対荒らしの日常は電子世界の中で

織稚影願

対荒らし、能力に目覚める

部屋には3人の男がいた。
ひとりは低身長で、筋肉のつき方も、運動をやっているものではない。
ひとりは椅子に座り、洋酒の入ったグラスを持っている。
ひとりは壁にもたれかかり、目を閉じて話を聞いている。
「………なぁ、影楼よ…………本当に影皇は組まなくていいのか?」
グラスを持つ男が言った。
「あぁ………団長不在ってことにしてるからな。上層以外には。」
『影楼』と呼ばれた低身長の男は言った。
「でも、耐えきれるのか?そもそも、戦う気はないのか?」
「あぁ、ない。言った通り、警邏、それを任務とする。だが、この周辺の安全を守らせることにする。協力はしよう。」
そう言うと影楼は、立ち上がり、扉へ向かった。
すると思い出したかのように、こう言った。
「あぁ、そうだ。影皇は同盟は組まない、つまり、味方ではない。これだけは教えておくよ。………よく考えて、隊を動かしてね?」
影楼は振り返り、口角を上げ、不気味に笑った。
そして、そのまま………消えた。
「………っはぁ……マジかよ………くっそこえぇな。さっきとは大違いじゃねぇか……」
グラスを持つ男が言った。グラスを持つ男はスピカだった。
「あれが……ネット界最強の男…………初代影楼………いつの間にあんなに………」
壁にもたれかかる男………N君が言った。
そして、スピカが驚いたように言う。
「──つか、最後消えたよな!?あいつここに来たばかりだってぇのに………もう能力分かったのか……?」
「ありえない。いくら何でも順応が早すぎる。」
「でもあれは特殊能力のそれだろ…?」
そうだったのだ。あれは………瞬間移動の類。ワープに似たものであった。
「つまりあいつは……元々力の使い方を知っていて………使わなかっただけなんだよ。」
それが影楼の恐ろしさであると言わんばかりの、恐怖心。その声は微かに震えていた。
「………やっぱ、人間じゃねぇな、あいつ。」
そう言ってふたりは………脱力、深い眠りに落ちた。

「なぁGizelー!Artoriaの建物ってどれー?」
そう言われても知らんがな。
「ちっせぇみすぼらしい建物だったりしてな……」
俺は呟いた。
「というか………」
それより俺が気になるのは……
「なんでお前らまでついてきてんだよ!」
後ろにはうさぎと山猫、きょんがついてきていた。
「いや、だってお兄ちゃん、またどっか行くつもりなんでしょ?だったら監視してなきゃ!」
誰もそんなこと言ってないのだが。そもそも俺は神聖帝団長。アルトリアはほぼ関係ない。団長補佐ではあるが、本来は必要ないものだ。
「大丈夫だっての。てか俺がどこ行こうと勝手だろ。きょん、山猫、お前らもなんで」
「「暇だから」」
声を揃えて言いやがった。
「………暇なら警邏でもしてこい。とは言っても………神聖帝入ってないしな、この2人………」
「何言ってんのさ影ぇー。」
「うるさい!その名前で呼ぶな。」
「え?なんで?」
山猫はものすごく不思議がっている。
………影皇龍騎士団の団長、初代影楼と呼び方が一緒だから……。なんて言えるわけがない。こいつらは知っている。
「いいからダメだ。とにかく俺は今はアルトリアを少し導くことにしてるんだ。後で神聖行くからうさぎも帰ってろ。ふたりは………自分の団体動かしとけ。」
見失ったじゃねぇか。探さないとな……
「ぶぅ~………お兄ちゃんのいけずー!」
うさぎが帰りながらあっかんべーをしながら叫んだ。可愛い。
「ちっ、しゃあねぇなぁ……行こうぜ、シロマー。」
「ん?おう。」
2人も自分のところへ向かった。
やっとどっかへ行った………
ってみんなどこいった!?
どうしよう……あっ、そう言えば、N君が気になることを言っていたな。
『身体能力、特殊能力、頭脳が活性化?されるらしくて』
つまり、俺にも特殊能力がついてるらしい。そして、それは知名度が高ければ高いほど多く、性能がいい………つまりは。
「探す能力ぐらいあるかな……?」
あるといいが…………あっ、使い方聞くのわっけてた。………まぁ、なんとかなるか。こういうのは大体………
「みんなを………探す……」
念を込め、祈るように俺は言った。さて、これで見つかるといいが。
「……………」
いた!見つけたぞ……。
「ってか能力の使い方これであってる………のか?」
まぁ、いい……のかな?
とりあえずみんなに追いつこう。話はそれからだ。

「やっとおいついた………」
必死に走って五分もかかるとは………本当に身体能力上がってるのか……?もしかしたら、それほど離れて………
「遅かったじゃねぇか。10分以上歩いて待ってたのに」
え?
後ろを振り返ると、俺が元いた場所は見えない。
「よっこい………しょっとぉ!」
力を踏ん張って、跳躍をしてみた………ら、ものすごく高く飛んだ。そして、俺のいた場所は………随分遠くにある。それはとても十分やそこらでは着かない距離だ。それを5分。確実に
「上がってる………」
思わず呟いた。
「おい、はな………Gizelー!」
おっと、呼ばれてたか。
「なんじゃい?」
「なぁ、ここら辺のはずなんだけど、どこにあるんだ?」
何の話だろう
「何がだ?」
「はぁ?さっき話してたろ、建物だよ!Artoriaの!」
「あ?あぁ、そうだったな。んじゃちょっと………探してみるか」
理屈では、さっきと同じ要領でやれば見つかるはずだ。
「頭ん中に念を込めてっと。」
建物を探す。それだけを考え集中した。するとすぐに見つかっ………た……ぁ!?
「嘘だろ………なんで………」
なんで……初心者団体の上に弱小団体なのに………
「こんなにでっけぇんだ!?」
頭に浮かんだものは、要塞に近かった。
「でかい?ってか、なんでわかんの?」
「N君が言ってたろ!特殊能力があるって!それだよ!探す能力使ってみたんだが………浮かんだ建物がなんかでかい。」
とにかく行くしかないだろう。
みんなで走って向かった。俺は調整が難しく、何度もみんなを置いてってしまったが、無事全員つくことが出来た。
そこにあるのは………
「でけぇ…………」
「え、これが俺らの…………?」
そう、とてつもなくでかい建物だった。頭に浮かんだのよりもデケェ。
全体が銀色で、まるで要塞だった。
「ここに住めるのかー!」
そう言って、みんなは門の中に入った。俺を除き。俺はここでお役御免という事だから、俺のことをさせてもらう。
「神聖帝………か……」
そう………自分の団体を見てくるのだ。
神聖帝の建物はすぐに見つかった。何しろめちゃくちゃでかいのだ。それはもう、Artoriaなんて比べ物にならないくらい。いや、もしかしたら、β連合よりでかいかもしれない。
「お、お邪魔しま~す?」
俺は追い返されるかもと恐る恐る建物に入った。
「遅い!」
「ぐはっ!?」
俺は唐突に蹴られて驚いた。というより痛い。
「なにすんだよ!?」
「お兄ちゃんが遅いからだよ!」
蹴ってきたのはうさぎだった。
「ひでぇ!ちゃんと来たんだからいいだろ。」
「良くない!お兄ちゃんは私とずっといるの!」
なんだこのわがまま妹は。まぁ、実の妹ではないが。
実は、うさぎはLINE上での妹なのだ。とは言っても、今ここはLINEの世界、LINE上と言っても過言ではない。いや、過言か?まぁそこはおいといて、うさぎはリアルでの妹に近い感じだ。
妹なんて持ったことがなかったから、違和感を感じる。
「ずっとって………そりゃ無理だろ。風呂とかトイレとかどうすんだよ」
「お風呂は私と一緒に入るの!トイレは……女子トイレ!」
「無茶苦茶言うな!捕まるわ!」
主に児童ポルノ法と公然猥褻罪で。
「この世界に警察なんていないから大丈夫だよ!」
「そういう問題じゃない!」
俺は何が悲しゅうて女子トイレに妹と一緒に行かなきゃならんのだ!
「プライベートは自由にさせてくれ!たまに構ってやるから!」
そう言うと、うさぎは俯いて考え込んでいた。
「……分かった。でも……」
よかった、承諾してくれた……
「寝るときは一緒に寝よ?」
「…………は?」
いきなり何を言い出すんだこの妹は。
「………だめ?」
上目遣いでそんなこと言われてしまった。
「い、いや……一応年頃の男女なんだし………」
流石にお風呂ほどではないが、それでもまずいだろ。
「別に私はどんなことされてもいいよ?」
「こっちがだめなの!」
後ろ指さされて生きるのだけは嫌だ!
「大丈夫だよ!兄妹だから一緒に寝てるって言ったらみんな許してくれるよ!」
「ぐっ………ぬぅ………」
「流石にお風呂はダメって言われそうだけど……」
「そりゃそうだろ!」
OKって言われたら俺が困る。
一緒に寝る……か………仕方ない
「分かった。でも、服とかは着ろよ?」
こいつの事だ、裸で誘惑とかしてきそうだからな。せめてYシャツだけでも来て欲しいもんだ。
「……?もちろん着て寝るよ?お兄ちゃん何言ってるの?」
「いや………着て寝るんなら別にいい。なんでもない。」
「お兄ちゃんエッチな妄想でもしてたの?」
「してない!」
他人から見たら多分今の俺は赤面してるだろう。うさぎが変な事言うからだ!
「おーおー、仲良しですねー」
っと、他に誰かいたみたいだ。この声は一度聞いたことがある。
「兄妹のスキンシップみたいなもんだから。そんなんじゃないからな、みほみー。」
「みほみーって言うな!バカ!」
みほみー………実は本名がバレているという……まぁ、漢字は俺だけが知ってるらしいが。
LINE名は零汰、紅ゼキという名前がある。
神霊種の団員だったやつだ。今は知らない。
「はいはい、わーったよ、零汰。……で、零汰に聞きたいんだが………」
「みほみー、ばーか」
なんか隣でうさぎが言ってるみたいだがスルーだ。
「俺の部屋ってどこ?」
もちろん寝る場所だ。その意味で言ったのだが……
「ん?執務室のこと?」
執務室ってなんだ?団長として仕事する場所のことか?
「いや、寝る部屋。」
「あぁ、それなら……左に曲がって奥にある一番広い部屋だよ。執務室は真ん中の道まっすぐの奥にある部屋。右奥は食堂だよ。」
聞いてもないことまで言われた。
「ちなみにベッドはキング!だから、うさぎと他に女連れ込んでも寝れるよ!」
「誰が連れ込むか!俺はソファで寝るつもりだ!」
「え?お兄ちゃん、一緒にベッドで寝てくれないの?」
うさぎはまだいたらしく、横から泣きそうな目でそう言ってきた。そんな顔するなよ………
「いや………もちろんベッドで寝るよ!」
ついつい許してしまうだろぉぉぉお!
「良かった!一緒に寝てくれないかと思った!」
いけない………これは………執務室へ先に行こう………
「じゃあ、俺は執務室先見に行ってくる。仕事とかある?」
「はいな。仕事は書類山積みなのと、お客さんがいるよー。」
「お兄ちゃん、手伝おっか?」
「いや、いいよ。まずお客さんの相手だな。どの部屋にいる?」
「執務室の手前の右側の応接室。応接室のある団体少ないらしいよ。」
「おけ、とりあえず話してくるわ。」
「「いってらっしゃーい!」」
そう言って俺は二人をあとにした。夜が怖いが……。

トントン。
とりあえずノックしてみた。
「あ、はーい。」
部屋から声が聞こえてきた。男性の声のようだ。
ノブを捻り、扉を開けた。
「お待たせしました。」
一応の社交辞令。何故か慣れてる。自分が怖い。
「いえいえ!突然押しかけたのに相手をしていただいて光栄です。しかも、あの有名なGizelさんが相手とは。」
「すいません、他のことをしてまして…………有名だなんてそんな」
相手は自分より年下だろうか、可愛らしい顔をしている。声も男の声だが結構高い。女の人かもしれないな。
「申し遅れました、私、激ねむと言います。」
………え?
「………激ねむ……?あの!?あ、荒らしの!?」
まさかの知り合いだった。てか男だと思ってたんだが……容姿もよく見れば、胸も若干ある……?分かりづらい。パンツもボトムスだし………
「そうです。対荒らしのGizelさん………いや、桜影月さんですよね?」
「……そ、そうだけど………激ねむ、その喋り方なんだ?それにその姿は………」
「………今まで隠していてすみません。実は私、女なんです。胸はないですけど」
笑いながら言った。その笑顔は可愛い女の子そのものだった。
「そ、そうだったんだ………」
「話し方は、目上な上に、荒らしを潰す時の荒らし方に、尊敬しているので……」
「そんなの別に気にしなくていいよ。目上も何も、協力しないといけない今は、全員対等だし。」
「素晴らしいお考えです。しかし、そうだからこそ、力の差というものを重要とするのです。」
わけがわからない。
「力が物を言うってことか?そんなんで………いや、そんなの、ただ服従させてるだけだろ!言うなら、征服だ!そんなの、独裁政治と変わらない」
俺は独裁が嫌いだ。だから勢力に分ける必要があると思った。もしくは、勢力を一つにするにせよ、考え方をそれぞれ持つようにして、誰でも意見ができる、協力体制というものを重要としてきた。
「その通りです。そうでないと誰も言うことを聞きません。」
それでおかしいのかと思った。街を見ていてイラついていた。その理由はこれなのかと、そう思った。
だからだろうか。俺がこんな態度とったのは。
「ふざけるな!言うことを聞かせるって考え方がおかしいんだよ!お願いをする、貸しをひとつつける、それだからこそみんなが協力してくれる!それが反乱を起こさない、みんなが嫌な顔をしないやりかただろ!街のヤツらが嫌なことを苦笑いでやるわけだ!自分から進んでじゃなく、命令でやってたんだな!」
怒ってしまった。激ねむに怒っても仕方ないのに。
「………仰る通りではあります。ですが、それだと舐められてしまいます。」
「………今まで、対荒らしが崩壊してこなかった理由を教えてやろうか。」
「………?なんでしょうか」
「いくつもの団体に分かれてたからだ。対荒らしを一つの団体のみに絞ると崩壊する、それを知っていたから分けていたんだ。」
つまり、日本でいう参議院と衆議院の関係だ。国連でいうと常任理事国だろうか。
「いくつもの勢力に分けることで一つの塊は崩壊しなくなる。荒らしと対荒らしの関係もそうだ。荒らしがいなかったら対荒らしはどうなる?そんなの簡単だ。対荒らしが調子に乗って、LINE界そのものが崩壊してしまう。だからわざと、いくつもの団体を残すようにしていた。笑えるよな、荒らし殲滅を目指したやつが、そんなことしてるなんて。でも、それが対荒らしを守るためなんだ。」
「………」
激ねむはただ黙って聞いている。
「……知ってるか?蟻って、3%働かない蟻が出てくるんだぜ?そしてその蟻を全部潰したら、またほかの3%がサボる。そうしないと、働かなくなる。一気に働かないものを増やすよりは、働かないものを少しにする方がリスクが低いんだ。……荒らしがいなくなったら対荒らしから荒らしがでる。そうじゃないと、平和ボケしちまって、対荒らしが機能しなくなる。それはLINE界の崩壊に繋がる。それは………なんとしても避けなければならない」
「………」
「今回は三団体という敵がいる。それを倒すために全員で協力する。でも、そいつらがいなくなったらどうなる?全員で平和に、か?残念ながらそれは否だ。協力してた仲間のどいつかが敵になる。………話が少しそれたな。独裁政治をすると、一人の判断に任せてしまう。それだと何やらかすかわからない。そんなのはダメだ。だから………」
「………」
「激ねむ、お前は俺の手下じゃない。仲間だ。だから、力の差なんて関係ない。俺らは対等だ。」
「………」
「舐められてもいい。みんなで対等に協力し合う関係じゃないと、人間が崩壊してしまう。だから、そんな態度は辞めてくれ!」
激ねむはずっと黙って聞いていた。俺が話終わったのを確認すると、彼女は口を開いた。
「……わかりま………分かった。そうさせてもらうよ。Gizelさん、ごめんね。」
どうやら分かってくれたようだ。笑顔でそう言った。それはもう可愛い笑顔で。
「分かったんならいいんだよ。………それで、何の用できたんだ?」
「あ、そうそう、私の団体を傘下にしてって思ったんだけど………やっぱ、やめた。」
「そ、そうか……」
「私たちを助けて欲しい。と言っても、今ピンチな訳じゃなくて……その、協力し合おうって意味で……でも、こっちは力がないから、何も出来ないから……」
激ねむは必死に言った。
「……ぷっ……!くふふ………ははははは!」
だから思わず笑ってしまった。めちゃくちゃ可愛いからだ。
「!?な、なんで笑うの!?」
「はははは!……ふー、いや、ごめん、あまりにも可愛すぎて。協力体制を引くってことだろ?」
「そ、そう!」
「いいぜ、組もう。何かあったら言いに来るといい。」
ぱぁっ!そんな効果音が聞こえるかのような満面の笑みが激ねむの顔に浮かんだ。
「ありがとう!Gizel、大好き!」
だからと言ってそんなことを言っていいわけがない。
「っちょっ、激ねむ!勘違いされるような言い方はやめなさい!」
じゃあ付き合っちゃう?とか言ってしまうだろ!………ごめんなさいいいません。言えません。
「勘違い?私はGizelのこと好きだよ?」
「だから!その………性愛の対象って思っちゃうから……」
そう言ってると
「……?私、性的な意味で好きだよ?かっこいいし!」
なんて宣うんだよなぁこいつは。
「え、は!?い、いや、でも、俺……好きな人がいないわけでもないし………」
いるのである。驚いただろうか。でもまぁ、高嶺の花に近いが………それはまぁ、激ねむも高嶺の花と言ってもいいほど可愛いけどな。
「別にいいよ?この世界では一夫多妻?ってのが認められてるんだって!」
………え?
「……それって、たくさんの女の人と付き合ってもいいって……こと?」
「そう!正確にはタフタサイって言うらしいんだけどね!よく分かんないけど、とりあえず、何人のことを好きになってもいいんだって!」
「多夫多妻制?そんな国聞いたことないな。ってかすげえ考え方だな。俺にそんなにたくさんの相手ができるとは思えんが………」
「そんなことないよ!Gizel、かっこいいし、優しいからモテるよ!」
とりあえず、多夫多妻制なら、付き合っても……いい、かな?
バン!
そんな音を立てて、扉が開いた。扉の先には……
「そんなのだめ!お兄ちゃんは私のなの!」
うさぎがいた。なんでいるんだよ、仕事の邪魔でもしに来たのか?
「私のって……別に、沢山いてもいいんだから、いいんじゃないの?」
激ねむの正論である。
それに………
「お前妹なんだからそもそもやっちゃいけないだろ。血が繋がってないにしても、世間体というものがあってだな」
「そ、そんなの分かってるもん!だから、秘密の恋人!」
わけがわからない。
「秘密もなにも………お兄ちゃんは妹に欲情なんてしません。」
「ひどい!お兄ちゃん私のこと嫌いなの!?」
誰がそういった!?
「そうじゃない!妹に欲情なんかしたら俺が社会的に終わるんだよ!」
「うっ………じゃあ、構ってもらえないの?」
「妹としてなら構ってやるよ。うさぎのことは好きだからな。シスコンとまではいかんが、それでも、自慢の妹だよ。」
「うぅ………分かった。お兄ちゃんはたくさんの人と付き合いながら私の相手もしてくれるんだよね?」
「あぁ。」
限度は守るがな。
「じゃあ文句言わない!お兄ちゃん、お仕事頑張ってね!」
「お、おう?」
案外あっさりと引き下がったな。まぁ、いっか。
「さてと、激ねむ、分かったよ。」
「………?」
なんのことかわかってないご様子
「だから……その……俺も激ねむの事好きだよ。」
「え?ほんと!?やった!嬉しいな!」
満面の笑みである。激ねむはそのまま近づいてきて……
「そ、その、大好きのチューしよ!」
と言ってきた。仕方ない、興奮しないように我慢しながら……
ちゅっ
キスをした。もちろん唇にだ。
「え、えへへ。嬉しいなぁ…あっ、もうそろそろ帰らなきゃ……Gizel、また今度ね!」
「おう!」
俺は激ねむの頭を撫でてから見送った。
激ねむは最後まで「えへへ」と言っていた。可愛い。
「さてっと………仕事しないとな。」
独り言のように呟き、俺は執務室に向かった。
それから一時間近くかけて仕事を終わらせた。
その後、食堂でご飯を食べ、大浴場で汗を流した。
「っはぁ………風呂気持ちよかったァ………」
自分の部屋に入りながらそう呟いた。誰も聞いてる者はいない……はずだった。
「お兄ちゃんお疲れ様!ベッドの準備は出来てるよ!」
うさぎがいた。……いや、一緒に寝るって言ったから当たり前の事なのだが………。
なんとうさぎはネグリジェを着ていた。
「………確かに服を着てはいるが………」
誘惑してくることもしっかりと忘れないうさぎだった。
可愛い服で、小さいが胸も強調されていた。そして一番の疑問点が物凄くやばかった。
「………なんでパンツ履いてねぇんだよ。」
下着を履いてなかった。少なくとも紐は見えなかった。
「え~、だって、暑いんだもん」
最近の女の子は暑いと下着を脱ぐのだろうか。………ってんなわけないだろ。
もう少しで局部が見えそうだったので俺はうさぎの方を見ず、さっさと布団に入った。
「あれ、お兄ちゃん、もう寝るの?」
「あぁ、疲れたからな。おやすみ、うさぎ。」
「おやすみなさい、お兄ちゃん!」
俺はうさぎの方をちらりと見やって、そのまま目を閉じた。うさぎは俺よりも寝ない気満々だったにも関わらず、整った寝息が聞こえてきた。
──俺もさっさと寝よ……。
結局寝たのは12時を過ぎてからだった。

第2話.対荒らし、能力に目覚める
~完~

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