星屑世界

オンネ

7.学校という建築物の意味


――あぁ、頭が痛い、気だるい。  
朝の一件が引き金にでもなったのか、
再度痛みを訴えてくる頭に
蛍はうんざりしていた。

カツカツ  コツコツ  ヒソヒソ
ペンが薄っぺらい
再生紙ごしに机を叩く音。
もしくは、ノートの紙を擦る音。
誰かが机を指で叩く音。
ヒソヒソと鬱陶しく聞こえ続けるのは
与えられた課題の相談をしているのか
下らない世間話かはさておき、
自分の持ちうる話題をクラスメートと
相談しているのか、それとも、
――朝に告げられた悲報についてでも
      話し合っているのか。

そんなことはどうでもいいが、
頭痛に加担するように続く雑音に
蛍は苛立ち、出来るだけ聞かないように
意識をそらせる。
最も、普段できるそれが
今出来ていないから
苛立ちがいつもより酷いのだが。
自分の机に突っ伏したまま腕の中に
頭を埋めてきつく目を閉じる。
軽く数十分はこの状態が続いている。

今は何の時間かというと、授業中である。
それも自習の。
本来、いつもならこの時間帯は
皆つまらなさを隠すこともせず
渋々ながら机に向かい、
数字と記号の羅列でできた計算式を
睨む数学の時間だった。
しかし、打って変わって
唐突な時間割変更により、
国語の、それも自習になっている。
自習にするくらいなら時間割変更を
する意味も無いような気がするが。
国語の教師が言うには数学の教師は
体調不良により有給を取っているらしく、
国語に変更したのだという。

――まぁ、そんな後付けのような
      説明で納得した生徒は一人も
      居ないようだが。

件の数学の教師は
昨日も元気そうに黒板に読みにくい
行書のような文字を書き連ね、
欠席が多いことが不満らしく、
休まずに登校している生徒に
何やら小言を言って叱責していた。
――馬鹿だろ。いや、馬鹿だな。
そう思いながら蛍は半眼でその
よく分からない熱血教師なるものを
見下していた。

少なくとも蛍にとって学校は勉強する場。
知人と喋りに来る場でも
部活をしにくる場でも
うざったい教師の説教を聞きにくる場でも
サボりに来る場でもない。
勉強するのが嫌ならば、来なければいい。
中学校と違って、
高校は義務教育じゃない。
辞めることだって許される。
蛍にも学校という点で
嫌なことなら幾らでもある。

それでも登校して、机に向かい、
眠たい授業を受けるのは、
将来生きる上でその事実が役立つから。
眠い気持ちと戦いながら得た知識が
役に立つかどうかは知らないが。
だから、蛍は学校に勉強しにくる。
雑音たちは確かに鬱陶しいが
そんな雑音に負けて面倒ごとが後から
降ってくるよりも、今わざわざ
学校に来て勉強した方がいいから。

つまり、過程はともかく一応ながら
自分の意思で来るのがこの学校。
本人たちが来ないというなら、
それでいい。
歳だけ重ねた教師が口を挟むなんて
馬鹿らしいにも程がある、
そう蛍は思った。

だって、全部自己責任なんだから。
不幸も、幸福も、なにもかも、
自己責任なんだから。
学校という場所自体には
大した意味など求めていない。
全てがハリボテのようだと、彼は笑った。

まぁ、その教師は昨日散々
馬鹿にしていた休みのようだが。
ちなみに何を言っていたかは
興味もなければ聞く気も無かったので
全く覚えていない。

あぁ、要らないこと思い出すんじゃ
無かった、と蛍は腕に埋めたままの
顔をしかめる。
原因は、矢張、収まらない頭痛。

どうしよう、いっそのこと
寝てしまおうか、
そもそも、この頭痛がある状態で
寝れるのか、この雑音どもがいる教室で?
……無理だな、絶対無理、ていうか嫌。
寝たとして、大人しく寝てるのか?
唸ってたり、いびきをかいてたりしたら、
それこそもっと嫌。あぁ、もう
頭、痛い――……
そんなことを考えていた蛍は机ごしに
伝わってきた、急な振動に驚き、
顔をあげる。

「や、蛍。ひっどい顔してるね」

「…………」

飾空。何の用だと睨めば
わぁ、目付き悪いなぁ  と、笑っている。

「……お前さ、あっちらへんで勉強会
    開いてなかったっけ」

「うん。やってたね。
    まぁ勉強会っていうほどの
    ものでもないけど」

なら何でここにきた。
飾空は自習だと発覚した途端
クラスの連中に囲まれ、
机を合わせて喋っていなかったか。
恐らくさっきまでそうだったらしく、
少し離れたところで机をくっつけていた
大きめのグループがこちらを
睨んでいる。
きっとあれが先程まで飾空がいた
グループだろう。
静かめだった教室内で唐突に
ガタガタと机を移動させた飾空は
色んな意味で注目を集めていた。
蛍の机に自分の机をくっ付け終わると
ここの問題なんだけどさぁ、だとか
言いながら何でもなさげに
課題に向かい始める。

「……何で来たの」

「え?……あー、うん、なんというか
    …………飽きちゃって」

苦笑まじりに最後のほう、
小さく周囲に聞こえないよう、
ポツリと溢された言葉に思わず
蛍は目を見張った。

あの飾空が、飽きた?
人が良く、誰からでも慕われ
みんなと仲良く接している
あの飾空が、飽きた?
愚痴を溢すならまだしも
飽きたとはなんだ。

蛍が怪訝に思いながら飾空を睨めば、
飾空はどこか参ったように、
やはりニコニコしながら
皆には言わないでね、と小さく言う。
さてどうだろうな、そう返した蛍は
机から教材を引っ張り出すと
課題に取り掛かる。


頭痛は少し残っていたが、
蛍はそれを無視すると、
周囲の雑音をシャットアウトした。

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