フォビア・イン・ケージ〜籠の中の異能者達〜

ふじのきぃ

Chart4「今だけは泣き虫で」

【PIC:ファーの個室】

 必要最低限の家具が揃った、ちょっぴり知的なイメージの部屋。現在、わたしが住まわせて頂いている個室。
 玄関の床は黒が混ざりかけた白よりの大理石。敷居はカーペットが敷かれ、柄は白黒のチェック模様。
 壁や天井は白。タンスは黒でコーティングされた木材。ほのかに樹木独特の香りに包まれる。
 窓は無いけれど、天井に通気口があるので空気が悪い訳ではないようだ。
 シャワーや御手洗いは別の場所にあるので、個室にはない。
 もう少し女の子らしい部屋だったら……と、愚痴を零しそうになったが、今は仕方がないのだろう。

(いつかリフォームしてやります……)

 唯一の救いは何と言ってもこの白くてふかふかなベッド。今流行りの[無重力ゼロ・グラビティ]という最先端技術の快眠ベッド。至福のひと時を味わえる代物だ。

「はふぅ」

 白い机の上にバッグを置き、幸せの綿雲にボフンとダイビングし……身を委ねた。

「はぁ……最高です」

 うずくまった顔を横に向け、感想を一息。
 目の前にはベッドのマスコットキャラ、
『ぜろぐらびっと伯爵』のキャラ枕。長耳付き。
 種族は白ウサギ。右目は0ゼロの文字。左目はアルファベットのgジーで、モノクルを模した形。
 口は縦長に開いていて、バツ印の鼻と合体した絵になっている。つい、クスッと笑える面白さがある。
 どうして詳しいのかと言うと、ベッドはココに来る前からずっと欲しかった物だし、キャラクターに関してもグッズをいくつか持っていたからだ。表情や服装が色々あるので、いつかコンプリートしたい。
 マスコットキャラにグッズ……今思えば、このベッドの人気ぶりには脱帽せざるを得ない。まさかこの施設にも置いてあるなんて、運命を感じてしまった。

「ふぅ」

 溜め息をつき、今日の出来事を振り返る。けれど──

(ダメ。頭の中が混乱してて、整理出来ない……)

 トバリノ先生のあの言葉が記憶に焼き付いてしまい、今後どうすればいいのか分からなくなっていた。


《使わなければ、君は生き残れない》


 どうして、こうなっちゃったの?

 こんな危険なチカラを、

 パパとママを圧し潰したチカラを、

 使いこなせだなんて。

「……」

 分かってる。

 もう、戻れないって。

 たとえ戻れたとしても、

 国は許してくれない。

 わたしは[ステージ5]の恐怖症患者だから。

「トバリノ先生……」

 強くなりたい。

 こんな逆境を弾き返すくらいに。

 だから、今は──

「ぐすっ、ひぅ……」

 今だけは、泣き虫で居させて下さい。


 キャラ枕に顔を埋め、溜め込んでいたものを吐き出し……眠りについた。

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Name:ファー・ミルフィーユ

Age:13/Blood:A

Phobia name:
高所恐怖症ーAcro phobiaアクロフォビア

Ability:重力操作

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【PIC:モニタールーム】

 電子音がピコピコと反響する機械仕掛けの部屋。近未来感漂うその空間にて、3名の人物が大型の液晶板の前に立つ。

『──ファー・ミルフィーユ。
崩壊時のスカイピアッサータワー周辺に負荷された重量の計測データを表示シマス』

「ん。見せてくれたまえ」

 アンドロイドのような機械じみた女性が液晶版に手をかざす。ヴェン……と、モニターが鳴り響いた。長身の男がデータを見遣る。

『推定重力範囲──半径50m。
タワー中央の最大瞬間重量──10tを計測シマシタ』

「じ、じゅっとん……?! ん、んー! 凄いじゃあないか!」

「ふーん? け、結構広範囲ね。でもこれって暴走したらヤバいヤツじゃん。ケジマス」

「んー? それ僕の名前かね? 川魚みたいなニックネームだねぇ」

 ケジマスと呼ばれた無精髭の長身男はモニターのデータに感心していた。顎を親指と人差し指で撫でる。

「んーそれに、あの子が能力チカラを制御出来れば、素晴らしい戦力になると思うがね? それこそ国一つ崩壊させられるかもしれないだろうし」

「制御出来たらのハナシでしょ?」

 十代後半ロングヘアの茶髪少女が顔を膨らませ、口を尖らせる。
 男は「まあまあ」となだめ、シルクハットの中から渦巻キャンディーを取り出す。

「どの道、保護は必須だったよ。国の政府に奪われるくらいなら……ね?」

「まあ、それはそうだけどさ」

 キャンディーを奪い、てろてろと舌を這わせる。その様子を眺める三十代半ばの長身男。

「なによ。くれるんじゃなかったの?」

「んーいや、色気のある口元だねぇ。舌使いもまた何とも。興奮を覚えてしまいそう……
んんーっ?!」

 食べかけのキャンディーを逆手に持ち、その減らず口に棒ごと突っ込む。

「こんのっ変態! バカ、バーカッ!」

「フンっだ!」と、金髪少女は頰を赤らめながらカツンカツンと足を力強く踏みしめ、部屋を後にした。

 突っ込まれたキャンディーを救い出し、物思いにふける。

「食べかけ……んーご褒美なのかな? アンちゃんはどう思うかね?」

『──食あたりで踠いてろデシ』

「アンちゃんん?!』

 機械の少女にさえトドメを刺され、やがて一人取り残されてしまう。膝をつき、項垂うなだれるタキシードメン
「よっこいしょ」と、ゆっくり立ち上がり、キャンディーを咥えながら暫くモニターを見つめていた。

「ん? 食あたり??」

 ふと其の言葉に疑問を抱いたが、「んー、まあいいか」と頭の片隅に追いやった。

 その後、一日中トイレを何度も行き来し、『んーんー』と唸っていたそうな。

(あの子の仕業だね……んーこれは。Xデーまでに治せるかなあ)

コメント

  • ふじのきぃ

    作者です@v

    読んで頂きありがとうございます!
    そしてAkaganeさんお久しぶりです。

    ラノゲツクールが終了し、悩みに悩んだ末にノベルバで書かせて頂く事になりました。

    少しずつ更新していきますので、これからも『Phobia in Cage フォビア・イン・ケージ』を宜しくお願い致します(_ _)

    0
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