一台の車から

Restive Horse

21.時代よりも10年先に進んだ車 (シトロエン DS)

その車は浮いているかのように走っていった。

いつも通りの帰り道、2cvは少し調子がよく感じられる。
そのとき、その車は足音せずに2cvの横に滑り込んできた。
シトロエン、DSだ。
ヘッドライトの形からマイナーチェンジ後のDS21以降だ。
しばらくシトロエン同士で併走したのち、僕とは違う道へ入っていった。




シトロエン、DS。
車名の由来はフランス語で女神を表す。
1955年のパリ・サロンで発表。
DSを見たジャーナリストは
「時代より10年先に進んだ車」
と言った。

エンジンは2000ccの水冷直列4気筒OHV。
開発当時はもっと他のエンジン型式を考えたらしいが、開発が追いつかず、トラクシオアバンの直列4気筒エンジンをもとに開発したらしい。

ボディは天才、フラミニオ・ベルトーニがデザイン。
まるで宇宙船のようなデザインに仕上がった。
マイナーチェンジ前のDS19はポルシェのようなライトを持っているがマイナーチェンジ後のDS21は、丸目4灯になり内側のライトがステアリングにあわせて向きを変えることができた。(CMにもこれを宣伝にした。)
これは現在のフォグランプのはしりだ。

たが、DSで最も重要なのは、やはりハイドロニューマティク・サスペンションをはじめとする、ハイドローリック・システムだ。
サスペンションを油圧とガスを入れたスフェアで行う。
だけでなく、ミッションの操作、クラッチ、ブレーキ、ステアリング操作も全てサスペンションと同じオイルで油圧制御(アシスト)したのだ。
ハイドロニューマティク・サスペンションはバネでは(ゴムも)では真似できない乗り心地を確保。
さらに、全ての操作系で油圧でアシストされていたため、極めて軽い操作系を持っていた。
そんなことを可能にしているのは、車のあちこちに張り巡らさせているオイルラインだ。
エンジンを心臓とし、血管のように張り巡らさせている。

DSを知っている人は、「DSの操作系は扱いずらいんじゃなかったの?」という疑問が残るだろう。
その理由は油圧と一言で言っても、ちょっと独特(というか他の車で例をみない)油圧システムだからだ。
例えばブレーキ。
DSのブレーキは踏んで、急激に制動力が立ち上がり、カックンブレーキになる。
現在の車も油圧だが、カックンにはならないのは、ブレーキ用のオイルラインであることと、ブレーキペダルがピストンを直接押し出しているからだ。
しかし、DSはブレーキのオイルラインは独立しておらず、ブレーキペダルはバルブに直結している。
ブレーキペダルを踏むことで、バルブを開き、オイルの流れ道をブレーキへ通すようにしているのだ。
そのため、踏力は少なくてすむが、急激に制動力を起こしてしまうのだ。
それが、ミッション操作、クラッチ操作などにも同じことが言える。

そんなDS、10年先に進んだ車なだけあっていろいろな活躍をしている。

その乗り心地を買われ、DSをベースに大統領専用車が制作された。

さらに、ラリーにも参戦。
前輪駆動、サスペンションからくる走破性を用いてモンテカルロ・ラリーなど、様々なラリーで優勝をとげた。
現在のシトロエンWRCの始まりである。

映画の中でも活躍した。
バック・テュウー・ザ・フューチャーⅡでは、未来でタクシーとして登場している。




僕は2cvをガレージにいれて、
「DSはいいね。今みても色あせてないよ。」
といって、鍵をしめた。


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