《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
111話「エムールとセリオット」
エムール・フォン・フレイはセリヌイア兵1000人。グランドリオンからの援軍500人を率いてサディ国に向かっていた。
グランドリオンの領主は、フィルリア姫の息がかかっている。リュウイチロウからの援軍を断ることはなかった。都合1500人。
「1500人では、心もとない気もするが……」
と、セリオット騎士団長がつぶやいた。
《血動車》の中だ。
エムールはセリオット騎士団長の助手席に座っている。
「臆病風に吹かれましたか。騎士団長殿。サディ国はもともと弱小国。国とは名ばかりの隠れ里のようなもの。国王暗殺によって第一王子が政権をにぎったというなら、国内は混乱状態。容易に制圧できるはずです。あわよくば民衆のチカラを借りることもできるかと」
ガタン。
車が揺れる。
車は今、後ろに続く歩兵の速度に合わせて徐行している。
行くは森の中の街道だ。
「わかっている。だが、リュウイチロウさまにとって、軍隊を動かすというのははじめてのことだろう」
「そうですね」
「なら、確実に勝利して差し上げたいと思うのだ。たとえ、これがセリヌイアのための戦いでないとはいえな」
「それはわかりますよ」
と、エムールはうなずいた。
いいや。わからんさ――とセリオットは巨木の幹のように太い首を左右に振った。
「オレの血質値は10をちょっと越える程度しかない。クロエイ退治のために、冒険者として生計を立てていた。貴族どもが守ってくれないから、貧民街の者たちは自力で守るしかなかった」
「ええ」
「しかし、リュウイチロウさまのセリヌイアは違う。万民が都市の中に入れる。なのにクロエイに襲われることはない。リュウイチロウさまの偉大な血が、闇夜を照らす朝日のごとく、セリヌイアを照らしてくれるからだ」
「リュウイチロウさまはいまだに、自身の存在の偉大さに気づいておられない」
と、エムールはつぶやいた。
そのことにエムールは日頃から、歯がゆさを覚えている。
無限血液はまさに、庶民や奴隷たちにとっては希望の光だ。
「セリヌイア騎士に志願した者たちも、多くは庶民や奴隷の出身だ。皆、恩義を感じているのだ。あの方がいるからこそ、オレたちは安心して暮らせるのだ。だからこそ、リュウイチロウさまに勝利を届けたい」
セリオットの瞳が、琥珀色に輝いていた。
熱くたぎるものを感じているのだろう。
「まだ16歳とは思えない、偉大なお方です」
青年とは思えないほどの物分りの良さを見せることもあるが、基本的にリュウイチロウは子供だ。特に、人の上に立つということには慣れていないように思われた。しかし、それはこれから培えば良い。
「オレは、こんな筋肉質なカラダをしているが、クロエイという存在がおそろしく怖いのだ」
セリオットはそう言うと、その巨体を震わせた。
「トウゼンでしょう。クロエイが怖くない者などおりません」
エムールだって、クロエイは怖い。
「毎日、震えて暮らしていた。いつか自分があのバケモノに影を食われるかもしれない。そうなれば自分もまた、バケモノになるのだ。妻や子供を襲う側に回るかもしれないのだ――とな。しかし今では、安心して眠ることができる」
それだけじゃない、とセリオットは熱い口調で語り続けた。
「安心して子供が生める」
「子供が生める?」
不思議に思ってエムールはおうむ返しに問うた。
「そうだ。自分の子どもの血質値が低かったどうしようか――。親はいつもそういう不安がある。だが、セリヌイアならそんなこと考えなくとも良い」
「子供のことは、私も考えたことがありませんでした」
エムールは女性だが、子供を生むということをあまり深く考えたことがない。
「家庭を持てば、そういう考えも出てくるというものだ」
「なるほど。妻帯者ならではの意見ですね。勉強になります」
エムールはリュウイチロウに個人的に助けられた恩義がある。だから仕えている。一方、セリオット騎士団長の意見は、多くの庶民たちの思っていることなのだろう。
ケルゥ侯爵はかつて、都市を浮遊させてユートピアを実現させようとした。形は違えど、今のセリヌイアはそのケルゥ侯爵の夢の通り、ユートピアを体現しているのかもしれない。
「セリヌイアは良い都市です」
と、エムールはつぶやいた。
グランドリオンの領主は、フィルリア姫の息がかかっている。リュウイチロウからの援軍を断ることはなかった。都合1500人。
「1500人では、心もとない気もするが……」
と、セリオット騎士団長がつぶやいた。
《血動車》の中だ。
エムールはセリオット騎士団長の助手席に座っている。
「臆病風に吹かれましたか。騎士団長殿。サディ国はもともと弱小国。国とは名ばかりの隠れ里のようなもの。国王暗殺によって第一王子が政権をにぎったというなら、国内は混乱状態。容易に制圧できるはずです。あわよくば民衆のチカラを借りることもできるかと」
ガタン。
車が揺れる。
車は今、後ろに続く歩兵の速度に合わせて徐行している。
行くは森の中の街道だ。
「わかっている。だが、リュウイチロウさまにとって、軍隊を動かすというのははじめてのことだろう」
「そうですね」
「なら、確実に勝利して差し上げたいと思うのだ。たとえ、これがセリヌイアのための戦いでないとはいえな」
「それはわかりますよ」
と、エムールはうなずいた。
いいや。わからんさ――とセリオットは巨木の幹のように太い首を左右に振った。
「オレの血質値は10をちょっと越える程度しかない。クロエイ退治のために、冒険者として生計を立てていた。貴族どもが守ってくれないから、貧民街の者たちは自力で守るしかなかった」
「ええ」
「しかし、リュウイチロウさまのセリヌイアは違う。万民が都市の中に入れる。なのにクロエイに襲われることはない。リュウイチロウさまの偉大な血が、闇夜を照らす朝日のごとく、セリヌイアを照らしてくれるからだ」
「リュウイチロウさまはいまだに、自身の存在の偉大さに気づいておられない」
と、エムールはつぶやいた。
そのことにエムールは日頃から、歯がゆさを覚えている。
無限血液はまさに、庶民や奴隷たちにとっては希望の光だ。
「セリヌイア騎士に志願した者たちも、多くは庶民や奴隷の出身だ。皆、恩義を感じているのだ。あの方がいるからこそ、オレたちは安心して暮らせるのだ。だからこそ、リュウイチロウさまに勝利を届けたい」
セリオットの瞳が、琥珀色に輝いていた。
熱くたぎるものを感じているのだろう。
「まだ16歳とは思えない、偉大なお方です」
青年とは思えないほどの物分りの良さを見せることもあるが、基本的にリュウイチロウは子供だ。特に、人の上に立つということには慣れていないように思われた。しかし、それはこれから培えば良い。
「オレは、こんな筋肉質なカラダをしているが、クロエイという存在がおそろしく怖いのだ」
セリオットはそう言うと、その巨体を震わせた。
「トウゼンでしょう。クロエイが怖くない者などおりません」
エムールだって、クロエイは怖い。
「毎日、震えて暮らしていた。いつか自分があのバケモノに影を食われるかもしれない。そうなれば自分もまた、バケモノになるのだ。妻や子供を襲う側に回るかもしれないのだ――とな。しかし今では、安心して眠ることができる」
それだけじゃない、とセリオットは熱い口調で語り続けた。
「安心して子供が生める」
「子供が生める?」
不思議に思ってエムールはおうむ返しに問うた。
「そうだ。自分の子どもの血質値が低かったどうしようか――。親はいつもそういう不安がある。だが、セリヌイアならそんなこと考えなくとも良い」
「子供のことは、私も考えたことがありませんでした」
エムールは女性だが、子供を生むということをあまり深く考えたことがない。
「家庭を持てば、そういう考えも出てくるというものだ」
「なるほど。妻帯者ならではの意見ですね。勉強になります」
エムールはリュウイチロウに個人的に助けられた恩義がある。だから仕えている。一方、セリオット騎士団長の意見は、多くの庶民たちの思っていることなのだろう。
ケルゥ侯爵はかつて、都市を浮遊させてユートピアを実現させようとした。形は違えど、今のセリヌイアはそのケルゥ侯爵の夢の通り、ユートピアを体現しているのかもしれない。
「セリヌイアは良い都市です」
と、エムールはつぶやいた。
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