《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

107話「すれ違い・龍一郎」

「ベル!」
 ベルの表情に変化はなかった。



 ヴァルフィと龍一郎の姿を見ると、ただ黙って一礼して、部屋を出て行ってしまった。龍一郎はあわてて追いかけようとしたのだが、龍一郎の手をヴァルフィが強く握っていた。



「どうされたのです。リュウさま?」
「すこし急用ができました」



 ヴァルフィの手を振りほどいて、龍一郎は部屋を出た。



 部屋の外には門番みたくエムールが張っていた。ヴァルフィの相手をエムールにしてもらうように頼んだ。



 龍一郎はベルを追いかけた。



 脚の悪いベルはまだ、領主館の廊下を歩いているところだった。領主館の廊下は城とは違ってフローリングになっている。



 壁際には大きな窓がいくつもあり、日差しが強くさしこんでいた。ケルゥ侯爵が領主をやっていたころの名残で、龍の石造が飾られている。



「ベル……」
 龍一郎はベルの背中に慎重に声をかけた。



 ベルは脚を止めて、振り向いた。
 いつもどおりのベルの顔だった。



 出会った当初は白髪を短くしていたが、今はすこし伸びている。ロングボブと言えるぐらいには伸びた。乱れていた髪もキレイに整えられている。



 ベルは自分が他人からどう見られているのか、外見に気をつかいはじめたのだ。レオーネには、女性たちの化粧用品として、白粉のようなものもある。顔をおおうおびただしいヤケド痕などを隠すために、ベルはそれを塗りたくって誤魔化している。



「なんでしょうか。主さま」
 声もあいかわらず、しわがれている。



「さっきのは誤解なんだ。変なふうに考えないで欲しい。別にオレがあの女性と何かしていた――とか、そういうわけではないから」



 相変わらず表情筋だけは緩くならない。
 無表情のままだ。



「ご安心ください。私は主さまに拾われた身。主さまを嫌いになるようなことは、決してありません」



「……そうか」
 胸をなでおろした。



「たとえ主さまが、いろんな女性と関係を持とうとも。それでも私は主さまの傍にいられることが幸せです」



 ベルの言葉は淡々としていた。
 だが、微妙に龍一郎の思いと食い違っていることに気づいた。



「違う。そうじゃない」
「何がですか?」
 と、ベルが首をかしげた。



「オレはそんなふうにベルを見ているわけじゃない」



「大丈夫です。私は下賤の出身。はじめから主さまと釣り合うとは思っておりません」



 ベルはそう言うと、くるりと背中を向けた。
 脚を引きずって歩くベルの背中が哀愁に満ちていた。



「あ……」
 謝ろうと思った。



 でも、ベルの背中は龍一郎の謝罪を拒絶しているようにも見えた。



 ベルは傷ついてしまったのだろう。
 あるいは怒っているかもしれない。



 ベルの心は朝露を受けて輝くクモの糸のように繊細だ。そのベルの心を傷つけてしまったと思うと、龍一郎も胸が痛かった。



 それでも、ベルの言葉に偽りはなかったのだろうと思う。たとえ龍一郎が他の女性と関係を持っても、ベルは健気に龍一郎に尽くしてくれる気がした。そんなベルだからこそ、龍一郎はベルに恋慕しているのだ。



(オレがイチバン好きなのは、ベルなんだ)



 そんなことは、照れ臭くて口が裂けても言えない。

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