《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第95話「二人の小指」

 老赤龍が引きずり下ろす間もなく、セリヌイアはケルゥ侯爵の指示で降下することになった。



 ちょうど湖畔の上に着水するようなカッコウだった。ザバーンと湖畔を波立たせて都市が着水するさまを、龍一郎とベルは湖畔の土手で見守っていた。


 名はわからぬが銀杏のような黄金色の樹がなっていた。



「ゴメンな。また一人ぼっちにさせて」
「はい」



 ベルは龍一郎の服の袖をつまんでいる。
 やわらかいチカラ加減を龍一郎は感じていた。



 その小さなチカラ以上に、ベルは龍一郎との再会を喜んでくれているはずだ。さっきから、服の袖で感涙をぬぐっている。


「あのさ……」
 龍一郎は戸惑いつつも、そう切り出す。



「なんでしょうか?」



「あんまりシツコいと厭かもしれないけど、もう一回だけ言わせてもらいたいんだ」



「はい?」



 ベルは龍一郎の顔を見上げる。夕焼けに照らされるベルの顔は、真っ赤に実ったリンゴのようだった。



 付き合ってください――とお願いするつもりだった。しかし、イザ切り出そうとなると、やはり心臓の高鳴りがおさえられなかった。



 以前は、一緒に風呂に入るという特殊な状況下だった。そのため龍一郎も切り出すことができたのだ。



「おーいっ」
 と、平原の向こうから声が飛んできた。



 フィルリア姫とインクだった。



「あ、どうも」
 と、龍一郎は頭を下げた。



「どうやら無事にセリヌイアは着水したようだな」
 と、フィルリア姫が言った。



「ええ」
「龍はどうした?」
「向こうにいますよ」



 セリヌイアから、老赤龍にここまで下ろしてもらった。ベルと大事な話があるから――ということで、少し離れていてもらったのだ。



 老赤龍は湖畔の土手にたたずみ、セリヌイア着水の様子を見守っているようだった。



「まさか龍に乗ってくるとは思ってもいなかったから、度胆を抜かれたぞ」



 フィルリア姫のプラチナブロンドの髪が、湖畔から吹く風を受けてなびいていた。その髪をフィルリラ姫は耳にかけた。



「すみません」



「謝ることはない。むしろ目覚ましい活躍だった。あの龍のことは、レオーネの世界中で話題になるはずだ。それからその龍に乗っていたリュウイチロウのこともな」



「どういう意味です?」



「これからの処遇を考えねばならん。龍のこともリュウイチロウのことも、放置はできんだろう。おそらく爵位授与は免れんだろうな」



「爵位授与ってことは、貴族の仲間入りですか」



「そうなる」



 貴族となると、無条件に嫌う者も多い。堅苦しいのもあまり好きではない。正直、爵位授与の件は乗り気にはなれなかった。



「避けられないのなら、仕方ないですかね」



「むしろ、爵位授与の話は受けるべきだ。爵位の内容にもよるが、権力ができる。私にとってもうれしい話だ」



 貴族の派閥のことは、龍一郎はよくわからない。
 政争とかに巻き込まれると厭だなぁ、と思った。



 それからこの娘のことだが――とフィルリア姫がインクを龍一郎に押し付けてきた。そう言えば、グランドリオンでインクのことを、フィルリア姫に押し付けたままだった。



「インクが何か?」



「私のもとの来るかと尋ねても、お前の奴隷だと言って譲らない。これから貴族になるのだから、奴隷――というか、従者の1人や2人はつけておいて良いだろう」



「えぇ……」



 たしかに助けたのは龍一郎だが、ベルのときとは違って独断で助けたわけではない。あくまでフィルリア姫の指示があったからだ。



 この先もずっとインクを請け負うというのは、承諾しかねる。



「明日の朝になった私は、王都に戻る。爵位の件はそのときに聞いておこう。授与の際には直接リュウイチロウの招かれると思うから、念頭に置いておいてくれ」



「わかりました」
 なんだかメンドウなことになった、と思った。



「言っておくがリュウイチロウ」



 フィルリア姫は一歩、龍一郎に迫ってきた。顔がグッと近くになる。フィルリア姫の甘い吐息が、龍一郎の鼻をかすめた。



「な、なんですか?」
 迫力のある瞳に気圧されて、心臓が脈打った。



「私はまだ君を、専属騎士にするという件をあきらめたわけではない。それから、その2人の女を分け隔てせずに接するように」



 一方の服の袖をベルがつまんでいたのだが、もう一方の腕にインクがしがみついて来た。フィルリア姫が八重歯を見せて微笑んだ。



 その笑みを見て、あぁ――と悟った。



 フィルリア姫も、龍一郎とベルの2人が組み合わさることを望んでいないのだ。その障壁として、インクを龍一郎に与えようとしているのだ。



「わかりましたよ」
 と、龍一郎はうなずいた。



「さて、とりあえず今晩をしのいだら、セリヌイアの処理だな」



「老赤龍がいるので、クロエイは大丈夫だと思いますけどね」



「そうだな」



 フィルリア姫もインクも、気づきはしなかっただろう。



 こうして会話しているあいだに、龍一郎の小指とベルの小指が内密にふれあい、恥じらい合って、そして、シッカリと結び合っていることに――。

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