旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

俺の良心と引き換えに





俺は出ていった月詠さんを追いかけるのだが
なんせ彼女は足が結構早く中々追いつかない。
……そういえば日頃から身のこなしはかなり軽く
運動神経の良さを見ていた。
そして食堂から始まった追いかけっこは遂に屋敷の
正面玄関にまで来た。
この正面玄関は2階から2つの螺旋階段があり
それを使って玄関まで行くのだが、既に月詠さんは
下に降りていた。
「くそっ……このままだとこっちが
体力切れで負けるぞ……」
そんな時、2階の柵を見てとある考えが思いついた。
昔、この行為をして母や使用人に叱られていたのだが
まさかこの歳になってまたやる事になるとは……
「しょうがないか……じゃあ行くか!!」
俺は柵に手をかけて思い切り身を乗り出し
1階に飛び降りた。
「だ、旦那様!?」
月詠さんがこちらを見て驚いた表情をしていた。
それはそうだろう。
だって普通2階から階段をショートカットする為に
飛び降りる人はいないだろうからな。
「あらよっと……着地成功かな
ーーってそう言っている先から走らないでって!!」
俺が着地に少し戸惑っているうちに月詠さんは
玄関ドアを押して、屋敷の外に出ていた。
「あぁもうなんなんだ!!」
着地で若干痺れている足にムチを打ち再び走り出した。


そして外に出ると雨がさっきよりも強くなっていた。
「さっさと月詠さんを捕まえて戻らないと
2人とも風邪引きコースだぞこれ……!!」
目の前を見ると月詠さんは玄関から庭に降りる階段を
降り切っていた。
正直階段を降りていたら追いつかない。
その様に考えるとまた階段をショートカットしなければ
いけないのだが地面は雨で濡れている為
さっきみたいに上手く着地出来る自信は無い。
「というか着地失敗したら月詠さんが心配する……
ーーん? 待てよ……」
俺はとある作戦が思いついた。
この作戦は月詠さんのいつもの習性みたいなのを
利用する。正直言うとそれをやると俺の良心が
結構痛むのであまり実行したくないのだが……
今回ぐらいは良心の痛みと引き換えに
月詠さんを捕まえる事にした。
「覚悟は決まった。あとは実行するのみ!!
ーーよし!! 行くか!!」
と俺は階段の柵に手をかけるとさっきの屋敷と同じ様に
身を乗り出し、飛び降りた。

さて、ここまで見ているとさっきと同じだと思うだろう。
だが、さっきとは違う点が1つだけある。
それは……
「痛ってぇぇーー!!」

頭を打たない様に且つ、絶妙に足を挫く程度に
着地を失敗させた。
「旦那様!?」
月詠さんは俺の悲鳴? が聞こえるとすぐにこちらに
走って戻ってきた。
俺が利用した月詠さんの習性とは何か?
それは……

「お怪我はございませんか!?
あぁ足を挫かれているじゃないですか!!
何をされているんですか旦那様は!!」
と俺に近寄り、身体のあちこちを触る月詠さん。
彼女は昔から俺に対して過保護になる事があった。
”旦那様“と呼び名が変わっても過保護である点は
変わらなかった。
「痛てて……これは本当に足挫いたかも……」
「あぁ……旦那様がお怪我をされてしまいました……
治療の為にはお屋敷に運ばないと……」
「なぁ月詠さん」
「今しばらく我慢してください。私が今すぐお屋敷まで
お運び致しますので」
「捕まえた」
俺は月詠さんめがけて腕を伸ばして
こちら側に引き寄せた。
「へっ? あっ……」
彼女はいきなりだった為か反応が追いつかず
俺の胸にすっぽりと収まった。
「だ、だ、だ、旦那様!? 
こ、こ、こ、これは一体何をされて!?」
顔を一気に赤らめて慌てる月詠さん。
ここまで慌てる彼女を見た事が無い。
色々と聞きたい事もあるが、その前に言わなければ
いけない事がある。
「いきなり走らないでくれ」
「えっ?」
「月詠さんがいきなり走り出すからさ
俺慌てたんだ。俺が何かしたのかなって」
「そ、それは申し訳ありませんでした……」
「別にそこまで謝らなくてもいいって。
……でもさ、いきなり走り出してどうした?」
月詠さんがたまに感情的になる場面を見た事はあるが
今日みたいにあそこまで声を荒げて拒否をして
ましてや泣くとは思わなかった。
「それは……」
「別に言いたくなければいい。
主人にも隠しておきたい事もあるだろうけど……」
「そ、そういう事ではありません!!
ただ……」
「ただ?」
「……旦那様のお側を離れるのが嫌でした」
「俺の側を離れるのが嫌?」
「はい、それが私にとって一番苦痛で、その結果
声を荒げてみっともなく泣いてしまいました」
「そんなに嫌な事か?月詠さんって本当に親父や母さんに
義理堅いよな。もう2人ともこの世にいないのに」
彼女はとても義理堅いから死んだ俺の父親と母親に
雇ってもらった恩でも感じているんだろう。
「そうではありません!!」
……全力で否定された。
「えっ、違うのか?」
「あっ、いえ!? 決して大旦那様と大奥様に
ご恩が無い訳ではないです!! 決してそういう訳では」
「ならどうしてなんだ?」
俺は気になり、今胸の中に収まっている
彼女に聞いてみた。
「それは……ですね……もう隠していても
しょうがないですよね。分かりました、お話します」
と言うと月詠さんは俺の方をしっかりと見てこう言った。

「それは私が旦那様の事を……
男性としてお慕い申しているからです。
ーー私は旦那様の事を愛しております」




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コメント

  • Qual

    良きやな!むふふ( *´艸`)
    部活の後輩の方もよろしくお願いします(*^^*)

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  • さっくん

    とても面白いです、次も楽しみにしてます!

    2
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