冥い夜にさす光

冬空星屑

第4話 森敵


 第3話 森敵


 くっそ~!!
 リアルではまだ一時間も経ってないのに、もう二回も死んだぞ。しかもたぶん同じ相手に。
 まぁデスペナルティは今のところ、経験値の最大値が一だけ減少、あとはドロップアイテムの毒針が少々。
 おっ! レアドロップの蜂蜜は残ってるな。これはラッキーだ。
 なんだかんだで『毒耐性』と『吸収』がレベル二になってるし、熟練度稼ぎが有効なのは立証済み。
 ならば! 性懲りもなく同じ湖に行くとしようか! また死んだらどうしよう……。


 少しして、俺は再び蜂たちを引き連れ――全身を刺されている――ながら這いずっていると、不意に地面が盛大に揺れた。
 
 ――なんか、ヤバい!

 そう思って即座に『危険探知』を発動する。
 すると俺の闇黒の世界に血色の閃光が迸る。
 閃光は徐々に『死』に侵食されていき、どす黒く染まる。まるでその跡を巨大な何かがなぞるかのように――

 きっと生存本能とかが働いたのだろう。
 目の前に迫り来る『死』。
 生存を望むならば、本能で避けるだろう。
 だが『危険探知』が危険だと告げるそれが、俺より強いのは確定的に明らかだ。

 ――俺を一刀両断にした。


 ○


 『ユニークライフ・オンライン』

 それは、去年の冬休みにたった一週間だけ、それもかなり少人数のテスターだけで、クローズドベータテストを行った今最も話題のVRMMOだ。

 異なる世界に転生して、新たな自分だけの人生を送りなさい。

 そんな主旨のことを女神に言われてからプレイを開始する。
 人型生物はもちろんのこと、ランダム転生ならば最弱と名高いスライムから、最強の生物ドラゴンまで転生できる夢のような世界。
 そして、自分の願いを叶えてくれる自分だけの能力を得て、まるで物語の主人公のように世界を旅するのだ。
 そんな夢を抱いて散っていた人のなんと多いことか。

 とある人はモンスターを殺したときの、肉の感触を思い出して。
 とある人はあたりに漂う血の臭いに、むせび泣いて。
 とある人は仲良くなったこの世界の住人の死で、心を閉ざして。
 とある人はモンスターに死ぬまで全身を喰らわれた恐怖で。
 とある人は――
 とある人は――――
 とある人は――――――

 彼らはあまりのリアルさに、あまりの臨場感に、あまりのグロさに世界から去っていった。

 そんな中、残ったプレイヤーもいる。
 有名所で言うならば――
 プレイヤー内、最大クランのオーナー『元帥』
 同じくプレイヤー内、最強クランのオーナー『守護竜』
 プレイヤー内、最強の魔法職『森焼き』
 同じくプレイヤー内、最強の戦士『巨斧』
 ――と言ったところか。

 この四人――人間以外もいる――はベータテスト最後のトーナメント戦のベスト4だ。
 とはいえ、勿論優勝者はいる。それは今……。


 ドゥゥン! ドゥゥン! と、腹に響く巨大な足音を立てながらキコリは歩く。
 体高は三メートルを優に越える。
 巨人種としてはまだまだ小さいが、人間種から見れば十分に巨大だ。
 だが、そんな巨体よりもさらに目を引く物がある。
 ――ラビュリス
 その巨体に迫るほどに巨大なそれは、どんな大木も両断しそうなほどの威容を放つ左右対称の両刃斧だ。
 それを二つ。
 そう。二つも持っているのだ。
 巨人種はその特徴として、よく怪力を上げられる。それはこのように両手用の大戦斧を片手に一本ずつ持っていたりするからだ。
 そんな巨人種の一体、エクレールはプレイヤーが始まりの街と呼称する『ドゥーベ』の北の森に伐採しに来ていた。
 そこで異変に気付く。

「……木が、溶けている」

 エクレールは自分の足元を見て、悲壮感を漂わせた。
 木が、森が、泣いているのだ。
 地面は、何かが溶解液を垂らしながら這いずったのか、爛れており、辺りも雑草、薬草を問わず溶かし散らかされていた。

「スラ、イム……?」

 確かにこの辺りで溶解液を撒くような存在はスライムくらいだ。
 だが、こうも森が荒らされた試しは無い。

「あるいは、それ以上の……」

 エクレールがそんなことを考えていると、不意にシステムアナウンスが流れた。

≪討伐クエスト『森を荒らす粘体スライムを倒せ――難易度:F』が発生しました≫
≪詳細はクエスト画面をご覧ください≫

「……? Fだけ?」

 エクレールは首を傾げた。
 難易度はクエストの内容によって変わるが、討伐クエストの難易度は討伐対象の総合的な強さを表している。そして通常のスライムの平均的な強さもFだ。
 つまりそこらのスライムと何ら変わらないスライムがこの荒らされた森の原因だということだ。
 それは先程の推測と大きく矛盾する。

「行って、みるか。どちらに、しろ、森を、荒らすなら、倒す……。神敵森敵は、叩き潰す……!」

 エクレールは斧を担ぎ直し、再び歩き始める。
 ベータテスター最強の戦士と最弱と名高いスライムが邂逅するまで、あと僅か。







「冥い夜にさす光」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く