければ
旦那様の側にいさせていただきます」
「月詠さん!!」
「きゃ!?  だ、だ、旦那様!?」
俺は嬉しさの勢いで月詠さんを抱きしめた。
「ごめん。つい勢いで、反省はしてない」
「全く……旦那様は……でも私ならいくらでも
反省しなくても大丈夫ですよ」
「なぁ月詠さん」
「はい、何でしょうか」
「これからもよろしくな」
俺は抱きついたままそう言った。
「……ッ!! はい、こちらこそ
よろしくお願い致します!!」

と俺こと御堂兼続と執事である橘月詠は
付き合う事になった。



次回から2人はイチャイチャし始めます笑
そして「部活の後輩と付き合ってみた」は
明日には投稿しますので少々お待ちください!!

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