元勇者の吸血鬼、教師となる
006
藤堂からある程度の説明を受け、現在は入学式。僕もパイプ椅子に座り、教頭の話や来賓の方の話を聞き、成り行きを見守っているところである。正直座ったままというのは疲れるので幻影でも残してだらけたいことろであるが、流石に人間としてどうかと思うので止めておくことにした。生徒の時は当然のようにしていたことだが、先生である今サボるというのは後が面倒くさくなること間違いない。
だから、空間操作系の魔法で厚さ一ミリほどのクッション、背もたれ、頭を柔らかく包み込み首の負担を和らげるだけにしておいた。こんなことしなくとも疲れはしないが、ダラダラ出きるが出来ないかは精神的に違う。
「--次に、先生方の紹介です。」
生徒会長らしき生徒の言葉と共に、全ての教員が立ち上がり横に並ぶ。その順番は一年の一組からの担任、副担任……となっており、僕は養護教諭という立場もあるが、一年五組の副担任という立場もあるのでどちらに並ぶのが正しいのか知らない。が、教頭の説明では藤堂の横に並んでおけばいいとの事なのでそうする。
正直、このような紹介は中学校の様に見えてしまう。しかし、教員の数が多すぎるためこのような紹介の仕方になっているのだろう。……学園長の姿が無いというのは些か問題ではないかと思うのだが、皆はどう思っているのだろう。
まぁ、なんにしろ座っている生徒の尻が可哀想というのは変わらない。いかに人間の耐久力が上がろうとも、耐久力だけで尻の痛みを誤魔化すことは難しいだろう。僕が入学したときも同級生が尻痛いと言っていたのをよく覚えている。
「相良教頭先生、生徒指導をすると共に社会の教師も兼任しています。」
教頭が一歩前に出て、一年生と保護者達へ礼をする。その立ち振る舞いは過去に見た貴族の様で、なかなか様になっていた。美しいと言っても過言ではないだろう。
それからも教員の紹介は続き、僕の番も、他の教員の紹介も無事に終わりを告げた。特に何もない挨拶で安心である。あの糞親父の創立した学園ならあり得ることだったため、少しは警戒をしていた。
「--以上で、入学式を終えさせていただきます。生徒は担任の指示の元、各々のクラスへと行ってください。保護者の方々はまだお話がありますので、此処でお待ちください。」
ここからの僕の行動は、クラスへ生徒と共に向かうことだ。正確には藤堂に付いていくことなのだが、そういうことはどうでもいいだろう。
さて、一年生のクラスというものは三階にある。この学校は上級生になればなるほど下の階にクラスがあるのだ。遅刻ギリギリでも許されるために……などという配慮もあるらしい。ぶっちゃけ興味ない。
「それではクラスに移動します。」
藤堂の言葉と共に生徒が立ち上がる。その顔からは不安や期待がありありと読み取れた。恐らく、新しい生活に夢を持ちながら未知への不安もあるという、複雑な心境なのだろう。一応高校は卒業した身だから分かるが、その期待はあまり大きくないほうがいい。
高校になって習えることなど、中学校よりも意味不明になる授業と、十五才になるまで扱うことが禁止されている異能や魔法が解放されることぐらいだ。その二つもあまり面白くは無いのだから、高校なんてつまらないものである。
華々しい学園生活などというものは、よほどの努力があってようやく達成されるものなのだ。勉学を疎かにしては先生からの圧力が強いし、親からのうるささもある。結論として、高校なんて陸なものではない。
……というのが、僕の高校で知り合ったS君の言葉である。記憶能力も身体能力もまぁまぁ高かった僕からしたら辛さなんて無いため、高校は苦しいものではなかった。親友とも楽しく過ごせていたし、特に嫌な思い出などない。
要は、高校生活を華々しく送れるかどうかなんて人それぞれである。教員となった僕は……生徒の不幸は願わないでおこう。
「--自分の出席番号が書かれた机に座ってください。」
真顔で喋る藤堂の顔は、目つきの悪さも合わさってかなり凶悪に見えるだろう。ちらほらと『あの人なんかやってるでしょ……?』みたいな声が聞き取れる。
ちなみに、僕に対する評価は今の所変な外見、といったところか。
なにしろこの赤い目とポニーテールにしている長い髪である。当然、奇異の目で見られることは予想していたし、現にそうなっている。
「まずは自己紹介からさせてもらうぞ。」
クラスに入ったからなのか、敬語を使わなくなった藤堂がチョークを手に取る。そして、自分の情報を黒板に書いていく。名前、年齢、各能力値、異能名……それは、ステータスなる不思議なものがあるこその詳しい情報である。
ステータスというのは、魔力を持つ者に現れる個人情報を文字化したものであり、それは個人の頭の中にのみ思い浮かぶとされるものだ。そこには様々な情報が記されており、開示出きる魔法を持つもの以外に知られることはない。
「藤堂彰、年齢は23才、去年からこの学校で働いていて、担任をするのは初めてになる。んで、担当する教科は体育だ。よろしくな。……それと、この目つきは生まれつきなので気にしないでくれ。」
《名前》藤堂 彰
《年齢》23
《異能》身体強化・極大
《筋力》SS《魔力》S+《俊敏》SS《持久》SS《技巧》SS《才能》B
これが、黒板に書かれた藤堂の情報だ。ステータスは偽ることが出来るが、このような場所では偽る意味もないのでこれが本当の情報という可能性は高い。生徒たちからしたらそう思うだろう。僕からしたら情報の真偽を知る術を持っているので疑いはしないが。
仮に、偽るにしてもそれは異能ぐらいのものだ。はっきり言って、藤堂のステータスは高く、偽りだったときの反動が物凄い。バレて嘲笑されるのならそもそも偽らない。教師なら尚更である。
「せんせー、質問いいですか?」
「え~と、富樫君か、いいぞ。」
藤堂に質問したのは少々やんちゃそうな生徒だ。初対面なのに藤堂に話しかけられるとはなかなか度胸のある男である。少し評価が上がった。
「せんせーのステータスって、異能があるから強いんですか?」
「いや、異能とステータスは別だ。俺のステータスが平均的に見て高いのは鍛えられたからだな。異能を使えばもっと上がる」
「……流石に戦闘特区の学園だけあって先生もバカ強いんすね」
「俺なんて大したことないぞ? 強さならそこにいる藤原先生のほうが上だ。……ってことで藤原先生、自己紹介してくれ。」
頷いて僕も黒板にステータスを書いていく。果たして見せて良いものか気になったが、見せてどうこうなるとは思えないので素直に書いてゆく。……まぁ、年齢に関しては大規模な鯖読みをさせてもらうが。
《名前》藤原詩季
《年齢》23
《異能》無能
《筋力》SS《魔力》SS《俊敏》SS《持久》SS《技巧》SS《才能》E-
「え~と、名前は藤原詩季、年齢は23才。藤堂先生とは違って今年から就職だけど宜しくね。この学園ではこのクラスの副担任と養護教諭、それと魔法講師だから、怪我をしたら僕を尋ねてきてね。」
一応、僕の能力値は才能を除き全て最高値のSSだ。しかし、SSといってもSS内で差があるので別段驚くことでもない。というか、リベリオンの上位に位置したいのなら才能以外オールS以上は不可欠である。
そして、僕の異能は無能である。全ての人間に異能を与えたのに僕にはこれとは……正直、神々の悪意を感じる。まったくもって非道だ。
生徒達から化け物だのなんだの呟きが聞こえるが、要は肉体能力がいかれただけの吸血鬼である。魔力においては親友の六分の一もない。……それだけ親友が魔の才能を持っているということだが、羨ましいばかりだ。こちとら吸血鬼というぶっ壊れ種族の中でも底辺ランクの才能しか持ってないというのにね。
「……ということで、この五組は俺が担任、藤原先生が副担任だ。で、今からすることだがとりあえず点呼だ。名前の確認も済ませておきたいからな。」
あいうえお順で生徒が返事をする。ちなみに、中学校では男女別だったが高校では男女混合だ。非常にどうでもいい。
一人、また一人と脳内にあった資料と比較をしながら本人かどうかを確認する。どこかの国からのスパイもありえるので、こういうのはちゃんと頭に入れておかなければならないのだ。高校生相手に疑いをかけるのもどうかと思うが、そこは普段の生活が生活なので仕方のないことだと思ってほしい。
「36番、渡辺君」
「はいっ」
「うし、柏木が休みで他に休みはいない……と。後で近い家のやつがいれば教えてくれ。そいつに届けさせる」
最後の一人が返事をした。出席をしているのは36人中35人であり、その一人は今日は休んでいるらしい。入学初日から欠席とは先が思いやられる。……割と高校は欠席していたから人のことは言えないのだがね。
この地域の魔物の討伐を任されていた身のため、僕と親友は授業をよく休んでいた。糞親父が遊び半分真剣半分で作り出した生徒会は成績さえよければ授業に出なくとも良い、などというルールには助かった。
「後は配りもんを配って解散だ。委員長やらはまた明日決める。藤原先生、反対側からお願いします」
「あっはい。」
藤堂からプリントを受けとって端から配っていく。内容は校内がうんたらかんたら……必要ないとは思うが体裁上は配っているのだろう。今日の活動はこのプリントを配ったら終える。それまでにすることと言えば、生徒達の顔を見て初々しさを噛み締めることぐらいのものである。実に愉快だ。
「プリントは一応親にも見せておけよ。偶に大事なこと書かれてたりするからな。……ってことで、今日は帰って良いぞ。街に行くなりなんなりは自由だが、魔物に遭遇しないようには気をつけてな。」
だから、空間操作系の魔法で厚さ一ミリほどのクッション、背もたれ、頭を柔らかく包み込み首の負担を和らげるだけにしておいた。こんなことしなくとも疲れはしないが、ダラダラ出きるが出来ないかは精神的に違う。
「--次に、先生方の紹介です。」
生徒会長らしき生徒の言葉と共に、全ての教員が立ち上がり横に並ぶ。その順番は一年の一組からの担任、副担任……となっており、僕は養護教諭という立場もあるが、一年五組の副担任という立場もあるのでどちらに並ぶのが正しいのか知らない。が、教頭の説明では藤堂の横に並んでおけばいいとの事なのでそうする。
正直、このような紹介は中学校の様に見えてしまう。しかし、教員の数が多すぎるためこのような紹介の仕方になっているのだろう。……学園長の姿が無いというのは些か問題ではないかと思うのだが、皆はどう思っているのだろう。
まぁ、なんにしろ座っている生徒の尻が可哀想というのは変わらない。いかに人間の耐久力が上がろうとも、耐久力だけで尻の痛みを誤魔化すことは難しいだろう。僕が入学したときも同級生が尻痛いと言っていたのをよく覚えている。
「相良教頭先生、生徒指導をすると共に社会の教師も兼任しています。」
教頭が一歩前に出て、一年生と保護者達へ礼をする。その立ち振る舞いは過去に見た貴族の様で、なかなか様になっていた。美しいと言っても過言ではないだろう。
それからも教員の紹介は続き、僕の番も、他の教員の紹介も無事に終わりを告げた。特に何もない挨拶で安心である。あの糞親父の創立した学園ならあり得ることだったため、少しは警戒をしていた。
「--以上で、入学式を終えさせていただきます。生徒は担任の指示の元、各々のクラスへと行ってください。保護者の方々はまだお話がありますので、此処でお待ちください。」
ここからの僕の行動は、クラスへ生徒と共に向かうことだ。正確には藤堂に付いていくことなのだが、そういうことはどうでもいいだろう。
さて、一年生のクラスというものは三階にある。この学校は上級生になればなるほど下の階にクラスがあるのだ。遅刻ギリギリでも許されるために……などという配慮もあるらしい。ぶっちゃけ興味ない。
「それではクラスに移動します。」
藤堂の言葉と共に生徒が立ち上がる。その顔からは不安や期待がありありと読み取れた。恐らく、新しい生活に夢を持ちながら未知への不安もあるという、複雑な心境なのだろう。一応高校は卒業した身だから分かるが、その期待はあまり大きくないほうがいい。
高校になって習えることなど、中学校よりも意味不明になる授業と、十五才になるまで扱うことが禁止されている異能や魔法が解放されることぐらいだ。その二つもあまり面白くは無いのだから、高校なんてつまらないものである。
華々しい学園生活などというものは、よほどの努力があってようやく達成されるものなのだ。勉学を疎かにしては先生からの圧力が強いし、親からのうるささもある。結論として、高校なんて陸なものではない。
……というのが、僕の高校で知り合ったS君の言葉である。記憶能力も身体能力もまぁまぁ高かった僕からしたら辛さなんて無いため、高校は苦しいものではなかった。親友とも楽しく過ごせていたし、特に嫌な思い出などない。
要は、高校生活を華々しく送れるかどうかなんて人それぞれである。教員となった僕は……生徒の不幸は願わないでおこう。
「--自分の出席番号が書かれた机に座ってください。」
真顔で喋る藤堂の顔は、目つきの悪さも合わさってかなり凶悪に見えるだろう。ちらほらと『あの人なんかやってるでしょ……?』みたいな声が聞き取れる。
ちなみに、僕に対する評価は今の所変な外見、といったところか。
なにしろこの赤い目とポニーテールにしている長い髪である。当然、奇異の目で見られることは予想していたし、現にそうなっている。
「まずは自己紹介からさせてもらうぞ。」
クラスに入ったからなのか、敬語を使わなくなった藤堂がチョークを手に取る。そして、自分の情報を黒板に書いていく。名前、年齢、各能力値、異能名……それは、ステータスなる不思議なものがあるこその詳しい情報である。
ステータスというのは、魔力を持つ者に現れる個人情報を文字化したものであり、それは個人の頭の中にのみ思い浮かぶとされるものだ。そこには様々な情報が記されており、開示出きる魔法を持つもの以外に知られることはない。
「藤堂彰、年齢は23才、去年からこの学校で働いていて、担任をするのは初めてになる。んで、担当する教科は体育だ。よろしくな。……それと、この目つきは生まれつきなので気にしないでくれ。」
《名前》藤堂 彰
《年齢》23
《異能》身体強化・極大
《筋力》SS《魔力》S+《俊敏》SS《持久》SS《技巧》SS《才能》B
これが、黒板に書かれた藤堂の情報だ。ステータスは偽ることが出来るが、このような場所では偽る意味もないのでこれが本当の情報という可能性は高い。生徒たちからしたらそう思うだろう。僕からしたら情報の真偽を知る術を持っているので疑いはしないが。
仮に、偽るにしてもそれは異能ぐらいのものだ。はっきり言って、藤堂のステータスは高く、偽りだったときの反動が物凄い。バレて嘲笑されるのならそもそも偽らない。教師なら尚更である。
「せんせー、質問いいですか?」
「え~と、富樫君か、いいぞ。」
藤堂に質問したのは少々やんちゃそうな生徒だ。初対面なのに藤堂に話しかけられるとはなかなか度胸のある男である。少し評価が上がった。
「せんせーのステータスって、異能があるから強いんですか?」
「いや、異能とステータスは別だ。俺のステータスが平均的に見て高いのは鍛えられたからだな。異能を使えばもっと上がる」
「……流石に戦闘特区の学園だけあって先生もバカ強いんすね」
「俺なんて大したことないぞ? 強さならそこにいる藤原先生のほうが上だ。……ってことで藤原先生、自己紹介してくれ。」
頷いて僕も黒板にステータスを書いていく。果たして見せて良いものか気になったが、見せてどうこうなるとは思えないので素直に書いてゆく。……まぁ、年齢に関しては大規模な鯖読みをさせてもらうが。
《名前》藤原詩季
《年齢》23
《異能》無能
《筋力》SS《魔力》SS《俊敏》SS《持久》SS《技巧》SS《才能》E-
「え~と、名前は藤原詩季、年齢は23才。藤堂先生とは違って今年から就職だけど宜しくね。この学園ではこのクラスの副担任と養護教諭、それと魔法講師だから、怪我をしたら僕を尋ねてきてね。」
一応、僕の能力値は才能を除き全て最高値のSSだ。しかし、SSといってもSS内で差があるので別段驚くことでもない。というか、リベリオンの上位に位置したいのなら才能以外オールS以上は不可欠である。
そして、僕の異能は無能である。全ての人間に異能を与えたのに僕にはこれとは……正直、神々の悪意を感じる。まったくもって非道だ。
生徒達から化け物だのなんだの呟きが聞こえるが、要は肉体能力がいかれただけの吸血鬼である。魔力においては親友の六分の一もない。……それだけ親友が魔の才能を持っているということだが、羨ましいばかりだ。こちとら吸血鬼というぶっ壊れ種族の中でも底辺ランクの才能しか持ってないというのにね。
「……ということで、この五組は俺が担任、藤原先生が副担任だ。で、今からすることだがとりあえず点呼だ。名前の確認も済ませておきたいからな。」
あいうえお順で生徒が返事をする。ちなみに、中学校では男女別だったが高校では男女混合だ。非常にどうでもいい。
一人、また一人と脳内にあった資料と比較をしながら本人かどうかを確認する。どこかの国からのスパイもありえるので、こういうのはちゃんと頭に入れておかなければならないのだ。高校生相手に疑いをかけるのもどうかと思うが、そこは普段の生活が生活なので仕方のないことだと思ってほしい。
「36番、渡辺君」
「はいっ」
「うし、柏木が休みで他に休みはいない……と。後で近い家のやつがいれば教えてくれ。そいつに届けさせる」
最後の一人が返事をした。出席をしているのは36人中35人であり、その一人は今日は休んでいるらしい。入学初日から欠席とは先が思いやられる。……割と高校は欠席していたから人のことは言えないのだがね。
この地域の魔物の討伐を任されていた身のため、僕と親友は授業をよく休んでいた。糞親父が遊び半分真剣半分で作り出した生徒会は成績さえよければ授業に出なくとも良い、などというルールには助かった。
「後は配りもんを配って解散だ。委員長やらはまた明日決める。藤原先生、反対側からお願いします」
「あっはい。」
藤堂からプリントを受けとって端から配っていく。内容は校内がうんたらかんたら……必要ないとは思うが体裁上は配っているのだろう。今日の活動はこのプリントを配ったら終える。それまでにすることと言えば、生徒達の顔を見て初々しさを噛み締めることぐらいのものである。実に愉快だ。
「プリントは一応親にも見せておけよ。偶に大事なこと書かれてたりするからな。……ってことで、今日は帰って良いぞ。街に行くなりなんなりは自由だが、魔物に遭遇しないようには気をつけてな。」
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