癒しの花園を君に

サカエ

11.若草色の画帳⑤

 しばらくして、テオドールは部屋を出て行った。うとうとと眠りに誘われながら、リアネは彼とおなじ言葉で決心した。「絶対助けますから。テオドール様」。

(あっ、画帳! どこいったんだろう?)
 リアネは今の自分にとっては「飛び起きる」ほどの勢いで、のろのろ身体を起こした。
 必死の思いで寝台を這い出る。文字通り這うようにドアに近寄り、ドアノブを回す。

 回らない。ドアが開かない。

(鍵? どうして)
 力のない拳でドアをどんと叩く。
 足音が近づいてきて、ドアの外で止まった。
「テオドール様、わたし画帳を……」
「彼は今、別の病人の部屋ですよ」
 ドア越しにきこえてきたのはセロの声だった。

「別の病人?」
「あなたとおなじ病で倒れたメイドがいて」
「おなじ病? わたし、なんの病気ですか?」
 答えはなかったが、嫌な予感がした。

「セロさん……ここ開けて」
「開けることはできません」
「セロさん、わたし……伝染病ですか?」
「教える許可は得ていません」
「……じゃあ別のことを教えて。病気のメイドの名前を」
「ゾエと名乗りましたね」

 リアネの顔から血の気が引いた。
 ゾエ! 確かに彼女は自分に触れた。
「やっぱり伝染病なんですね。ああ、ゾエ……。ゾエが……。テオドール様だってあぶないです。さっき彼はわたしを……」

 抱きしめた。

「テオドール様は大丈夫です」
「どうしてわかるの」
「答えることはできません。身体に障ります。寝台にもどって」
「ゾエは助かるの?」
「まず自分を治すことを考えなさい」
「教えて……ゾエは助かるの?」

「……。許可は得ていませんが、ひとつ教えてあげましょう。この病気は一度かかった者は二度とかからない。ゾエを助けたかったら、まずあなたが治って看病に参加してください。この状況だと、テオドール様が反乱軍にいつどうされるかわかりませんからね」


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