桜の季節に会いましょう
春時雨
スーパーに着くと割と空いていた。まだ1時半前というのもあってか、店員と客が同じくらいの割合で、店内を見回っていた。
夕飯の買い出しに来たのはいいが、特に献立も決まってない。来てから決めようと思ったが、かなりたくさんの食材があるため、イメージが全く湧いてこなかった。
「今夜何食べよっか?」
僕が何気なく問う。
「チャーハン!」
「さっき食べたばっかりだろ」
ほとんど人がいないため、あまり周りを気にせずに冗談を言い合えた。
スーパーの中は食品の品質を保つために寒い筈だが、笑ったり、照れたり、びっくりしているせいか、寒さはほとんど感じなかった。今自分の顔を見たら、少し赤らんでいるだろう。
「じゃあ、ジャンケンして私が勝ったらチャーハンで、蓮くんが勝ったら蓮くんの好きなのってことで」
「それは負けられないなぁ」
「文句無し一回勝負!覚悟してね!」
「望むところだ!」
二人は突然真剣な眼差しで向かい合う。
「「さいしょはぐー」」
二人は同時に、握った拳を前に突き出し、再び腰の辺りに戻す。
「「じゃんけん……」」
「「ぽん!」」
僕はパー、彼女はチョキを出していた。
「やったー!」
ジャンケンに負けたショックと昼夜連続チャーハンになってしまったことのダブルパンチで、立っているのがやっとだった。
「…せめてチャーハンの種類は変えてくれよ」
「じゃあピリ辛キムチチャーハンにしよっか。それともねばねば納豆チャーハンでもいいよぉ〜」
ニヤリと煽るようにこちらを見る。なんで負けたんだろうと後悔の念がこみ上げてくる。そして思わず溜め息をついた。
「俺納豆嫌いだからキムチチャーハンがいいな」
「好き嫌いする男の子はモテないぞぉ〜」
「納豆だけはどうしても食べれないんだ。それ以外はなんでも食べれるけど…」
「じゃあこの機会に納豆克服っていうのは……」
「結構ですっ!」
二食連続チャーハンで、しかも嫌いな納豆入りのものを食わされるとなっては身が持たない。
「お会計は5420円になります」
僕はポンと一万円札を出してすんなり会計を済ませた。
「これだけあれば二人で3日は余裕で持つね」
彼女はにこりと微笑みながら楽しそうに話しかけてきた。
買ったものといえば、だいたいチャーハンの具材になりそうなものばかりだった。卵、ハム、蟹缶、蒲鉾、ネギ、豚バラ肉ブロック、味の素まで揃っていた。作ろうと思えば他の料理も作れなくはないが、この様子だと三日間チャーハンになりそうだった。
僕は適当に『うん』と返事を返し、買ったものを袋に詰めた。
自動ドアを出て空を仰ぐと今にも降り出しそうな顔でこちらを見ていた。風も湿度を帯び、生暖かい温度で僕らの顔をかすめていった。だいぶ冬に比べたら暖かくはなったが、まだ半袖で外を出歩けるほどではない。昼間だけど薄暗い街を二人で歩く。人のいない住宅地の道はとても歩きやすくて、まるで二人だけの世界だった。
無言が続く帰り道。少し気まずい雰囲気が取り巻く中気を利かせるように彼女に一言問いかけた。
「なんか一雨降りそうだな」
彼女は一拍間を開けて『あーーー!』と声を上げて驚きながら目を丸くしてこちらを見て、
「傘、スーパーに置いてきちゃったじゃん」
「あ……」
自分で天気の話題出しといて、自分で持ってきた傘の存在を忘れるなんて普通ありえない。なんだか今日の僕はどうかしている。咲良と出会ってまだ半日くらいだが、彼女に振り回されすぎて本来の自分を何処かにおいてきてしまった。そんな気がしてならなかった。
スーパーからかなり歩いて来てしまったので、取りに戻ろうか悩んでいたその時、僕の鼻の先に雨粒が一つ空から落ちて来た。
「あのスーパーはまた今度行くと思うから傘はその時にでも……」
そう言いかけたその時、二人を夥しい数の雨粒が襲った。小走りで家に帰る二人に、手加減無しに雨が降り注ぐ。髪や顔、服や靴下を濡らしながらもその勢いを増し続ける。家に着いた時には二人とも川や海に落ちたんじゃないかと思うくらいにぐっちょり濡れていた。
「やられたな」
「やられちゃったね」
せっかくの水色のワンピースが雨に濡れて華を出してはいなかったが、濡れた布と肌がくっついてくっきりと輪郭を出していた。僕は目のやり場に困るが、彼女は自分の姿に気づいていないのか苦笑いでこちらを見ていた。玄関から耳を澄ませると止むことなく雨音が続いていた。
夕飯の買い出しに来たのはいいが、特に献立も決まってない。来てから決めようと思ったが、かなりたくさんの食材があるため、イメージが全く湧いてこなかった。
「今夜何食べよっか?」
僕が何気なく問う。
「チャーハン!」
「さっき食べたばっかりだろ」
ほとんど人がいないため、あまり周りを気にせずに冗談を言い合えた。
スーパーの中は食品の品質を保つために寒い筈だが、笑ったり、照れたり、びっくりしているせいか、寒さはほとんど感じなかった。今自分の顔を見たら、少し赤らんでいるだろう。
「じゃあ、ジャンケンして私が勝ったらチャーハンで、蓮くんが勝ったら蓮くんの好きなのってことで」
「それは負けられないなぁ」
「文句無し一回勝負!覚悟してね!」
「望むところだ!」
二人は突然真剣な眼差しで向かい合う。
「「さいしょはぐー」」
二人は同時に、握った拳を前に突き出し、再び腰の辺りに戻す。
「「じゃんけん……」」
「「ぽん!」」
僕はパー、彼女はチョキを出していた。
「やったー!」
ジャンケンに負けたショックと昼夜連続チャーハンになってしまったことのダブルパンチで、立っているのがやっとだった。
「…せめてチャーハンの種類は変えてくれよ」
「じゃあピリ辛キムチチャーハンにしよっか。それともねばねば納豆チャーハンでもいいよぉ〜」
ニヤリと煽るようにこちらを見る。なんで負けたんだろうと後悔の念がこみ上げてくる。そして思わず溜め息をついた。
「俺納豆嫌いだからキムチチャーハンがいいな」
「好き嫌いする男の子はモテないぞぉ〜」
「納豆だけはどうしても食べれないんだ。それ以外はなんでも食べれるけど…」
「じゃあこの機会に納豆克服っていうのは……」
「結構ですっ!」
二食連続チャーハンで、しかも嫌いな納豆入りのものを食わされるとなっては身が持たない。
「お会計は5420円になります」
僕はポンと一万円札を出してすんなり会計を済ませた。
「これだけあれば二人で3日は余裕で持つね」
彼女はにこりと微笑みながら楽しそうに話しかけてきた。
買ったものといえば、だいたいチャーハンの具材になりそうなものばかりだった。卵、ハム、蟹缶、蒲鉾、ネギ、豚バラ肉ブロック、味の素まで揃っていた。作ろうと思えば他の料理も作れなくはないが、この様子だと三日間チャーハンになりそうだった。
僕は適当に『うん』と返事を返し、買ったものを袋に詰めた。
自動ドアを出て空を仰ぐと今にも降り出しそうな顔でこちらを見ていた。風も湿度を帯び、生暖かい温度で僕らの顔をかすめていった。だいぶ冬に比べたら暖かくはなったが、まだ半袖で外を出歩けるほどではない。昼間だけど薄暗い街を二人で歩く。人のいない住宅地の道はとても歩きやすくて、まるで二人だけの世界だった。
無言が続く帰り道。少し気まずい雰囲気が取り巻く中気を利かせるように彼女に一言問いかけた。
「なんか一雨降りそうだな」
彼女は一拍間を開けて『あーーー!』と声を上げて驚きながら目を丸くしてこちらを見て、
「傘、スーパーに置いてきちゃったじゃん」
「あ……」
自分で天気の話題出しといて、自分で持ってきた傘の存在を忘れるなんて普通ありえない。なんだか今日の僕はどうかしている。咲良と出会ってまだ半日くらいだが、彼女に振り回されすぎて本来の自分を何処かにおいてきてしまった。そんな気がしてならなかった。
スーパーからかなり歩いて来てしまったので、取りに戻ろうか悩んでいたその時、僕の鼻の先に雨粒が一つ空から落ちて来た。
「あのスーパーはまた今度行くと思うから傘はその時にでも……」
そう言いかけたその時、二人を夥しい数の雨粒が襲った。小走りで家に帰る二人に、手加減無しに雨が降り注ぐ。髪や顔、服や靴下を濡らしながらもその勢いを増し続ける。家に着いた時には二人とも川や海に落ちたんじゃないかと思うくらいにぐっちょり濡れていた。
「やられたな」
「やられちゃったね」
せっかくの水色のワンピースが雨に濡れて華を出してはいなかったが、濡れた布と肌がくっついてくっきりと輪郭を出していた。僕は目のやり場に困るが、彼女は自分の姿に気づいていないのか苦笑いでこちらを見ていた。玄関から耳を澄ませると止むことなく雨音が続いていた。
コメント