《完結》虐待されてる奴隷少女を救った、異世界最強の龍騎士

執筆用bot E-021番 

第74話「ベルの恋慕」

 リュウイチロウは昼寝をしていた。



 ベルはジッと主人の顔に見入っていた。リュウイチロウの言うとおり、仮にリュウイチロウの身に何かあれば、ベルは行き場を失う。



 またかつての地獄に放り出されるかと思うと、発狂しそうになる。しかし、それよりも、ベルはリュウイチロウを失うことそのものに怖れを抱いていた。



(私の身ではなく、主さまの身が心配なのです)



 いつからそう思うようになったのかは、わからない。もしかしたら最初に会ったときには、その恋慕がすでに芽吹いていたのかもしれない。今では日に日に、思いが募っていく。ときおり胸が苦しくなるほどだった。



 しかし――。



(私と、主さまでは釣り合わない)
 そういう思いがあった。



 血質値200を超えるリュウイチロウと、奴隷の分際であるベルとではあきらかに格差があった。それは用意に跳びこせる壁ではない。



 あまりに悲しく、2人を圧倒的にへだてる壁だった。



 いつまでも一緒にいたいという愛しさ。同時に、私は主さまに釣り合う人じゃないという現実。



 その二つの感情が、ベルの小さな胸の奥でせめぎ合っていた。何かあるたびに葛藤が起きる。



 あまりにもドス黒い記憶が、ベルのことを過去へ引きずり戻そうとする。



「お前は幸せになれる女じゃない」
「お前なんかいるとリュウイチロウが汚れる」



 熱した鉄球を持つように命令されて、爪をはがされて、熱したペンチで舌をすこしずつムシられる。



 そんな惨憺さんたんたる過去が、無数の手となってベルを引きずりこもうとしてくる。



「主さま」
 ベルはソッと龍一郎の手をにぎった。そして龍一郎の小指と、自分の小指を結ばせた。



 小指がつながると、海底から引きあげられたような感覚になる。



 でも、いつか――。



 この大切な人を、その深い闇へと引きずりこんでしまうのではないか。そんな錯覚におそわれる。



 一緒に溺れてはいけない。
 溺れるときは、私1人で溺れるのだ。



 この人を巻き込んではいけない。



 でも――。
 もっと主人に触れていたい。



 小指だけじゃなくて、腕をつかみたい。カラダを抱きしめたい。ぎゅーと強く抱きしめてもらいたい。



 二度と闇へ呑み込まれないように、強く抱きしめてもらいたい。



 でも――でも――。



「私と主さまでは、釣り合わない」



 葛藤がぐらぐらとベルのことを揺さぶる。
 ベルの血質値がもっと高ければ、あるいは、リュウイチロウの血質値がもっと低ければ、こんな葛藤にはいたらなかっただろう。



 悲しくなって、胸が張り裂けそうになる。



 過去に溺れないために、ベルはソッとリュウイチロウのベッドにしのびこむ。

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