安藤さんはアンドロイド

明日原たくみ

1限目 安藤さんと出会い(前編)

 進化した人工知能の真価しんかを実験するために、転校生にふんした人型アンドロイド「AI-001-Th3.9」、通称「安藤あんどう 愛子あいこ」が私立・栄愛えいあい学院高校に送られてきた。


 見た目はどこからどうみても女子高生。肌の質感も人間そのものだ。しかし彼女はあくまでAIを搭載したアンドロイドであって、決して人間ではない。


 AIは人間と自然に共存できるのか。そんな開発者の意図を秘め、彼女は転校初日を迎える。



―――
栄愛学院高校 1年2組



 僕の名前は「久遠くおん 瑛士えいじ」。高校生になって2ヶ月経つのに、友達が1人もいない。なぜ誰も僕に話しかけてこない。なぜぼっち飯をしている僕に「お昼、一緒に食べよう」とか誘ってこない。


 僕の座席は、1番後ろの窓際の席だ。アニメの主人公がよく君臨くんりんしているこの座席に選ばれた時、僕は何か起こるのではないかと胸を膨らませていた。が、現実は残酷なもので、恐ろしいほどに何も起こらない。


 くそう、高校入ったら自動的に彼女ができると思ってたのに、所詮は砂上の楼閣ろうかくだったか。あんなものはドラマやアニメにしかない特殊演出フィクションなのだと僕は実感する。



 そういえば、今日は転校生が来るとか言ってたな。季節外れだなぁ、とも思ったがこれはチャンスだ。転校生なのだから、そいつには自動的に友達がいないことになる。つまり、僕と同類だ。僕はこの機会を活かし、転校生と友達になる!


 僕はいつも以上に燃えていた。どんな人が転校してくるのだろう。いい人だったらいいなぁ、と理想を膨らませているうちに、朝のホームルームの時間がやって来た。

 担任が教室に入ってきて、僕らに向かって話し始める。



「はい貴様らおはようございます。今宵は転校生を紹介すっぞコラ―。うい~入って~!」



 クセの強い女担任の呼びかけで、転校生が教室に入ってきた。
 教室内に「おおっ」という声がこだまする。転校生の正体は女子だった。正直に申し上げると、とても可愛い。


 長い黒髪をなびかせ黒板の方を向くと、チョークで自分の名前を書き始めた。綺麗な字で名前を書き終えると、再び僕らの方に振り返る。



「安藤 愛子です。皆さん、よろしくお願いします。」



 安藤さんが可愛い声で自己紹介をすると、教室に歓迎の拍手が響く。それにしても、安藤さんがアニメの登場人物のような声だったので、声優になることを心の中でおすすめした。



「・・・じゃあ、安藤さん。あそこの空いている席に座りやがってください。」



 真顔の担任が僕の隣の席を指さす。隣の席をに目をやると、そこには誰も座っていない、文字通り空いている席があった。

 おかしいな、昨日まで名前は知らないが誰か座っていたのに。なぜ空きの机になってしまっているのだろう。

 そんな僕の疑問に答えるように、担任が説明を施す。



「あ~、昨日までそこの席にいた誰だっけ、えーと、たしか田宮だったか。田宮かな?うん、多分そうだ。そこの席にいた『田尻 晋太郎』なんだが、家の事情で転校した。安藤には、田尻の意志を継いでこれから頑張ってほしいと思うばかりだ。というわけで、全員黙祷もくとう!」



 結局のところ田宮なのか田尻なのか。田尻は突然転校したのか。というか田尻は死んだのか。あまりにも情報量の多い担任の発言に、生徒たちは沈黙する。黙祷をするわけでもなく、担任を無視するかのように静かに佇む。


「こいつの発言にいちいち耳を貸していては負けだ」と、彼らは2ヶ月の間で学習したのだ。彼らはあくまで田宮(若しくは田尻)がいなくなったという事実だけを受け止めているのだ。刹那せつな的といえば刹那的な1年2組の面々を、僕は遠い目で見る。


 生徒全員から無視されているというのに、相変わらず真顔のままの担任に、どういう心情なんだろうかと疑問に思うが、考えたところで意味が無い。


 そんなことを考えているうちに、安藤さんが僕の隣の席にやって来た。



「・・・。」



 安藤さんは無言のまま、席に座る。緊張しているのであろうか、無表情のまま時刻は1限目を迎える。

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