LINE 弁護士

奥嶋光

いざ勝負

地検の事務官に妻が私の連絡先を教えると、次の日の夕方電話が鳴る。
バイブしてるiPhoneを見ると私が住んでる町の隣の市の電話番号と出ていた。

弁護士「私加害者の弁護人の鈴本と申します。今お話ししても宜しいですか?」
若い男の声だった、20代か30代か。

私「はい、どうぞ。」
緊張と怒りを抑えながら言う。

弁護士「この度は誠に申し訳ございませんでした。奥様はこの度の事で傷付いておられると思います、そのような中恐縮ではございますが私が賠償の窓口とさせて頂きますので宜しくお願いします。」
そんな挨拶から始まった。

私「そうですね、家内はひどくショックを受けていて今そんな話ができる状態ではないんですよ。」
私は現状を伝えた。

弁護士「そうですか、加害者も今回の事を大変反省しております。また、まだ子供という事もあり将来もあるので謝罪を受け入れて欲しいのですが。」

私「そんな事情は私達には関係ありません、謝罪というのは具体的にはどういうものですか?」
少しイラつきながら私は答えた。

弁護士「はい、加害者とその両親の謝罪文。後は少しばかりですが賠償金もご用意しております。」
そう言われて私は加害者と両親がどんな人柄か少しでも知る為に謝罪文はもらう事にした。

私「分かりました、謝罪文は送ってもらいましょう。」

弁護士「ありがとうございます、ではさっそく用意して郵送させて頂きます。それと賠償金なのですが、是非とも受け取って頂いて示談という形にして頂きたいのですが…。」

私「今のところ示談については考えていないんですけど、賠償金っていくらなんですか?」
話をグイグイ進めてくる弁護士を制するかのように私は聞いてみた、すると。

弁護士「未成年でお金もないので5〜10万円位がやっとなんです。本件は被害者が怪我もしていないので、これ位が妥当かと。」
私はそれを聞いて怒りが込み上げてきて胃がムカムカしてきた、夕方で空腹だったので尚更だ。

私「随分と舐めた金額ですね、それとその言い草。この電話の内容はとてもじゃないけど家内には伝えられませんよ。」
怒りを抑えながら応戦する、この弁護士には人の気持ちが分からんのか!と思った。

弁護士「舐めている訳ではありません、強盗未遂で逮捕されましたが物や金銭を奪っていませんし怪我もさせてません。そうなると脅迫罪になるので相場はこれ位になるのです。」

私「う〜ん…。」
納得いかず言葉が出てこない、当然ながら法律面では弁護士はプロなのだ。頭の中で反撃の糸口を考える、今の私はやられた嫁の借りを返さないと、という気持ちがあるのだ、重責だ。

弁護士「それと加害者は未成年という事もあるので厳しい処分が下されないのです。ですから少しでも奥様の傷を癒すために賠償金を受け取った方が良いと思うのです。」
私は畳み込まれた、さてどうしたものか。
淡々と理詰めで攻め込んでくるこやつにかましてやらねば。あっ そうだ怒れば良いんだ、そう思った私は。

私「こっちは示談したいとは一言も言ってねえよ、何勝手に話を進めてんだ?それとな、未成年で刑事では処罰されないなら民事では責任取らすからな。そのガキにも払わすけど親にも責任があるな。」
私はイライラしてくるあまり言葉遣いもラフになった、しかし決まったと思った。

弁護士「そうですか。親の責任というのはですね、加害者は未成年といえど19歳なので充分に責任能力があるといえます。なのでその両親には法律上支払う義務はないのですよ。」
ありゃりゃ、返す刀で斬られた。私はこれ以上話しても平行線になると思い交渉を打ち切る事にした、イライラも積もってたしね。

私「貴方が思ってる以上に家内のショックは大きい、これから心療内科にかかる予定だ。何かしらの診断書も出るかもしれない、となると5〜10万など話にならない条件だ。これから弁護士相談もするので現時点ではお断りだ。」
私は突っぱねて終わらそうとした、すると。

弁護士「それがいいですね、弁護士相談なら法テラスというのがあります。私の所属している弁護士会でもやっていますしね。」
こやつは負けず嫌いなのか負け惜しむように言葉を吐いた、私の不快指数はかなり高くなっていた。よろしいならば戦争だ。

私「オメーと話してっと何かムカつくな。被害者の感情逆撫ですんなら、もう電話掛けてこなくてもいーぞ。」
突き放す為にあえて言葉遣いを汚くした、こっちがムカついてるのを相手に気づかせる為に。

弁護士「すいません、今日はこれで失礼します。」
相手がキレ気味だと感づいたのか鈴本はあっさりと引いた。

弁護士との通話を終えた私には不快感だけが残った。くそがっ 腹も減ってるし。
夕飯の時晩酌しながら嫁にも内容を伝えると、「5〜10万なんて安いね、軽く見られて嫌だな。」と不満げに言っていた。
私は泡盛ロックを傾けながらさっきの電話を思い返した。
とりあえず弁護士鈴本のデータは、25〜35位の若い男、負けず嫌い、落ち着いた理論派、冷血な男だと私は思い込んだ。



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