冥い夜にさす光

冬空星屑

第6話




 ――ありえない

 そう、ありえない光景が目の前に在った。
 木々は粉砕し、地面は砂と化し、それでもまだ終わらない二撃目・・・の『大雷嵐斧』。
 だが、目の前のスライムは今までの逃亡劇が演技であったかのように、悠然と、滑らかな動作で、全ての攻撃をかわしていた。
 嵐の中、濡れることなく歩けるだろうか?
 雷が降り注ぐ中、堂々と歩けるだろうか?
 風が、水が、雷が。
 己を殺そうと迫る中、歩けるのだろうか?
 不可能だ。
 エクレールはそう考える。

(で、も。目の、前で、その不可、能が、可能に、なって、いる……。ユニーク、スキル……?)

 エクレールは先程のシステムアナウンスを思い出した。
 クエストの難易度――今回の場合で言えば、スライムの総合ランク――がFからC-まで上がるのはほぼ不可能だ。
 それが出来るのはユニークスキルのような強力なスキルが発現したときのみだ。
 総合ランク――レベルとスキルから推測したおおよその戦闘能力――は、Fランクのような低位の者のならば、ユニークスキルを得たとたんにC-に上がるのは周知の事実だ。
 だからこそ生まれながらにして、ユニークスキルを獲得できると決定されているプレイヤーは、いわゆる物語の主人公になり得るのだ。プレイヤーを除けば、誰より早く強くなれるから。
 
 いつの間にかスライムは、すでに足元に辿り着いている。

 
(プレイヤー……? でも、クエスト、は……?)

 プレイヤーならばこの土壇場でユニークスキルが発現するのはおかしくないし、むしろ当然だ。
 願いを叶える。それがユニークスキルだから。
 でも、プレイヤー相手に討伐クエストが発生するのだろうか?

(あっ……! 盗賊、の、討伐は、ある、か……)

 エクレールの疑問が解ける頃には、足を通り、腹を通り、胸にまでスライムがやって来ている。
 エクレールも斧の柄でスライムを叩いてはいるが、やはりHPバーには減る気配が無い。むしろ、エクレールのHPが減っている。

(何を、する気……? 尺、取虫、みたい……)

 エクレールはもう何もできない。
 『雷神之一撃Lv.3』で獲得した『大雷嵐斧』は、発動すると確率で麻痺の状態異常にかかる。全く動けないわけではないが、これ以上スライムを叩いていると、逆に自分が倒れるので、為すすべがないのだ。

(でも、どうやって……? ダメージは無い……)

 先程からずっとスライムはエクレールの体を這いずっているが、ダメージは一切無い。
 ユニークスキルを獲得しても、エクレールのような攻撃系の物でなければ、巨人と粘体の圧倒的な身体能力差を覆すことはできない。
 なのに……。

(あぁ……。なる、ほど……。これ、な…………)

 エクレールは首に手を伸ばしてもがくも、もはや遅い。どちらにしろ、麻痺であまり動けないが……。
 口に入り、気管を通ってスライムは肺に到達した。
 肺を粘体みずで満たせばどうなるか。
 たとえ、巨人といえども肺呼吸をしている以上、窒息死、いや溺死する。
 そんなことを呼吸をせず、知能が無いはずの通常のスライムが分かるはずもなく。

(あぁ……。やっぱり、プレイ、ヤー、だ……。私より、強い、プレイヤー、は、初め、て、あった、な……)

 こうして、ベータ時代にトーナメント決勝戦を制した最強の戦士『巨斧』は、初めてプレイヤーに敗北した。








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