一台の車から

Restive Horse

4.カブトムシ(フォルクスワーゲン ビートル)

 バタバタと空冷特有の音が聞こえてきた。出勤のことだ。
高速を降りて信号で停車しているとき、空冷サウンドを響かせながら一台の黒い車が高速に上っていった。
その車はフォルクスワーゲン、通称ビートル。
最近ではみる数が減ってきてしまったが、世界で一番売れた自動車である。
ホイールなど少しいじってあったが、快音を響かせながら料金所の方へと向かっていった。




 ビートルは工業的に見本となる一台だ。
この車はアドルフ・ヒトラーが頼み、フェルディナント・ポルシェが実現したものだ。フェルディナント・ポルシェは元々小型大衆車を作りたいと考えていたが作る機会が与えられず、頭の中に構想だけが残っていた。
また、アドルフ・ヒトラーは政治のためにドイツ国民が買える車を必要としていた。
二人とも小型大衆車を作りたいという利害が一致し、ビートルは短い期間で作られた。

しかし、第二次世界大戦でビートルを生産する工場が破壊され、一時はこの計画はなくなってしまう。
第二次世界大戦後、工場跡地から一台のビートルが発見され、この車の生産は民間企業に託された。
それが2cvと同じ1948年のことだ。
当初アメリカのビッグスリーもこの車の存在だけは知っていたのだが、売れないと思っていたらしい。
蓋を開けてみれば、世界的大ヒットとなった。

中身は工業的に見れば無駄がない作り込みをしている。
簡単に移住スペースが広げられる低い水平対抗4気筒エンジンに部品点数を少なくできるRRレイアウトなどなど。
ものすごく合理的だ。
その結果、流れ作業による大量生産で値段を抑えることができ、低価格な車を作り上げることができた。

現在街中を走るほとんどの自動車はビートルを手本の一つとしている。
この車がなければ今の自動車社会はできていなかっただろう。
どんなメーカーも開発者も夢見る車だ。
そんな車をフェルディナント・ポルシェに作る機会を与えたアドルフ・ヒトラーを僕は心の底から否定することができない。




 仕事場に2cvを止めて

「第二次世界大戦が終わって、自動車が発展したのはやっぱり小型大衆車からなんだな。いってくる。」

といって鍵をしめた。

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