最強家族のまったりライフ

もちろう

43話 ダンコーツへ向けて






「クルス、忘れ物はない?」

「大丈夫だよ。着替えの服は一式"ボックス"の中に入っているよ」

「ならいいわ」

出発日の朝、俺とアマリエは玄関で屋敷の全員から見送られていた。母さんは俺が忘れ物をしないか心配なようでしきりに何度も俺に確認してきた。今の俺はいつもの服の上にメイドから渡された白い大きめのローブを羽織っている状態だ。ローブという慣れない服装なので少し動きにくいが、そこまで支障は出ていない。アマリエはいつものメイド服ではなく、動きやすそうなシュッとしたズボンに、フリルの着いた黒のドレスシャツを着ていた。

「坊っぢゃまー!行がないでぐだざいー!」

「シェーラ!落ち着きなさいっ!」

シェーラは俺を行かせまいと飛び掛からんばかりの勢いだったので、他のメイド達によって取り押さえられていた。だがそれでも執念なのか取り押さえられても尚、泣きじゃくりながら必死に俺の方へ向かおうとしていた。さすがにそんな状態のシェーラをそのままにしておけるわけがないので、俺はシェーラを落ち着かせるためにシェーラのもとへ歩み寄った。

「シェーラ」

「坊っちゃま!考え直してくださるのですねっ!」

「違うよ。軍事国家の偵察には行くよ」

シェーラはその言葉を聞くと俺が近付いてきたことで明るくなった表情から一転、一気に絶望した表情になった。
ううん、どうやったらいつものシェーラに戻ってくれるんだろう………あっ、そうだ。

「シェーラ、この前俺が言ったこと覚えてる?」

俺が三日前にシェーラに真面目に仕事をするように言ったときのことだ。

「勿論ですっ!坊っちゃまは真面目に働く私と結婚したいということですよね!?」

「う、うん?ちょっと違う気がするけど………。確かに真面目に働くシェーラはかっこいいから好きだよ。だからさ、俺がいない間もお仕事を頑張って欲しいんだ。誰も見ていなくても頑張るシェーラってかっこいいと思うんだけど」

「………………わかりました。私シェーラ、坊っちゃまが不在の間も死力を尽くして仕事に取り組みます!」

シェーラは俺がそう言うと落ち着きを取り戻したようで先ほどのような必死さはなくなった。だが何故か物凄い熱意を見せていた。
………とりあえず大丈夫かな?

「が、頑張ってね」

俺は無難に応援をしてシェーラの元から離れた。その際に周りのメイドから頭を下げられたから一応これで良かったのだろう。

「坊っちゃま、そろそろ参りましょうか」

アマリエの隣へ戻るとアマリエがそう進言してきた。

「うん、そうだね。じゃあ皆、行ってくるね!」

「気を付けてね、クルス君」

「アマリエ、坊っちゃまに絶対に危険が及ばないようにしなさいね」

「行ってらっしゃいクルス!」

「頑張って、クルス………」

「楽しんでくるのだ」

「自分の目で外の世界を見てこい!」

声を掛けてくれる皆に手を振りながらアマリエと共に歩きだす。目指すは西の軍事国家ダンコーツ。初めての遠出で不安はある。ダンコーツでトラブルに遭うかもしれない。危険な目に遭うかもしれない。だが俺は一人じゃない。ティオがいる。ノイントがいる。カリスがいる。そしてアマリエがいる。それだけで俺の中の不安は薄れていく。道はかなり遠いだろうがもう不安はない。だから俺は胸を張ってダンコーツに向けて旅立つのだ。

「あの、坊っちゃま………。意気揚々と歩いているとこ申し訳ないのですが………その………時空魔法で森の外まで転移しますので、私に掴まって頂けますか?」

…………ダンコーツまでの道は思った程遠くないのかもしれない。













《ティオがいる。ノイントがいる。カリスがいる。そして~、アマリエがいるっ!キリッ!いやあ~さすがですね~ご主人様~かっこいい~!》

『信頼してくれているのは嬉しいが、一人で空回りしているのは………ふふっ』

そうだった………。契約したせいで二人に俺の思考が筒抜けなんだっけ………。うわあああ恥ずかしいっ!俺の馬鹿っ!
醜態を晒したあと、俺はアマリエと一緒に森の外へと転移し、ダンコーツへ向けて続く街道を歩いていた。その道中、先ほどの俺の思考を覗いていたノイント達によって盛大にからかわれていた。

『マスター、安心して下さい。アマリエには思考は届いていませんから』

それ全然慰めになってないから!四人中三人にあの思考を読まれたんだよ!?

『大丈夫です。私はマスターの思考を読んだりは………ふふふっ、していません。決して、俺は胸を張って旅立つのだ、とか思っていたことなど知りません』

知ってるじゃん!くそっ、ティオまでからかう側ダークサイドへ堕ちたか。

《あれ~?ティオ~、ボク達悪者にされてるよ~?》

『おかしいですね。私達なにか悪いことしましたか?』

『していないな。ただ誰かの思考について考えていただけなんだがな』

………もういい。カリスをモフる…………。
言葉が出てこなくなった俺は、左肩にとまっているカリスの羽毛に顔を埋めて精神の安定を測った。ふふふ、カリスめ、これはお仕置きだ。今いない残りの二人の分も全部カリスにぶつけてやる。

「ふへえ~」

わふー埋もれるー。

「ぼ、坊っちゃま、大丈夫ですか?お疲れのようでしたら休みますが………」

突然首を傾けてカリスの羽毛に埋もれて変な声を出した俺にアマリエが心配して声を掛けてくる。

「大丈夫ー、落ち着いたからー」

「そ、そうですか………」

カリスの羽毛が気持ち良すぎてふわふわした気分でそう返すと、アマリエは不思議そうにしながらも引き下がった。

「それにしても誰もいないね」

森を出てから、かれこれ一時間は歩いているのだが、今のところ誰ともすれ違いもせずにいるのだ。

「この道より広い街が近くにあるので、皆そちらを使っているのでしょう。それに、この道は森に面しているため魔物と遭遇しやすいです。そのような面があるため、この道を使っている者がいないのだと思います」

「そうだったんだ」

ここより広い街道があるなら、魔物と遭遇する危険を冒してまでこの狭い街道を使うメリットはないもんね。

「え、ええと、もし魔物が出ても私が守りますから、その……あぅ……心配しないでくださいね!」

アマリエは俺に街道のことを説明したあと、俺の納得している様子を見て、何を思ったのか急に恥ずかしがりながらそう言ってきた。

「え?うん、ありがとう?」

何のことかわからなかったが、アマリエが頑張って口にした言葉だったので、一応お礼を言っておいた。

『おい、いつまで顔を埋めているつもりだ』

いつまでもモフっている俺に痺れを切らしたのかカリスが聞いてくる。
ふーんだ。ちょっとやそっとでは止めないからね。

『むう………』

「あ、言い忘れていましたが、この道をまっすぐ進むと件の広い街道へ出る分かれ道があります。今回は広い街道の方へ進むので坊っちゃまは予めフードを被っておいてください。」

「どうして?」

人通りの多いところに出るだけなのに、なんで顔を隠す必要があるんだろう?

「坊っちゃまのお顔は………目立ちますから」

理由を尋ねるとアマリエは俺の顔をちらちら見ながら答えた。
俺も鏡で見たときは顔が想像以上に整い過ぎてて驚いたけど、そんな目立つほどかな?でもアマリエが言うのならフードを被っておいた方がいいのか。

「わかった」

俺は、アマリエの指示に従ってフードを被る。フードを被るとローブの中は暑いだろうと覚悟していたのだが、不思議と中は快適な温度を保っていた。メイド達から渡されたものだから、おそらく色々な効果が付いているのだろう。
そして、しばらく歩いているとアマリエの言っていた広い街道に出る横に逸れた道が見えてきた。

「うわあ………」

横に逸れた道を進んでいくと先ほどの道の3倍以上はある広い街道に出た。街道にはちらほらと馬車や人が見え、すれ違う人達は誰も使わない街道の方から出てきた俺達を奇異の目で見つめてきた。ある者は白い鳥を肩に乗せ、白いローブで顔を隠した俺を見て首を傾げ、またある者はハイエルフであるアマリエの容姿に目が釘付けになっていた。
………あまり気持ちの良い視線じゃないな。そうだ、隠密のスキルを使えば少しは変わるかな?
周りの視線に居心地の悪くなった俺は今までメイド達に全く効果を示さなかった"隠密"のスキルを気休めのつもりで発動する。

「なっ!?あのローブを被っていた小さいやつが消えた!」

「さっきまでそこにいたのに……!」

ありゃ?凄い効果があったよ。というか驚いて足止めないでよ。余計目立つじゃん。

「何故この人達は驚いているのでしょうか?坊っちゃまは分かりますか?」

アマリエは俺が隠密のスキルを使っていることに気がつかないようで周りの反応を見て首を傾げて、"隠密"のスキルで気配を消している俺に聞いてきた。アマリエの様子からしていつもの俺と気配を消している俺で気配に差はないらしい。
だって"隠密"使っているのに気がつかない程なんだもん………。

「さあ?アマリエ、早く行こ」

「は、はい」
 
俺はアマリエの質問に惚けて、一刻も早くこの場から離れようとアマリエの手を引いて歩き出した。俺達が離れていっても、そこにいた者達が追いかけてくることはなかった。

「いっぱい人がいるね」

「これはまだ少ない方ですよ。大きい国の近くだと行列ができてしまうこともあるそうなので」

うう、想像しただけで人酔いしそう。やっぱり俺には静かな森の中が性に合っているんだろうな。

「もう日が真上に来ていますね。坊っちゃま、お昼にしましょうか」

上を見ると既に太陽が高く上っていた。

「そうだね。どこで食べようか」

「目立たないように道の端に寄って食べましょうか。あそこの木陰などよろしいかと思います」

アマリエが指した方向には周りより大きな木が一本どっしりと生えていた。木が大きいので木陰が広く、休憩にはちょうどいいところだった。

「いいね。そこにしよう」

俺達はその木陰まで向かうと、昼食の準備を始めた。といってもアマリエが準備してくれたのだが。アマリエは素早くシートを敷くと"ボックス"からメイド達が作ったであろうお弁当を取り出した。

「も、申し訳ありません坊っちゃま。椅子やテーブルもあるのですが、目立つのを避けるためにシートで我慢していただけますか?」

アマリエは俺に地面に座らせるのを申し訳なく思っているようで、そう謝ってきた。
そんなに気を遣わなくていいのに。

「全然いいよ。むしろこっちの方がピクニックしている感じで楽しいから。それより早くお弁当食べたいな」

「あ、ありがとうございます………。こ、これが坊っちゃまのお弁当です」

「ありがとうアマリエ」

お弁当の蓋を開けると中には綺麗な彩りの料理が所狭しと並んでいた。
どれも美味しそうだけど、一人で食べきれる量じゃないよ。

《そんなときはボクにお任せを~》

ノイントもお弁当を見て食べたくなったのか俺の思考を読んでウズウズしながら実体化してきた。

『勿論私も食べるぞ』

うん、一緒に食べようね。

「アマリエ、ノイントの分のフォークってある?」

「はい、どうぞ」

ノイントの分のフォークを出してもらえるか聞くと、アマリエは"ボックス"の中からフォークを一本取り出してノイントに渡した。

「ありがとうアマリエさん~」

「どういたしまして」

ノイントとは初めて話すはずだがアマリエは特に緊張することなく受け答えしていた。
俺のときは緊張するのに………。

『クルス、あの黄色の丸いやつが食べたい』

「これ?」

『あむ………これは野菜だったか』

カリスは食べた料理が野菜だと分かると露骨に残念そうな声を出した。

「野菜も食べなきゃダメだよ。それにこの野菜だって美味しいじゃん」

『私は魔物だから肉だけでも生きていけるのだ』

「好き嫌いしないの」

「ご主人様はどれが好きですか~?」

「俺はこの野菜炒めかな」

「じゃあボクも~。おお~これは美味しいですね~」

そんな感じで皆で楽しく食事をしていると数人のグループがこちらに近付いてくるのが見えた。


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