一台の車から

Restive Horse

2.峠を疾るために生まれた大衆車(トヨタ KP61スターレット)

「今日から毎日よろしくな。」

と言って鍵をあけた。
納車してから2週間。
休みの日にスーパーとかにはいったが、全然乗っていなかった。
通勤の定期が丁度切れたので、思い切って自動車通勤の申請をしてみたところ、あっさりと通ってしまった。

オイルを点検し、エンジンをかけ、暖機する。
暖機が終わったら出勤だ。
仕事場までは高速を使って30分かかる。
帰りは下道を通るつもりだ。

2cvを納車して初めての高速。
前のオーナーがETCを付けていてくれていため、迷いなくETCレーンに滑り込む。
二速、20km/hで通過して、50km/hまで引っ張り三速にシフトアップ。
唸るエンジン。
4000回転ぐらいだろうか。
一気に加速して、合流する。
後ろを見ながら70km/hでトップ、四速にシフトアップ。
80km/hまで加速したが、そこから加速はさせなかった。
スピードメーターをみると120km/hまで加速しそうだが、無理は禁物と思いやめといた。

しばらく走って高速を降り、仕事場の駐車場についた。
エンジンをきり、車から降りて、
 
「言ってくる。」

と一言かけて仕事に向かった。
 



仕事が終わり駐車場に戻ってきた。
もう外は暗くなっていた。
街灯でエンジンオイルを点検する。
少し減っていた。
そこでトランクルームから、この前ア○ゾンで取り寄せたオイルをもってきた。
オイルレベルゲージ横にある蓋をあけてオイルを入れる。
しばらく待ってオイルを確認する。
それを数回繰り返して、オイルレベルゲージの窪みの上までいれた。




それからエンジンをかけた。
ガソリンが減っていたのでガソリンスタンドに寄ろうと決めた。
エンジンが完全に暖まってからガソリンスタンドに向かった。
ステアリングの右下についてるレバーを回してヘッドライトをつけた。
本当はイエローバルブがよかったが、車検のため白になっている。

仕事場近くのセルフガソリンスタンドについた。
初めての給油。
鍵付きの給油口をあけてガソリンを入れた。満タンまでいれて帰路についた。




しばらく下道をゆっくりと流していた。
夜だからだろうか、いつもよりもフラットツインの音が響いている気がした。
すると後ろから元気のよいキャブサウンドがきこえた。
隣に並んだとき、赤のトヨタKP61スターレットだとわかった。




トヨタKP61スターレットは1978年に発売された車で、政府が打ち出した大衆車構想にトヨタ自動車が答えた車だ。
大衆車なので誰でも手に届くような価格設定にされた。
3(5)ドアハッチバックのボディはコンパクトながら4人とたくさんの荷物を積んではしることができた。

また、TSレースやサンデーレースといったモータースポーツでも活躍し、日産サニーとのライバル関係になった車だ。

しかし、暴れたのはサーキットだけではなかった。
当時の若者はこのコンパクトカーで峠にいってよくはしっていた。
安い価格、FRレイアウト、1300ccでよく回るエンジン、車両重量700kg代は現代からみても、スポーツカーの理想といえるスペックである。
峠を走らない理由はない。

このスターレットは後に名前をヴィッツ、ヤリスと変えて21世紀を代表するコンパクトカーの一台として生き続けている。
また、トヨタはWRC復活のマシンにヤリスをベースとした。
どうやらスターレット一族は峠との縁を切っても切れないみたいだ。



 
帰宅し、エンジンをとめて

「KPも数が減ってきているが、元気だったな。
明日もよろしく。」

と声をかけて鍵を閉めた。

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