星屑世界

オンネ

2.飾空 岡喜という人間

飾空はいつも好きに話していた。
蛍自身、他人との会話に興味がなく、
また、興味をひかれるようなものもない。
飾空の話に口を挟むこともないため、
結果、飾空が一方的に話すことになる。

飾空は話すことが上手な人間だった。
内容は、なんだそれはと思わず
眉を寄せたくなる意味不明な話から、
ついさっき出てきた教室でクラスメートが
話していた、寝てしまいそうなほど
どうでもいい話まで、様々だった。
どんな話も大抵は雑音としか
捉えない蛍でも話として一応ながら
耳にいれているのだから、
飾空は相当な話し上手な奴で――
また、聞き上手な奴でもあった。

飾空岡喜という人間は、
人柄がよく、面倒見もよく、優しくて
明朗闊達、軽い冗談ジョークも言えるし
成績も優秀、努力家で裏表がなく、
要は世間一般的に見れば
とても良い奴だった。(蛍は除外)

本来なら、こんな汚い屋上で
ひねくれた蛍と過ごすのではなく、
教室でリーダーシップを発揮し、
皆に囲まれ、分け隔てなく慕われて、
友達というものと一緒に
笑っているはずの人物。
それが実際、何故かいつも此処にいる。
蛍は飾空の交友関係が危うく
なろうともどうでもいいので、
飾空が誰と仲良くしようが関係ない。
…自分に関わりさえしなければ。

前に聞いたことがあった。
何故自分と一緒にいるのかと。
誰かから監視でも頼まれたかと。
罰ゲームでもしてるのかと。
飾空はその問いに一瞬キョトンとすると
朗らかに笑って、違う違うと訂正した。
「別に誰からも頼まれてないし
    罰ゲームだってしていないよ。
    俺が蛍と仲良くなりたいから俺の意思で
    此処にいんの」と、当日そう言った。
蛍はそれに対し、頭おかしいと返したが。

それだけでもやはり蛍からすれば
十分に頭のねじが外れているのだが、
その最大の要因はもう一つ。
それは飾空が自らを蛍の親友だと豪語・・・・・・・・・・・
する・・ことだった。

それは教室でクラスメートに、
何故いつも蛍と一緒にいるのかと
聞かれていたときだった。なんなら
そのクラスメート、本人が居る前で
根暗だの無愛想だの無神経だのと散々
罵るオプション付きで聞いた。

実際、そのクラスメートに限らず
教師の間でも疑問だった。
何故あんな正反対な二人が一緒なのか。
別段仲良くしているわけでもないのに。
飾空は何故あんな奴と一緒にいるのか。
蛍自身もっともの問いでもある。
ちなみに罵られたことに関しては、
相手のボキャブラリーの低さに辟易し、
しかし内容に反論することすら
面倒で無意味だったので、隠すことなく
盛大に溜め息をついた。
その際、相手には敵意をもって睨まれた。

飾空は空き時間になると
ふらっと 姿を消して、
気づけば蛍と喋ってこそいるが、
それは蛍としか関わりを
持っていないということではない。
行事には積極的に参加して、
やはり持ち前のリーダーシップを発揮し、
頼まれ事は基本嫌な顔することなく了承、
教師の信頼を得て、生徒から慕われ、
休み時間もその輪の中にいるものだと
思っていたのに。
それを、飾空を清々しい勢いで裏切った。

だから、クラスメートは聞いた。
そこにはきっと、蛍への当て付けも
あったに違いないが。
そして飾空は――それをまたもや
素晴らしい勢いで裏切った。
しかも、誰も予想しないかたちで。
「ん?何さ急に。蛍と一緒にいる理由?
    簡単簡単。だって

    ――俺、蛍の親友だし」

誰もが唖然とした。
みんな、飾空の返答に耳を傾けていたから
酷く静かになった。
時が止まったんじゃないかと錯覚する
くらいには静かだった。
しかし、一番驚いたのは巻き込まれた
当事者である蛍だった。
「……お前、何言ってんの。
    遂に頭狂いきった?」
無理矢理捻り出した蛍の非難の声に
しかし飾空は笑って、
えぇ 酷い と返した。
それからというもの飾空は
蛍の親友だと主張し続けている(蛍非公認)

こういうことがあるから
蛍は飾空の印象を改められない。
(改める気もない)
他の人間なら、飾空のことを
優しいだとか、いい人だとか、
温良だとか、人気者だとか、
善良的だとか、理想的だとか評する。
しかし、蛍は
自分が持つ印象を改められない。
それは、関わりをもつように
なってから余計に改められなくなった。

蛍は思う。
    ――こいつ、やっぱりかなりの変人だ

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