冥い夜にさす光

冬空星屑

第一話 始まりの朝


 第1話 始まりの朝



 ――異世界に行きたい

 誰もが一度は願ったことがあるだろう。

 周りと大差無い、ただただ平凡な人生。
 自分はこんなじゃない、もっとやれる。
 そう思う。だが、現実はずっと残酷だ。

 そんな時、こう思わなかっただろうか。

 ――ああ、異世界に行きたいなぁ……
 ――ゲームみたいなファンタジーの世界に……
 ――女神様から特別な能力とか加護を貰ってさぁ……
 ――モンスターを倒して、女の子を救って、理想の英雄に……


 その願いを、叶えよう!
 私たちは提供する、新たな世界を!
 あなたの願いを叶える唯一無二の能力と、唯一無二の人生を!

 ユニークライフ・オンライン、いよいよサービス開始!!


 ………
 ……
 …

「――って言うVRゲームなんだけど、一緒にやろう、メイにい!」
 
 高校生活最後の春休みの、雨が降ってて体が重い朝に、俺の二番目の妹はそう言った。
 正直に言って、わざわざ八時に起こしてまで言うことじゃないだろう。こっちは徹夜して六時に寝たばかりなんだよ……。
 
「とりあえず、眠いから出てけ。俺は寝る」
「そこをなんとかさ! サービス開始は正午だし、勿論時間加速の機能も付いているから。四倍の速度だからあんまり時間も取られないし。お昼食べたら遊ぼ?」

 俺の言い分は効果を発揮せず、向日葵は車椅子に乗った状態でさらに屈んで笑顔でそう言った。
 あの……。上目遣いとか、すっごく反応に困るんですけど……。ていうか、俺の部屋に三人も妹がいるのも困るんですけど……。それにね、三女よ、冷たい眼差しを俺に向けないで。そして長女よ、なぜベッドの下をまさぐる。工口本なんて無いですよ。いやホント。
 
「とりあえず茉莉、ベッドの下に潜るな」

 茉莉をベッドの下から引きずり出しながら、俺はこの後の言い訳の仕方を考える。
 ここは、話しを反らそう。ゲームとは言え、いまさら異世界とか、飽きたんだよ。
 
「思春期であるか否かに関わらず、男性のベッドの下にはエロ本が隠してあると書いてあったのですが、御兄様のベッドの下には無いのですか?」

 茉莉は、いつも通りの機械的な口調だ。もう少し感情を表にだしても良いのだが。

「あるわけ無いだろ……。買おうと思ったことすらないからな、俺は」
「そうなのですか……」
 
 俺の実妹、いや異父妹はまた絵の多いエンターテインメント小説や漫画からの知識を得たようだ。得るのは良いのだが、事実確認に俺を使わないでほしい。
 
「兄さん、それは違います」
「何がだよ」
「あっ、あたしも気になる。何が違うのユウちゃん?」

 どれが違うのかよく分からないが、この医者志望の勉強の虫とはあまり討論とか、そういうのしたくない。言い負かされるんだもん。あぁ工口本とか無いから問題ないはずなのだが……。夕葵ユウキよ、なぜまだ冷たい眼差し? 俺は健全な高三男子ですよ? いやまだ始業式始まってないか。
 
「兄さんの場合、『買おうと思ったこと』が無いのではなく、『買う度胸』が無いのです。違うとは言わせません」
「そっか! メイにい、ヘタレだもんね!」
 
 この双子……。同じ顔で性格違うくせに、揃って容赦が無い。義理とは言え、兄をもう少し敬ってもバチは当たらないよ?
 
「なるほど。『ヘタレ』はエロ本を隠していないのですね?」
「茉莉、それは違う。俺がヘタレなのと、俺のベッドの下の工口本の有無は関係無いから」
「なるほど。他の要因があるのですね?」
 
 どうしよう。俺の妹が素直すぎて心配。さらに言えばヘタレじゃないと言い返せないのが情けない。だが、これ以上この話しをしたくないので、話しを戻そう。
 
「それでヒマワリ。用件はなんだっけ?」
 
 覚えているのだが、一応聞き返しておこう。話しを戻すならこれが最適だ。
 
「ちょっと~! 露骨に名前間違えないでよ! あたしの名前はア・カ・リ!」
「漢字はどっちも『向日葵』だろうが……。というか、車椅子で暴れるな。タイヤが当たる。それで用件は? ゲームならやらんぞ」
「覚えてるし~」
 
 用件と名前。どっちに対する覚えている、なのかはわからんが、向日葵アカリはため息を吐いた後、用件を言った。
 
「メイにい、一緒にゲームしよう?」
「…………」
 
 おい。俺はやらないと言ったぞ。なぜそれでもう一度ゲームに誘う。どうやって断るか…………。
 
「兄さん、沈黙は肯て――」
「あぁぁぁ! 俺は一応、受験生なのだが?」
 
 夕葵に喋らせてなるものか。強引に言い負かされるに決まっている。そしてこの勉強の虫は、受験生と言えばたぶん納得――
 
「不登校が何を言っているんですか?」
 
 ――しなかった。
 
「いや、春休みに学校行かないのはむしろ当ぜ……」
「黙ってゲームをやってください。あと、兄さんの学園は、兄さんの成績ならエレベーターですので問題ありません。最悪、母さんが理事長なのでどうとでもなります」
「おい、あの……」
「あと! これ以上ごねると黒歴史アレをばらします」
「…………わかりました」
 
 俺の足りない頭では、すぐには言い訳できません。なんで俺、義妹に弱み握られてるんだろ? ヤバい。悲しくなってきた。
 
「御兄様」
「なんだ、茉莉?」

 そんなことを考えていると茉莉が呼び掛けてきた。

「一緒に遊んでください」
 
 あっ。
 可愛い妹からの久しぶりのおねだり。しかも素直にお願いされると、断ろうという気が一切湧いてこないから不思議だ。
 
「あぁ、わかった」


 こうして俺は、ユニークライフ・オンラインをすることになった。
 さて、フルダイブゲームらしいのでさっさと準備を終わらそう。昼飯が無くなる。
 それより、義理のより実妹の方が明らかに可愛いのは……何でだろう?

 ●

 俺は、早めの昼飯が大好物であったこともあり、機嫌良くゲームの準備をしていた。
 ゲームに必要な機器やソフトなどは一式用意してあり、昼飯の最中にはどんなゲームなのかも話して貰った。
 ゲームの内容は、

「『異世界転生して、はいあとご自由に』、か。説明が適当過ぎるんだよ、向日葵アカリ

 俺はため息を吐きながら、チュートリアルがあるらしいから良いか、と思った。
 正午になったので、俺はベッドで横になり、ゲームの世界へと没入した。


 目を開けると俺は、真っ白な建物の中にいた。
 左右には狭いが等間隔に太くしっかりした柱が並ぶ。華美な装飾はないが、シンプルだからこそどっしりとした重厚感があり、また、柱の続く先に何があるのか気になってしまう。
 俺は、思うがままに真っ直ぐと歩き出した。
 この建物は、調和と均整を重視した直線的な造りのようだ。色も見渡す限り白いので、逆に神々しささえ覚える。
 まさに、神のおわす御殿。
 言葉では言い尽くせない程に、ただただ美しい。

「あら。中々、私好みの方がいらっしゃったわね」

 俺がこの神殿に見蕩れていると話し掛けてきた存在がいた。
 柱が続く先。天井の高い最奥の部屋の階段の先。本来なら、信者らが祈るための神像があるであろう場所。
 そこには神像よりも相応しい存在、一柱の女神がいた。
 それは、まさに神のために拵えた椅子――玉座の上位互換的な物――に座り、今まで歩いてきた神殿など塵芥にしか思えなくなるほどの神々しさを纏っていた。

「初めまして。私はキュスティア。この度、貴方を異世界『ドラローカル』に転生させることになりました。どうぞよろしく」
「あっ……、よ、よろしくお願いいたします」
「はい。それでは名前を伺っても?」
「あっはい。常夜 冥夜トコヨ メイヤと申します」
「プレイヤーネーム、トコヨ・メイヤ、でよろしいでしょうか」
「…………」
「……? どうかなさいましたか?」
「……え、あっ。い、いえ。えっとプレイヤーネームは――」

 待て待て。あまりにも神々し過ぎて、思考停止したぞ!? というか、ゲームだということを忘れていた。確かに、女神に転生させて貰えるとは聞いていたが、これが女神か……。こんなにも神らしい神なんて、初めて会ったぞ……!
 あっ、そうだ。そういえば茉莉たちのネームは聞いていたな。ゲーム内で会ったときに分かりやすく、似たような名前でいいだろう。えっと……

「――ムラサキ、でお願いします」
「はい。ムラサキさんですね。わかりました。では次に、転生後の容姿に希望はありますか?」
「容姿、ですか?」

 俺は何を答えるべきかわからなかったので、聞き返してみた。

「はい。転生後の容姿です。ここで決めた容姿を基準にして、転生先の種族の特徴を持った姿になります。エルフならば、耳が長く美形で、少し色白に。ドワーフならば、体毛が長くずんぐりとした感じで身長も低くなります。獣人は個体差がありますが狼のような精悍な顔付きになったり、猫のようにかわいい感じになったりですね。ちなみに元の世界と同じ種族ならば、ここで決めた容姿のままになります」

 なるほど。人間種になればここで決めた容姿に。それ以外ならその容姿を基準にした種族的な特徴を持った容姿になるのか。

「では、リアルと同じで」

 最近のこのゲームでは『転生』を売りにしているので性転換も可能って、聞いた気がするけど。正直、違う体にすると動きにくいんだよね。人間以外なら見た目変わるらしいし、問題はないだろう。

「わかりました。次はステータスなどの説明に入りましょう。まずは『オープン・ステータス』と念じて下さい」

 おぉ。やっとゲームっぽくなってきたな。まぁ、異世界に『ステータス』とかゲーム的な要素があっても不思議ではないが。とりあえず、オープン・ステータス!

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
名前:ムラサキ
加護:
総合ランク: 0/0
総合レベル:
種族レベル:
ユニークスキル:
固有スキル:
エクストラスキル:
コモンスキル:
耐性スキル:
称号:

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 へぇ。これがこのゲームのステータスか。どこのゲームもステータスがホログラムのように見えるのは変わらない。
 スキルやレベルだらけで、能力値とかは無いのか。力10、速さ20みたいな。
 それにしてもスキルだけで、項目五つもあるんだけど、多すぎねぇ?

「それでは、簡単に説明します。
 まず、ステータス画面の特性として一部のスキルを使用しない限り、見られるのは自分のステータスのみとなります。
 では項目を上から説明します。『名前』は、そのステータスが誰の物かを表しています。貴方の場合は『ムラサキ』ですね。
 次に『総合ランク』です。総合ランクは、種族のレベル、さらに保有スキルも加味したおおよその強さを表します。
 隣の数字は経験値です。この世界では一定量の経験値を得ると、どこに経験値を使うかを選ぶことができます。例えば、種族レベルの上昇。スキルの獲得やそのレベルの上昇などですね。種族レベルが上がれば、身体能力に上方補正がかかり、単純に強くなります。逆にスキルが多く、またレベルが高ければトリッキーになりやすかったりしますね。
 どのような人生を送るかは貴方次第ですが」

 そのあともステータス画面の項目の説明は続いた。途中で他の説明も入ったりしたが非常に分かりやすかった。
 総合レベルは、獲得した種族レベルの合計値。進化したときに便利らしい。逆に言えばそれまではあまり必要ないそうだ。称号は、特定条件下で獲得できる物で、場合によってはスキルを獲得したり、能力に補正がかかったりするらしい。まぁ、具体的な能力値はステータスには書かれていないみたいだ。
 リアルさを売りにしているので、能力値も細かく変動しているのだろう、と俺は思っている。ほら、火事場のなんとやらって言うもんな。……そんなスキルが有ったりして。

「さて、粗方の説明は終わりました。後はスキルや転生先の種族についてのことですね。まずはいくつかのスキルと、私の加護を与えましょう」

 おっ!
 なるほど。ここでユニークスキルを貰える訳だな。あとは女神の加護か。プレイヤーネーム決定の所での発言がなければ、本当に転生かと勘違いしそうだ。まぁ、転生なんてした記憶はないけれど……。

「はい。終わりました。ステータスをご確認下さい。固有スキルを除く各スキルに一つずつ。さらに加護が付いているはずです」

 俺は言われた通りステータスを確認すると、ユニークスキル『Lv.0』、エクストラスキル『収納Lv.1』、コモンスキル『共通語理解Lv.1』、耐性スキル『痛覚無効』の計四つのスキルが書かれていた。加護の欄には、キュスティアの加護と書かれている。

「はい。確かにありました」
「では最後に、転生後の種族を決めましょう。その前にこの世界について簡単に説明しますね」

 そう言って女神キュスティアは、この世界『ドラローカル』について語りだした。今さらだが良く響く綺麗な声だ。

 この世界『ドラローカル』の星には、七つの大陸が存在し、その中で最大の『真大陸』に人類が住んでいる。そして二番目に大きな『魔大陸』にはそこを支配する七柱の魔王たちがおり、その内の何柱かの配下が『真大陸』に攻め込んでいるらしい。
 しかし、人類にも勇者と呼ばれる魔王に匹敵する存在が七人おり、人類対魔王軍の戦いはある程度拮抗している。
 そして俺たちプレイヤーは『真大陸』の人間の街付近に転生する。
 選べる種族は大きく六つ。
 基本的に人類の味方であり、容姿も人に近い種族である『人間種』『妖精種』『獣人種』。
 基本的に人類の敵対種族であり、容姿も異形である『不死種』『妖怪種』『蟲人種』。
 そして低確率だが、これら以外の種族に転生することができるかもしれないランダム転生。
 クローズドベータテストで、向日葵ことアカは竜人に転生したとか言っていた。無駄にLUKが高い。
 俺はランダム転生をすることにした。理由は主に二つ。
 一つ目は、三人の妹達の内、一人だけ――つまり向日葵だけ――がランダム転生したらしいから。
 二つ目は、何に転生するか分からない方が、転生っぽい感じがするから。

「はい。これにて転生前の説明は終わりました。それでは、良き来世を。願わくば貴方の生が、貴方ただ一人の特別な物になることを祈っています」

 こうして俺は異世界に転生し――違った。異世界に転生するという設定のゲームをプレイし始めた。


 

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