凡人探偵・颯の事件簿

織稚影願

File.2

警部にいざなわれ、颯は屋上へとたどり着いた。
「うぉ……さむ……」
屋上には冷たい空気が漂っていた。しかし、朝感じた寒さより、一段と寒く感じる。
何か違うのだろうか……その答えは未だに出なかった。
颯がふと視線を落とすと、そこには線で死体のあった場所などがわかるように書かれていた。
そこは今はもはや血の海だった。それ以外の何物でもない。遠くまで広がり、どす黒いような赤色は、床に滲むようにこびり付いていた。
「ここが事件現場だ。ほれ、解けるもんなら解いてみろ」
警部は、煽るようにそういうとタバコを咥え火をつけた。が、しかし、なかなか火がつかず、イライラしていた。
「警部、ここは禁煙ですよ。正門近くの喫煙所で吸ってください」
「ん?おぉ、悪いな。風が強いのかね……」
颯が言うと、警部は階段を降りていった。
その背中を見送ると、颯はまず、死体のあったところに近づいた。
「触ってもいいですか?」
颯は鑑識たちに許可を取り、地面に触れた。
手袋がついていると分からないものもあるので、手袋はつけず。
すると、違和感があるのを感じた。なにかが……違う。
しかし、その違和感の正体は分からなかった。
これだけの情報じゃまだ分からない。そう思い、颯は立ち上がって下に降りようとした。警部に話を聞くのが一番早いと判断したためだ。
しかし、屋上を出ようとした時、目に入ったものが、そうさせなかった。
それは────壊れた屋上のドアの鍵だった。
周りを見たところ、鍵を壊せる道具なんてない。いや、それ以前に、この鍵は叩いて壊されたものではなかった。
──棒状のものでこじ開けられていたのだ。
ピッキング……だろうか。どちらにせよ、道具がない時点で、それは無理な話だ。
「…………よし」
颯は振り返り、歩いて鑑識さんのそばまで行った。
「あの……被害者が持ってた持ち物って、見せてもらえますか?」
「え?あぁ、いいですが……」
そう言って鑑識さんは、その場に色々なものを広げた。
それは、大体で、だが三つの区切りをされていた。
恐らく、どれが誰のものかをわかりやすくするためだろう。
颯はまず、室長の持ち物を見た。
一番最初に手に取ったものは、スマホ。
起動ボタンを押し、スワイプすると、ロックがかかっていなかったのか、すぐにホーム画面が表示された。
そしてアプリを開けた。アプリと言っていいのかは分からないが……。
「……ふむ。なるほど」
颯はそれを見ただけで、少し理解をした。
そして、充分な情報が入ったと判断したのかスマホを置いた時、一つ、不思議なものが目に入った。
「それ……なんでこんな所に?」
そこに置いてあったのは、少し大きめのクーラーボックスだった。
「いや、分からないんだがね。死体より1mは離れたところに、ぽつんと置いてあったよ。中になにか入ってるのかと思って開けてみたんだが、何も入ってなくてね。不思議で仕方ないよ」
鑑識は言った。
続けて颯が聞く。
「クーラーボックスを開けた時、なにか違和感とかありませんでしたか?」
「違和感?──そいやぁ、やけに冷たかったな。氷で濡れてたわけでもないのに」
冬だから冷やされていたわけでもない、ということだろうか。そうでなければわざわざ違和感として言うことでもない。
と、なると、考えうるものは一つに絞られた。
だが、その時点で颯にはわからない点がいくつかあった。
まずは三人の動機。これがわからなければ証明にならない。
そして誰がやったか。これをやるのは、誰だって可能だ。誰がやったかを当てなければ、意味がない。
そして最後に、──何故、颯達を犯人と疑わせたのか。
鑑識さんが広げる証拠品の中に、針金と思しきものがいくつかあった。恐らくこれで鍵をこじ開けたのだろう。
誰が開けたのか。それは一応わかってはいるが、それはただの推理であり、推論だ。だが、警察の人に調べてもらうことは可能だろう。となるとあとは──
「──あー、颯くんよ。報告であり、朗報だ」
その時突然、後ろから話しかけられた。さっきタバコを吸いに行った警部だった。
「朗報?自首した人でもいたんですか?」
「いいや、違う。だが、君の言っていたものが見つかった」
「言っていたもの……?」
何かを探してほしいと言っていただろうか……。
すると警部は、呆れたように言った。
「例の、指紋だよ。作ってるやつがいやがった。それで君の無罪はほぼ確定、かな。まぁ、不可解なこともあるが」
そうだった。指紋を探すように言っていたのを、まるっきり忘れていた。
しかし不可解なこととはなんだろう。と思っていると、警部は言った。
「実は、指紋がいくら探しても二つしか見つからないんだ。最後の一つはどこにあるのやら」
そう言って警部は頬をかいた。
あー、と颯が言うと、警部は続けて聞いてきた。
「それで、君の方はどうだい?なにか見つかったかい?」
「あっ、えっと、殺害方法?は分かりました。それで、警部に頼みたいことがあるのですが……」
「……?   なんだ?」
颯は頼み事を二つ言った。
そのうち一つは、少し難しいことではあるが、もう片方は簡単だ。警部も、快く承諾してくれた。
「今連絡してもらった。もうすぐ三人とも来るらしい。しっかし、アリバイどころか、ここに入ってやる意味のない三人の事情聴取とは……なにがしたい?」
「それはまだ秘密ですよ。ただ、これが事件を解く鍵となるはずです」
そう言って颯は、不敵に微笑んだ。

数分後、学校に三人の来客が来た。
被害者である、室長・桃園と、副室長・来栖、書記の宮田の三人の親である。
「ようこそお越しくださいました。早速ですが、一人一人事情聴取をさせてもらっても構わないでしょうか?」
颯は、三人を出迎えてそう言った。
もちろん事情聴取と言っても、颯のような一般人だけではいけないので、警察も一緒に聞くことになっている。ただ、メインは颯である。
「構いませんが……意味があるでしょうか?そもそも、あなたもうちの子と同じ高校生ですよね?遊びに付き合うために呼ばれたのであれば帰りますが……」
桃園の母が言った。なるほど、正論ではある。だが、こちらとしても、ハイわかりましたと帰すわけにはいかない。
「ご安心ください。これは本気の操作です。警察の方もついていますので、意味がある事情聴取というのはお分かりいただけると思います」
颯は必死になってそう言った。すると、三人は互いに見合って、頷いた。
「分かりました。事情聴取を受けます」
その言葉で、凡人の颯による事情聴取が始まった。

①室長・桃園寛太の母、桃園京子みやこの証言

「──ではまず、殺害されたと思われる時間帯、どこで何をされていたかわかりますか?」
「……え?  それは、私が、ということですよね?」
颯が一番にした質問は、『誰が』という言葉が抜けていたため、桃園母は戸惑ってしまった。
それを颯は必死で取り繕う──フリをする。
「あぁいえ、僕が聞きたいのは、その時間帯に、息子さんは何をされていたのかを聞きたいのです」
この質問は、実に悪意が強いものだった。
普通ならば、答えられるはずがない。普通なら、だが。
「その時は確か、寝てたと思います。ちょうど喉が渇いて、見に行っていたので」
「……そうですか。ありがとうございます。では次に、あなたの家庭は金銭的に苦しかったと聞きますが、それはどうでしたか?」
「ええ、金銭的に苦しい、という状態が続いていました。夫もいないので、誰かが働く必要があるのですが……私もバイトをしていますが、それでもなかなか苦しいものがあります」
彼女はそう言って、少し俯いた。おそらくこの質問によって、ほとんど答えがわかってしまうかもしれない、と颯は思った。だが、質問をやめるわけにはいかない。
「では、最後の質問です」
颯は一度目を閉じ、また開いてから、言った。
「息子さんは、生命保険に入っていましたか?」

「ありがとうございました。では、来栖さんお願いします」
最初の事情聴取でだいたい分かったが、しかし念のため、ほかのふたりにも聞くことにした。
最後の質問を除き──これはほかの人が知る必要も無いことだから──、セリフでお送りすることにする。

②来栖翔人の母・来栖藤子の証言

「では、まずは息子さんが殺された時間帯、いえ、もう少し前の時間帯、息子さんは何をされていましたか?」
「さぁ……私は見てないですね。それがなにか?」
「いえ……では次の質問へ行きます。来栖さんのお宅は金銭的に厳しいと聞きましたが、本当ですか?」
「えぇ、まぁ。一体なんです?この質問は」
「気にしないでください」

③宮田和也の母・宮田敦子の証言

「早速ですが、息子さんが殺される少し前の時間帯、息子さんが何をされていたかご存知ですか?」
「えぇ!勉強してましたよ!必死にね!」
「そうですか。では次に、あなたのご家庭は金銭的に色々と脅かされていると聞きましたが……」
「えぇー、まぁ、貧乏ですわね!でもなんの問題もありませんわ!」
「あ、ありがとうございます……」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

なかなか個性的な人たちだった、と思った。桃園さんは中学生ぐらいに見えて、めちゃくちゃ愛くるしい可愛さがあったし、来栖さんは疑り深い性格、宮田さんは『ですわ調』の話し方をする人だった。最後だけなんだよ……。
しかし、これで動機もわかった。あとは誰がやったかと、颯達を犯人に仕立てあげた理由が分かれば、謎解きショーができる。
すると、教室に走ってくる足音が聞こえた。
そして急に扉が開かれたと思うと……
「白森警部!見つかりました!それと、誰の指紋かも特定終わりました!」
「本当か!?誰が──」
「──それってもしかしてですが……」
颯は警部の言葉を遮り、走ってきた刑事に聞いた。
すると、思っていた通りの返答が来た。
これで、ほとんどのパーツが出来上がった。あとは、最後のパーツだけだ。
その時、ふと思い出したことがあった。
「……警部。今回の殺害、女子には無理なんですよね?」
「ん?あぁ、そうだが……それがどうかしたか?」
「となると、男子三人組でいつもつるんでる奴が犯人って分かるんですよね?」
「……?   そうだな」
なるほど、と颯は思った。
それならば、颯達を犯人に仕立てあげた理由がわかった。
「パーツが整いました。チェックメイト……です」
謎を解き終わった颯は不敵に微笑みそう言った。

「おい聞いたかよ、もう分かったんだってよ!」
「まじかよ、あいつそんな才能あったのかよ」
「凄いよねー、こんな謎を解けるなんてー!」
「妃くん……頑張れ」
体育館に戻ると、想像していた通りにざわざわとしていた。
しかし颯が入った瞬間、その喧騒もピタリとやんだ。
颯はその重い空気の中、ステージへと歩いた。
ステージの真ん中に立つと、颯はマイクを持って、言った。
「みんな……犯人がわかった」
颯がそう言うと、再びざわざわとざわめきたつ。
「結論から言おう。この事件の犯人。それは──」
この、全校生徒を巻き込んだ事件の。
凡人でありながら、凄い観察力と推理力を持つ少年を巻き込んだ、少年初の大事件を巻き起こした犯人とは。
「──犯人は、いない」
この結論に至った。
そして思った通り、一瞬の沈黙が生まれた。
そして皆いっせいに、叫んだ。
「「──っはぁぁぁぁぁぁぁあ!?」」
予想通りの反応だった。沈黙の間に、颯は既に耳を塞いでいた。
「予想通りの反応ありがとう。そしてもう一度言おう。この事件、犯人はいない。強いて言うのであれば……」
「……あれば……?」
「──被害者の、三人かな?」
またもや沈黙。みんな驚いたような表情を作っている。ただ一人、奥にいる、桃園京子を除いては。
──やはり知っていたか……
「ちょっ、待てよ!被害者が犯人って、どういうことだよ!」
クラスメイトのひとりが、反論する。こいつは確か……そうだ、クラスで朝、こっちを見てニヤニヤ笑っていたやつだ。濱部だったかな?
──白々しい……!
「簡単な話だよ。この事件の真相、それは殺人なんかじゃないんだ」
「……は?」
「殺人以外にあるかよ!後ろから刺されてんだぞ!?」
そう反論するのは同じくニヤついていた、新井と片西だ。
墓穴を掘ってくれてありがとう、二人共。
「……ほう?じゃあ聞くが、本当に殺人以外にないと?」
「……ないだろ」
「いいや。実はあるんだよ、これが」
颯がそう言って手を上げると、ステージのスクリーンが降りた。
そこに映し出されるのは、黒い人の形をした画像。
「簡単に言うと、三人は自殺した。その方法も簡単だ。まず、現場には不思議なものが置いてあった」
そう言うと同時に、スクリーンが切り替わり、そこにはクーラーボックスが映し出された。
「普通屋上にこんなもん持ってかないだろ。そして、やけに屋上だけ寒い空気、どんだけ頑張っても着かない火。これから導き出せる結論は一つだ」
颯が人差し指を突き出し、『一』を表す。
そして、続けていう。
「使ったのは、ドライアイスだ。現場は濡れていなかったし、クーラーボックスも濡れていなかったから、氷は無い。それに、ドライアイスは二酸化炭素の個体。そこから出る気体ももちろん二酸化炭素。だから、火がつかないのも当然。そうとしか考えられない。自殺方法はこうだ」
そう言うと、また画面が切り替わる。
元の、人間の画像が映し出された画面だ。
「まず、ドライアイスには少し、包丁の柄の部分が刺さるように穴を開けて保存しておく。そして、屋上にある三人を呼び出しておく。その三人は、指示を公衆電話で聞いていた」
「ちょっと待てよ。なんで公衆電話なんだ?普通の電話じゃダメなのか?」
そこで、違う生徒からの指摘が入る。
いけないいけない忘れていた。
「実は、被害者のスマホを見たんだが、着信履歴の一番上、つまり最近のものは、非通知だったんだ。つまり、公衆電話からの電話となる。もちろん、警察の人には散々探し回ってもらったが、見つかったみたいでね。指紋も採取して、誰が電話をとったかを確認してある」
「誰だよ?」
「それはまだだよ。では、続けていいかな?」
そうみんなに聞くと、みんなは無言で頷いた。
「では続きだ。電話で呼び出した後、すぐにピッキングをして屋上でドライアイスをセットする。ピッキングはあらかじめ練習してたのか、屋上の鍵は普通に開けられていた。無理矢理ではなかったね。そしてドライアイスに包丁を刺す。これで準備OKだ」
スクリーンには、その通りのものが映されていた。ドライアイスに、包丁が刺さった写真が。
あとはみんなでも謎は解けるだろう。颯はそう思った。颯は、みんなを代表して言うだけだ。
「こうなりゃもう分かるだろうけどね。その場所に、後ろ向きで倒れたんだ。それで後ろから刺された風になる」
それがこの、殺人に見せかけた自殺だ。しかもそれだけじゃない。
「さて、まだ電話の相手は言わないよ。指示の内容もね。まず先に動機だ」
颯はそう言って、被害者の親三人を見る。
「なんで自殺したか。その理由は、生命保険金だよ」
「生命保険金??」
「そう。三人とも、家庭の金銭事情が、あまり良くなかっただろ?バイトもやって、学校にも来て。三人ともものすごく疲れてた。親に楽させたかった。それで思いついたのが、生命保険なんだよ」
保護者三人に聞いたのは、その為だった。三人が三人とも『入っている』と言った時点で、その動機に確信がいった。
「それで……桃園さん、それと、宮田さん……おふたりは、この事件を聞いた時、自殺とすぐに分かっていましたね?」
颯はふたりを見て言った。
すると、桃園京子は、ステージへと歩き出した。
ステージに登壇し、颯の隣に行くと、腕を差し出した。
どうやらマイクを渡せということらしい。
「どうぞ」
そう言って颯はマイクを差し出した。
京子はマイクを握り、みんなの方を向いて、言った。
「その通りです、妃颯くん。私は気づいていました。でも、ほかの人が殺人の疑惑を投げかけられているのに、そう言ったら、ある意味かわいそうだと思って黙っていました。すいませんでした。うちの息子が……迷惑をかけて……!」
「迷惑だなんて思ってませんよ。いずれにせよ、解かなければいけない謎でした。寛太くんはきっかけを与えてくれたんです」
そう微笑んで言うが、しかしそれは後付けの理由、本当は何故こんなことに、と迷惑こうむっていた。
「そう言っていただけると幸いです」
そう言って彼女は、颯にマイクを渡した。
颯は気を取り直し、続けて言った。
「さて、それじゃあ電話は何故したのか、教えよう。今までの推理で出てきてない重要なことがあるのをお忘れかな?」
そう聞くと、みんなは何のことだ?と首をひねる。
無理もない、さっきのインパクトが強すぎたのだ。
「俺達が疑われた理由だよ。指紋、そして俺達の私物。電話の相手は、これを置くための指示を聞いた」
その証拠品を、誰のにするかってなった時に颯たちの名前が出たんだろう。
「そしてその後、死没したみんなの指示を実行した。簡単に言えば、作った指紋で俺達の私物を置いた。だが、失敗したみたいでな。そのうち二つ見つかった。んで、ここで本題の、誰が指示を聞いたか、だ」
そう言って颯はある一点を見る。
そこは、颯のクラスの、3-2のメンバーが並ぶ場所だ。
そして、そのまま告げる。
「新井、片西、濱部。お前達だろ」
「──っ!はぁ?んなわけねぇだろ!」
「とりあえずお前ら、前来てくんない……?」
困ったように颯が言うと、三人は少し怒りながらも前に出てきた。
そして、新井がいう。
「俺らがやったって証拠でもあんのかよ」
「いくつもあるよ。まず、さっきも言った通り、指紋が電話や指紋のやつから出た。流石に二重で指紋を付けるのは無理があるからな」
「ぅ……ぬっ……!で、でもよ!それだけじゃ証拠にならねぇだろ!」
確実なる証拠を突きつけたにも関わらず、しかし新井は食い下がってきた。
「ほぉ?じゃあお前らが自白したっていえばどうかな?」
「…………は?」
三人が、固まる。いや、三人だけではない。ほかの人たちも固まっていた。
いつそんなこと言った、と言わんばかりに。
「俺達が」実際、新井は言う。「いつそんなこと言ったんだよ!」
「お前は自分で墓穴を掘ったことを忘れているのか。教えてやるよ。お前は俺が、被害者が自殺をした、と言った時なんて言った?」
颯は、意地悪をするように笑いながら言う。全く、意地の悪いやつで、しかし敵に回すのは嫌な奴だな、と改めて思った。
新井は、思い出しながら言った。
「殺人以外あるかよ……って」
「その後に言った言葉は?」
「……なんだった?」
これは決してとぼけているようではなかった。本心から忘れているようだ。
──仕方ない、教えてやるか。
颯はまたもや意地悪そうに、言った。
「教えてやろう。お前は『後ろから刺されてんだぞ』と言ったんだよ」
「……それのどこがおかしいんだ?」
「明らかにおかしいだろう?だって警察は──刺された、としか言ってないんだからなぁ?」
「そ、それは……」
「この程度の推理ができないやつが、そんなこと分かるはずもないんだよ。まぁ俺は、二パターンのうちそっちと断定していたが。んで、それ以外に知る方法と言ったら……」
「──もういい!うるさい!」
颯が言い終わる前に、濱部が遮った。
「……それは罪を認めるってことでいいのか?」
「俺達はなんの罪も犯してないだろ。ふざけるな!」
「そうだ!それに、本当に三人の指紋が見つかったのかよ!」
濱部に続き、片西まで反論してくる。
その反乱には、少し困った。なぜなら、出てきた指紋はひとつだけだったからだ。
もう一つはどこに行ったのか……しかし颯には、それすらも分かっていたようだった。
「確かに二つしか見つかってねぇなぁ。残り一つは見つかるわけねぇもんな」
「じゃあ──」
「──最後の一個は片西、お前が持ってんだろ」
片西の言葉を遮って颯が言うと、片西はそこで固まってしまう。
そこに颯は追い打ちをかけるように言った。
「その右ポケットからチラって見える透明のもん、なんだ?」
もちろん嘘である。そんなものは一切見えていない。だが、片西はそのブラフすら見抜けず、まんまと策にはまってしまった。
「そんなバカな……!」
そう言ってポケットを探り、奥の方にあるのを確認して、安堵した。そしてその安堵が、命取りだった。
片西がポケットから手を出すと、ポケットから何かものが落ちた。
「おい、なんか落ちたぞ。拾わなくていいのか?」
あくまでも何もわかっていない様子を颯は装っていたが、しかし実際はわかっていた。
片西はそれに気づかず、大人しく拾おうとした。
「あぁ、すまん。拾わせてもら──っ!?」
その落ちたものは、少し黄ばんだ、指紋をかたどったものだった。それに気づいた片西は、拾う姿勢で静止する。
「どうした?拾わないのか?その──指紋のやつ」
その顔は、はっきり言って悪魔の顔だった。ハメられてしまった片西は、その場で崩れ落ちる。
「──そうだよ。俺達が……指示を受けてやったんだよ。でもよ、頼まれてやったことだし、俺達が殺したわけでもないから、なんも捕まらねぇだろ!?俺達が咎められる理由なんて無いはずだ!」
「そうでもないんだよ、片西」
片西の叫びに、颯は諭すように言う。
「残念だが、それは現場荒らしとして犯罪になる。お前達は……捕まるんだよ」
颯は本当に残念そうに言った。だが、その反面、安堵の気持ちもあった。
片西はその場で動かなくなってしまった。何やらブツブツと喋っているようだが、よく聞き取れない。だが、本当に終わった、という顔をしていた。
「これが……事件の真相だ。Q.E.D.(証明終了)」
こうして、高校中を騒がせた事件の幕は閉じた。
それ以降、妃颯の、探偵としての名も、広がっていった。

「颯くん。事件解決お疲れ様」
「いえ。現場を見せていただき、ありがとうございます、白森警部」
颯と白森の挨拶も終わり、颯はそのまま体育館から消えた。
颯が向かった先は、特別棟の空き室の『古書室』とプレートが書かれた部屋だった。
「これで満足ですか?全く、人で弄んで」
颯がそう言った。
何も無い影、ではなく、実体のある影に対し。
「うんうん、上出来だよ、颯くん。ずっと見てたけど、なかなかの推理だったね。簡単だったけど」
「わかってたんなら教えてくださいよ。ところで、誰が意地の悪く敵に回したくない奴なんですか?」
颯はそう笑って言った。
それに対し影──私が答える。
「君だよ、君。さぁ、次も事件を頑張って解いてね。ずぅっと見てるから」
私はそう言い奥へと向かった。
颯はそのまま──より一歩下がって、言った。
「次事件が起きても、解くだけですよ。ただの凡人の俺が」
颯は、凡人を強調してそう言ってから、踵を返して出ていった。
「──楽しみにしてるよ、〇〇〇〇・〇〇〇〇──」
誰もいなくなった部屋で一人、私は呟いた──。

「凡人探偵・颯の事件簿」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く