《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

111話「エムールとセリオット」

 エムール・フォン・フレイはセリヌイア兵1000人。グランドリオンからの援軍500人を率いてサディ国に向かっていた。



 グランドリオンの領主は、フィルリア姫の息がかかっている。リュウイチロウからの援軍を断ることはなかった。都合1500人。



「1500人では、心もとない気もするが……」
 と、セリオット騎士団長がつぶやいた。



《血動車》の中だ。
 エムールはセリオット騎士団長の助手席に座っている。



「臆病風に吹かれましたか。騎士団長殿。サディ国はもともと弱小国。国とは名ばかりの隠れ里のようなもの。国王暗殺によって第一王子が政権をにぎったというなら、国内は混乱状態。容易に制圧できるはずです。あわよくば民衆のチカラを借りることもできるかと」



 ガタン。
 車が揺れる。



 車は今、後ろに続く歩兵の速度に合わせて徐行している。
 行くは森の中の街道だ。



「わかっている。だが、リュウイチロウさまにとって、軍隊を動かすというのははじめてのことだろう」



「そうですね」



「なら、確実に勝利して差し上げたいと思うのだ。たとえ、これがセリヌイアのための戦いでないとはいえな」



「それはわかりますよ」
 と、エムールはうなずいた。



 いいや。わからんさ――とセリオットは巨木の幹のように太い首を左右に振った。



「オレの血質値は10をちょっと越える程度しかない。クロエイ退治のために、冒険者として生計を立てていた。貴族どもが守ってくれないから、貧民街の者たちは自力で守るしかなかった」



「ええ」




「しかし、リュウイチロウさまのセリヌイアは違う。万民が都市の中に入れる。なのにクロエイに襲われることはない。リュウイチロウさまの偉大な血が、闇夜を照らす朝日のごとく、セリヌイアを照らしてくれるからだ」



「リュウイチロウさまはいまだに、自身の存在の偉大さに気づいておられない」




 と、エムールはつぶやいた。
 そのことにエムールは日頃から、歯がゆさを覚えている。



 無限血液はまさに、庶民や奴隷たちにとっては希望の光だ。



「セリヌイア騎士に志願した者たちも、多くは庶民や奴隷の出身だ。皆、恩義を感じているのだ。あの方がいるからこそ、オレたちは安心して暮らせるのだ。だからこそ、リュウイチロウさまに勝利を届けたい」



 セリオットの瞳が、琥珀色に輝いていた。
 熱くたぎるものを感じているのだろう。



「まだ16歳とは思えない、偉大なお方です」



 青年とは思えないほどの物分りの良さを見せることもあるが、基本的にリュウイチロウは子供だ。特に、人の上に立つということには慣れていないように思われた。しかし、それはこれから培えば良い。



「オレは、こんな筋肉質なカラダをしているが、クロエイという存在がおそろしく怖いのだ」



 セリオットはそう言うと、その巨体を震わせた。



「トウゼンでしょう。クロエイが怖くない者などおりません」
 エムールだって、クロエイは怖い。



「毎日、震えて暮らしていた。いつか自分があのバケモノに影を食われるかもしれない。そうなれば自分もまた、バケモノになるのだ。妻や子供を襲う側に回るかもしれないのだ――とな。しかし今では、安心して眠ることができる」



 それだけじゃない、とセリオットは熱い口調で語り続けた。



「安心して子供が生める」
「子供が生める?」



 不思議に思ってエムールはおうむ返しに問うた。



「そうだ。自分の子どもの血質値が低かったどうしようか――。親はいつもそういう不安がある。だが、セリヌイアならそんなこと考えなくとも良い」



「子供のことは、私も考えたことがありませんでした」
 エムールは女性だが、子供を生むということをあまり深く考えたことがない。



「家庭を持てば、そういう考えも出てくるというものだ」



「なるほど。妻帯者ならではの意見ですね。勉強になります」



 エムールはリュウイチロウに個人的に助けられた恩義がある。だから仕えている。一方、セリオット騎士団長の意見は、多くの庶民たちの思っていることなのだろう。



 ケルゥ侯爵はかつて、都市を浮遊させてユートピアを実現させようとした。形は違えど、今のセリヌイアはそのケルゥ侯爵の夢の通り、ユートピアを体現しているのかもしれない。



「セリヌイアは良い都市です」
 と、エムールはつぶやいた。

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