桜の季節に会いましょう

タツヤ

子どもの頃から友達なんて一人もいなかった。母親から聞くところによると、とにかく一人遊びが好きな子供だったらしい。また絵本が好きで、母親は寝る前、僕に読み聞かせをしていたせいで、寝不足になることが多かったと。

今となっては友達のいない自分を憎く思っている。友達がいないせいでたくさん事件に巻き込まれてきた。小学6年生の時、運動会の組体操をやる機会があった。身長150センチほどしかない僕は、当然上に乗る側。二人技の練習をしていると、下の人に嫌がられていたのか肩車の状態からわざと地面に落とされ運動会の本番は左足首の骨折で一日中見学になってしまった。他の人は仲がいい友達とかとペアになってやったりしているのに。なぜ僕だけ?いつもそう思っていた。

中学校に進学して、友達を作ろうとひたすら周りの人に声をかけたが気持ち悪がられて誰も相手にしてくれなかった。またそれが逆効果で話しかけた分、いじめとなって僕に帰ってきた。机の上はゴミだらけ。上履きも『蓮』という名前の書いてある所だけをカッターで切り取られて他の部分は捨てられたりといったことがよく起こっていた。そのうち僕は他人を受け入れられないようになってしまい、中学はひっそりと勉強ばかりしていた。
そのおかげて僕は第一志望の高校に入学することができた。だが高校生になっても、友達はできずに人嫌いが治ることもなく、高校一年生の終わりを迎えてしまった。



「ただいまー」
時計を見ると2時を指していた。

誰もいない家に一人。これから春休みだというのにやりたいことも何もない。
自分のベッドで横になって考えていると眠くなって寝てしまった。

その時、ある夢を見た。

ここは....家の裏の山?奥に行くと細い坂道がある。登りきるとそこには人の手が加えられていない、広くて木漏れ日が気持ちいい頂上に着いた。その真ん中に周りの木とは比べものにならないくらい大きい桜の木が立っている。まだほんの少ししか花は開いていないけれど、たくさんの蕾が開花のじゅんびをしているようだった。

もしこの夢が正夢なら、あの場所にあの桜の木があるということか。僕は起きてからその夢を忘れぬようにメモし、明日あの場所に行ってみることを決意した。

寝てから起きてまで時間はかなり経過していたらしく、時計の針は7時を指していた。



前日に寝すぎたせいで朝の5時に目が覚めてしまった。いつも朝はギリギリまで寝ているのでこんなにも早くに起きるのは久しぶりだった。まだ肌寒い春の早朝。上には深緑色のパーカー、下には長いジーンズを着て、右手首には高校の入学祝いで母親から買ってもらった銀色の腕時計をし、白のスニーカーを履いて家をあとにした。

山を登りはじめてから5分、この服装が全く山登りに向いていないことに気づいた。
家のすぐ裏にずっと山があったのに一度も登ったことないのも変な話だ。人が特に整備などをしていない場所なので足場がとても悪い。これは今まで登らなくて正解だなと心から思った。せっかくの白いスニーカーが台無しだ。

さらに5分ほど歩くとやっと頂上に到着した。高校に入って運動なんてろくにしなかったので足が悲鳴をあげているがこの景色、昨日見た夢と全く同じ、いやそれ以上だ。
朝露がついた背丈の低い草たちは太陽の光を浴びてキラキラと輝く。そよそよと抜けていく山の風。森独特の木の匂い。なんといっても中心に立つ桜の木は夢で見たものよりも大きく見えた。
正夢って本当にあるものなのかと実に感動した。






ただひとつだけ夢とは明らかに違うものがあった。






その桜の木の下に人がいるのだ。

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