《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
127話「祈る少女」
ベルは教会にいた。
龍信仰をしている宗派の教会だった。セリヌイアにはホンモノの龍がいるので、信徒たちは老赤龍のことを神としてあがめていた。しかし今は、その老赤龍も出払っている。
すがる物がないので、仕方なくベルは教会に来たのだった。
(龍神さま)
ベルは祈った。
正面にはステンドグラスの張り付けられた壁面がある。その手前に老赤龍の半分ほどの大きさの石造がある。ベルはその石像にひざまずいていた。
(私は無力です)
彼の助けになってあげることができない。
こうして祈ることしかできない。
(どうか、リュウイチロウさまをお助けください)
リュウイチロウに抱きしめられた感触を、ベルはまだカラダで覚えていた。抱きしめてもらえるだけで、大きな安心感を得ることができた。
もう決して暗い過去に突き落とされることはないという安堵を得た。同時に、たとえふたたび奴隷となろうとも、あの抱きしめられた感触さえおぼえていれば、生きていけるような気がした。
ただ――。
リュウイチロウを失うことだけは、ベルには耐えられそうになかった。
リュウイチロウが今なにをしようとしているのか――。
ベルはすべて知っている。
リュウイチロウのことを心配したインクが、サディ国へ行き、事情を聞きだしてくれたのだ。
この日食による暗闇の中、外を駆けてきたインクの敏捷さはさすがというべきだろう。いや。諜報員としてセリヌイアに仕えているインクならではの、情報網があるのかもしれない。
「おい、ベルちゃん。いるかい?」
そのインクが教会のトビラを乱暴に開いて、入ってきた。
インクははじめ、ベルをライバル視していた節がある。だが、同じ主人に仕える身として今は仲良くやっている。
「なんでしょうか?」
「外がすごいことになってるよ。来てみろよ」
インクがベルのことを引っ張ってきた。ベルはされるがままに付いて行った。
教会を出る。
セリヌイアの城壁の上にのぼる。
セリヌイアの都市の輝きは、ほかの都市とは比べものにならないほど明るい。さすがリュウイチロウの貯蔵されていた血を使っているだけはある。セリヌイアの外に群がっていたクロエイたちが、いっせいに溶けていた。
「何が起こっているんでしょうか?」
「たぶん、リュウイチロウさまがやったんだろう」
「リュウイチロウさまは、無事でしょうか……」
遠くに見えるグランドリオンの明かりを、ベルはまっすぐ見つめた。バシン、と勢いよくインクがベルの背中を叩いてきた。
「大丈夫だって。ケルゥ侯爵に血を採られたときだって、ピンピンしてたじゃねェか。きっとなんの問題もないよ」
「そうですね」
「世界が変わるぜ。クロエイが沸かなくなったら、血質値の低いものがいたぶられることがなくなる。貴族制度そのものが、なくなるかもしれない。私たちは時代の転換期にいるのかもしれない」
インクが神妙な表情でそう言った。
暗い空の向こうから、老赤龍が飛んでくるのが見えた。
龍信仰をしている宗派の教会だった。セリヌイアにはホンモノの龍がいるので、信徒たちは老赤龍のことを神としてあがめていた。しかし今は、その老赤龍も出払っている。
すがる物がないので、仕方なくベルは教会に来たのだった。
(龍神さま)
ベルは祈った。
正面にはステンドグラスの張り付けられた壁面がある。その手前に老赤龍の半分ほどの大きさの石造がある。ベルはその石像にひざまずいていた。
(私は無力です)
彼の助けになってあげることができない。
こうして祈ることしかできない。
(どうか、リュウイチロウさまをお助けください)
リュウイチロウに抱きしめられた感触を、ベルはまだカラダで覚えていた。抱きしめてもらえるだけで、大きな安心感を得ることができた。
もう決して暗い過去に突き落とされることはないという安堵を得た。同時に、たとえふたたび奴隷となろうとも、あの抱きしめられた感触さえおぼえていれば、生きていけるような気がした。
ただ――。
リュウイチロウを失うことだけは、ベルには耐えられそうになかった。
リュウイチロウが今なにをしようとしているのか――。
ベルはすべて知っている。
リュウイチロウのことを心配したインクが、サディ国へ行き、事情を聞きだしてくれたのだ。
この日食による暗闇の中、外を駆けてきたインクの敏捷さはさすがというべきだろう。いや。諜報員としてセリヌイアに仕えているインクならではの、情報網があるのかもしれない。
「おい、ベルちゃん。いるかい?」
そのインクが教会のトビラを乱暴に開いて、入ってきた。
インクははじめ、ベルをライバル視していた節がある。だが、同じ主人に仕える身として今は仲良くやっている。
「なんでしょうか?」
「外がすごいことになってるよ。来てみろよ」
インクがベルのことを引っ張ってきた。ベルはされるがままに付いて行った。
教会を出る。
セリヌイアの城壁の上にのぼる。
セリヌイアの都市の輝きは、ほかの都市とは比べものにならないほど明るい。さすがリュウイチロウの貯蔵されていた血を使っているだけはある。セリヌイアの外に群がっていたクロエイたちが、いっせいに溶けていた。
「何が起こっているんでしょうか?」
「たぶん、リュウイチロウさまがやったんだろう」
「リュウイチロウさまは、無事でしょうか……」
遠くに見えるグランドリオンの明かりを、ベルはまっすぐ見つめた。バシン、と勢いよくインクがベルの背中を叩いてきた。
「大丈夫だって。ケルゥ侯爵に血を採られたときだって、ピンピンしてたじゃねェか。きっとなんの問題もないよ」
「そうですね」
「世界が変わるぜ。クロエイが沸かなくなったら、血質値の低いものがいたぶられることがなくなる。貴族制度そのものが、なくなるかもしれない。私たちは時代の転換期にいるのかもしれない」
インクが神妙な表情でそう言った。
暗い空の向こうから、老赤龍が飛んでくるのが見えた。
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