シバタさんの異世界奮闘記

たかきち

第7話 ニルスmeetsコナモンと、出会い

漂ってくる嗅いだことのある匂い…
シバタは、引き寄せられるようにその屋台へ向かって行く。

そこでは、テキパキと日本人の女性がお好み焼きを焼いていた。

生地の材料や、中身の具材はどうにかできるだろうが、鉄板コンロやソースは果たしてどうやって調達したのだろう??素朴な疑問として、シバタはそう思った。
さっきから、目の色が変わっているニルスとフランツを伴って、女性がお好み焼きを焼く様子を眺めつつ考え込んでいた。すると…

「いらっしゃい!お兄さん、深刻そうな顔でどないしたんですか?」

「いや…まさか、異世界に飛ばされてお好み焼きの屋台をすぐに見つけるなんて思わなかったんでね。他意はないさ」

「そうですか?みなさんの口に合うか判りませんけど、よかったらお好み、食べてってください、お兄さん!」

「うう…お兄さんって歳でもないんだけどもなあ…三枚いただこう、お嬢さん」

「お嬢さん…なんて言われても…何も出ませんよ?」

自分で仕掛けておきながら、女性は真っ赤になりつつも満更でもないようだ。

「ちょうどこの連れが、日本のコナモンを食べてみたいっていうもんだから、みんなでいただくよ」

「いやぁうれしいわぁ!こらあ、気合い入れて焼かなあきませんね!」

「…これがコナモン?」

「そうや…いうたら、大阪のファストフードみたいなもんやねえ」

「お嬢さんは大阪だったか!俺は東京で、たまにお好み焼きは食べてたけどあんまり詳しくないから、変に藪をつついちゃいけないと思って深く訊かなかった」

「オコノミ…バリエーション豊富…」

シバタ自身は東京の自宅近所に、長年通っていたお好み焼きの店があって、突如として店を閉めて悲嘆に暮れたものまた事実だが、その店と祭りとかの屋台や旅先やごくたまの外食、また、たまに自宅でそれらしく作って食べる位なので、どうこう言うだけの知識もない。

「素朴な疑問なんだけど?」

「ウチのスリーサイズはトップシークレットや!」

「イヤそうじゃなくて、それはそれだけども…材料とか、鉄板とかどうしたの?」

「食いつかんかったか…それは、それこそ企業秘密や!」

ノリがいいというか、半ばボケとツッコミになりつつも女性は手を休めることなく、手際よくお好み焼きを焼いていく。

「どうにか、こうやってそれらしい屋台を構えるようになったけど、それまではツレと一緒に試行錯誤の連続で悪戦苦闘やったわ…お互いノウハウもなかったし」

「でも、それを克服してここまでになったんだから、それだけでも大したもんじゃないか?」

「おおきに…こっちに飛ばされて、何がなんだか判らへんかったけど、なんもしないでいるのがいややったし、一緒にツレ…もおったから、二人でどうにかこうにか…あ、ウチ、鷹取里美いいます、里美と呼んでください。お兄さんは?」

「俺は柴田。柴田俊宏、食い入るように見てるのがニルス・ヴァン=ドーン、オランダ人。あっちの体格いいのが、ドイツ人のフランツ・シャルフェンベルクだ。俺、お兄さんって歳でもないぞ?」

「ええやないですか?…柴田さん?って呼んでも?その辺は、営業トークやないですか」

相変わらず、里美は自爆を繰り返しているが、立ち上る湯気はどうやら焼いているお好み焼きからだけではないらしい…

「里美さんは、将来、ここがきちんとした街になったら、きちんとしたお店にしたいの?」

「んー…ツレとも相談せなアカンやろけど、それが出来たらいいなとは思うてますよ?でも、まだメニューになるようなもの、見つけてなくて…」

「じゃあ、里美さんのお店のために、せめて焼きそばくらいは食べられようにしなくっちゃいけないな」

「!?…柴田さんって、何者なん?」

「ここに来るまでは、ただのサラリーマンさ」

何の気なしに話していて、シバタはふと、あることに気が付く。
彼はこの地の貨幣を持っていなかったのだ。決まり悪そうに、連れの二人に訊く。

「ニルス、フランツ、申し訳ない…その、今持ち合わせがなくて、後で返すから立て替えてくれないか?」

「柴田さんやったら、ウチはツケでもいいですよ?貸し作っといたら、イイコトありそうやし」
ニヤニヤしながら、里美は言う。

「いや、初めての人にそれはマズい」

「…念願のコナモン食べれる…そのくらいは、問題ない」

「ニルス、すまん!!この借りは「いずれ精神的に!」

ニルス、そんなのどこで覚えた…!?
してやったりとばかり、ニルスはドヤ顔を決める。


…そうこう話している内にお好み焼きは出来上がって、ソースの付いた面を中に折ってそれを紙に包んで、里美は三人に手渡す。

箸も透明なパッケージ容器もないこちらで、しかも箸を使った食生活をしない人が多いこの場所では、的を得たやり方だ。

「クレープを食べるようにしたら、お好みでもイケるんちゃうかな?って思うて…冷めない内にどうぞ!」

「なるほどね…これならこっちの人たちや、外国からここへ飛ばされた人たちでも食べられるね…いいアイディアだよ…と、早速、いただきます」

「ダンケ」
「…イダタキマス」

興奮しているのか使い慣れてないかはさておき、ニルスの「いただきます」がおかしかったが、そこをツッコむのは止めておこう。

美味い…

こういってしまっては里美に悪いが、里美の焼いたお好み焼きは最高の逸品というものではない。
でも、だからこそ、異世界に飛ばされて息をつく暇もなくロジャーに引き回しの刑に処せられていたシバタは、今初めてここが異世界で、それでも、自分が決して独りぼっちもない…ということを実感したのかもしれない。

彼の頬を涙が伝ってた…

その様子を見て、夢中で貪っていたはずのニルスも、フランツも、はたまた里美もシバタのほうみながら固まっている。

「あ……済まない…。柄じゃないけど、里美さんの焼いてくれたこのお好み焼きを口にしたら、急にいろんな事が出て…来ちゃってね。ついさっき、この世界に飛ばされてきたのに、色々とありすぎて、これを口にするまで、自分の中で実感がなかったんだろうね。」

シバタは、涙を手で拭いながら、自分の心境を正直に周囲に告白する。

「そんなん…ウチの焼いたお好み…食べながらそないな事言われたら、惚れてまうやん…」

「んえ!?だって、里美さん彼氏がいるって言わなかったか!?」

「ウチが…ツレ言うたのは…」

店の中からもう一人女性が現れる。シバタたちは彼女の存在に気付いていなかった。

「うふふ…里美が『ツレ』といったのは私のことです、はじめまして柴田さん、渡瀬春香です」

ある意味絶妙なタイミングで、里美の親友、春香が現れた。

「はじめまして、渡瀬さん?でいいかな?」

「あら、里美が名前なのに、私は苗字呼びですかぁ?私のことも、春香と呼んでください、トシさん!」
「トトトトト、トシぃ~!?」

すっかり変なスイッチが入った里美とは対照的に、春香はマイペースのようだ。

「この子、こう見えてそういうのはすごく奥手なんで、しっかりリードしてあげてくださいね?じゃないと私が横取りしちゃうかもしれませんよ?」

なんかとんでもない爆弾が投下されたと思いきや、さらなる追い打ちが…


「心配には及ばん!ここ、サムトアールは一夫多妻制であるし、トシ、いやシバタ殿であれば前途は保証されている。見た目はともか「おい!!フランツぅ!」

今まで静かであったフランツが、急に饒舌になった。
フランツの言葉に、里美と春香は固まっている。

「フランツ!俺は、たったさっき、ここに飛ばされてきて、ロジャーに連れ回されては来たが、何か成した訳じゃない…そんな事いきなり振られたら、その…彼女たちにしても困るだろ?」

「何を言ってる、トシ。貴殿は、あのロジャーさえ頭を抱える事案をこの短時間でいくつも分析して、案を出したり方向性を見いだしてくれたではないか?そのロジャーを以てして、頭を下げて、副代表になってくれと言われたのだろう?あのロジャーが、同格で…までというのだから、余程見込まれたのだろう。もっと自信を持っていい」

あのなあ…と、シバタは言いかけたが、その先の言葉が出なかった…

すると…

「あのぉ、ロジャーって、ヴィレッジ住民代表のミスター・トムリンソンのことですか?」

おずおずと春香が訊いてくる。
里美は固まったまま、湯気を発している。

「ああ、そうだともフラウお嬢さん。このシバタ殿は、今日ここへ転移した直後にミスター・トムリンソンと出会い、その足でここの勘案である東の隅っこで固まっている二つの集団、ヤパーンのサムライグループと軍人のグループを瞬間的に正しく分析して、どう対処したらいいのかまで示してくれた。そればかりでなく、シズラー伯爵の騎士団長や役人たちとも状況分析や今後の街のあり方について、いろんな提案を会議でしてくれた。彼が貴女たちお店のことを言ったのも、彼には我々よりもこのヴィレッジの未来を見いだせているからなんだと、私は思う。だからこそ、ロジャー…ミスター・トムリンソンも最敬礼で頭を下げたのだろう、あのプライドの塊のような男が…。そうだ、日本語では柴田殿のことをこう言うのだろう、フラウお嬢さん?」

「え??」

「超、優良物件…だったか?」

フランツがそう言った瞬間、春香も変なスイッチが入ったようで、目がハートマークになった。
次の瞬間、屋台の中から里美を引きずって出てきて、シバタの前で土下座を決めた上に、こう言い放つ…。

「トシさん、いえ、柴田さん、私たちをもらってください!!」

その言葉にシバタは固まる。
里美は、春香の横で幽体離脱したように抜け殻のようになっている。



…ニルスは、脇目もふらずお好み焼きを食べ、自分の分のみならず、フランツやシバタの分まで食べ尽くしていた。

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