旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

一歩手前






「くそっ!! あいつらめ……!!
もうなんなんだよ……!!」
俺は月詠さん以外誰もいなくなった屋敷で荒れていた。
昼間から酒を浴びる様に呑んで
イライラを紛らませようとした。
しかし一向に気分は紛れない。

ーー俺の一族が危ないと見るなりすぐに手を切った
付き合いのあった家々

ーー全ての責任を死んだ父になすりつけた傍流の人間

ーー根も葉も無いことを面白可笑しく笑っている
一般の人達

それら全てが今の俺には憎い。
だが今の俺にはそいつらに復讐する力すら無い。
「旦那様……もうそれぐらいで止められたら
いかがでしょうか……」
月詠さんは俺を心配しているのだろうけど
それが俺のイライラを増加させる。
「うるせぇ!! もうどうだっていいだろ……
もう俺は終わったんだ……!!」
「旦那様……」
「もうほっといてくれ……月詠さん……俺は……」
俺はすんでのところでハッとなり、今口から出かけた
言葉を腹の中に無理矢理押し込んだ。
「俺は寝る」
というと俺は自分の部屋に戻ろうとした。
この場にいたらまた月詠さんに八つ当たりをしてしまう
可能性があったからだ。
「旦那様……かしこまりました。
今すぐ睡眠の準備を……」
「いい、俺が自分でやるからいい」
月詠さんが部屋を出て準備しようとするのを先に制して
俺は部屋を出た。

そして次の日
「あぁ……最悪な気分だ……」
やけ酒のためか気分が悪い。
まるで大きく揺れている船に乗っている気分だ。
コンコン
「旦那様、おはようございます」
そしていつも通りの時間に月詠さんが部屋に来た。
「月詠さんか……おはよう」
「ご気分はいかがですか?」
「気分……そんなの最悪に決まっているじゃないか……
あっ……ごめん当たっちゃって」
「いえ、私は構いません。
お水はお飲みになられますか?」
「悪い、頼める?」
「かしこまりました」
と部屋を出ていく月詠さん。
「……俺は朝から何をしているんだよ」
起きて早々自己嫌悪に陥る俺だった。

その後、月詠さんから水を受け取り、なんとか体調を
取り戻した俺はリビングに行った。
そしてそこには一封の封筒があった。
「これは?」
「私が朝、ポストを見に行ったところ
こちらが入っていました。
どうやら御堂家の“元”分家の一族からみたいですね。
今では勝手に本家を名乗っていますが」
そうだ。
あの事件以降。副社長の一族が勝手に本家を名乗り
俺の一族は分家という事になっている。
「開けるか」
俺はその封筒を開けた。
そこには手紙が入っていた。
「なんだ……」
俺は手紙を読み、その内容に激怒した。
「なんだよこれは!!」
俺は怒りのまま手紙を床に投げた。
「旦那様!? どうかされましたか!?」
「俺から何もかもが奪うのかよ!!
ふざけんな!!」
「……失礼して、お手紙を拝借させていただきます」
と俺が落とした手紙を月詠さんが拾った。
「“1週間以内にこの屋敷を引き渡せ。
この家は元々本家のものだ。
分家の、ましてや面汚しの息子が暮らしていいもの
ではない、猶予はやる。その間に荷物をまとめ
この屋敷から出て行け”……
これは酷い……」
「しかもなんだよ“面汚しの息子”って!!
あくまでも俺の親父を悪者にしたいのか!!」
「旦那様、ここは一度落ち着きましょう。
こんな行動、法律で許されるはずがありません。
ここは弁護士の方と……」
「無駄だ!! あいつらは金にモノの言わせて
凄腕の弁護士を何人も雇ってくる。
そんな奴らに俺らが勝てるはずがない……」
そもそも正攻法で彼らが攻めてくるとは考えられない。
もしかしたら表では言えない事をしてくる可能性もある。
「……気分が悪くなった。もう一度寝る」
俺はさっきまでいた寝室に戻ろうとした。
「旦那様。お酒の飲みすぎ、睡眠超過、ストレス
どれもお体に悪影響を及ぼしかねます」
と言いながら月詠さんは後ろから付いてきた。
「うるさい!! 俺は寝る!!」
「残念ですが、旦那様。それは認められません。
寝させません」
「いいだろ俺なんだから!!
執事が主人に口答えすんなよ!!」
「いえ、これは口答えではなく助言です。
旦那様のお身体を思いやって……」
「それを口答えって言うんだろ!!」
なんて喧嘩をしていると俺の寝室に着いた。
俺は素早く部屋に入ると、部屋の鍵を閉めた。
「ふぅ……月詠さんはたまに強引に」
「ーー私が何かしましたか?」
「ち、ちょっとぉ? なんで俺の後ろにいるの!?」
何故か後ろに俺の後ろに月詠さんがいた。
「私は旦那様の執事ですから」
「いやいや今のは最早別の能力だって……
ーーじゃなくて部屋から出ろ!!」
「お断りします」
「主人命令だ!! この部屋から出ろ!!」
「時には主人の命令に従わないことが主人の為に
なりますので、今回はそのような場合だと思われます」
「屁理屈うるさい!!」
「屁理屈ではありません、正論です。
寝るのを邪魔するなと出て行け以外は
どんな命令でもお受けしましょう」
俺はその“どんな命令でも受ける”という言葉で
とある事を思いついた。
「分かった。その2つ以外ならどんな命令でも
従うんだな……?」
「はい、その所存です」
「じゃあ襲わせろよ
ーーストレスの発散になるだろ」
流石にこれを言えば月詠さんだって拒否の意思を
示すだろう。
だが……
「かしこまりました。私の身体でよければ」
というと上のジャケットを脱ぎ、ベストを脱いだ。
「えっ……」
「ならもう少し脱げばいいですか?」
といとブラウスのボタンを上から外していった。
そして上は白の下着だけになった。
「さぁ旦那様、こちらに」
と月詠さんは自ら俺のベットに横たわり
俺を誘う様に言ってきた。
彼女の白い肌が俺を危ない気にさせる。
それはそうだろう。
俺の好きな人がこの様な格好をしているのだから
興奮しない方がおかしいだろう。
「……ごめん月詠さん。変な事言っちゃって」
「旦那様……?」
「本当は怖いだろ、無理しなくていい」
「わ、私は無理などしておりません」
と言っているが、俺はベットに横たわった時に
彼女の手が震えていたのを見落とさなかった。
「いいって悪い、気を使わせて」
「で、ですが旦那様は……」
こんな時でも彼女は俺の心配をしてくれる。
そんな彼女に俺は最低の事を言ってしまった。
「大丈夫、俺は夜まで寝ない。
少し敷地内を散歩するよ」
「……では私もどう」
「いや、今は1人にさせてくれ。それに月詠さんは
外に出れる様な格好じゃないでしょ?」
「あっ……」
そうだ。
彼女は上は下着一枚なのだ。
それに俺はさっき彼女に怖い思いをさせた。
……そんな男性と一緒にいて辛いだけだろう。
「ごめんね、月詠さん」
というと俺は自分の寝室を出た。




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