《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
117話「太陽が欠けるとき」
龍一郎はフィルリア姫のことを、領主館に連れ戻した。千鳥足だったので介抱しなくてはならなかった。
龍一郎の自室に連れ込んだ。
「リュウイチロウの部屋に連れて行ってくれぇ。……ひっく」
と言ってきたからだ。
まるで酔っ払いのオッサンだ。
一度はヴァルフィを寝かせたベッドに、今度はフィルリア姫を寝かせることになった。レンガ調の部屋だ。以前はヴァルフィにからまれているところをベルに見られて、非常に気まずい思いをした。
今でもベルと視線を合わせるのが気まずい。
「うっ……吐きそう」
「桶か何か持ってきます」
「いや。大丈夫。胸がすこし苦しいだけだ。ボタンを外してはくれないか?」
「わかりました」
介抱しているつもりだったので、龍一郎にイヤらしい気持ちはマッタクなかった。ゲロを吐かれたら大変だと焦っていた。
フィルリア姫は白いワイシャツのような服を着ていた。上から3つほどのボタンを外したとき、龍一郎は自分が何をしているのか自覚した。襟の合間からは、桃のような乳房が2つかいま見えたからだ。
「あ、すみません」
「気にすることはない」
フィルリア姫が龍一郎のことを押し倒してきた。
「あ、ちょっと……」
「私ははじめて君を目にしたとき、この男だ、と感じた。この男ならば私の背中をあずけることができる――と」
「ど、どうしたんですか。トツゼン」
酒のにおいが、降りかかってきた。
「私はリュウイチロウとのあいだに子供が欲しい。私と君の子どもならば、次の世代を担うに充分な子供が生まれる。そうは思わないか?」
「酔ってるんですよ」
「ホントウにそう思うか?」
顔が近い。
目が合った。
龍一郎の眼前には、フィルリア姫の琥珀色の宝玉のような瞳があった。その瞳はぶれておらず、シッカリと龍一郎を見据えていた。
あ、と思った。
この人はマッタク酔っていない!
「酔ったフリをしてたんですか?」
「酒は美味かったが、あの程度で私が酔うことなどない」
フィルリア姫はトンデモナイ大酒のみだ――とエムールが言っていた記憶がよみがえってきた。
「どうして酔ったフリなんてしてたんです」
「私とて乙女なのだ。酔ったフリでもしなければ、こんなことは出来んからな」
「好意は感謝しています。ですがオレにはベルがいますから」
「まだ、あの奴隷娘を想っているか?」
「はい」
ここまで一緒にベルとともに歩んできたのだ。そして龍一郎の胸裏には、ベルの笑顔が焼き付いている。
頬を人差し指でクイッと持ち上げて、笑うあのさまが忘れられないのだ。あの笑顔を自分の物にしたい。そう思うと、居ても立ってもいられなくなる。
「そうか」
フィルリア姫は一瞬だけ寂しそうな顔をしただが、すぐに吹っ切れたように笑った。
「すみません」
「謝ることはない。勝負事には勝ち負けがあるものだ。恋愛もまた勝負なのだからな」
フィルリア姫がそう言ったときだった。
まだ昼間だというのに、部屋が急に陰りはじめた。レオーネにとって暗闇はもっとも忌むべきものだ。
龍一郎は弾かれたように起き上がり、部屋のスイッチをいれた。セリヌイアに貯蔵されている龍一郎の血が、エネルギー源となり、部屋の蛍光灯を灯らせた。
「これはもしや、王国からの通達にあった……」
フィルリア姫が窓から外を見つめていた。
龍一郎も外を見た。
雲ひとつない快晴の空。白日は悪魔にむしばまれるかのように、ユックリと陰りはじめていた。
「そんなまさか……」
こんなに早く来るとは想定していなかった。
ヴァルフィの忠告していた日食がはじまったのだ。
カーン、カーン、カーン。
セリヌイアに鐘が鳴り響いた。
照明をつけろという合図だ。いつもは夕刻や雨天に響かせるものだ。セリヌイアは一瞬にして日輪のように輝いた。日食のことはすでにセリヌイア都内には知らせてある。国王から各都市への通達もあったはずだ。
「日食ですね」
「まさかホントウに起きるとはな」
都市は良い。
しかし、村や貧民街はどうなるかわからない。クロエイを追い払えるだけの明かりを発することができないかもしれない。
ときとして、クロエイは明かりを怖れずに突っ込んでくる。巨大種と戦ったときが、まさにそうだった。
そしてなにより心配なのが――。
「エムールや、竜騎士軍が心配です」
いちおう龍一郎の血を使って発電させるランタンを持たせてある。が、ランタンはしょせんランタンだ。クロエイを防ぎきることができるかが心配だった。
「このセリヌイアは間違いなく大丈夫だろう。あとは私に任せてくれれば良い。リュウイチロウは老赤龍に乗って、援護に向かうと良い」
「人心の乱れが心配ですが……」
「私がひとつ演説でもかましてやろう」
「ありがとうございます」
龍一郎と老赤龍は、セリヌイアの秩序のために留まっていた。だが、最大の問題児であるガルス男爵も酔いつぶれているはずだし、フィルリア姫もいてくれる。あとを任せても良いだろうと龍一郎は判断した。
「ひとつ貸しだ」
フィルリア姫はそう言って、ニッ、と笑った。
龍一郎の自室に連れ込んだ。
「リュウイチロウの部屋に連れて行ってくれぇ。……ひっく」
と言ってきたからだ。
まるで酔っ払いのオッサンだ。
一度はヴァルフィを寝かせたベッドに、今度はフィルリア姫を寝かせることになった。レンガ調の部屋だ。以前はヴァルフィにからまれているところをベルに見られて、非常に気まずい思いをした。
今でもベルと視線を合わせるのが気まずい。
「うっ……吐きそう」
「桶か何か持ってきます」
「いや。大丈夫。胸がすこし苦しいだけだ。ボタンを外してはくれないか?」
「わかりました」
介抱しているつもりだったので、龍一郎にイヤらしい気持ちはマッタクなかった。ゲロを吐かれたら大変だと焦っていた。
フィルリア姫は白いワイシャツのような服を着ていた。上から3つほどのボタンを外したとき、龍一郎は自分が何をしているのか自覚した。襟の合間からは、桃のような乳房が2つかいま見えたからだ。
「あ、すみません」
「気にすることはない」
フィルリア姫が龍一郎のことを押し倒してきた。
「あ、ちょっと……」
「私ははじめて君を目にしたとき、この男だ、と感じた。この男ならば私の背中をあずけることができる――と」
「ど、どうしたんですか。トツゼン」
酒のにおいが、降りかかってきた。
「私はリュウイチロウとのあいだに子供が欲しい。私と君の子どもならば、次の世代を担うに充分な子供が生まれる。そうは思わないか?」
「酔ってるんですよ」
「ホントウにそう思うか?」
顔が近い。
目が合った。
龍一郎の眼前には、フィルリア姫の琥珀色の宝玉のような瞳があった。その瞳はぶれておらず、シッカリと龍一郎を見据えていた。
あ、と思った。
この人はマッタク酔っていない!
「酔ったフリをしてたんですか?」
「酒は美味かったが、あの程度で私が酔うことなどない」
フィルリア姫はトンデモナイ大酒のみだ――とエムールが言っていた記憶がよみがえってきた。
「どうして酔ったフリなんてしてたんです」
「私とて乙女なのだ。酔ったフリでもしなければ、こんなことは出来んからな」
「好意は感謝しています。ですがオレにはベルがいますから」
「まだ、あの奴隷娘を想っているか?」
「はい」
ここまで一緒にベルとともに歩んできたのだ。そして龍一郎の胸裏には、ベルの笑顔が焼き付いている。
頬を人差し指でクイッと持ち上げて、笑うあのさまが忘れられないのだ。あの笑顔を自分の物にしたい。そう思うと、居ても立ってもいられなくなる。
「そうか」
フィルリア姫は一瞬だけ寂しそうな顔をしただが、すぐに吹っ切れたように笑った。
「すみません」
「謝ることはない。勝負事には勝ち負けがあるものだ。恋愛もまた勝負なのだからな」
フィルリア姫がそう言ったときだった。
まだ昼間だというのに、部屋が急に陰りはじめた。レオーネにとって暗闇はもっとも忌むべきものだ。
龍一郎は弾かれたように起き上がり、部屋のスイッチをいれた。セリヌイアに貯蔵されている龍一郎の血が、エネルギー源となり、部屋の蛍光灯を灯らせた。
「これはもしや、王国からの通達にあった……」
フィルリア姫が窓から外を見つめていた。
龍一郎も外を見た。
雲ひとつない快晴の空。白日は悪魔にむしばまれるかのように、ユックリと陰りはじめていた。
「そんなまさか……」
こんなに早く来るとは想定していなかった。
ヴァルフィの忠告していた日食がはじまったのだ。
カーン、カーン、カーン。
セリヌイアに鐘が鳴り響いた。
照明をつけろという合図だ。いつもは夕刻や雨天に響かせるものだ。セリヌイアは一瞬にして日輪のように輝いた。日食のことはすでにセリヌイア都内には知らせてある。国王から各都市への通達もあったはずだ。
「日食ですね」
「まさかホントウに起きるとはな」
都市は良い。
しかし、村や貧民街はどうなるかわからない。クロエイを追い払えるだけの明かりを発することができないかもしれない。
ときとして、クロエイは明かりを怖れずに突っ込んでくる。巨大種と戦ったときが、まさにそうだった。
そしてなにより心配なのが――。
「エムールや、竜騎士軍が心配です」
いちおう龍一郎の血を使って発電させるランタンを持たせてある。が、ランタンはしょせんランタンだ。クロエイを防ぎきることができるかが心配だった。
「このセリヌイアは間違いなく大丈夫だろう。あとは私に任せてくれれば良い。リュウイチロウは老赤龍に乗って、援護に向かうと良い」
「人心の乱れが心配ですが……」
「私がひとつ演説でもかましてやろう」
「ありがとうございます」
龍一郎と老赤龍は、セリヌイアの秩序のために留まっていた。だが、最大の問題児であるガルス男爵も酔いつぶれているはずだし、フィルリア姫もいてくれる。あとを任せても良いだろうと龍一郎は判断した。
「ひとつ貸しだ」
フィルリア姫はそう言って、ニッ、と笑った。
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