《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士
第95話「二人の小指」
老赤龍が引きずり下ろす間もなく、セリヌイアはケルゥ侯爵の指示で降下することになった。
ちょうど湖畔の上に着水するようなカッコウだった。ザバーンと湖畔を波立たせて都市が着水するさまを、龍一郎とベルは湖畔の土手で見守っていた。
名はわからぬが銀杏のような黄金色の樹がなっていた。
「ゴメンな。また一人ぼっちにさせて」
「はい」
ベルは龍一郎の服の袖をつまんでいる。
やわらかいチカラ加減を龍一郎は感じていた。
その小さなチカラ以上に、ベルは龍一郎との再会を喜んでくれているはずだ。さっきから、服の袖で感涙をぬぐっている。
「あのさ……」
龍一郎は戸惑いつつも、そう切り出す。
「なんでしょうか?」
「あんまりシツコいと厭かもしれないけど、もう一回だけ言わせてもらいたいんだ」
「はい?」
ベルは龍一郎の顔を見上げる。夕焼けに照らされるベルの顔は、真っ赤に実ったリンゴのようだった。
付き合ってください――とお願いするつもりだった。しかし、イザ切り出そうとなると、やはり心臓の高鳴りがおさえられなかった。
以前は、一緒に風呂に入るという特殊な状況下だった。そのため龍一郎も切り出すことができたのだ。
「おーいっ」
と、平原の向こうから声が飛んできた。
フィルリア姫とインクだった。
「あ、どうも」
と、龍一郎は頭を下げた。
「どうやら無事にセリヌイアは着水したようだな」
と、フィルリア姫が言った。
「ええ」
「龍はどうした?」
「向こうにいますよ」
セリヌイアから、老赤龍にここまで下ろしてもらった。ベルと大事な話があるから――ということで、少し離れていてもらったのだ。
老赤龍は湖畔の土手にたたずみ、セリヌイア着水の様子を見守っているようだった。
「まさか龍に乗ってくるとは思ってもいなかったから、度胆を抜かれたぞ」
フィルリア姫のプラチナブロンドの髪が、湖畔から吹く風を受けてなびいていた。その髪をフィルリラ姫は耳にかけた。
「すみません」
「謝ることはない。むしろ目覚ましい活躍だった。あの龍のことは、レオーネの世界中で話題になるはずだ。それからその龍に乗っていたリュウイチロウのこともな」
「どういう意味です?」
「これからの処遇を考えねばならん。龍のこともリュウイチロウのことも、放置はできんだろう。おそらく爵位授与は免れんだろうな」
「爵位授与ってことは、貴族の仲間入りですか」
「そうなる」
貴族となると、無条件に嫌う者も多い。堅苦しいのもあまり好きではない。正直、爵位授与の件は乗り気にはなれなかった。
「避けられないのなら、仕方ないですかね」
「むしろ、爵位授与の話は受けるべきだ。爵位の内容にもよるが、権力ができる。私にとってもうれしい話だ」
貴族の派閥のことは、龍一郎はよくわからない。
政争とかに巻き込まれると厭だなぁ、と思った。
それからこの娘のことだが――とフィルリア姫がインクを龍一郎に押し付けてきた。そう言えば、グランドリオンでインクのことを、フィルリア姫に押し付けたままだった。
「インクが何か?」
「私のもとの来るかと尋ねても、お前の奴隷だと言って譲らない。これから貴族になるのだから、奴隷――というか、従者の1人や2人はつけておいて良いだろう」
「えぇ……」
たしかに助けたのは龍一郎だが、ベルのときとは違って独断で助けたわけではない。あくまでフィルリア姫の指示があったからだ。
この先もずっとインクを請け負うというのは、承諾しかねる。
「明日の朝になった私は、王都に戻る。爵位の件はそのときに聞いておこう。授与の際には直接リュウイチロウの招かれると思うから、念頭に置いておいてくれ」
「わかりました」
なんだかメンドウなことになった、と思った。
「言っておくがリュウイチロウ」
フィルリア姫は一歩、龍一郎に迫ってきた。顔がグッと近くになる。フィルリア姫の甘い吐息が、龍一郎の鼻をかすめた。
「な、なんですか?」
迫力のある瞳に気圧されて、心臓が脈打った。
「私はまだ君を、専属騎士にするという件をあきらめたわけではない。それから、その2人の女を分け隔てせずに接するように」
一方の服の袖をベルがつまんでいたのだが、もう一方の腕にインクがしがみついて来た。フィルリア姫が八重歯を見せて微笑んだ。
その笑みを見て、あぁ――と悟った。
フィルリア姫も、龍一郎とベルの2人が組み合わさることを望んでいないのだ。その障壁として、インクを龍一郎に与えようとしているのだ。
「わかりましたよ」
と、龍一郎はうなずいた。
「さて、とりあえず今晩をしのいだら、セリヌイアの処理だな」
「老赤龍がいるので、クロエイは大丈夫だと思いますけどね」
「そうだな」
フィルリア姫もインクも、気づきはしなかっただろう。
こうして会話しているあいだに、龍一郎の小指とベルの小指が内密にふれあい、恥じらい合って、そして、シッカリと結び合っていることに――。
ちょうど湖畔の上に着水するようなカッコウだった。ザバーンと湖畔を波立たせて都市が着水するさまを、龍一郎とベルは湖畔の土手で見守っていた。
名はわからぬが銀杏のような黄金色の樹がなっていた。
「ゴメンな。また一人ぼっちにさせて」
「はい」
ベルは龍一郎の服の袖をつまんでいる。
やわらかいチカラ加減を龍一郎は感じていた。
その小さなチカラ以上に、ベルは龍一郎との再会を喜んでくれているはずだ。さっきから、服の袖で感涙をぬぐっている。
「あのさ……」
龍一郎は戸惑いつつも、そう切り出す。
「なんでしょうか?」
「あんまりシツコいと厭かもしれないけど、もう一回だけ言わせてもらいたいんだ」
「はい?」
ベルは龍一郎の顔を見上げる。夕焼けに照らされるベルの顔は、真っ赤に実ったリンゴのようだった。
付き合ってください――とお願いするつもりだった。しかし、イザ切り出そうとなると、やはり心臓の高鳴りがおさえられなかった。
以前は、一緒に風呂に入るという特殊な状況下だった。そのため龍一郎も切り出すことができたのだ。
「おーいっ」
と、平原の向こうから声が飛んできた。
フィルリア姫とインクだった。
「あ、どうも」
と、龍一郎は頭を下げた。
「どうやら無事にセリヌイアは着水したようだな」
と、フィルリア姫が言った。
「ええ」
「龍はどうした?」
「向こうにいますよ」
セリヌイアから、老赤龍にここまで下ろしてもらった。ベルと大事な話があるから――ということで、少し離れていてもらったのだ。
老赤龍は湖畔の土手にたたずみ、セリヌイア着水の様子を見守っているようだった。
「まさか龍に乗ってくるとは思ってもいなかったから、度胆を抜かれたぞ」
フィルリア姫のプラチナブロンドの髪が、湖畔から吹く風を受けてなびいていた。その髪をフィルリラ姫は耳にかけた。
「すみません」
「謝ることはない。むしろ目覚ましい活躍だった。あの龍のことは、レオーネの世界中で話題になるはずだ。それからその龍に乗っていたリュウイチロウのこともな」
「どういう意味です?」
「これからの処遇を考えねばならん。龍のこともリュウイチロウのことも、放置はできんだろう。おそらく爵位授与は免れんだろうな」
「爵位授与ってことは、貴族の仲間入りですか」
「そうなる」
貴族となると、無条件に嫌う者も多い。堅苦しいのもあまり好きではない。正直、爵位授与の件は乗り気にはなれなかった。
「避けられないのなら、仕方ないですかね」
「むしろ、爵位授与の話は受けるべきだ。爵位の内容にもよるが、権力ができる。私にとってもうれしい話だ」
貴族の派閥のことは、龍一郎はよくわからない。
政争とかに巻き込まれると厭だなぁ、と思った。
それからこの娘のことだが――とフィルリア姫がインクを龍一郎に押し付けてきた。そう言えば、グランドリオンでインクのことを、フィルリア姫に押し付けたままだった。
「インクが何か?」
「私のもとの来るかと尋ねても、お前の奴隷だと言って譲らない。これから貴族になるのだから、奴隷――というか、従者の1人や2人はつけておいて良いだろう」
「えぇ……」
たしかに助けたのは龍一郎だが、ベルのときとは違って独断で助けたわけではない。あくまでフィルリア姫の指示があったからだ。
この先もずっとインクを請け負うというのは、承諾しかねる。
「明日の朝になった私は、王都に戻る。爵位の件はそのときに聞いておこう。授与の際には直接リュウイチロウの招かれると思うから、念頭に置いておいてくれ」
「わかりました」
なんだかメンドウなことになった、と思った。
「言っておくがリュウイチロウ」
フィルリア姫は一歩、龍一郎に迫ってきた。顔がグッと近くになる。フィルリア姫の甘い吐息が、龍一郎の鼻をかすめた。
「な、なんですか?」
迫力のある瞳に気圧されて、心臓が脈打った。
「私はまだ君を、専属騎士にするという件をあきらめたわけではない。それから、その2人の女を分け隔てせずに接するように」
一方の服の袖をベルがつまんでいたのだが、もう一方の腕にインクがしがみついて来た。フィルリア姫が八重歯を見せて微笑んだ。
その笑みを見て、あぁ――と悟った。
フィルリア姫も、龍一郎とベルの2人が組み合わさることを望んでいないのだ。その障壁として、インクを龍一郎に与えようとしているのだ。
「わかりましたよ」
と、龍一郎はうなずいた。
「さて、とりあえず今晩をしのいだら、セリヌイアの処理だな」
「老赤龍がいるので、クロエイは大丈夫だと思いますけどね」
「そうだな」
フィルリア姫もインクも、気づきはしなかっただろう。
こうして会話しているあいだに、龍一郎の小指とベルの小指が内密にふれあい、恥じらい合って、そして、シッカリと結び合っていることに――。
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