《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第93話「ケルゥ・スプライア侯爵 Ⅱ」

 トツジョ。
 南に沈む太陽をさえぎるように、巨大な影があらわれた。



「クロエイかッ」
 ケルゥは、弾かれるようにイスから立ち上がった。



 目を凝らす。
 いや。
 クロエイではない。



「いや……しかし、そんなバカな……」



 クロエイではないが、それよりもはるかにケルゥの度肝を抜く生物だった。



 龍だ。
 龍のたたりが下りますよ――というエムールの言葉が、脳裏によみがえった。



 そんなことがあるものか、とケルゥは首を左右に振った。



 セリヌイアには、龍がいるというウワサがあった。しかし、ウワサはウワサだ。龍はとっくの昔に絶滅したはずの生き物だ。そして今の世では神として崇められ、ときに悪魔として怖れられる対象だ。




 その龍が――。
 形をもって目の前に君臨していた。




 何度も目をコスった。
 間違いない。



 龍だ。



「いかがいたしますか?」
 いかがもクソもない。



 今晩のことで頭がイッパイだったケルゥの頭は、混沌をきわめていた。



「とりあえず招き入れるか? いや、待て――。誰か乗っていないか?」



「人――ですかね」
 ひたいに手をかざして、夕日をさえぎった。
 すると乗っている者の姿がよく見えた。



「やッ。あれはリュウイチロウくんかッ!」




 生きていたのかと思うと、安堵の気持ちがこみ上げてきた。リュウイチロウが協力してくれればこの都市の無限のエネルギーになる。



 しかし、たった今自分が行ったことを思うと、たちまちキモが冷えた。



 リュウイチロウの大切な奴隷を、突き落としたところだ。そのベルはリュウイチロウの腕の中にあったから、落ちたところを見事に拾ったのだろうと思われる。



 しかし、やったことはやったことだ。



(シマッタ……ッ)
 あと数秒落とすのを待っていれば、言い訳できたものを――と歯噛みした。



「ど、どうするんです。侯爵?」



「う、うむ。とりあえずは私が話を聞こう。奴隷を落としたことは素直に謝るしかなかろう」



 ケルゥ侯爵は断頭台に進むような心地で、前に進み出た。

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