唯一の現実逃避がVRMMOでした。
第四話『チュートリアル』
「それではまず、このゲームについてで、〈ALO〉は五感が楽しめ______」
そこでは、アシュリがゲームについてや、初期スポーン地点の街についてとかをエアースクリーンと照らし合わせてわかりやすく説明してくれた。
俺が公式サイトで地図を見たときに考察していたのとほとんど変わりなく、街は大きな城壁で囲まれていて、街の最北端には国王が住む城があり、最南端にはコンクリート造りの大きな冒険者ギルドと続き、コロシアムがある。
実際行ってみて説明するのが一番わかりやすいので、まだ、ある程度の想像で構わない。
そしてここからが初耳ゾーン。
「街にいる現実世界に『身体』を持たない人々はAIなので年を取りますが、このゲームでは基本プレイヤーは年を取りません」
「まあ、ゲームだから当たり前なんじゃないの?」
プレイヤーが年を取るゲームなんてそうそう聞かない。
しかも、やり込み要素が高く、なおかつ終わりがなく永遠に遊べるゲームで年を取るシステムがあったら、間違いなく理にかなってない。
だから、このゲームにおいてプレイヤーが年を取るシステムはなくて当たり前……なはず。
しかし、アシュリが言っていた『基本』っていうのが気になる。
「基本年は取りません……が、ここは〈ALO〉ですよ?」
意味ありげな感じで問うてきたアシュリ……ん?待てよ……。
俺が今から遊ぼうとしている世界は〈ALO〉五感が楽しめるフルダイブ型VRMMOで、現実世界でできることはほとんどできてしまう。
いや、現実世界でもできないことがたくさんできてしまうゲームが〈ALO〉。
俺は、スマホで見た〈ALO〉のニュースの記事を思い浮かべてる。
現実世界でもできないことがたくさんできてしまう……つまり、『第二の発展した現実世界』と言っても通じる。
「あ!」
どうしても外れない知恵の輪が急にとれたように、唐突に俺の頭の中の謎は解けていった。
つまり、このゲーム〈結婚〉ができる。
そして、その夫婦が子供を産む(現実世界でできることはほとんどできてしまう上に、現実世界でもできないことですらできてしまうということは、出産は可、なはず)。
しかし、プレイヤーが年を取らない設定だったら、ゲーム内で生まれてきた子供は現実世界で『身体』を持たないから、AI。
AIは年を取るとアシュリが言っていたので、AIである子供がすくすく成長していったら、夫婦はいずれか自分の子供に年を越されてしまう。
これはあってはならない。
「そういうことです」
またしても俺の心を読み取ったかの如くアシュリは端的にそう言う。
「ですが、子供を産んだからって強制的に年を取るなんてことはありません」
「そしたら……だって」
アシュリが数歩俺の方に近づいて「言いたいことは分かります……ですが」と、人差し指を立てて説明してくれた。
「運営は『強制』が嫌いなのです。今まで私が聞いてきた話の中に年を取らないで産んだ子供を育てるっていうのは一度も聞いたことはないのですが、そういうこともあるってことなのです」
最後の部分だけすごく端的にまとめているが、まあ確かにそう言われればそうなのかな。
「ここからは私の個人的な見解なのですが、生まれてきた子供が自分と同じくらいの年まで育てて、そこから自分も子供と一緒に育ちたいっていう人もいるかもしれません」
あー、なるほど。
そういう発想もあったのか。
それだったら納得がいく。
「なので、デフォルト設定では年を取らないようになっていますが、ONにすれば年を取るようになります。年を戻すことはできませんが、またOFFにすることも可能です。ちなみに相手が承諾すれば現実世界での相手の実年齢を確認することもできます。ここは平等にしなきゃいけないので、自分も相手に実年齢を必ず教えなきゃいけないのですが」
「なるほど、確かに同い年くらいの仲間だと思ってたのに、リアルがおじさんとかだったら嫌だしね」
「そういうことです。年を取ることについては聞きたいこととかなんかありますか?」
「あ、一つ気になることがあるんだけど、年を取る設定をONにすればいずれかプレイヤーは死ぬの?」
「はい、80歳で死ぬようになってます。ですが、〈ALO〉は現実世界と並行して時間が進んでいくので、若いプレイヤーは死ぬまでに結構な時間がかかります」
80歳と言えば日本の平均寿命をもとに設定したのか。
っていうか80歳で死ぬってことは、その後ってどうなんの?
もしかして、天国でハーレムイベントとか?
えへへ、それだったら今から年齢の設定を17歳から79歳に変更してもらおっかな。
「そんなわけないに決まってるじゃないですか」
ですよね~、ってまた俺の心の中を……もしかしてアシュリって人の心を読む能力でも持っていたり?
「そうですよ。まだレベル2の『テレパシー』というAランクの能力で、相手の心を読む。また、人の脳に言葉を発さなくても何か伝えることができます。この能力の場合レベルが高ければ高いほど相手の心を読む距離と、相手に何かを伝える距離が長くなります。最大レベルは10です」
「固有能力か……俺もあるのかな?」
「あるというより、ゲームが始まればすでに備わってます。ランクで分けるとD~Sランクで、Sランクは1万人に1人、Aランクは1000人に1人、Bランクは100人に1人、Cランクは10人に1人、Dランクは論外といった形です」
論外って……そんな言い方しなくても……もしもこれで俺がDランクだったら……。
しかもアシュリは1000人の1人に選ばれたってことか……。
「ごめんなさい。でも相当な凶運じゃない限りDランクにはなりません」
この流れ危ない……!
本当にDランクになってしまいかねないので、話を逸らそうと違う話題を……。
「あっ、そうだ。Sランクってどういう能力なの?」
「わたしもまだ実際に見たことはないのですが、Sランクは通称『One Only Ability』と呼ばれています」
「わんおんりーあびりてぃー?」
「はい。この世界で一つしかない能力で、Dランクの能力は同じ能力がたくさんありますが、だんだんランクが上がってくとその数も減っていき、Sランクは同じ能力が存在しないのです」
「なるほど……Sランクか……」
俺のは無縁の話をされてもって感じだが、いずれSランクというものを見てみたいものだ。
「わたしもです」
「あの~、その能力乱用するのやめてもらえます?」
「すみません。この能力癖になるので、つい」
そう謝罪をされたものの、またすぐ使うに違いない。
「もう使いませんよ」
ほら、言った矢先から。
「あ……そうだ!話が逸れてましたね、えーと……あ、死後は、また新たにアバター作成からやり直すことができます」
なんだ……天国でハーレムイベントじゃないのか。
「ちなみに80歳になって死ぬ以外に新たにアバター作成をすることはできません」
「新たにヘッドギアを買えば?」
「無理です」
即答だ。
「トウさんが現実世界でヘッドギアを装着して起動した瞬間から、トウさんの情報はすべて運営によって厳重に保護されていて、仮にもう一度ヘッドギアを買って初めからやり直そうとしても、以前に登録されていた情報と一致してしまうので、同じアバターでログインしてしまいます」
じゃあ、あの真っ白い空間に来るときの落ちる演出は、その間に俺の情報を搾取していたってことか。
ものの数秒で俺の情報を隅々まで抜き取る運営マジリスペクトっすね。
脱帽ですわ。
「ほかに質問はありますか?」
「大丈夫かな」
そんなこんなで話は進んでいき___
「次にこの世界のお金についてで、チュートリアルが終わると最初から1万バールの所持金を有していることになるんです。ちなみに『バール』とは〈ALO〉全世界共通通貨です。基本名前が『バール』ってだけで『1バール』と『1円』同価値なのです。それに伴い、基本物の価値は現実世界と変わりません。剣とか盾とか現実世界では珍しい特殊な物の値段はバラバラですが、高いのだと何十万、何百万バールもする武器も売っています」
「ってことは最初の1万バールで、冒険がしたい人は装備を整えたり、この世界で普通に生活を楽しみたい人は生活用品を買ったりできるってことか」
最初からお金が無いと強制で最初からクエストやバイトをする羽目になってしまう。
運営は強制嫌いだもんね。
「話を進めますね」
「うん」
「この世界では様々なモンスターが出現します。モンスターはレベルごとに割り振られていて最大が999で、これに伴ってプレイヤーも最大レベルが999になっています。今現時点でレベル999はいません。それどころか未だに100に達しているプレイヤーすらいません」
「ちなみにアシュリはレベル何なの?」
「わたしはですね……少しお待ちください」
そう言うとアシュリは右手首についているリングのボタンを押すと、何やら操作をし始めた。
「わたしもあまり気にしてなかったので覚えてないんですよね…………あった。えーと私の現時点のレベルは32ですね」
32……それが高いのかわからないが、最大レベルでも100に達していないということは、それなりに戦えるということだろうか。レベルの上がり具合にもよるしね。
「ちなみにこの世界で一番レベルが高いプレイヤーは、レベル89の『セレン』っていうプレイヤーらしいですね」
実装日から約四か月がたった今でレベル89って、実際上がり具合がどんな感じかわからないが、ようするに〈ALO〉最強プレイヤーなのだろう。
でも、名前的に女性プレイヤーか?
このゲームでネカマは不可能なので恐らくそうだろう。
どんな感じなんだろう……。
やっぱり、全身を鎧で身を包んでいて、右手には剣、左手には盾、そして顔は美しく、髪をなびかせて戦う姿はまるで___
「トウさん。妄想はほどほどに。あと、セレンさんは女性ですが、容姿の方は黒いローブのようなものを羽織っており、顔はそのフードの影になっていて、ハッキリ見た方はいないみたいです」
自分の姿を見られたくないってことは、ギルドメンバーの誘いがきたときとか断ったってことか。
それにしてもソロプレイね……。
でも、ランクが高いのは納得ができる。
メンバーがいたほうが確実にモンスター討伐の効率は良いが、その分メンバーが多いほど経験値は山分けだ。一方ソロプレイはその反対で、効率は悪いが、経験値は一人占めできる。
「話を進めると、レベルが上がっていくと、ステータスも伸びていき、そのステータスの項目は、【攻撃力】【防御力】【素早さ】【体力】【魔力】【MP】の六つで構成されています。初期ステータスは人によってバラバラですが、平均30を超えてれば、まあ普通ですね……はい」
その平均値超えてなさそうですごい不安なんだけど……。
「次に魔法についてですけど、魔法の種類はざっと10万種類ほどあるとされています。魔法にはレベルがあり1~10までで区分されていて、レベルが高いほど習得が難しいです。レベル1とかの魔法は一人でも本に書いてある通りやればできます。ちなみに、レベル1の魔法でも使い込んでいけばその魔法でもかなり強い技とかを繰り出すことができるので、レベル1の魔法だからって弱いなんてことはありません」
なるほど、その辺はしっかり運営が調整して作り込んでいるっぽいな。
でも、片方の手に剣をもってもう片方の手から攻撃魔法を繰り出すってスゲーかっこいいかも。
街でも話題を呼んで、『剣と魔法を使いこなす冒険者トウ。その剣先を見た者は時すでに遅し、コンマ0.01秒で体を真っ二つにされて、終いにはレベル10の全破壊によって塵となって風に飛ばされ、その衝撃は街一つに巨大なくぼみを開けてしまうと言われてる。そこでつけられた二つ名は___』
「あの~、そろそろ話し進めていいですか?」
妄想に耽っていた俺に、アシュリが俺の顔を覗いてそう言った。
いいところだったのに!
「次は、痛覚と衝撃についてです。簡単にまとめると、相手からの攻撃とかを受けても、痛みは感じませんが、衝撃はあります」
「まあ、わざわざ楽しむための娯楽であるゲームをやるのに痛みなんか感じたら、誰もやりたがらないもんね。ってことは衝撃は、バトルのリアリティさとかをより味わえるためにあるってことでいいのかな」
「まあ、そんな感じですかね」
でも、実際ゲームの世界での衝撃ってどうなんだろう。
まあ、それもまた始まったら色々やってみるか。
「ちなみに、窒息系でも苦しさはなく、HPがだんだん減ってきたら視界がだんだん赤くなっていくようになっていきます」
「なるほど」
でも、海底探索で呼吸を長く続けられるポーションとかなんかあればいいんだが。
って、俺そもそも〈ALO〉で何をしようか決めてない!
まあ運営も何でもできるのがALOとか言ってるけど、固有魔法のこととか聞いてると、実際は冒険、バトルをメインにこのゲームを作ったんだろうな、きっと。
「チュートリアルラストスパートです!」
急に意気揚々に張り切り出したアシュリだが、俺もそのテンションにワクワクしてくる。
「最後は、実践型のチュートリアルです」
そう言われると手には剣が現れ、目の前にわウルフが現れ、ウルフの頭上にはHPバーがあり、今は満タンの緑を表している。
剣にもずっしりとした感覚があり、しかっりこの世界にも重量という概念があるみたいだ。
「まずは、止まっている敵を倒してみよう!」
そう言われウルフに向かって走り出す。
10歩ほど走り、ウルフとの距離が3メートルほどになったところで剣を振り上げ、頭上めがけて剣を振り下ろした。
ウルフは真っ二つになり、HPバーが緑から黄色、黄色から赤、そして赤から何もなくなって、ウルフは光となって消えた。
「お見事です!止まっている敵とはいえいい動きでした」
そして順調にこなしていき、次は動くウルフ、攻撃をしてくるウルフ、最後に群れで攻撃してくるウルフを相手にして難なくクリアすることができた。
「先程倒したウルフからはチュートリアルなので経験値や報酬はもらえません。そして、これで全チュートリアルが終わりです!お疲れ様でした!」
「うん!ありがとう!アシュリのおかげでスラスラ頭に入っていってめっちゃわかりやすかった!本当にありがとう」
「あっ……、あの…………その…、もし……よか…」
急にアシュリは顔を赤くして、下を俯き両手の人差し指同士をクルクル回しながら何か言ってきた。
「ん?なに?声が小さくて聞こえないよ」
そして、両手をグッと握って意を決した様子のアシュリは、顔を赤くしたまんま俺の目をしっかりと見て叫んだ。
「わたしとフレンドになってくだしゃい!!!」
思いっきり噛んでますよ。アシュリさん。
俺の心を読んで自分が噛んでしまったことを思われてることに、さらに顔を赤くする。
だが、俺となってかこっちから願いたいことだ。相談できる相手がいるととても心強い。
「もちろんいいよ」
なので、そうアシュリに微笑みかけて優しく言った。
フレンド登録を行い、後はアシュリが言葉を唱えたら俺は〈ALO〉の世界にスポーンする。
「それじゃあ、何か困ったこととかあったらわたしに連絡ください」
「ああ、わかった」
「それじゃあ……」
アシュリが一呼吸して、
「プレイヤー『トウ』を〈ALO〉の世界に転送する!」
唱え終わったアシュリは、俺の方を見て笑顔で手を振っていて、その瞬間景色が切り替わった。
そこでは、アシュリがゲームについてや、初期スポーン地点の街についてとかをエアースクリーンと照らし合わせてわかりやすく説明してくれた。
俺が公式サイトで地図を見たときに考察していたのとほとんど変わりなく、街は大きな城壁で囲まれていて、街の最北端には国王が住む城があり、最南端にはコンクリート造りの大きな冒険者ギルドと続き、コロシアムがある。
実際行ってみて説明するのが一番わかりやすいので、まだ、ある程度の想像で構わない。
そしてここからが初耳ゾーン。
「街にいる現実世界に『身体』を持たない人々はAIなので年を取りますが、このゲームでは基本プレイヤーは年を取りません」
「まあ、ゲームだから当たり前なんじゃないの?」
プレイヤーが年を取るゲームなんてそうそう聞かない。
しかも、やり込み要素が高く、なおかつ終わりがなく永遠に遊べるゲームで年を取るシステムがあったら、間違いなく理にかなってない。
だから、このゲームにおいてプレイヤーが年を取るシステムはなくて当たり前……なはず。
しかし、アシュリが言っていた『基本』っていうのが気になる。
「基本年は取りません……が、ここは〈ALO〉ですよ?」
意味ありげな感じで問うてきたアシュリ……ん?待てよ……。
俺が今から遊ぼうとしている世界は〈ALO〉五感が楽しめるフルダイブ型VRMMOで、現実世界でできることはほとんどできてしまう。
いや、現実世界でもできないことがたくさんできてしまうゲームが〈ALO〉。
俺は、スマホで見た〈ALO〉のニュースの記事を思い浮かべてる。
現実世界でもできないことがたくさんできてしまう……つまり、『第二の発展した現実世界』と言っても通じる。
「あ!」
どうしても外れない知恵の輪が急にとれたように、唐突に俺の頭の中の謎は解けていった。
つまり、このゲーム〈結婚〉ができる。
そして、その夫婦が子供を産む(現実世界でできることはほとんどできてしまう上に、現実世界でもできないことですらできてしまうということは、出産は可、なはず)。
しかし、プレイヤーが年を取らない設定だったら、ゲーム内で生まれてきた子供は現実世界で『身体』を持たないから、AI。
AIは年を取るとアシュリが言っていたので、AIである子供がすくすく成長していったら、夫婦はいずれか自分の子供に年を越されてしまう。
これはあってはならない。
「そういうことです」
またしても俺の心を読み取ったかの如くアシュリは端的にそう言う。
「ですが、子供を産んだからって強制的に年を取るなんてことはありません」
「そしたら……だって」
アシュリが数歩俺の方に近づいて「言いたいことは分かります……ですが」と、人差し指を立てて説明してくれた。
「運営は『強制』が嫌いなのです。今まで私が聞いてきた話の中に年を取らないで産んだ子供を育てるっていうのは一度も聞いたことはないのですが、そういうこともあるってことなのです」
最後の部分だけすごく端的にまとめているが、まあ確かにそう言われればそうなのかな。
「ここからは私の個人的な見解なのですが、生まれてきた子供が自分と同じくらいの年まで育てて、そこから自分も子供と一緒に育ちたいっていう人もいるかもしれません」
あー、なるほど。
そういう発想もあったのか。
それだったら納得がいく。
「なので、デフォルト設定では年を取らないようになっていますが、ONにすれば年を取るようになります。年を戻すことはできませんが、またOFFにすることも可能です。ちなみに相手が承諾すれば現実世界での相手の実年齢を確認することもできます。ここは平等にしなきゃいけないので、自分も相手に実年齢を必ず教えなきゃいけないのですが」
「なるほど、確かに同い年くらいの仲間だと思ってたのに、リアルがおじさんとかだったら嫌だしね」
「そういうことです。年を取ることについては聞きたいこととかなんかありますか?」
「あ、一つ気になることがあるんだけど、年を取る設定をONにすればいずれかプレイヤーは死ぬの?」
「はい、80歳で死ぬようになってます。ですが、〈ALO〉は現実世界と並行して時間が進んでいくので、若いプレイヤーは死ぬまでに結構な時間がかかります」
80歳と言えば日本の平均寿命をもとに設定したのか。
っていうか80歳で死ぬってことは、その後ってどうなんの?
もしかして、天国でハーレムイベントとか?
えへへ、それだったら今から年齢の設定を17歳から79歳に変更してもらおっかな。
「そんなわけないに決まってるじゃないですか」
ですよね~、ってまた俺の心の中を……もしかしてアシュリって人の心を読む能力でも持っていたり?
「そうですよ。まだレベル2の『テレパシー』というAランクの能力で、相手の心を読む。また、人の脳に言葉を発さなくても何か伝えることができます。この能力の場合レベルが高ければ高いほど相手の心を読む距離と、相手に何かを伝える距離が長くなります。最大レベルは10です」
「固有能力か……俺もあるのかな?」
「あるというより、ゲームが始まればすでに備わってます。ランクで分けるとD~Sランクで、Sランクは1万人に1人、Aランクは1000人に1人、Bランクは100人に1人、Cランクは10人に1人、Dランクは論外といった形です」
論外って……そんな言い方しなくても……もしもこれで俺がDランクだったら……。
しかもアシュリは1000人の1人に選ばれたってことか……。
「ごめんなさい。でも相当な凶運じゃない限りDランクにはなりません」
この流れ危ない……!
本当にDランクになってしまいかねないので、話を逸らそうと違う話題を……。
「あっ、そうだ。Sランクってどういう能力なの?」
「わたしもまだ実際に見たことはないのですが、Sランクは通称『One Only Ability』と呼ばれています」
「わんおんりーあびりてぃー?」
「はい。この世界で一つしかない能力で、Dランクの能力は同じ能力がたくさんありますが、だんだんランクが上がってくとその数も減っていき、Sランクは同じ能力が存在しないのです」
「なるほど……Sランクか……」
俺のは無縁の話をされてもって感じだが、いずれSランクというものを見てみたいものだ。
「わたしもです」
「あの~、その能力乱用するのやめてもらえます?」
「すみません。この能力癖になるので、つい」
そう謝罪をされたものの、またすぐ使うに違いない。
「もう使いませんよ」
ほら、言った矢先から。
「あ……そうだ!話が逸れてましたね、えーと……あ、死後は、また新たにアバター作成からやり直すことができます」
なんだ……天国でハーレムイベントじゃないのか。
「ちなみに80歳になって死ぬ以外に新たにアバター作成をすることはできません」
「新たにヘッドギアを買えば?」
「無理です」
即答だ。
「トウさんが現実世界でヘッドギアを装着して起動した瞬間から、トウさんの情報はすべて運営によって厳重に保護されていて、仮にもう一度ヘッドギアを買って初めからやり直そうとしても、以前に登録されていた情報と一致してしまうので、同じアバターでログインしてしまいます」
じゃあ、あの真っ白い空間に来るときの落ちる演出は、その間に俺の情報を搾取していたってことか。
ものの数秒で俺の情報を隅々まで抜き取る運営マジリスペクトっすね。
脱帽ですわ。
「ほかに質問はありますか?」
「大丈夫かな」
そんなこんなで話は進んでいき___
「次にこの世界のお金についてで、チュートリアルが終わると最初から1万バールの所持金を有していることになるんです。ちなみに『バール』とは〈ALO〉全世界共通通貨です。基本名前が『バール』ってだけで『1バール』と『1円』同価値なのです。それに伴い、基本物の価値は現実世界と変わりません。剣とか盾とか現実世界では珍しい特殊な物の値段はバラバラですが、高いのだと何十万、何百万バールもする武器も売っています」
「ってことは最初の1万バールで、冒険がしたい人は装備を整えたり、この世界で普通に生活を楽しみたい人は生活用品を買ったりできるってことか」
最初からお金が無いと強制で最初からクエストやバイトをする羽目になってしまう。
運営は強制嫌いだもんね。
「話を進めますね」
「うん」
「この世界では様々なモンスターが出現します。モンスターはレベルごとに割り振られていて最大が999で、これに伴ってプレイヤーも最大レベルが999になっています。今現時点でレベル999はいません。それどころか未だに100に達しているプレイヤーすらいません」
「ちなみにアシュリはレベル何なの?」
「わたしはですね……少しお待ちください」
そう言うとアシュリは右手首についているリングのボタンを押すと、何やら操作をし始めた。
「わたしもあまり気にしてなかったので覚えてないんですよね…………あった。えーと私の現時点のレベルは32ですね」
32……それが高いのかわからないが、最大レベルでも100に達していないということは、それなりに戦えるということだろうか。レベルの上がり具合にもよるしね。
「ちなみにこの世界で一番レベルが高いプレイヤーは、レベル89の『セレン』っていうプレイヤーらしいですね」
実装日から約四か月がたった今でレベル89って、実際上がり具合がどんな感じかわからないが、ようするに〈ALO〉最強プレイヤーなのだろう。
でも、名前的に女性プレイヤーか?
このゲームでネカマは不可能なので恐らくそうだろう。
どんな感じなんだろう……。
やっぱり、全身を鎧で身を包んでいて、右手には剣、左手には盾、そして顔は美しく、髪をなびかせて戦う姿はまるで___
「トウさん。妄想はほどほどに。あと、セレンさんは女性ですが、容姿の方は黒いローブのようなものを羽織っており、顔はそのフードの影になっていて、ハッキリ見た方はいないみたいです」
自分の姿を見られたくないってことは、ギルドメンバーの誘いがきたときとか断ったってことか。
それにしてもソロプレイね……。
でも、ランクが高いのは納得ができる。
メンバーがいたほうが確実にモンスター討伐の効率は良いが、その分メンバーが多いほど経験値は山分けだ。一方ソロプレイはその反対で、効率は悪いが、経験値は一人占めできる。
「話を進めると、レベルが上がっていくと、ステータスも伸びていき、そのステータスの項目は、【攻撃力】【防御力】【素早さ】【体力】【魔力】【MP】の六つで構成されています。初期ステータスは人によってバラバラですが、平均30を超えてれば、まあ普通ですね……はい」
その平均値超えてなさそうですごい不安なんだけど……。
「次に魔法についてですけど、魔法の種類はざっと10万種類ほどあるとされています。魔法にはレベルがあり1~10までで区分されていて、レベルが高いほど習得が難しいです。レベル1とかの魔法は一人でも本に書いてある通りやればできます。ちなみに、レベル1の魔法でも使い込んでいけばその魔法でもかなり強い技とかを繰り出すことができるので、レベル1の魔法だからって弱いなんてことはありません」
なるほど、その辺はしっかり運営が調整して作り込んでいるっぽいな。
でも、片方の手に剣をもってもう片方の手から攻撃魔法を繰り出すってスゲーかっこいいかも。
街でも話題を呼んで、『剣と魔法を使いこなす冒険者トウ。その剣先を見た者は時すでに遅し、コンマ0.01秒で体を真っ二つにされて、終いにはレベル10の全破壊によって塵となって風に飛ばされ、その衝撃は街一つに巨大なくぼみを開けてしまうと言われてる。そこでつけられた二つ名は___』
「あの~、そろそろ話し進めていいですか?」
妄想に耽っていた俺に、アシュリが俺の顔を覗いてそう言った。
いいところだったのに!
「次は、痛覚と衝撃についてです。簡単にまとめると、相手からの攻撃とかを受けても、痛みは感じませんが、衝撃はあります」
「まあ、わざわざ楽しむための娯楽であるゲームをやるのに痛みなんか感じたら、誰もやりたがらないもんね。ってことは衝撃は、バトルのリアリティさとかをより味わえるためにあるってことでいいのかな」
「まあ、そんな感じですかね」
でも、実際ゲームの世界での衝撃ってどうなんだろう。
まあ、それもまた始まったら色々やってみるか。
「ちなみに、窒息系でも苦しさはなく、HPがだんだん減ってきたら視界がだんだん赤くなっていくようになっていきます」
「なるほど」
でも、海底探索で呼吸を長く続けられるポーションとかなんかあればいいんだが。
って、俺そもそも〈ALO〉で何をしようか決めてない!
まあ運営も何でもできるのがALOとか言ってるけど、固有魔法のこととか聞いてると、実際は冒険、バトルをメインにこのゲームを作ったんだろうな、きっと。
「チュートリアルラストスパートです!」
急に意気揚々に張り切り出したアシュリだが、俺もそのテンションにワクワクしてくる。
「最後は、実践型のチュートリアルです」
そう言われると手には剣が現れ、目の前にわウルフが現れ、ウルフの頭上にはHPバーがあり、今は満タンの緑を表している。
剣にもずっしりとした感覚があり、しかっりこの世界にも重量という概念があるみたいだ。
「まずは、止まっている敵を倒してみよう!」
そう言われウルフに向かって走り出す。
10歩ほど走り、ウルフとの距離が3メートルほどになったところで剣を振り上げ、頭上めがけて剣を振り下ろした。
ウルフは真っ二つになり、HPバーが緑から黄色、黄色から赤、そして赤から何もなくなって、ウルフは光となって消えた。
「お見事です!止まっている敵とはいえいい動きでした」
そして順調にこなしていき、次は動くウルフ、攻撃をしてくるウルフ、最後に群れで攻撃してくるウルフを相手にして難なくクリアすることができた。
「先程倒したウルフからはチュートリアルなので経験値や報酬はもらえません。そして、これで全チュートリアルが終わりです!お疲れ様でした!」
「うん!ありがとう!アシュリのおかげでスラスラ頭に入っていってめっちゃわかりやすかった!本当にありがとう」
「あっ……、あの…………その…、もし……よか…」
急にアシュリは顔を赤くして、下を俯き両手の人差し指同士をクルクル回しながら何か言ってきた。
「ん?なに?声が小さくて聞こえないよ」
そして、両手をグッと握って意を決した様子のアシュリは、顔を赤くしたまんま俺の目をしっかりと見て叫んだ。
「わたしとフレンドになってくだしゃい!!!」
思いっきり噛んでますよ。アシュリさん。
俺の心を読んで自分が噛んでしまったことを思われてることに、さらに顔を赤くする。
だが、俺となってかこっちから願いたいことだ。相談できる相手がいるととても心強い。
「もちろんいいよ」
なので、そうアシュリに微笑みかけて優しく言った。
フレンド登録を行い、後はアシュリが言葉を唱えたら俺は〈ALO〉の世界にスポーンする。
「それじゃあ、何か困ったこととかあったらわたしに連絡ください」
「ああ、わかった」
「それじゃあ……」
アシュリが一呼吸して、
「プレイヤー『トウ』を〈ALO〉の世界に転送する!」
唱え終わったアシュリは、俺の方を見て笑顔で手を振っていて、その瞬間景色が切り替わった。
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