《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

125話「貧民街を抜けて」

 グランドリオンに行かなければいけない理由を話した。ケルゥは神妙な顔でそれを聞いていた。



「そういうことなら、拒否する理由はない」
 と、ケルゥは《血動車》をグランドリオンへ向けて走らせてくれた。



 グランドリオンの貧民街。



 マチス侯爵が管理していたときとは違って、貧民街にもかなり強い明かりが用意されていた。



 だが、それでもクロエイたちを追い払うことはできなかったようだ。貧民街には、都市の城門棟へと続く石畳のストリートが伸びている。そのストリートの左右には木造家屋が建ち並んでいる。その家屋と家屋の細道や、屋根の上にクロエイたちが群がっていた。



 ケルゥの運転する《血動車》はストリートを真っ直ぐ走り抜けた。



 ときおり跳びかかってくるクロエイには、龍一郎が《血影銃》で迎撃した。



「これだけの明かりでもクロエイが入り込んでくるとはな」
「これも日食の影響でしょうか」



「だろうな」
「ひと気がないですね」



 どこを見てもクロエイばかりだ。
 まさか、みんなクロエイに食われてしまったのだろうか。



 ここの人たちとも龍一郎は顔見知りだ。襲われたとなると良い気分はしない。



「いや。案ずることはない。ここの領主はフィルリア姫の息がかかっているから、庶民を見捨てるようなことはしない」



「都市の中に避難してるってことですか?」



「おそらく――な。私ならクロエイをおびきよせる、血質値の低い者たちはむしろ外に放り出すがね」



「でしょうね」
 龍一郎はため息を吐いた。



 貴族たちを守るために、民衆を捨てるという選択肢もあるのだ。



 この人は相変わらずだなと思ってのため息だった。



「城門棟が見えてきたが、なかなかの惨状だ」



 ケルゥは《血動車》を止めた。
 龍一郎も目をみはった。



 城門棟の入口はピッタリと閉じられていた。そしてクロエイたちが城壁をよじ上ろうとしているのだ。城壁の上には騎士たちがいた。《血影銃》や《吸血剣》をもって、クロエイの侵攻を止めようとしている。



「これじゃあ中に入れませんね」
 門を開けたら、クロエイの侵入を許してしまう。



「ここはムリだな。小城塞シャトレのほうに回ってみよう。もしかすると入る余裕があるかもしれない」



「お願いします」



 都市を迂回するようにして、《血動車》を走らせてくれた。



「しかし、私の言った通りだっただろう」
 ケルゥは誇らしげに言った。



「なにがです?」



「龍神族というのは、なにかしら使命を帯びているのだ――と言っただろう」



「そうでしたか」
 そんなことを言っていた気もする。



「覚悟はできているのかね?」



「ケルゥさんに血を採られたときも、なんの問題もありませんでしたからね。案外、たいしたことないかもしれません」



「それでも、万が一ということはあろう。あの時とは規模が違う」



「怖いですけどね」
 でも、逃げるわけにもいかない。



「また、フられてヤケクソになってるんじゃないだろうね?」



 ケルゥは茶化すように言った。
 顔は笑っていたが、目は真剣に龍一郎のことを見据えていた。



「今度は逆なんですよ」
「逆?」
「ベルにキスしてもらいました。頬でしたけど」



 龍一郎はうれしくて、キスされた右頬を指でナでた。このキスのことを思い出せば、恐怖など消え去ってくれる。



 なんでも出来るという万能感が、腹の底からこみあげてくるのだ。



「はーはははッ」
 とケルゥはのけぞって笑った。



「わ、笑うことないじゃないですか。訊いてきたのは、そっちでしょう」



 そうあからさまに笑われると、照れ臭くなる。



「いやいや。申し訳ない。若いというのは良いことだ」


 ケルゥはアクセルをさらに強く踏み込んだ。

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