《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
107話「すれ違い・龍一郎」
「ベル!」
ベルの表情に変化はなかった。
ヴァルフィと龍一郎の姿を見ると、ただ黙って一礼して、部屋を出て行ってしまった。龍一郎はあわてて追いかけようとしたのだが、龍一郎の手をヴァルフィが強く握っていた。
「どうされたのです。リュウさま?」
「すこし急用ができました」
ヴァルフィの手を振りほどいて、龍一郎は部屋を出た。
部屋の外には門番みたくエムールが張っていた。ヴァルフィの相手をエムールにしてもらうように頼んだ。
龍一郎はベルを追いかけた。
脚の悪いベルはまだ、領主館の廊下を歩いているところだった。領主館の廊下は城とは違ってフローリングになっている。
壁際には大きな窓がいくつもあり、日差しが強くさしこんでいた。ケルゥ侯爵が領主をやっていたころの名残で、龍の石造が飾られている。
「ベル……」
龍一郎はベルの背中に慎重に声をかけた。
ベルは脚を止めて、振り向いた。
いつもどおりのベルの顔だった。
出会った当初は白髪を短くしていたが、今はすこし伸びている。ロングボブと言えるぐらいには伸びた。乱れていた髪もキレイに整えられている。
ベルは自分が他人からどう見られているのか、外見に気をつかいはじめたのだ。レオーネには、女性たちの化粧用品として、白粉のようなものもある。顔をおおうおびただしいヤケド痕などを隠すために、ベルはそれを塗りたくって誤魔化している。
「なんでしょうか。主さま」
声もあいかわらず、しわがれている。
「さっきのは誤解なんだ。変なふうに考えないで欲しい。別にオレがあの女性と何かしていた――とか、そういうわけではないから」
相変わらず表情筋だけは緩くならない。
無表情のままだ。
「ご安心ください。私は主さまに拾われた身。主さまを嫌いになるようなことは、決してありません」
「……そうか」
胸をなでおろした。
「たとえ主さまが、いろんな女性と関係を持とうとも。それでも私は主さまの傍にいられることが幸せです」
ベルの言葉は淡々としていた。
だが、微妙に龍一郎の思いと食い違っていることに気づいた。
「違う。そうじゃない」
「何がですか?」
と、ベルが首をかしげた。
「オレはそんなふうにベルを見ているわけじゃない」
「大丈夫です。私は下賤の出身。はじめから主さまと釣り合うとは思っておりません」
ベルはそう言うと、くるりと背中を向けた。
脚を引きずって歩くベルの背中が哀愁に満ちていた。
「あ……」
謝ろうと思った。
でも、ベルの背中は龍一郎の謝罪を拒絶しているようにも見えた。
ベルは傷ついてしまったのだろう。
あるいは怒っているかもしれない。
ベルの心は朝露を受けて輝くクモの糸のように繊細だ。そのベルの心を傷つけてしまったと思うと、龍一郎も胸が痛かった。
それでも、ベルの言葉に偽りはなかったのだろうと思う。たとえ龍一郎が他の女性と関係を持っても、ベルは健気に龍一郎に尽くしてくれる気がした。そんなベルだからこそ、龍一郎はベルに恋慕しているのだ。
(オレがイチバン好きなのは、ベルなんだ)
そんなことは、照れ臭くて口が裂けても言えない。
ベルの表情に変化はなかった。
ヴァルフィと龍一郎の姿を見ると、ただ黙って一礼して、部屋を出て行ってしまった。龍一郎はあわてて追いかけようとしたのだが、龍一郎の手をヴァルフィが強く握っていた。
「どうされたのです。リュウさま?」
「すこし急用ができました」
ヴァルフィの手を振りほどいて、龍一郎は部屋を出た。
部屋の外には門番みたくエムールが張っていた。ヴァルフィの相手をエムールにしてもらうように頼んだ。
龍一郎はベルを追いかけた。
脚の悪いベルはまだ、領主館の廊下を歩いているところだった。領主館の廊下は城とは違ってフローリングになっている。
壁際には大きな窓がいくつもあり、日差しが強くさしこんでいた。ケルゥ侯爵が領主をやっていたころの名残で、龍の石造が飾られている。
「ベル……」
龍一郎はベルの背中に慎重に声をかけた。
ベルは脚を止めて、振り向いた。
いつもどおりのベルの顔だった。
出会った当初は白髪を短くしていたが、今はすこし伸びている。ロングボブと言えるぐらいには伸びた。乱れていた髪もキレイに整えられている。
ベルは自分が他人からどう見られているのか、外見に気をつかいはじめたのだ。レオーネには、女性たちの化粧用品として、白粉のようなものもある。顔をおおうおびただしいヤケド痕などを隠すために、ベルはそれを塗りたくって誤魔化している。
「なんでしょうか。主さま」
声もあいかわらず、しわがれている。
「さっきのは誤解なんだ。変なふうに考えないで欲しい。別にオレがあの女性と何かしていた――とか、そういうわけではないから」
相変わらず表情筋だけは緩くならない。
無表情のままだ。
「ご安心ください。私は主さまに拾われた身。主さまを嫌いになるようなことは、決してありません」
「……そうか」
胸をなでおろした。
「たとえ主さまが、いろんな女性と関係を持とうとも。それでも私は主さまの傍にいられることが幸せです」
ベルの言葉は淡々としていた。
だが、微妙に龍一郎の思いと食い違っていることに気づいた。
「違う。そうじゃない」
「何がですか?」
と、ベルが首をかしげた。
「オレはそんなふうにベルを見ているわけじゃない」
「大丈夫です。私は下賤の出身。はじめから主さまと釣り合うとは思っておりません」
ベルはそう言うと、くるりと背中を向けた。
脚を引きずって歩くベルの背中が哀愁に満ちていた。
「あ……」
謝ろうと思った。
でも、ベルの背中は龍一郎の謝罪を拒絶しているようにも見えた。
ベルは傷ついてしまったのだろう。
あるいは怒っているかもしれない。
ベルの心は朝露を受けて輝くクモの糸のように繊細だ。そのベルの心を傷つけてしまったと思うと、龍一郎も胸が痛かった。
それでも、ベルの言葉に偽りはなかったのだろうと思う。たとえ龍一郎が他の女性と関係を持っても、ベルは健気に龍一郎に尽くしてくれる気がした。そんなベルだからこそ、龍一郎はベルに恋慕しているのだ。
(オレがイチバン好きなのは、ベルなんだ)
そんなことは、照れ臭くて口が裂けても言えない。
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