冥い夜にさす光

冬空星屑

第10話 悪夢の始まり


 第10話 悪夢の始まり


 『教導者』の宣言の後、アクティブスキルが発動した。
 それは俺の闇黒の世界に光がささせた。
 その光は緩急のある不思議な流れだ。川のようではあるが、水ではないし、何より上へ下へ右へ左へとくねくねと曲線を描いている。これほどの曲線を描く川は、どれ程の平野にも存在しないだろう。
 俺がすること。それはこの光が示す通りに、この光をなぞるだけ。
 万物を粉砕する攻撃力も、全てを弾き返す防御力も、何かを強化したりすることもない、ただ道を示すだけの能力。
 それが『教導者』。
 その光は、俺に俺の力の使い方を教え、俺を俺の力を十全に活かせるように導く。
 俺に何かを与えることもなく、ただ淡々と現時点でのベストパフォーマンスを引き出すだけだ。いや、心の安らぎ話し相手を与えてくれ……吐いた毒と相殺されるのでカウントしない方が良いな。
 とにかく。俺は示される通りに、俺の全力を出す。それだけで良いのだ。

 光が指し示す通りに少し地面を進み、横にそれる。今度は上に行く。
 恐らく木を登っているのだろう。木の幹の感触がある。
 枝まで辿り着くと、光は今までより細くなり前の方へと伸びる。
 ほんの少しだけ回復しているMPを使用して『触手』を発動する。
 レベルが一だからか一本しか伸びなかったが、それで十分なのだ。
 触手を伸ばし隣の木の枝だと思われる場所に巻き付ける。そしてターザンよろしくア~アァ~~!!
 俺の体が空中にいるときにちょうどMPが切れ、触手が体内へと戻る。
 勢いよく飛んでいる俺は、何か丸っこいものに突っ込んだ。何だこれ?

《先ほど言った敵のヒーラーに当たるものです。ちなみに人間と獣人の六人パーティーでした。そのまま口内にいて下さい。窒息死させます》

 オーケー。先の巨大生物は、巨大だからこそ肺に行け、溺死させられたのだろう。これは巨大ではないから口の中に入るのがやっとだ。
 だが、この方法はとても良い。
 まず、魔法詠唱を妨げられる。無詠唱の魔法使いでもない限り、こうなってしまったらどうにもならない。
 まあ、ドラゴンなら吐息ブレスだけで対処できるだろうが、今は関係ない。
 ……?
 俺が口内に入ってから三十秒すら経っていないのにヒーラーはもがき苦しみだした。何故だ?

《マスターの固有スキル『毒粘体Lv.1』により、体そのものが毒物になっています。これによりマスターは『毒無効』と『猛毒耐性』を所持しているに等しい状態であり、また触れるだけで耐性のないものを毒状態にすることができます》

 なるほど。
 俺が説明を聞いている間にヒーラーは死んだ。
 残りは五人だ。
 スライムと『教導者』の特徴から次に殺すのは恐らく魔法アタッカーだ。
 バッファーによって多少身体能力が上がったとしても、物理攻撃系の者たちでは俺の脅威足り得ない。『教導者』の誘導ならユニークスキルの攻撃すら全て避けてしまえるからだ。
 予想通り進んでいるのかは微塵もわからないが、ヒーラーが死亡により光の粒子となって消えると、巨大生物の時と同じように経験値と一部の所持金と所持品ドロップアイテムを獲得した。
 おぉ~。ロー・マジック・ポーションを幾つか獲得したようだ。それに経験値も一万を越えている。ユニークスキルを持っていたのだろう。
 俺はそんな考察をしながら次の獲物へとくねくねしながら近づいていく。
 途中で前後左右から武器を振り下ろした時に起こるような風が来るが、攻撃自体は一切当たっていない。
 熱く感じるのは火魔法だろうか? この前の水魔法に至っては痛痒も感じなかったな。
 そういえば、なんで俺は水魔法が効かないんだ?

《スライムは粘体ですが、ほとんどが水で構成されています。故に水攻撃は効きません。むしろ『吸収』により体積が増え、HPが回復あるいは最大値が上昇します》

 なるほど。相性によるものか。アンデッドに即死魔法が効かないようなものだな。
 そんなとき、地面が揺れた。
 巨大生物のに比べれば大したことないが、多少は揺れたのだ。それが原因だろうか。揺れた先にいるであろう何かに、一瞬だけ、向かっていきたくなった気がした。
 だが、光が指し示す通りに動く。そして問題なく一人窒息させる。
 今のはなんだ、『教導者』?

《タンクと思われる獣人によるコモンスキル『挑発』です。私の能力の副次効果により、『挑発』などの行動誘導系のスキルは一切効きません》

 ……挑発か。ヘイト稼ぎか。
 ふむ。このゲームでは知性のある種族でもヘイトによって行動が制限、あるいは誘導されるのか。確かに、『教導者』の能力なら無効化できてもおかしくないな。

 再び経験値とドロップアイテムを手に入れる。
 えっと、次は……。
 光の指示が一時的に止まる。

《マスター、MPをポーションで回復してください》

 言われた通り、MPを回復させる。
 次は『溶解液生成』と『毒生成』を発動させ、『射出』する。
 四方向に発射したことから考えるに、残りを全て毒状態にしたのだろう。
 後は適当に逃げながら遠距離攻撃でおしまい。
 ヒーラーが居ないので回復手段がなく、魔法アタッカーが居ないので遠距離なら避けられないであろう範囲攻撃をくらう可能性は無い。
 例え解毒ポーションが有ったとしても、個数に限度はある。まあ、俺のMPにも限度はあるが、『教導者』の導く通りにすれば、問題なく殺せる。
 つまり、つまらない。
 圧倒的過ぎるのだ。このユニークスキルは。少なくとも序盤に限って言えば。
 やはり己より強大な敵を不意打ちし、騙し討ちし、卑怯な手の限りを尽くして倒す。それが暗殺だと俺は思うのだ。勝てば官軍的な。
 だが、俺の方が圧倒的に強い。真正面からでももう負けはしない。
 飽きた。だからと言って、『教導者』を使わないと、蜂を倒すのがやっとと言うレベルだしなぁ。
 そうだ! 『教導者』、俺さぁ…………。


 ○


 多くの木が生え、出現するモンスターの少ない、通称北の森をシャインはリアルで同級生の友達とそのパーティーに混ざって歩いていた。
 道中ではFランクの粘体スライム小鬼ゴブリンを中心にパーティーメンバーと経験値集めをしており、F-ランクの働き蜂ワーカー・ビーや、軍隊蟻アーミー・アントを相手にスキルを試させて貰っていた。
 中でも、アーミー・アントは強敵だった。
 常に複数で行動していて、魔法使いの三人を守るのが大変だった。特に、地面から出てきて襲うと言う奇襲は対処に困った。
 そのせいか、パーティーメンバーも含めて、地面を警戒していた。幸運なことに、黒蜘蛛ブラック・スパイダーが現れなかったこともあり、完全に空中、あるいは木の上の警戒を怠っていた。

「なあ、竜崎……じゃなかった、ドラコール。もうすぐ経験値が二百になるんだけど、一つ目は『剣術』、二つ目はどうしようか?」

 シャインは間違えてリアルの名前を呼ぶが、訂正した後、ステータスについて質問した。
 このドラコールも数少ないベータテスターなのだ。種族は妖精種地妖精。いわゆるドワーフだ。鍛冶を少しかじっており、火魔法も使える魔法戦士。武器は両手持ちの大槌。前衛としてはかなり上手い方だろう。

「そうだなぁ。スタイルにもよるが、『剣術』なら『速度上昇』か、『器用上昇』だな。お前はヒョロそうだから腕力で叩き切るっていうのは苦手そうだからな」
「なるほど。あっ、ユニークスキルはどうなるの?」
「それは、人それぞれだろう。己の願いを叶える唯一無二のスキルだからな。お前はどんなことがしたいんだ?」

 ドラコールは、シャインの願いを尋ねた。こう言うことがしっかり固まっていないと、ユニークスキルの発現が遅れる傾向があると聞いたからだ。

「そうだね。せっかくのゲームなんだからさ。アニメや小説の主人公みたいな、そんな凄いことがしたいかな」
「なるほど。英雄願望か。その手のヤツは割りと多いから、似たようなスキルが発現しちまうかもな。まあ、お前しだいだがな」


 警戒は怠らず、森の中を楽しげに歩いていく。
 だが、すぐに悪夢は訪れた。

 後ろから突如、何かがぶつかった音がした。
 シャインは振り替えると、ヒーラーのメロンパンがもがき苦しんでいた。
 彼女の顔には、毒々しい紫色の粘体がまとわりついていた。

(な、なんだあれ? スライム? それにしては大きいし、なんか色が違う)

「『識別』! 毒粘体! ムラサキ!? 皆気を付けろ! ネームド・モンスターだ!!」

 途端に、パーティーメンバーの雰囲気が変わった。スライムなら平気だと言う甘えが消え、自分達より強敵を相手にするような感じだ。

(つまり、ネームド・モンスターっていうのはとんでもなく強いのか。じゃあ……)

「……ドラコール、ネームド・モンスターってなに?」

 本当はそんなこと聞いている場合じゃない。そんなのはわかっている。
 だが、何も知らない相手と戦うのは危険すぎる。

「本来、この世界の住人やモンスターは名前を持たない。だが稀に上位者によって名前をつけられて進化あるいは強大化したモンスターがいる。それが、ネームド・モンスターだ。そこらのモンスターとは強さの桁が違う。気を付けろ!」

 そんな話しを聞いている間にメロンパンは粒子となって消えた。

(えっ。死んだ……)

 死亡したプレイヤーは粒子となって女神の元に送られ、その後元通りになって復活するのだ。ただし、ペナルティとして経験値の最大値の一%が失われるのだ。
 ドラコールから聞いた話しを思い出しながら……。

「うわぁぁ~! 僕が! 守ってみせるんだ!!」

 ポイズン・スライムに突っ込んでいった。
 シャインの役割は、後衛を守ること。それと他の前衛の間から余裕があれば、チクチクと攻撃すること。
 立ち回りを知らない素人には丁度良い。そう思ったドラコールの提案だった。
 ユニークスキルさえ手に入れれば、誰でも英雄になれるこの世界で、最初から連携をまともに練習するのは、意味が無い。ユニークスキルによっては練習の意味が無くなるからだ。
 だが、それが裏目に出た。
 スライムは一切の無駄の無い動きで全てをかわしていった。
 ――振る
 ――――振る
 ――――――振る

 何度振ってもシャインの剣はスライムに当たらなかった。
 その間にドラコールも詠唱が短くスライムにも効くであろう火魔法の『火矢ファイヤー・アロー』を放つが、剣同様やはり当たらない。

「どけ! 『挑発――』! 『――こっちに来やがれ、この鈍間!!』」

 タンクをやっている黒狼の獣人、アークはコモンスキル『挑発』で敵に悪口を言って、さらに地面を強く踏んでヘイトを稼ごうとする。
 その間に魔法アタッカーとバッファーが詠唱を開始する。
 詠唱するのは広範囲を攻撃する風魔法の『風玉ウインド・ボール』だ。アロー系の点攻撃ではなく、面攻撃。特に風属性は威力が低い代わりに四大属性の中で速度と範囲に優れている。
 バッファーは『付加:速度強化エンチャント・スピード』を詠唱する。スライムに当たらないのは、前衛たちよりもスライムが速いからだと判断したのだろう。
 一度ダメージを与えれば、工夫しつつも同じパターンで攻められる。
 詳しい内容は知らないが、ヘイトについて教わっていたシャインは、アークからタゲ――ターゲットの略らしい――を奪わないように一度攻撃を中断した。
 そしてスライムは――

「な、何故だ? 『挑発』が効かない!?」

 ――なおも真っ直ぐ進み、魔法アタッカーを容易く殺した。

「くっ。『付加:速度強化エンチャント・スピード』」

 パーティーメンバーの速度を強化し終えると、バッファーのエンドーは次の詠唱に入る。

「ドラコール。どうする?」
「撤退だ! ネームド・モンスターと言えども強すぎる! 攻撃が当たらないなら、撤退しかない!!」

 全員が徹底の準備を始める。嬉しいことに速度強化のバフはまだかけたばかりだ。
 後は撤退するだけ。だが――

「避け――――ッ!!」

 スライムが放った溶解液は、スライムの体高の低さもあってか確実に四人の足を溶かし始め、毒によってHPが減り始めた。

「くそっ!! 麻痺じゃないのがせめてもの救いか。とにかく撤退するしかない。前衛は俺。殿はアークだ。急いで街で救援呼ぶぞ!」
「わかった! 先に行け!」

 だが、視界にはスライムがすでにいなかった。
 溶解液と毒を放った時にどこかへ行ったのだ。

「なっ。何処だ!」

 ドラコールの疑問は彼の死を持って答えられた。

「アガッ……カッ…………ッ!!」

 絞殺。
 木の上のスライムによって伸ばされた触手によって、首を絞められて死んだ。鎧とは言えないが、それなりの防具をつけているのだ。自重ですぐに死ねただろう。

「………………!!」

 シャインは振り返る。すると、声にならない声を上げて、エンドーが倒れていた。顔も喉も爛れて、一割を切って赤く染まったHPバーは徐々に減っていき、エンドーは粒子になった。
 
 毒殺。
 溶解液に毒を混ぜた、溶解毒液とも呼べるものにより、顔も喉も溶かされ、体内に入った毒によって死んだ。『痛覚無効』があったとしても、自分が溶けていく不快感に耐えられるべくもなく。

「くそっ! こうなったら、ユニークスキル『最――ス――』」

 むしろなぜ今まで使わなかったのかと思うようなタイミングでアークはユニークスキルを使おうとする。
 だが、声を発する前にその首は宙を舞った。

 斬殺。
 その触手が掴んでいるのは、初心者が使うような一般的なブロードソード。シャインの右手にあったが、いつの間にか無くなっていたもの。

(いや、放したんだ。逃げるのに必死で、武器を捨てたんだ!! なんで、なんでこんな……。ひっ。悪夢だ…………!)

 シャインは諦めかけていた。
 パーティーメンバーは全員死んだ。
 武器も無い。
 勝ち目もな……

(いや、ある! ユニークスキルだ!
 そうさ。ユニークスキルがある。
 この世界で僕は物語の主人公になるんだ!
 どんなピンチでも能力が覚醒して敵を倒す。そんな最強の主人公になりたいんだ!!
 そのためにこのゲームを始めたんだ!!)

 そしてどんな願いも叶えるスキルはそれを叶える。

≪願いを確認しました。ユニークスキルを発現させます。…………完了しました。ユニークスキル『主人公ザ・ヒーロー』を獲得しました≫

(やった!
 やったぞ!
 これで僕は最強の主人公に…………)

 だが、能力獲得でガッツポーズをしている隙だらけなシャインをスライムが見逃すはずもなく。
 突如シャインは喉に異物感を覚えた。
 喉には針が刺さっている。

(毒針か……)

 だが、何故か・・・威力が弱く、何故か・・・先があまり尖っていなかったその針ではシャインを殺すには至らなかった。
 そして何故か・・・救援がやって来た。

(やった。救援だ! これで助かる。あとはこのスライムを追い払うだけで良い。僕は主人公なんだ。一人ではたぶん勝てない。だから皆でリベンジすれば良い)

「大丈夫か! 少年よ!!」
「あっはい! でも仲間たちが!」
「待ってろ! もうすぐ助ける!」

 街の方からたくさんの兵たちとプレイヤーがやって来ていた。

「あれだな? 巨人を倒したスライムっていうのは。聞いたのと種族は違うが、恐らく進化したんだろう。テメェら気を付けろ!! あれはユニークスキルを持った特殊個体スペシャル・モンスターだ!! なめてかかると返り討ちに会うぞ!」
「「「「おおおおぉぉぉぁ!!!!」」」」

 戦闘を走るプレイヤーの一人は、大声で注意を呼び掛ける。
 後続のプレイヤーは正式サービス開始からすぐに始まった特殊個体の討伐ビッグイベントに大盛り上がりだ。
 そして――

≪一定条件を満たしました。毒粘体ポイズン・スライム、個体名:ムラサキを唯一個体ユニーク・モンスターに認定しました≫
≪討伐クエスト『『悪夢粘体 ムラサキ』を倒せ』が発生しました≫
≪詳細はクエスト画面をご覧下さい≫

 ――システムアナウンスが響く
 最初のは北の森この場にいる全員に。
 その後はスライムが敵対している人間側にのみ聞こえた。

 『悪夢』が誕生した。
 




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