元勇者の吸血鬼、教師となる

妄想少年

025

 「む、なんだその幼子は。どこでさらってきた?」
 「出迎えと同時の風評被害ってのはなかなか来るものがあるね。この子は……自殺しようとしてたから捕まえただけだよ。あと、多分幼女じゃないと思う」
 
 あれから、この子は《ヒール》で傷を全て治した。未だに目を覚ましてはいないが、無理やり目を覚まさせるほど鬼畜ではないのでしない。
 ちなみに、僕の目を無理やり覚まさせるという行為は爆音を鳴らすか、呼吸器を塞ぐか、体に衝撃を与えるかのどれかだ。身内には優しくするが、特に親しくない奴ならやっても罪悪感などない。無論、老若男女関わらずである。
 それから、シャルが他の皆を連れてきたのでこの子について説明することにした。とはいっても捕まえて治療した程度のことであり、とやかく言われるようなことは無かった。エレボスはニヤニヤ笑っていたからぶん殴った。
 エマが服ぐらい買ってあげたらどうかと言うので服を買っても良かったのだが、服は店で買うより伝手に頼んだほうが高品質なので、伝手から送られてくるまではエマの服で我慢してもらうことにした。……流石に下着も買わないのは酷い気がしたので、エマに頼むことにした。僕が入るなどとは論外である。暴力的な屑やろうと思われても構わないが下着に興奮する変態とは思われたく無い。ただの願望である。
 エマが下着を購入したところで、僕らはショッピングモールからフィリップの店に来た。既に夕飯時だというのに客がいないこの店は悲しい。
 
 「なんだその馬鹿にしたような視線は……」
 「いや、客いないなぁと思いまして。ふっ」
 「なんだ? 誘拐犯扱いしたことに恨みでも持ったか? 謝るぞ?」
 「そんなつもりは無いけど……。えっと、話ってのは僕だけのほうがいいのかな? みんなに話しても大丈夫な内容なのかな?」
 「……出来ればお前一人がいいが、エレボスならいてもよい。つまりそっち関係の話だ。極秘というほどでもないが、知られると面倒ではある。」
 「了解。……ってことだからさ、エレボス以外は先に帰っててくれる? その子に関しては、僕のベッドにでも寝かせておけばいいよ。替えのシーツは引き出しに入れているから取り替えておいてくれる?」
 「僕がやっとくよ。家事は僕の仕事だからね。」
 
 何かに対抗心でも燃やしているのか知らないが、ルディが引き受けてくれた。
 ベッドのシーツの位置を言ったのは性別の違いからだ。ガキが自分のベッドで寝ようが気にしないが、相手がどう思うかは分からない。僕なら人のベッドとかかなり嫌だ。嫁さんのベッドでギリギリ寝れる、ぐらいである。
 ほんのちょっぴりだけ潔癖の毛があります。
 もしかすると、僕ぐらい潔癖かもしれないし、僕以上に潔癖かもしれない。この子に対しては少々厳しめにいきそうだが、余計に嫌われる必要はない。
 
 「ん、じゃあ宜しくね。この子、怪我は治しているから死にはしないだろうけど、栄養が足りてないからさ。薬は使わないであげてよ。自然に回復させるのが一番だ。」
 「……僕が、肥料やサプリに頼ったことが一度でもあったかい?」
 「ないね。失言だった、謝ろう。帰りは……シャル、頼めるかい?」
 「いいですよ。時間はかけてもいいですから問題は残さないようにお願いしますね。何かあっては困りますから」
 
 シャル、エマ、ルディ、そして少女は空間魔法で帰っていった。シャルは戦闘向きの女の子だ。ぶっちゃけ、家事とかは普通である。エレボスの次ぐらいに強く、魔法も多彩性がある。空間魔法もなかなかの腕前である。
 魔力消費が多いのはやはり欠点になるのだがね。
 さて、この場に残ったのは僕とエレボス、あとフィリップの三人だ。二回目の時ぐらいに裏側で色々やっていた三人組だったりする。いやぁ、人にバレないように王とかの恥ずかしい事を調べるのは本当に楽しかった。
 
 「……去ったか。では、こちらの部屋に来い」
 「へいへい。直ぐ行きますよ」
 「なんか先生のキャラがおかしいね。三下感がある」 
 「うるさいよベットが!」
 「そのネタまだ引きずってたのか……」
 
 表向きの古ぼけた料理店、その裏にあるのはフィリップの自室だ。裏組織の当主といえば薄暗いところにいるイメージがあるが、実際は目立たないように普通の部屋である。
 もちろん、目立たないように防音などは仕込まれている。現代日本の執事やメイドもスーツを着ていると聞くし、意外とそれっぽさは無いのだ。悲しいことに、そういうロマンはこの世界にはあまり無い。
 リベリオンの中でも序列十位までは別にだ。平然と目立ちまくっている。
 
 「座れ。礼儀とかは知らん」
 「そんじゃ失礼して……エレボスは四つん這いでいい?」
 「それはペットじゃなくて奴隷だよ!?」
 「やかましい。早く座れ肉奴隷」
 「あんたまで言うの!? ぶっ殺すぞ!?」
 「まったく、最近の若者はうるさいなぁ。フィリップもそう思わないかい?」
 「だな。もう少し落ち着きをもってほしいものだ。フッ」
 「……腹立つなぁこのコンビ。いつか絶対ぶっ殺す……!」
 
 殺せるものなら殺してみろ。僕が本気を出したらあれだ。細胞単位で復活するからめちゃくちゃ難しいに違いない。どこぞの赤いメタボみたいに命を増やせたりしないが、その分生命力があるのだからしぶとい。
 エレボスなら殺せる力はありそうだ。
 
 「本題から話すか? それとも無駄話から話すか?」
 「無駄話をしないことで何かのがしてしまう可能性は?」
 「無いな。精々寺生まれの小僧が新しい武術を作り出したという話程度だ。」
 「なにそれめっちゃ気になる」
 「ならば本題を話そう。お前ら、最近魔物が活性化していることを知っておるか? それも全国的な……いや、世界単位でだがな。」
 「さぁ、初めて聞く話だね。それには妖怪も含むのかい?」
 「僕も知ったのは初めてかな。魔物関連で知っていることといえば、政府が魔物の素材を他国に売りつけようと模索していることぐらいだね。」
 「なんで君たちそういうこと知ってんの? あれなの? 僕が教師してる間にどっかから仕入れてんの? エレボスに至っては何してんの?」
 「僕はほら、書店に足を運んでいるからね。そういう情報は割と聞くんだ。」
 「理由になってないよ。」
 
 フィリップは少し考えたら分かる。情報屋も兼業していて、たくさんの部下もいる彼はいくらでも仕入れられるのだろう。逆に、知らないことのほうがおかしい。
 しかしエレボス、てめーは違う。立場上はただの学生であるエレボスがそんな情報を手に入れられるとは思えないのだ。
 これは、いずれ訪れるべきなのだろう。
 
 「ふむ、知らないのか。ならば伝えておいたほうがよいな……。今回は私から切り出したことだ。情報代は五万ほどで構わん。お前ならばはした金であろう?」
 「金取るのかよ……。相変わらずの守銭奴だねぇ。」
 「プロである以上金は取らねばならん。……というのは嘘だ。実は最近、部下が増えすぎて給料が払い辛くなっておる。どうにかならんか?」
 「いや、知らないよ? 僕がガキンチョのころは三百人ぐらいだったよね。今は何人ぐらいいるんだい?」
 「……十倍だ。全国三千名の部下の給料、それを私とあと数名でコントロールしなければならん。少しでも備蓄を増やしておかねば……」
 「おぉ、三千人かぁ。なかなか多いんだね」
 「アホ。増やしすぎだね。祖父さんも言ってたろうに。」
 
 アサシンはいわゆる犯罪組織。三百名でも扱いきるのはそれなりの腕が必要だというのに、三千名はかなりきついだろう。決して一人で操っているのではないだろうが、全ての責任はフィリップが負うことになる。
 人員は切り捨てなくともよいが、わざわざ増やさなくともよいのである。需要に供給が間に合っていれば下手に雇用しなくともいいだろう。
 フィリップの面倒なところはアサシンの活動内容にある。情報を得るため、実際に暗殺をするため、何かを探すため、世界中を移動する必要があるのだ。全員を集めることも金を振り込むこともひたすら面倒だろう。
 
 「なぁゼクスよ。今からでも構わん。やはりお前が当主をせぬか? 血筋はお前のほうが正しい。誰も文句は言わぬであろう? ここに書類も用意しておる。」
 「なんで用意してんだよ。そんなんにかける時間あるなら人員どうにかしようよ。地方ごとに責任者をおくとか色々あるでしょ。あと文句なら僕が言うね」
 「だって……スカウトなんかしなくとも組員が勝手に増やしていくし……私が知らんところから要求してくるし……なんか貯金がどんどん増えていくし……いつの間にか私の存在が神格化されておるし……もう嫌だ。」
 「うんうん。わかるよその気持ち。大きな組織を纏めるのは大変だよね。僕はそこらへんメイドとバトラーに任せてたけど、フィリップ君は自分でもしているようだし……単独行動が多い先生には分からないよね。」
 
 おかしい。魔物が活性化しているという話から何一つ進んでいない。なんで金がどうこうの話からここまで発展することになったのだ。
 敢えて言おう。僕では収拾がつけられない。ここはエレボスに頼って無言でいることにしよう。そうすれば勝手に収まる筈だ。
 
 --いやぁ、これはマスターも頑張らないと収まりそうに無いけどなぁ。スカーレットちゃゃんでも呼んであげたら? フィリップも喜ぶでしょ。
 --ここら一帯を火の海に変えるつもりなのかい?
 --日比谷焼き討ち事件的な?
 --ただのテロ行為なんですがあの。
 
 「ほら落ち着きなよフィリップ君。後で魔王様すら従える百の方法って本を貸してあげるからさ。なんなら僕のメイドも貸してあげるからさ。」
 「……それは本当か? 本当に魔王すら従えられるのだな?」
 「僕のメイドが本気で書いた本だから安心していいと思うよ。土下座しながら懇願して、どん引きさせるぐらいには頼みこんだからね!」
 「……ありがとう。この礼はいずれ……」
 「ふっ、礼なんていらないさ。代償は僕のプライドと体裁、それだけだから」
 
 少し涙目になりながら謎の関係になっている二人のアホを見て思った。
 --自分を卑下しまくっていることに気付かないのかなぁ? と。
 

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