星屑世界

オンネ

4.意識不明と原因不明

蛍は帰路についていた。
まだ明るいこの時間帯なら本来、
学生は馬鹿熱心に部活に
励むべきなのだろうが、生憎と
蛍はそんな感情は持ち合わせていない。
学校が終わったのだから馬鹿みたいに
騒ぎ続ける学生の中にいる必要はない。
さっさとあの静かな家に帰るべきだ。
それが蛍の見解なので、彼は部活は
無所属のままだった。

住宅街を抜けて一人静かに歩き続ける。
大通りを避けて蛍は傍の暗い小道に
入った。
まだ明るいとはいえ、
大通りのほうが安全ではあるし
蛍が入った小道は遠回りになる。
それでも蛍は大通りは使わない。
登校も下校も。
暗く狭い遠回りをする。
理由は単純に、静かだから。
大通りは人が多くてうるさい。
ただそれだけ。
買い出しの時は通ることもあるが、
それもやっぱり出来るだけ
端を通り、静かな道があるなら
遠回りだろうがそちらを選ぶ。
蛍の人嫌いは中々なものだった。

そうして辿り着いた一軒家。
庭や花壇がある、比較的広い家。
草も花も植えられてはいないし、
壁はくすんでしまっているけれど。
その広くて、寂しい、人気のない家が
蛍の家だった。

鍵を開けて黙って家に入る。
――どうせ、誰もいないのだから。
リビングには向かわず、廊下を通って
2階へ行くと自室に入ってさっさと
鍵を閉めた。
鞄を床に放り投げると、蛍は制服のまま
ベッドに身を投げた。

――疲れた。
最近どうも目覚めが悪く寝た気がしない。
寝たってすっきりしないし、
むしろここ数日は気だるさすら感じる。
原因不明。
しかし分からないことを考えたって
仕方がないので課題を片付ける。

「……あぁ、そういや、ニュース
    調べてくるんだっけ?」

面倒くさい、と蛍は溢した。
何故そんな中学生のようなことを
しなければいけないのか。
高校生にまでなってそんな
義務教育中の夏休みの課題のようなことを
するはめになるとは。

溜め息をつきながら蛍は携帯を
起動させるとニュースの検索をかける。
ニュースなんて天気予報くらいしか
見ない蛍の関心をひく報道は中々ない。
幾つかのサイトをまわっていたが、
やはり段々飽きてくる。
適当なのにしようかな、なんて考え、
スクロールを続けていると、ふと、
目にとまる記事を見付けた。
随分と強調されているその記事は、
なんとなく先程までのサイトにも
あった気はする。

「老若男女、眠りから覚めず……
    また、息をひきとるものも多数。
    植物状態の患者続出……
    ……なにこれ」

世代、性別をとわず意識不明になる
人が急増しているらしい。
事故ではなく、眠っていた人が
急に目覚めなくなる。
直前までいつも通りで、
なにも変わったところはなかったのに。
各々個人差はあるものの
健康状況に異変はなく至って健康体。
勿論なかには病人や怪我人も居たが、
意識を侵すようなものはほんの一握りで。
とにかく、
原因不明の意識不明の人が急増している
ということだった。

そういえば、同じようなことを
クラスメートの雑音と飾空も言っていた。
雑音に関しては耳に入り、それが
記憶に残っている時点で不思議なくらいで
飾空に関してはほとんど無視しているので
やはり記憶は曖昧だった。
しかし、飾空だけならまだしも、
雑音に関しても記憶に残っているという
ことは、それなりに何度か話題に
登り続けているのかもしれない。

そして、それに関連して
思い出したことがもう一つ。
まぁこれも飾空から得た情報だったが。

――精神を病む人が異常なまでに
      増えている、と。
だからなんだ、と思う。
精神を病む人間も、頭がおかしい人間も、
取り上げられないだけで、
実際は 掃いて捨てるほど居る。
今更精神患者が増えたからなんだと
思うのだが、少々事情が異なるらしい。
なんでも、その数が異常なのだそう。
年をおうごとに増えている精神異常者だが
ここ数年でその数はうなぎ登り。
あまりの多さに幾つもの報道陣が
その話題を取り上げ始めた。
しかしこの話題、何故ここまで
盛り上がるかというと、先程の
意識不明の人が急増しているという件と
つながるところがあるのだそう。
更に近年増えている精神異常者は
ここ数ヶ月で今までの比でないくらい
膨れ上がっている。
原因不明のこの奇妙な2件、
しかし解決の糸口もなく
普段偉そうにふんぞり返りそのお粗末な
頭につまった知識を披露していく専門家も
お手上げということだった。

幾つかサイトを回り直したがよく
見てみれば大抵はこの2件が大きく
取り上げられている。
課題で調べるニュースは
これらにしようと思い、
紙にまとめはじめる。
内容を更に読み込めば、
なんとなく、既視感というか記憶に
ひっかかるような内容で、
やはり周囲の話題にのぼっていたんだと
再確認できた。
そういえば、担任である教師も
この2件について話していたことを
思い出す。
随分と世間に関心を持たれているらしいと
肩をすくめた。

ふと、教室の風景を思い出した。
いつも通りのひどくうるさい雑音だらけで
うざったい密室。
最近、座る人が登校してこない空席。
ずっと、空いている、席。
くりぬかれたように空いた、幾つかの席。
『最近さぁ、良也の奴全然来ないよな』
『美穂ったらまだ休んでるんだ』
『もしかして最近話題のあの起きない
    病気にかかったりして!』
『やめなよ~ 洒落になんないじゃん~』
『そもそもあれ病気なの?』
『岩崎さぁ連絡返してこねぇんだけど』
『休み多くない~?』
『いっそのこと学級閉鎖に
    なりゃいいのに』
『皆さん、小島さんですが、
    御家族の都合により、しばらく
    学校には来れないと……』

多くなった休みについての話題。
それによってまた掘り下げられる
異常な2件。
後付けのような無理矢理な休みの理由。
そして、長期間学校に来れなくなる
人の増加。


――あぁ、だるい。頭が痛い。
      ちゃんと寝れていないせいだ。

思考は最近酷くなった体調不良により
中断される。
スラスラと動かしていたペンを持つ手を
止めると目を閉じる。
こうなってはもう課題はうまくは
進まない。
順調だったニュース調べを
適当な場所で区切りまとめると、
他の課題に手をつける。
それらも満足にはできず、やはり適当に
終わらせると風呂に入り、そのまま
ベッドに横になる。
体は空腹を訴えていたがもうそんなものは
どうでもよかった。

明日はきっといつも以上に起床は
遅いのだろう。
それなら明日の弁当やら何やらの
準備くらいはしておくべきだろうが
そんな気にもならない。
家に帰ってしばらくしてからくる
体調不良は蛍の生活リズムを大きく
崩していた。
――もういい。寝てしまおう。
そう考えて目を閉じると眠くもないのに
その意識は引きずられるように
落ちていく。

やはり、今夜もあの夢を見るのだろうか。
内容もろくに覚えていない、
全ての原因であるあの夢を。
きっと、見るのだろう。
飾空はああ言っていたが、
きっと、今夜もあの夢を見るのだろう。
だって、段々あの夢は日にちの間隔が
なくなってきているから。
もう、毎日のように見るから。
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翌朝、蛍の目覚めはいつもより
ずっと悪かった。

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