冥い夜にさす光

冬空星屑

第8話 お帰りなさい




 目を開けると、美しい川のようにサラサラと流れる青髪が見えた。
 鼻にもかかる髪からは、少し良い匂いがする。
 右手でそれらを払いのけると、不断の彼女とは違ったかわいらしい顔から小さな寝息が聞こえてくる。
 周りを見渡せば、自分のベッドの上で膝枕をされているのだと理解した。
 VR機器を外しながら俺は呟いた。

「手も足もある。あとは、味覚だけか……」

 俺は、何を考えたか頭を持ち上げ、彼女に顔を近づけていく。
 触ると溶けてしまう氷のような肌に、小さな赤が映える。そして……

「……ぅん? あっ。起きたんだ、冥夜。おはよう。それとも、お帰りなさい、かな?」
「あ、ああ。おはよう、メイヴィス」

 ……チッ。
 寝惚けた彼女もまた一段とかわいらしいのだが……チッ。惜しかった。
 まあ、良い。
 視覚。彼女の綺麗な顔に見蕩れる。
 聴覚。彼女の透き通るような声が響いている。
 嗅覚。彼女の香りが鼻をくすぐる。
 触覚。彼女の膝が柔らかく温かい。
 味覚。空気が旨いとでも言っておこう。
 頭がある。手がある。足がある。体がある。

 あぁ、人間って素晴らしい。そして――


「――現実リアルって良いわ~」

「……? どうしたの急に? 非現実ゲームで何かあった?」
「うん。まあな。色々あったんだよ。
 でも、ま。すぐにログインするわ。茉莉との約束もあるし、夕飯の時にでも話しをしよう。あいつらも交えてさ」
「そっか。冥夜がそうしたいならそうするよ。まあ、言わなくても全部・・分かるけどね」

 メイヴィスはいつもと同じ、口癖のようになった言葉を紡いだ。

「それなら良かった。じゃあ夕飯の時にな」
「うん。……そうだ、冥夜。私もそのゲームやろっかな? 楽しいんでしょ?」
「あぁ。最初は不安だったが、今は楽しいよ」
「そっか。それじゃあ、行ってらっしゃい」
「行ってきます」

 交わす言葉は最低限。それでも互いの気持ちは伝わった。
 そのあと、VR機器を取り付けた俺はスライム生活を楽しみに異世界ゲーム転生ログインした。

 ●

 気が付けば、俺は再び闇黒の世界にいた。
 だが、一人ではない。
 ならば、多少は安心感があると言うものだ。
 さっきまでの四時間は、精神異常の発狂一歩手前という状態だったが、もう大丈夫だ。
 
《お帰りなさい、ドジでバカでマヌケなマスター》
 
 …………。
 …………やっぱり不安かも。

《それで、何を為さっていたのですか?》
 
 リアルの話しはゲームでは厳禁なのだ。
 それより、もっとましな出迎えはできないか? 割りとキツいものがあるんだぞ?
 
《『お帰りなさいませ、御主人様』(棒)》
 
 ……やっぱいらないわ。俺が悪かった。
 
《ちょっ! マスターがやれって言ったんですよ!?》

 俺は、やれとは言ってないし、謝ったんだから、これでおしまい。終了。ちゃんちゃん。
 そもそも棒読みとかないわ~。メイヴィスの方が遥かに上手だぞ……。

《誰ですか、メイヴィスって?》

 俺の妻だ。かわいいんだぞ。美人だし。

《あぁ、なるほど。『俺の嫁』の亜種ですね? 理解しました》
《さて、マスターの性癖は置いておいて。今後の話しをしましょう。まずはステータスをご確認下さい》

 はぁ。仕方ない。まあ、こいつのおかげでよくわからない巨大なやつにも勝てたしな。しっかりと導いてもらうとしよう。まずは最低限強くならないとな。

《ご託は良いので、早く開いてください。愚鈍にも程がありますよ、マスター》

 …………オープン・ステータス。

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名前:ムラサキ
種族:妖魔種粘族
総合ランク:C- 58750/59725
総合レベル:Lv.11
≪加護≫
『キュスティアの加護』
≪種族レベル≫
毒粘体ポイズン・スライムLv.1』
粘体スライムLv.10max』
≪ユニークスキル≫
『教導者Lv.1』
≪固有スキル≫
『溶解Lv.3』『吸収Lv.4』『増殖Lv.3』『適応進化Lv.-』『毒粘体Lv.2』『毒生成Lv.1』
≪エクストラスキル≫
『収納Lv.1』
≪コモンスキル≫
『共通語理解Lv.1』『危険探知Lv.1』
≪耐性スキル≫
『痛覚無効Lv.-』『刺突耐性Lv.1』『雷属性耐性Lv.1』
≪称号≫
巨人殺しジャイアント・キリング
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  序章――ようこそ、異世界へ―― 完。


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