最強家族のまったりライフ

もちろう

8話 訓練したのに………

俺の母親はメイドに何かを命じると、俺を抱えて家に入り先ほど俺がいた部屋まで戻っていった。戻る途中に後ろから男の泣き叫ぶような声が聞こえたが自分では振り向けないのでよくわからない。おそらく俺が魔力操作で気絶させた男に何かしているのだろう。
……なんかごめん。俺が生かしたばかりに……。
そんな俺とは対称に俺の母親は叫び声を毛ほども気にせず先ほどの部屋まで戻ると、俺をベッドに寝かせてサボって溜まっていると思われる仕事に取りかかるために慌てて部屋を出ていった。俺はそんな忙しそうな母親を見送り、誰もいないことを確認してから盛大にため息を吐いた(まだ赤ん坊なのに)。
いやなんなのあの強さ!竜さえ倒せる暗殺者を瞬殺だよ!?エルフってこんなに強い種族だったの?

『マスター、私の能力でこの屋敷内の者を全員鑑定してみましたが、母親とメイドは種族が全員ハイエルフでした。また、戦闘力も全員が母親と同等のものを持っています。ちなみにハイエルフだからあの強さというわけではありません。彼らが規格外の強さなだけですから勘違いしないでください。通常のハイエルフはあんな近接戦闘なんてできませんよ……』

《内包している魔力量も半端ないですよ!さっきやられた人達の魔力が砂粒に見えます~……》

は?ハイエルフ?全員?
………ハイエルフって、数がすごい少ないんじゃなかった?母親がハイエルフってのも驚いたけど、なんだよ屋敷のメイド全員がハイエルフって………。
しかもみんな化け物みたいに強いらしいし………。
それに通常のハイエルフってなんだよ。この家のパワーバランス明らかにおかしいだろ!
………ホントこの家なんなんだよ。
 
考えても仕方ないし、外はもう暗いから寝よう。俺は何も見てない!聞いてない!






 


この屋敷の人間がみんな化け物じみていると知ってから1ヶ月が経ち、今俺は部屋で訓練をしている。

1ヶ月の間俺は魔力操作だけでなく、気配察知や魔力探知など動かなくてもできるスキルの訓練をしていた。
その甲斐あってか、スキルレベルがそれなりに上がった。これが今の俺のステータスだ。






クルス・レグサンド :男    0歳
種族:高位森人族ハイエルフ
状態:健康

Lv . 1 

耐久力   10/10
魔力      124/124
攻撃  5
防御  5
俊敏  5
器用  76
運     85

《スキル》

剣術Lv . 1・身体強化Lv . 1 ・気配察知Lv . 3(2up)・気配遮断Lv . 2(1up)・魔力操作Lv . Lv . 4(2up)・魔力探知Lv . 3(2up ) ・隠蔽Lv . 1 
・調教Lv . 1 ・加速Lv . 1 
・成長倍加Lv ―・神の導き手ガイドマスターLv . 1 
・スキルクリエイトLv . ―(0P)

《加護》
主神イリスの加護、魔王の加護

《称号》
転生者、神の加護を受けし者、 
魔王の息子、世界の深淵を知る者










魔力は限界まで使うと上限が上がっていくようなので、毎日限界まで使ってここまで上がったのだ。
そして魔力操作が2レベルも上がった。これにより、体内と周囲の魔力をより精密にかつ、スムーズに操作できるようになった。また、精密な操作をしていくうちに器用の数値も上がっていった。器用の数値は上級の魔法を使う使う上で必要な数値なので、これからも上げていきたい。
気配遮断も使ってみたのだが、母親たちには何事もなくすぐに見つかってしまうので、発動しているか心配だったが、レベルが上がっているようで安心した。
魔力探知とは、自身を中心に魔力を円状に薄く伸ばし、範囲内の魔力をもつものを探知するスキルで、魔力操作を使うように使ってみると、上手くできた。
しかし、この屋敷内で魔力探知を使ってもなんの反応もなかった。
気配察知を使ったときも同様だった。母親が部屋に入ってきたときに使っているので、人がいないわけではないのにだ。
このことについてティオに聞いてみると、

『全員が高レベルの気配遮断をもっていますね。それに体内で魔力操作をして外に魔力が漏れないようにしています。
全員魔力操作のスキルこそ持っていないようですが、体内の魔力操作の技術はおそらくマスター以上です……。』

とのことだ。ここでも家が化け物じみていることを思い知らされた。
ティオ曰く、俺のスキルレベルがもっと上がれば探知できるようになるかもだそうだ。………レベルが上がっても探知することすら怪しいのかよ……。

それに称号の"世界の深淵を知る者"って……それ絶対俺の母親とメイドの戦闘見たからだよね!世界は広いよ!
あの二人強すぎるからな。でも、あんな強いのがこの屋敷にはたくさんいるのか………。
なんてとこに生まれたんだよ。

だがティオによると、こんな赤ん坊の状態の俺でも、人族の冒険者と戦えるくらいには強いそうだ。……いや、素直に喜べないよ…。

俺がベッドの上でそんな感慨に耽っていると、ドアの開く音がした。相変わらず気配も魔力も全く感じない。

また母親が来たのかと思っていると今回は母親とあのメイドの他に俺を見つめる者が二人ほどいた。どちらも5歳くらいの容姿の少女だった。
━━この子達も母親同様、気配も魔力も感じないのだが何者だろうか………。
━━一人は灰色の髪をボブカットにした暗褐色の瞳の勝ち気な印象の少女だ。
もう一人は漆黒の髪をミディアムストレートにした金色の瞳の大人しそうな感じの少女だった。
どちらの少女も将来とても美人になると思わせる整った顔立ちだ。

「クルスちゃん、この子達はあなたのお姉ちゃんよ。二人とも、挨拶しなさい。」

そう俺の母親がいうと、まず灰髪の勝ち気な印象の少女が

「私はレレナよ!よろしくね!クルス!」

とても元気いっぱいに自己紹介をしてくれた。
それに続いて大人しそうな少女の方も自己紹介してくれた。。

「ルーナよ………。よろしくね…。」

小さな声でそう微笑みかけてくれた。
普通なら言葉も理解できないであろう赤ん坊に一生懸命に自己紹介をしている二人の姿は見ていて微笑ましいかった。
それにしても、この二人が俺の姉さんか。
俺の母親と全然似てないな。なんでだ?
まあ、そのうちわかるか。

その後、自分たちの紹介を終えた姉さんたちに俺は抱っこされた。
俺を最初に抱っこしたレレナ姉さんはしばらく俺を見つめたあと、頬をスリスリし始めた。何分かそうしたあと、満足したのか俺をルーナ姉さんに渡した。すると、ルーナ姉さんも俺のことをジーッと見つめ、頬をスリスリし始めた。
ジーッと見つめては頬をスリスリするということをレレナ姉さんとルーナ姉さんで交互繰り返され、さらに途中から俺の母親とあのメイドもそれに加わってきて、俺は訳がわからずされるがままになっていた。

ジーッと見つめては頬をスリスリするというよく分からないことが終わり、俺は漸く解放された。
そのあとみんなで外に行こうということになり、外に出た。日光には相変わらず慣れず、すぐに目を瞑った。
しばらくそうして目を開けると、まだ眩しいがだんだんと慣れてきたので、辺りを見回せば代わり映えしない鬱蒼と繁る森が目の前にあった。

ふと自分の住んでいる家が気になって振り向くと、そこには前世にあったショッピングモールもかくやというほどの少し和風っぽい豪邸が建っていた。確かに移動中、廊下長いなと思っていたけどここまでとは……。

俺達はその豪邸の近くにあるベンチに全員腰かけた。
……そう、全員なのだ…。おい!メイド!お前もか!!普通メイドって主と一緒のところに座るのって遠慮するんじゃないのか!?こいつ普通に腰かけちゃってるよ。って……まあ、俺がどうこういうのも変だし俺の母親も注意しないからいいのかな。

「シェーラ、何かお茶を持ってきてくれるかしら?」

「かしこまりました。」

メイドの名前はシェーラ というのか。
母親がそう言うとあのメイド……シェーラはすぐに椅子から立ち上がり、お茶を取りに屋敷の中へ戻っていった。
それから、少しすると次は母親が、

「レレナ、ルーナ。私はお手洗いに行ってくるから、クルスのことお願いね。」

「わかったわ!」

「うん……。わかったわ……。」

母親はそれを聞くと屋敷に戻っていった。そして残された俺達はというと、

「ねえルーナ、何しよう。」

「……………どうしよう。」

悩んでいた。
そりゃ赤ん坊と一緒にできる遊びなんて限られてるもんな。俺は別にこのままでも良いのだが………とぼんやりと考えていると、

《ご主人様~。森から何かがこちらに向かって来てますよ~。》

ノイントの言った通り、目の前の森から俺達だけになったのを見計らったかように、前回襲撃してきた黒づくめの男達と同じような格好の者達が10人ほど現れた。
そして黒づくめ達が、全員出てくるとリーダーのような者が指示を出した。

「レグサンドの子供を人質としてとらえろ!」
 
声からして男性のようだ
リーダーが号令をかけると、周りの黒づくめが一斉に襲いかかってきた。
だが、今は子供だけであの化け物じみている二人がいない。これはまずいと思っていると、

「ルーナ、私が行くわ。クルスをお願いね。」

レレナ姉さんが一人で行くと言う。危険なんじゃと思ったが止める術がないので、ルーナ姉さんが止めてくれるだろうと考えて、ルーナ姉さんの言葉を待つ。だが、

「うん……。頑張ってお姉ちゃん。」

まるでおつかいに行くのを見送るかのような調子で応援していた。
……大丈夫なのか。
そう思っているうちにレレナ姉さんは黒づくめが走ってくる方へ歩いていってしまった。
自ら歩いてくるレレナ姉さんに黒づくめ達が飛びかかろうとしているとき、俺はあることを思い出した。


━━━そういえば俺のいる部屋に入ってきたとき、レレナ姉さんもルーナ姉さんも気配も魔力も感じなかったなぁ。あれって化け物みたいなメイドと母親も使ってた技術だったよな………ということは━━


俺が思った通り、今まさにレレナ姉さんに飛びかかろうとしていた黒づくめたちは、次の瞬間、全員の首から上が消えた……。いや、消えたというのは語弊がある。全員の首から上が弾け飛んだというのが正しいだろう。
その証拠にレレナ姉さんの周りは血の海になっている。
その場に佇んでいるレレナ姉さんの様子を確認してみると、レレナ姉さんの顔は口元が三日月に裂け、犬歯が牙のように伸びていた。瞳は先ほどの暗褐色ではなく、鮮血のように紅く染まり、爛々と輝きを放っていた。あれ、なんでレレナ姉さんの瞳が紅いんだ?

『マスター、おそらく彼女はヴァンパイアです。血を見たときに瞳が紅くなり、牙が生えるのはヴァンパイアの特徴です。』

なんだと………レレナ姉さんはヴァンパイアだったのか。…ということはルーナ姉さんも……。
俺はそう思いルーナ姉さんの方へ目をやると案の定、ルーナ姉さんも牙が生え、金の双貌が深紅に染まっていた。

レレナ姉さんの方へ視線を戻すと、レレナ姉さんは指示を出していた黒づくめの男に狙いを定めていた。

男は先ほど見せられた戦闘で怖じ気づいたようで、レレナ姉さんへ背を向けて走り出した。そんな黒づくめの男をレレナ姉さんが追いかける前に、先ほどまで俺を抱えて観戦していたルーナ姉さんが何か唱えると、一条の閃光がルーナ姉さんから男へ向けて放たれた。すると、その閃光は男へ追いつき、その閃光が男に触れた瞬間、男は血も流さず塵と化した。


……えええええええええ!?

ちょっと待って………。
ティオさんや、あの黒づくめの人達の強さは如何ほどなのでしょうか。

『あの者たちは前回襲撃してきた者達と同じかそれ以上の実力がありました。』

この子達は本当に何者なの!?あ、ヴァンパイアか。違う!そうじゃなくて!
自分が言うのも変だけど、こんな小さな子達でも、この強さか。
俺、1ヶ月以上真面目に訓練してきたのに………。自信なくなってきたな。

『ふふっ、まあ、マスターはまだ赤ん坊ですから』

《ですから~》

うるさいっ!

いつか追い抜いてやるっ!

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