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♯影冤の人〜僕は過去で未来のキミと、二度出逢う〜

道楽もん

一縷の望み


「どうやらコモチの奴め……わしの言い付けに背いて、術を体内に取り込んだようだのぅ……全く、厄介な事をしおって……」

 安倍晴明はそう言うと深いため息と共にかぶりを振る。

「ジイさん、その言い方……コモチさんの事知ってるのか? 」

「知ってるも何も……あの『障壁』の術をコモチめに教えたのは、わしじゃ」

 つまらなそうに鼻を鳴らす晴明。

「二年程前じゃったかのぅ……白拍子しらびょうしとして全国を回っていたコモチが洛中を訪れた際、わしに師事を仰ぎに来おったのじゃ」

「二年前……」

 晴明の言葉にイザヨイの表情が強張る。

「魑魅魍魎が増え始めた頃じゃったしな……自衛の為と称して簡単な符術ふじゅつを習いにきおった。才能はあったんじゃろうな、見る間に上達していきおった」

「へぇ……じゃあ、もしかしてイザヨイさんもジイさんの弟子なの? 」

「妾の操る人形術は、幼少の頃からの鍛錬により身に付けたものじゃ」

 強張った表情のままイザヨイはつぶやく。

「じゃが、妾の扱う人形にコモチの『障壁』をすり抜ける術を施してもろうたのは晴明様じゃ」

「じゃあ……あのお札をイザヨイさんの人形に無効化して貰えれば、勝機はあるかな? 」

「ふむ……」

 ヒロキの言葉に晴明は腕組みして考える。

「それしか方法はあるまい。じゃが……あれはもう、癒着してコモチの一部になっておる。一筋縄でいかんぞ」

「やろう。近づけさえすれば、俺とコハルの攻撃は効く。……それでいいだろ? コハル」

「えっ……? 」

 急に名を呼ばれたコハルは、身体を強張らせながらヒロキの顔を見る。

「えと……何でしたっけ……? 」

「……どうした? コハル……どっか具合でも悪いのか? さっきから様子が変だぞ」

 ヒロキはそう言うとコハルに近づき、熱を測る様に彼女の額に手を当てる。

「……ひぇっ……」

「……熱は、無さそうだな」

 ヒロキの突然の行動に、コハルは顔を真っ赤にしながら慌てた様に身体を仰け反らせる。

「いえっ……何処も。ヒロキ様の言う通りにします……」

「……お、おう。んじゃ宜しく頼むぜ、イザヨイさん」

「あ……うむ、心得た」

 イザヨイはコハルに送っていた視線を外しながら、『がしゃどくろ』へと歩を進める。

「……皆、ぎこちないのは何故だろう……いてっ……」

 その場の全員を眺めながらポツリとつぶやくヒロキ。晴明は彼の後ろ頭をはたきながら、面白くなさそうに妖魔へと向かう。

「……わしは、お主のそう言う所が嫌いなんじゃ」

「……なんなんだよ……」

 ヒロキは頭をさすりながら、憮然とした表情のまま後を追う。


ーーーー


「ギャアアアアああああっ……」

「……なんか……回復してね? 」

 『がしゃどくろ』から少し離れた所で対峙したヒロキ達は、妖魔の姿に言葉を失う。
 沢山の小型妖魔を生み出して消滅したはずの右腕は元に戻り、先程ヒロキが斬りつけた足の傷もほとんどなくなっていた。

「……普遍化しておる。これは不味まずいぞ……」

「何、それ……」

 ヒロキは妖魔から目を逸らさずに晴明に尋ねる。

「……分かりやすくいえば、妖魔としての存在に馴染んできておる。『障壁』を始め力の使い方を憶え、より妖魔らしくなってきた……と言う事じゃ」

「……術だけでも厄介なのに……」

「動きも先程とは桁違いじゃ……時間をかけ過ぎたとはいえ、余りにも馴染むのが早すぎる」

 ヒロキと晴明の会話を聞いて、イザヨイは前に出る。

「……例え、先程より強くなったとてやる事は同じ……イザヨイ、参るっ」

 言うが早いか、イザヨイは手に持った木彫りの人形を空高く放り投げる。すかさず彼女の五指から伸びる細い糸が、妖魔の身体の一部を始めあらゆる所に張り巡らされ、人形に命を吹き込む。

「……行けっ」

 イザヨイは思い切り握り込んだ拳をグンッと引き下げる。宙に浮いた人形は彼女の動きに呼応するかの様に妖魔へと飛んで行く。
 
「グアあ……? 」

 『がしゃどくろ』は木彫りの人形の存在に気がつくも、小さ過ぎるそれを捉えられずに闇雲に手を振り回す。人形は上手くその手をかい潜り、みぞおちの辺りで光り輝く札の側まで近づいて行く。

「良いぞ、もう少し……」

 ヒロキは周囲に集まり始めた小型妖魔を斬りつけつつ、イザヨイに声援を送っている。彼女は唇を噛み締めながら巧みに人形を操っている。
 やがて『がしゃどくろ』が右手を大きく振りかぶろうとする動きに合わせて、イザヨイは一瞬だけ力を抜いて引き下げる。

「……届けぇっ……」

 振り子の様に反動をつけた人形は、勢いよく光る札に取り付く事に成功する。

 ……だが、人形はそのままピクリとも動かなかった。

「……どうした? イザヨイ」

 晴明は焦れた様にイザヨイに問いかける。

「……妾の力では……剥がれぬ……」

 渾身の力を込めているであろうイザヨイの腕は小刻みに震え、握り込んだ拳からは血が滴っている。

「……血が……無理するな」

 異変を感じたヒロキは、イザヨイの行為を止めるかの様に彼女の腕に手をかける。

「……しかし、この好機逃せば……」

「俺の体ごと引きずる力のあるイザヨイさんでも無理なら……別の手を考え……」

 ヒロキ達の会話を待たずして『がしゃどくろ』はみぞおちに手を伸ばす。その様子を見た晴明は焦ったように声を上げる。

「イザヨイッ、どこでもいいから斬りつけ、離脱せぃっ。奪われるぞっ」

 晴明の言葉に奥歯を噛み締めたイザヨイは、人形に石の刃物を持たせて振り上げる。

 ーーブツッ。

「……なっ……」

 突如響き渡る音と共に目を見開き、左腕を大きく振り上げるイザヨイ。同時に、刃物を持つ人形の腕がだらりと下がる。

「……くぅっ……」

「……どうしたっ……? 」

 顔色を変える晴明の問いを無視して、イザヨイは急ぎ残る右手を支えながら、人形を操作する。

 人形は垂れ下がった左腕を振り回して一度だけ札の角を切り落とすと、迫る巨大な手の骨をすり抜けて飛び上がり、イザヨイの元に帰還する。

「……ハァッ、ハァッ……すまぬ、ヒロキ様……」

「……いや……」

 イザヨイはその場に膝から崩れる様に座り込み、大量の汗を額に浮かべたままヒロキを見上げる。

「ありがとう、イザヨイさん……」

 ヒロキは一度イザヨイの頭を撫でると、『がしゃどくろ』へと目を向ける。

 その視線の先……全身を光り輝く膜で覆われた妖魔の、外気にさらされた右足を睨みつけながら、ヒロキはポツリと呟いた。








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