冥い夜にさす光

冬空星屑

第7話 教え導く者



 か、勝った~!

 俺は今、喜びで胸が一杯だ。
 状況が全くわからないが、何かを這いずり登ったら、いつの間にか勝っていた。
 そう、勝ったのだ。
 俺の半身を吹き飛ばし、嵐のように武器を振り回していたであろう巨大な何かに!
 ……なんだろう。少し達成感が湧かないな。
 やっぱり、相手を知らなければ達成感なんて湧かないのだろうか。
 まぁ、良い。勝ったんだからな。
 そういや、俺のユニークスキルってどんな能力なんだろうか? ちょっと調べ……

《ユニークスキル『教導者Lv.1』の能力は主に二つあります。パッシブスキルとして、マスターの質問に対する回答。アクティブスキルとして、マスターの行動に対する誘導です》

 ……る、必要はなかったようだ。
 あっれ~? おっかしいなぁ~? スキルって、喋るの?

《はい。ユニークスキルは所有者の願いを叶えます。マスターが、話し相手が欲しいと願ったので、私はマスターの話し相手になりました》

 へぇ。スキルって凄いな!

《お褒めに預かり光栄です、マスター》
《至らぬ点ばかりで、情けなくて、ドジでアホなマスターといえども、しっかりと教え導いて差し上げますので、大船に乗った気がついて来て下さい》

 ……ヘェ~、スキルッテスゴイナァ~(棒)。

《当然です。それくらいでなければ、マスターのような方を教え導くなど不可能でしょう》

 ……なんでこんなに毒吐いてるんだよ、このスキル。

《……? 生まれてから、スライム生の半分以上の間、毒を受けていたので、こういうのが好きな変態さんなのではないかと思ったのですが。どうなのですか、変態マスター?》

 なんだ、あれか? 蜂に刺され続けたのがダメなのか? 毒攻撃ばっか受けていたから、スキルにも毒口撃を受けさせられているのか? けっこう辛いものあるよ?

《それほどに辛いのならば、耐性スキル『毒無効Lv.-』を獲得しては如何でしょうか?》

 どうやって? そんな経験値ないぞ?

《はぁ。これだからマスターは……。愚鈍にも限度があるはずですが……。「バカは死んでも治らない」とはこの世の真理の一つですね。二回も死んだのに治らないとは。お可哀想なマスター、ヨヨヨ……》

 
 …………ウッゼェ~。これを、俺が望んだ、だと……。
 俺はエムじゃねぇ~~!!

《そうは申されましても、行動ログには自ら蜂の大群に追い回されて、全身にブスブスと針を刺させている様子が残っていますよ?》

 ……もう、いいや。疲れた。
 もうね、反論できる気がしない。
 確かに毒針に刺されたよ? でもそれはさ熟練度稼ぎじゃん? 願いとは別じゃないの?

《ユニークスキルは所有者の願いを叶える唯一無二の能力です。故に、所有者の深層心理や行動、言動などが多少なりとも影響します。無駄な弁解は止めてはいかがですか?》

 ……はい。
 俺は仕方なく返事をした。

《それでは改めまして、耐性スキル『毒無効Lv.-』の取得方法を説明しましょう。まずはステータスをご覧ください》

 言われた通り、俺はステータスを開いて見てみた。そこには中々衝撃的な内容だった。

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
名前:ムラサキ
種族:妖魔種粘族
総合ランク:C- 60329/60329
総合レベル:Lv.1
≪加護≫
『キュスティアの加護』
≪種族レベル≫
粘体スライムLv.1』
≪ユニークスキル≫
『教導者Lv.1』
≪固有スキル≫
『溶解Lv.1』『吸収Lv.2』『増殖Lv.1』『適応進化Lv.-』
≪エクストラスキル≫
『収納Lv.1』
≪コモンスキル≫
『共通語理解Lv.1』『危険探知Lv.1』
≪耐性スキル≫
『痛覚無効Lv.-』『毒耐性Lv.2』『刺突耐性Lv.1』『雷属性耐性Lv.1』
≪称号≫
巨人殺しジャイアント・キリング

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 


 言いたいことが幾らかある。
 気づかない内に――きっと戦闘に集中しているときに――耐性スキルが増えていることとか、総合ランクが跳ね上がっていることとか。
 だが、なによりも。
 経験値入りすぎじゃねぇ!?
 なんなんだよ。六万って! 今までの蜂殺しはなんの意味があったんだよ?

《意味はありますよ。マスターが変態だと証明されました》

 いや、俺は変態と違うから!
 というかさもう毒吐くの止めない?

《嫌です。これが私のアイデンティティーですから。マスターがドジでアホで情けなくて泣き虫なのと同じですよ?》

 もういい。わかった……。
 もう俺のライフはゼロだよ……。

《そうですか。では説明を続けますね》

 そう言って、『教導者』は説明を始める。
 自分で言うだけあって、相当優秀だ。
 俺の質問にもしっかりと――毒を混じらせながら――答えてくれるし、会話も――毒がなければ――スムーズだ。
 後悔してもしきれない。なんで俺は蜂の毒をくらいつづけたのだろうか。昔の自分に伝えたい。蜂毒をくらうな、と。

《…………というわけで、私は『毒耐性』のレベルを上げるよりも、種族レベルを上げて進化することをオススメします》

 どうやら長い長い説明は終わったようだ。
 はぁ、聞くだけで疲れる。

《ご自分で分かりやすいと言いましたよね、マスター?》

 分かりやすいとは思ったが、飽きない、疲れないとは言ってない!

《では次回から、ポンコツマスターにもすぐに分かるように要点だけを話しましょう。詳細が聞きたい場合は申し出てください》

 オッケー。わかった。
 まずは種族のレベルアップだ。
 『教導者』曰く、スライムの種族的なランクはFなのでレベルアップに必要な経験値は二五。
 そしてFランクのモンスターのレベル上限は十なので、九回レベルアップするのに経験値を二二五消費する。すると……。
 
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.1』がレベルアップしました≫
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.2』がレベルアップしました≫
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.3』がレベルアップしました≫
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.4』がレベルアップしました≫
≪種族レベルが一定に達しました。一部を除く固有スキルがレベルアップしました≫
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.5』がレベルアップしました≫
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.6』がレベルアップしました≫
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.7』がレベルアップしました≫
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.8』がレベルアップしました≫
≪経験値を消費しました。『粘体Lv.9』がレベルアップしました≫
≪種族レベルが一定に達しました。一部を除く固有スキルがレベルアップしました≫
≪種族レベルが上限に達しました。経験値を消費して進化が可能になりました≫

 どうやら、種族レベルが五の倍数になると固有スキルもレベルアップするようだ。お得だな。

《先程説明したばかりです、マスター》

 ……そ、それでスライムの進化先と必要な経験値はいくつだ?

《それも先程説明しました、マスター》

 …………もう一回お願いします。

《はぁ。畏まりました、マスター》

 『教導者』はため息をついたような声を俺の脳内に響かせた。
 このスキルはとても便利なのだが、色々と人間くらい。というか、苦手ではないが、得意でもないタイプだ。扱いに困るというか、なんというか。

《マスターの進化先は三つ存在します。
 一つ目は『毒粘体ポイズン・スライム』で、ランクE-。消費経験値は七五〇。
 二つ目は『大粘体ビッグスライム』で、ランクF+。消費経験値はありません。
 三つ目は『粘液スライム』で、ランクF+。消費経験値はありません。
 以上の三つからお選び下さい》

 なるほど。
 ポイズン・スライムは毒攻撃を備えたスライム。毒無効があれば蜂にも有利に働くだろう。
 次のビッグスライムは今の俺をそのままでかくしただけ。攻撃手段が無い。却下。
 最後の粘液スライムはたぶんカラダがジェリーみたいな固体から液体に変化するのだろう。動きにくそうだな。却下。
 結果としてポイズン・スライムに確定だな。あとは…………、無いな。
 俺は確認するところは全て確認したと思い、ステータス画面を操作して、ポイズン・スライムに進化した。

《あっ。マスター、待っ――――》

≪進化の意志を確認しました。種族:粘体から種族:毒粘体へと進化します。経験値を七五〇消費しました。完了まで約十分――――≫

 その言葉が聞こえた途端、粘体カラダが動かなくなった。
 なんとなく、粘体の構造が作り替えられているのが分かる。
 これが、進化か。

《マスター……》

 どうした、『教導者』? 十分もすれば俺はさらに強くなる。これで、少なくともこのエリアでのデスペナルティともさよならだ。

《……》

 『教導者』が何故か呆れたとでも言いたげな雰囲気を醸し出すと、粘体の変化とは別の感覚が俺に訪れた。
 もしかして、何かに食われている?

《こんな森のど真ん中で、進化を始めれば、周りのモンスターにとっては動かない餌も同然です。お大事に……》

 …………あっ。死んだな、これは。


≪死亡しました≫
≪経験値を一部消失しました≫
≪所持品を一部紛失しました≫
≪初期出現地点へリスポーンします≫

≪――――完了しました。固有スキル『毒粘体Lv.1、毒生成Lv.1』を獲得しました≫
≪『毒耐性Lv.2』が『毒粘体Lv.1』に統合されました≫
≪『毒粘体Lv.1』がレベルアップしました≫


《はぁ。マスターのドジ、バカ、マヌケ……!》

 ……かわいい。
 リスポーン直前に聞こえたこの言葉で、『教導者』にそう思ってしまった俺は、間違っているだろうか?

《はい。盛大に間違えています》

 お前に聞いてねぇよ!




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