旦那様と執事な神様

きりんのつばさ

崩れゆく日常






病院から連絡をもらった俺と月詠さんは車で
父親と母親が運ばれた病院に向かった。
そして10数分後、目的地に着いた。
「旦那様!! つき」
「親父!! 母さん!!」
俺は車が着くなり降りて走り出した。
「旦那様!? お待ちください!!」
後ろで月詠さんが何かを言っているけどいまいち
聞き取れなかった。
「御堂の息子です!! 2人はどちらにいるんですか!!」
俺は受付の方に詰め寄った。
「お客様落ち着いてください!!」
「落ち着いてなんていられるか!!
早く教えてください!!」
普段なら我慢できる事も今の状況で言われたら
余計にイライラするだけだ。
「ーー旦那様!! ここは落ち着いてください!!」
後ろからきた月詠さんに抑えられる形で俺は
受付から離された。


「旦那様、お気持ちは察しますがここで慌てても
何も良い方向に動きません」
「そうだよな……すまん月詠さん。
ちょっと頭に血が上り過ぎた……」
俺達は受付から少し離れたベンチに座っていた。
「いえ、こちらも旦那様に手荒に対応してしまい
申し訳ありません。とりあえずは担当の方が
来るまで待ちましょう」
「そうだね……」
と表面上は落ち着いたふりをしているが実際は
かなり動揺していた。

ーー2人が何故事故にあったのか

ーー容体はどうなのか

ーーこれからの御堂家はどうなるのか

他にも色々とあり、頭の中でそれらが俺を支配する。
「旦那様」
「ん? どうしーーえっ」
月詠さんが自分の手を俺の手に重ねてきた。
そして重ねた手を絡ませ
「大丈夫ですよ、旦那様。
私が隣にいます。
ですのでお一人で抱え込まないで下さい。
私をもっと頼ってください。
私は旦那様の専属執事なのですから」
と穏やかな表情で言ってくる月詠さん。
「月詠さん……」
彼女も内心はかなり不安なのだろう。
なんとなく直感に近いけどそんな気がした。
自身も不安なのを後回しにして主人である俺の
心配をしている。
それなのに俺は自分の事で手一杯になってしまった。
(俺は何しているんだ……!!
月詠さんだって不安でしょうがないのに
主人の俺が動揺してどうする!!
ここは頑張らないと彼女の主人失格だ!!)
「月詠さん、ありがとう。俺は大丈夫」
「そうですか……?」
「あぁ大丈夫だ。いつまでも月詠さんに迷惑
かけるわけにはいかないからね」
俺は月詠さんの手を握り返した。

ーー俺は大丈夫だよ
支えてくれてありがとう

という意思表示をする為に。

「かしこまりました。
ですが旦那様、無理はーー」
と言いかけた時
「御堂様のご子息であられますか?」
目の前に白衣の男性がいた。
「はい、御堂の息子です。
父と母は?」
「こちらへどうぞ」
この時点ではまだ希望を持っていた。

ーー2人とも怪我を負っていても生きていて

ーー父は相変わらずの仏頂面で

ーー母はそんな父を見て優しく笑っていて

ーーそれを俺と月詠さんが笑いながら見る

という光景を期待していた。


だがその希望はこの後すぐに消される事になる。



「う、嘘だろ……」
俺は変わり果てた2人の姿を見て言葉がそれ以上
出なかった。
そこには父と母であった2人の遺体があった。
いや正式には全身が白い布で覆われているため
本当に父と母なのかも分からない。
「先生、これは一体……」
言葉が出ない俺の代わりに月詠さんが
俺達をここまで案内してくれて先生に尋ねた。
「はい、事故の衝撃が強かったため
もう身体の原型を留めていませんでした……
ですが歯の治療痕、血液型、微かに分かる身体の特徴から
お2人と断定させていただきました」
「嘘だ……嘘だ……こんなの嘘だ……
そうだ、この2人は両親じゃないん、そうだ
そのはずだ……」
俺は現実から目を逸らしたくなり
その様に言った。
「旦那様……残念ですが……
こちらは大旦那様と大奥様です」
「月詠さん? 何を言っているんだ?
この遺体が両親であるはずが……」
「ーー旦那様、こちらをご覧ください」
と彼女が指を指した先に目を向けるとそこには
緑色の指輪があった。
「こ、これは……母さんの指輪……!!」

それは母が大事にしていた指輪だった。
父が母にプロポーズする際に使った物らしく
未だに父とパーティに参加する際には必ず付けていく
ぐらいお気に入りの物で俺も見慣れた物だ。

この指輪があるという事はつまり母がいたという
事を意味する。
そして母がこの指輪を付けるということは
必ず父が同席する時だ。
となるとそれらが意味することは……

「嘘だろ……」
俺は足から力が抜けてその場に崩れた。
「旦那様!?」
慌てた月詠さんが俺を支えに入る。
「嘘だろ……こんな事って……ありかよ……
こんな別れってありかよ……」
「旦那様!! お気を確かに!!」
「聞いてねぇよ……まだ俺は……教わりたい事
あったんだよ……まだ手作りお菓子食べたかった……
だけど……こんな終わり方ってさ……」
「旦那様!!」
「ふざけんな……ふざけんなよ……!!
ちくしょぉぉぉぉーー!!」
俺の叫び声は部屋中に響いた。



その後、どうやって家に帰れたか記憶に無い。
ただ月詠さんに支えられて車に乗って
屋敷に帰ってこれたのだろうと思う。
「……」
車内の俺は一言も話していなかっただろう。
そしてその日は何も口にせずに寝た。
正確に言えばベットに倒れこんだ。
一睡も出来るはずが無く。
俺はただただベットに倒れていた。
そんな俺を月詠さんは何も言わずに
そっとしてくれた。


そして父と母が亡くなった次の日
「旦那様!! 起きてください!!」
いつもなら必ずドアをノックする月詠さんが
今日はドアを突き破るんじゃいかぐらいの力で
ドアを開けてきた。
「どうしたの……そんな慌てて」
「昨日の事でショックが大きいのは察しますが
とりあえずこちらへお越しください!!」
と月詠さんに急かされ、いつも食事をしている部屋に
向かった。
「申し訳ありませんがこちらをどうぞ」
月詠さんはそう言うと俺に新聞を渡してきた。
「新聞……? 何がどうした……
ーーはぁ!? なんだよこれって!!」
俺は自分の目を疑った。
そこにはこのように書いてあった。

“国内有数の一族 御堂家に不正疑惑
全て社長の指示か?”

「親父がそんな事するはずがないだろ!!
なんだよこのデタラメの新聞は!!」
俺は怒りに任せてその新聞を投げた。
「……旦那様、どうやら他の新聞も同じ事を
一面に取り上げております」
他の新聞を読んでいた月詠さんがそう言ってきた。
「ふざけんな……!!
ってなるとこっちもか」
俺はテレビの電源を入れた。
今は丁度朝のニュース番組を放送していたが
そこでも話題は俺の一族絡みの話だった。

“不正献金疑惑。社長が全て指示か”

“子会社で労働時間超過を指示”

“グループ会社で粉飾決算”

“ワンマン社長のやり過ぎた会社経営”

などなど見ているだけで余計に腹が立ってくる内容だ。
「くそっ!! なんだよこれは!!
いきなり手の平返しかよこいつら!!」
「旦那様、落ち着いてください」
「こんなの落ち着いてられないだろ!!
ーーってなんか外が騒がしいな……」
「まさか……」
そう言うと月詠さんはカーテンの隙間から外を見た
そして……
「旦那様、今外に出られてはいけません。
大量の記者達が待機しております」
「はぁ!? 嘘だろ!?」
俺も同じようにカーテンの隙間から外を見ると
そこには大量の記者、カメラマンが家から出てくる
人間を待ち構える様に待機していた。
「あいつら……人の不幸を面白がりやがって……!!
月詠さん!!」
「はっ」
「他の執事とメイドに外出禁止を言い渡して!!
食料の買い出しについては裏口を使ってと言え!!
あと屋敷中のカーテンを全て閉めろ!! 全てだ!!」
「……御意」
と返事をすると部屋を出て行った。
「くそッ……一体なんなんだよ……
こっちは親父と母さんが死んで辛いのによ……」

だがまだ甘かった。
この先に俺を絶望の底に突き落とす出来事が
まだまだ続くのであることを俺は分からなかった。



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