冥い夜にさす光

冬空星屑

第二話


 第2話



 気が付くと俺は暗闇の中にいた。
 動かさそうとした手も足も反応がなく、途方にくれること十数分。目は見えないし、音も聞こえないこの状況でゲームシステムのバグを疑ったが、視界の左上にはHPバーとMPバーらしきものが浮かんでいる。これもステータス同様、ホログラムのように見える。具体的な数値はないが、おおよその割合は見えるようだ。
 結局、ランダム転生をしたので、少なくとも人型生物ではなくなったんだろうなぁ、と考えるに至った。
 これがゲームだと理解していなければ、発狂していたかもしれないが、そんなことはどうでも良くなるような内容がステータスに表示されていた。

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名前:ムラサキ
種族:妖魔種粘族
総合ランク:F 0/0
総合レベル:Lv.1
≪加護≫
『キュスティアの加護』
≪種族レベル≫
粘体スライムLv.1』
≪ユニークスキル≫
『Lv.0』
≪固有スキル≫
『溶解Lv.1』『吸収Lv.1』『増殖Lv.1』『適応進化Lv.-』
≪エクストラスキル≫
『収納Lv.1』
≪コモンスキル≫
『共通語理解Lv.1』
≪耐性スキル≫
『痛覚無効Lv.-』
≪称号≫

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 どうやらスライムに転生したらしい。
 
 なるほど。
 道理で手も足も動かないわけだ。手足が無いのだから。
 見えない。当たり前だ。目が無い。
 聞こえない。当たり前だ。耳が無い。
 というか、何が五感完全再現だよ。触覚以外の五感が存在しない。まぁ、もしかしたら第六感があるかもしれないが。あまりにも酷すぎるぞ。
 いや、スライムには触覚しかないのだから五感完全再現は合っている、のか?
 固有スキル――生まれながらに持っているスキル――でも確認してみるか。

 ●

 ――ジュワッ……
 ――ジュワッ……

 体感で三十分くらい歩き――這いずり回ると、雑草が生い茂っていることと、木が多く生えていることがわかった。
 暇潰しも兼ねて近くの雑草を『溶解』していた。

 ――ジュワッ……
 ――ジュワッ……

 慣れるとこれもなかなかに面白い。
 別に音がするわけでも、溶けている様子が見えるわけでもないのだが。

 さて、スキルの検証をしていたら幾つかわかったことがある。
 一つ目はスライムがいかに完成された存在か、ということだ。
 近くに在るもの『溶解』していき、その一部を『吸収』し、体積がおよそ二倍になると『増殖』の効果で二匹に別れる。そしてスキル『適応進化』により、ほんの数日で環境に適応した進化をするらしい。まだ、進化の検証はできていないが。
 近くに溶ける物があればたった一体だけでも種を存続させることができ、『吸収』した物と環境によって個体ごとに特徴が表れるため汎用性がある。
 これほど完成された種族は他にいない。
 残念ながら俺は、生殖行為をしないため無性であるため卒業できないが、まあリアルでは普通に男性なので問題ない。

 さて二つ目は、スライムの逃げ足はわりと早いということだ。
 今俺は全力で走って――這いずっている。
 スキルの検証にかまけていたら、いつの間にか視界の端のHPバーが減り出したのだ。徐々に。
 HPバーの横を見ると毒のアイコンが付いていた。ゲームの仕様の『痛覚無効』のお陰か痛みは一切無いが、ある意味恐怖だ。
 もうね、さっきからこの暗闇の中をHPバーとMPバーが乱舞しているのだ。
 音もなく、光もなく、ほんの少し粘体カラダに風が当たる。
 そんな中、徐々に減っていくHPバーを眺めながら、しかし全力で逃走する。地面と接している粘体カラダからは、草を撫でたり、地面を匍匐前進するような感触が伝わってくる。
 そんなとき、問題が発生した。
 ゲームだから死んでも良いか、と気を抜いてHPバーを眺めていたのが災いしたのだろう。俺は水の中に落ちて、沈んでいった。
 あっ。死んだわ……。そう思った頃にはHPバーのHPが変動を始めた。この手のゲームで水の中に沈むと様々なバッドステータスが付く。全身が濡れて動作が重くなったり。呼吸ができずにHPが減り始めたり。さらに時間が経つと衰弱して能力値が激減したり。
 ただでさえ俺は『粘体Lv.1』なのだ。助かる可能性は無い。諦めてデスペナルティを受け入れよう。
 それにしても今気づいたが未だに誰とも会っていない。MMOである意味が無いんじゃないか、これ。MOでも良い気がしてきた……。せめて会話したかったかも。

≪経験値を1獲得しました≫
≪経験値を1獲得しました≫
≪経験値を1獲得しました≫
 …………。
 …………。
≪一定条件を達成しました。耐性スキル『毒耐性Lv.1』を習得しました≫

 声が来た~~!!
 まじか! 女神様を除けばこのゲームで初めて聞いたのが、システムアナウンス! しかし! あぁ。この闇黒の世界の中では、こんな機械音声だとしても癒される……!
 それにしても経験値を消費しなくてもスキルって手に入るんだ。いや、獲得と習得では意味が違うから、そういうことか? まぁ、リアルさを売りにするなら、練習すれば身に付くというのは当然な気がする。以前に筋トレすれば能力値がわずかに上昇するゲームもあったが、スライムには鍛える筋肉は無いしなぁ。
 それよりはスキルの熟練度稼いだ方が良いな。いつの間にか周囲のHPバーとMPバーがいなくなっているし、状態も毒がとれて健こ……。
 ……あれ? 何で水の中に沈んだのに状態異常がないんだ? というか、いつの間にかHPが全快している。何故だ?
 ……って、誰も教えてくれないか。まあ、当たり前だな。
 それよりもさっき経験値がどうのって聞こえたな。そこはどうなってるんだろう。オープン・ステータス。

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名前:ムラサキ
種族:妖魔種粘族
総合ランク:F 9/9
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 おお。経験値が増えてる。レベルアップするには全然足りてないが、初めて経験値を獲得したな。
 あれかな。さっきまで乱舞していたHPバー達が窒息したとか?
 窒息と言えば、スライムって呼吸いらないのか? それなら水中でも活動できるのも納得だな。そもそも体がプヨプヨした流線形の何かだから、水中で抵抗がなくて活動しやすい。
 むしろこのまま水中で…………。

≪致死ダメージを受けました≫
≪経験値を一部消失しました≫
≪所持品を一部紛失しました≫
≪初期地点へリスポーンします≫



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